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113話 アガーシャ回復!

 

 全員の視線が調合師であるバーフに注がれる。

 彼の手には、小指ほどの小さな瓶が握られていた。その中には、薄緑色の液体が入っている。どうやらあれが解毒剤のようだ。


 バーフはアガーシャの容態を確認しているシャーリィーの傍にいくと、その小瓶を彼女に手渡した。


 ヴィンスとドロテアは、ディアナやデズモンドと同様にアガーシャが寝転ぶベッドの傍に駆け寄った。


「ほれ、解毒剤じゃ。かなり苦いが、その分効果は高いし、即効性は抜群だからの! 飲ませりゃ直ぐに元気になるはずじゃ!」

「バーフさん、ありがとうございます。アガーシャ様、少し体を起こしますからね」


 小瓶を受け取ったシェーリィーは、小瓶の蓋を開けると、空いている方の手でアガーシャの背中に手を回す。

 デズモンドも手を貸してくれたことで、苦なくアガーシャの体を起き上がらせることができた。


「アガーシャ、直ぐ体が楽になるからな」

「……っ、うっ……ええ……」


 デズモンドがアガーシャに声をかけた直後、シャーリィーがアガーシャに見えるように小瓶を持った手を伸ばした。


「アガーシャ様、今から解毒剤を飲んでいただきます。苦みがあるのでお辛いかとは思いますが、全て飲んでください」


 コクリとアガーシャが小さく頷いたので、シャーリィーは彼女の口に小瓶を近付ける。

 少し傾ければ、アガーシャは眉間に皺を寄せながらも、コクンと喉を鳴らした。時間をかけながら、全て飲みきったようだ。


(お願い……。早く効いて……!)


 ドロテアがそう強く願う。いや、ドロテア以外の全員も、そう願った。


 ──その、すぐ後のことだった。


「……アガーシャの頬に、赤みが……っ」


 アガーシャの真っ青だった顔には血色が帯び、強張っていた表情が少しずつ緩やかなものになっていく。

 薄っすらと目を開けるだけでも辛そうだったアガーシャの目はパチリと開かれ、その目には心配そうに彼女を見つめるデズモンドたちの姿を映した。


「……皆ったら。もう大丈夫だから、そんな顔をしないで」


 水分が足りていないのか、声はやや掠れている。

 けれど、先程まで見ることができなかったアガーシャの穏やかな笑みを目にしたデズモンドは力強く彼女を抱き締めた。


「アガーシャ……っ」

「ちょっと、貴方……! 子どもたちの前ですよ……!」

「無理だ。今は離せそうにない」


 アガーシャは恥ずかしそうにしてデズモンドを引き剥がそうとするが、強靭な彼の力に敵うはずはなく、されるがままだ。

 いや、もしかしたらデズモンドの気持ちを察して、実際は引き剥がす気なんてないのかもしれないが。


「お母様……っ、良かったぁ……」


 続いて、ディアナが大粒の涙を流しながらアガーシャの手を取る。その手は小さく震えていて、見ているだけでディアナの不安が伝わった。

 ディアナはこの場に来てから明るく振る舞っていたけれど、本当は恐ろしくて堪らなかったのだろう。


「ごめんなさいね、ディアナ。もう大丈夫だから」

「はい……っ、はい……っ」


 アガーシャはディアナの手をギュッと握り返し、ベッドサイドに立っているヴィンスへと視線を移した。


「ヴィンスも……心配をかけてごめんなさいね」

「母上……」


 ヴィンスはゆっくりと地面に片膝をつく。

 少し躊躇いながら、ディアナの手を握り締めるアガーシャの手の上にそっと自身の手を重ねた。


「ご無事で……何よりです……っ」

「……っ」


 ヴィンスは俯いていて、その表情を窺い知ることはできない。

 けれど、その震えた声を聞けば、今彼がどんな顔をしているか分かる。

 おそらくアガーシャも容易に想像できたのだろう。彼女の泣くのを我慢している顔が、それを物語っている。


(ヴィンス様……)


 互いを愛し合う家族の姿に、ドロテアは心がじんわりと温かくなった。



 ◇◇◇



 ──約三十分後。


 アガーシャの診察中、廊下に待機していた一同はシャーリィーから診察が終わったとの報告を受けたので、寝室へと入った。

 我先にとアガーシャの傍に駆け寄るデズモンドとディアナの姿に、ドロテアはふふっと笑みを零す。


(お二人とも、診察のため廊下に出るよう言われた時、かなり渋っていたものね)


 よほど元気になったアガーシャと離れたくなかったのだろう。ドロテアも、相手がヴィンスだったら一時でさえ離れたくないと思うはずだ。


 結局のところ、ヴィンスが「母上のために離れてください」と凄んだ顔を見せたことで、二人は大人しく指示に従ったのだけれど。


「それで、診察の結果はどうだったんだ」


 アガーシャにぴったりとくっついて離れないデズモンドの代わりに、ヴィンスが問いかける。

 シャーリィーは人差し指でメガネをクイッと上げると、嬉しそうにこう言った。


「もう心配はいりません! 毒による症状が一切ないことから、アガーシャ様の体内に溜まっていた毒は完全に解毒されたと考えて良いと思います! ただ、念の為今日一日はベッドの上で過ごし、三日ほどはご無理はなさらないようにお気を付けください」


 その発言を聞いていた皆は、多様な反応を見せた。


 デズモンドは喜びのあまり再びアガーシャを抱き締め、そんなアガーシャは笑顔の中に、安堵が見られた。

 ディアナは泣き腫らした目を細めて幸せそうに微笑んでいて、その姿を凝視するラビンは「姫様ぁぁっ!」と叫びながら号泣している。


 ハリウェルやナッツ、ルナ、アガーシャの専属侍女たちは笑ったり泣いたり表情は様々だが、皆が揃って尻尾を激しく揺らしており、喜びが伝わってくる。


「分かった。二人とも、ご苦労だった」


 ヴィンスに労りの言葉をかけられたシャーリィーとバーフは誇らしげに微笑む。


 そして、ヴィンスはというと……。


(良かった……。本当に良かった……)


 大雨が上がった後の青空のように晴れやかな笑顔を浮かべるヴィンスに、ドロテアもつられて頬を綻ばせた。

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