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108話 推理を始めます

 

 ◇◇◇



 ドロテアは現在、アガーシャの検査結果を待っているデズモンドと別れ、屋敷の厨房に来ていた。

 自身の後ろには、アガーシャの侍女であるサリーが控えている。


 ハリウェルはドロテアの護衛のためについてきてくれているが、プシュとともに厨房の外で待機だ。流石にプシュを厨房にいれるわけにはいかなかった。


 アガーシャの侍女二人は、私たちも何かお手伝いを、と買って出てくれたので、その一人のサリーには屋敷の案内役兼、補佐役として同行を頼んだ。

 彼女は侍女の中でも一番古株で、現在侍女長の立場にある。

 地位もあり、使用人たちとも打ち解けているらしいので、ドロテアとハリウェルだけで行動するよりも、何かと動きやすいだろう。


 もう一人の侍女には、ここ数日屋敷に怪しい人物が出入りしていないかの確認を頼んである。


 まず厨房に来た理由は、アガーシャの生活状況から、野生の動物の毒に侵された可能性よりも、何かしらの食べ物から接種した可能性のほうが高いと考えたからだ。


 既に料理人たちの耳にもアガーシャの状態については届いていたことや、サリーの存在のおかげてもあって、何か役に立てればと彼らは快く話を聞かせてくれた。


「──食材の購入場所や運搬方法についてはこんなところでしょうか。ここ二週間ほどの食材のリストは、こちらを確認していただければ。調理の工程をまとめたレシピ集もございますが、そちらもご覧になりますか?」

「ええ、全て確認させてください」


 料理人たちから食材のリストとレシピ集を手渡されたドロテアは、それを読み始める。

 少しでも毒性がある食材はないか、組み合わせると毒となる食材はないか、調理工程に怪しい点はないかなど、細かくチェックした。


「どうですか? ドロテア様」

「……これと言って、毒に関連していそうな部分はありませんね」


 サリーの問いに答えたドロテアは、もう一度だけ手元の資料を読み込む。

 そして、やはり何もないことを改めて確認すると、料理人たちに返却し、礼を伝えてから厨房を出た。


「ドロテア様、次はどちらに案内いたしましょうか?」 

「そうですね……」


 目的地が定まっていない中、三人(+一匹)は廊下を歩く。


 厨房に来る道中、既にサリーからここ最近のアガーシャの様子については話を聞いた。

 アガーシャの頭痛は二週間前から突然始まり、原因に思い当たることはないという。

 厨房で食材等についても既に確認し、毒が含まれた食材が使われたという線は低そうだ。


(だとすると、他に考えられることは誰かが毒を入手し、完成した料理、または飲み物などに混ぜたということだけれど……)


 被害者がアガーシャだけならば、ドロテアはまずそれを疑っただろう。誰かが意図的に、アガーシャに毒を盛ったのだと。


 しかし、アガーシャと良く似た症状が『レビオル』の住人にも、更に隣国の『アスナータ』の人々にも出ている。


(症状が似ていて、発症のタイミングも同じことから、皆が同じ毒を体内に入れてしまったと考えたほうが良いわ……。と、すると……)


 これは、誰かが故意に毒を盛ったのではなく、何かしらの影響で毒が自然に発生しているのではないか。

 知らぬうちに、皆はその毒を体内に入れてしまったのではないか。そう思えてならないのだ。


(アガーシャ様の頭痛が始まったのが二週間前……。『レビオル』の住人たちに毒の症状が現れたのも同じ頃……。その時に、一体何があったのか……)


 考えろ、考えろ。きっとどこかに糸口はあるはず。


 そう、ドロテアが必死に頭を働かせた時だった。


「ハックション……!」

「……!?」


 突然背後から大きなくしゃみの音が聞こえたので、ドロテアは振り向いた。

 そういえば、ハリウェルはつい先程までずっと吹雪の中、外にいたのだ。


「申し訳ありません……! お見苦しい音を聞かせてしまいました」

「いえ、それよりも大丈夫ですか? やはり外は寒かったですよね。それに、いくら屋敷の中とはいえ、廊下には暖炉がありませんから寒い──……」


 その瞬間、ドロテアはふと気付いた。


「もしかして……」

「ドロテア様……? どうかされましたか?」


 洟をズズッとすすってから尋ねるハリウェルの手を、ドロテアはガシッと掴んだ。


「ありがとうございますハリウェル様! アガーシャ様が侵されている毒の症状が分かったかもしれません!」

「「え!?」」


 続いてドロテアはハリウェルから手を離すと、サリーに視線を向けた。


「サリーさん、アガーシャ様が一人で最も長い時間を過ごされるのは、どのお部屋ですか?」

「それは間違いなく、アガーシャ様の自室かと……」

「分かりました。では、今からナッツ──私の専属メイドのところに向かいます。そのあと、アガーシャ様のお部屋に案内してください!」

「か、かしこまりました……!」



 それからドロテアは、ナッツにとある指示を出したあと彼女と別れた。

 そして、詳しい説明は後でするからと言って、サリーにアガーシャの部屋に案内してもらった。

 ハリウェルは許可なく異性の部屋に入ることに抵抗を覚えていたが、「これは有事だ……!」と自分に言い聞かせて、入室していた。結局両手で目を隠しているところが彼らしい。


「ハリウェル様、扉は閉めないでください」

「承知しました!」

「サリーさん、この部屋の窓の全てを全開にしていただいて良いですか?」

「外はこの吹雪ですが、よろしいのですか?」

「ええ、お願いします」


 ピクピクと鼻を引くつかせたプシュの頭を、そっと撫でる。

 サリーが窓を開ける中、ドロテアも勝手に入室したことに内心でアガーシャに謝罪してから、パッと部屋を見回した。


 アガーシャの部屋は、この屋敷の他の部屋に比べるとかなり古いようだった。

 もちろん清掃は行き届いているが、家具や絵画などはかなり年数が経っているものばかりだ。


「サリーさん、アガーシャ様は、良くあの椅子に座られますか?」 


 ドロテアが指をさしたのは、暖炉のすぐ近くにある揺り椅子だ。こちらも赤を基調としたものである。


「はい! 良くそちらにお座りになり、編み物や読書を嗜まれております。お一人で集中したいようで、私たち侍女は下がるよう命じられることが多いです」

「……そうですか。ありがとうございます」


 それからドロテアは、揺り椅子がある方に歩いていくのだが、部屋の隅にある、大人の背丈ほどある二つの彫刻にドロテアは目を奪われた。


「これは間違いなく、ヴィンス様とディアナ様……。まさか、お二人の彫刻を部屋に飾っていらっしゃるなんて……」

「アガーシャ様は揺り椅子に座り、こちらの彫刻を毎日愛おしそうに眺めておいでです」

「そ、そうなのですね」


 サリーからの補足もあったことで、アガーシャの愛の大きさにより感嘆する。


「それでドロテア様、こちらの部屋で何を?」


 サリーが問いかけてくる。

 ドロテアは「あれです」と壁際を指さしてから、揺り椅子の奥にある目的の場所へ駆け寄り、しゃがみこんだ。


「暖炉、ですか……?」

「ええ。そうです」


 ドロテアはサリーの問いかけに頷いてから、暖炉の中を見てみる。

 暖炉の火は基本的に付けっぱなしなので、今もパチパチと火が燃えている。


「サリーさん、今季に暖炉を使い始めたのは、いつ頃ですか?」 

「二週間ほど前だったと記憶しております。ちょうどその頃から、ぐっと冷え込みましたので」

「暖炉に関することで、何かトラブルは起きませんでしたか?」


 サリーは顎に手をやって考えてから、あっと声を漏らした。


「そういえば、毎年寒い季節になると暖炉を使う前に、担当の者が各暖炉の煙突を一つ一つ点検するのですが、この部屋の暖炉に繋がる煙突がやや老朽化していると報告を受けました」

「何か対処はされましたか?」

「いえ、老朽化といっても直ちに火災に繋がるものではないことと、新たな煙突を造る場合、この部屋の一部を壊すことになるのを懸念されていまして……。アガーシャ様は、この部屋をいたく気に入っておられるのです。ですから、また後日に煙突について検討しようという話にまとまりました」

「……やはり、そうでしたか」


 パチパチ、パチパチ。

 ずっと聞いていたくなるほどに、火を焚く音は心地良いというのに、ドロテアは暖炉を見ながら眉を顰めた。


「それが何か……。まさか──」

「ジジジ……!」


 サリーの疑問を遮るようにして、プシュが大きな鳴き声を出した。

 いつもの可愛らしい鳴き声ではなく、不快な音だ。

 人間のドロテアよりも断然耳が良い獣人のハリウェルとサリーは、咄嗟に耳を塞いだ。


「ジジジジジィ……!!」


 これは、プシュが威嚇する際に出す鳴き声だ。天敵と相対した時、自らが危険だと判断した際に、この声を出すらしい。


 プシュの表情もいつもと大きく違う。円な目は釣り上げられ、全身の毛が逆立っている。


(やっぱり……。間違いないわね)


 プシュの様子からとある確信を持ったドロテアは、プシュに「大丈夫だよ」と声がけをしてから、優しく抱き上げた。

 少し安心したのか、プシュは威嚇をやめ、ドロテアの肩に乗って、頬をスリスリしている。


 対して、サリーはプシュが威嚇をするのをやめたのを機に、再びドロテアに話しかけた。


「まさか、アガーシャ様の容態と煙突の老朽化が何か関係があるのですか……?」

「……はい。おそらくは」

「……! そんな……!」


 サリーが困惑の表情を浮かべると、扉をノックする音が聞こえた。

 扉を開けたのは、もう一人のアガーシャの侍女だった。


「ご報告です……! ここ数日、怪しい人物の出入りがなかったことが確認されました」

「ありが──」


 お礼を伝えようとしたドロテアだったが、その声は「ぷっきゅーーん!」というとんでもなく可愛い声に掻き消されてしまった。


「失礼致しますっ! ドロテア様、確認してまいりました! な、なんと、ドロテア様の言うとおりでした! 凄いですっ!」

「ナッツ……!」


 急いで報告に来てくれたのか、ナッツの息は乱れ、いつもはふんわりとした前髪がオールバックのようになっている。

 丸い額もとっても可愛い。いや、ナッツなら何をしていても可愛いのだけれど。


「ありがとう、二人とも」


 ──さて、これで知りたい情報は全て揃った。


「皆さん、毒の正体が分かりました。アガーシャ様のもとに行きましょう」

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