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99話 静寂の夕晩餐会へようこそ

 

 陽が完全に落ちてしばらくしてから、ドロテアはナッツとともに屋敷内の食堂に来ていた。


 部屋の真ん中には、二十人くらいが座れそうな長方形のテーブル。

 その両端に、既にデズモンドとアガーシャは腰を下ろしていた。二人とも、日中よりも格式の高い装いに着替えている。


(わあ……。アガーシャ様、美しい……)


 豊かな胸の周りに、希少なダイヤモンドの装飾が施された、コバルトブルーのドレス。色気がムンムンなアガーシャに良く似合っている。


 デズモンドの黒い装いも、アガーシャに負けじと素敵だ。

 コバルトブルーの宝石を主役としたブローチは、アガーシャのドレスの色と敢えて合わせたのだろうか。

 二人はとても仲が良いのだろう。


「…………よく来た」

「ドロテアさんいらっしゃい」

「両陛下、本日は晩餐会にお招きいただき、ありがとうございます」


 ドロテアは鎖骨がちらりと見えるエレガントな紫色のドレスを身に纏い、カーテシーを披露する。


 ヴィンスがゲージを届けてくれた際に晩餐会のことを伝えてくれていたので、ドレスを着替えてきたのだ。

 ナッツが髪の毛をアップスタイルに結い、化粧も再度施してくれたため、おそらく問題はないはず。


 さすがに恥ずかしかったので、ヴィンスの瞳の色である金色のジュエリーは控えたのだけれど。


 ドロテアが挨拶を終えると、次にヴィンスが入ってくる。デズモンドとよく似た、黒い装いだ。

 事前に紫のドレスを着ると伝えてあったので、ヴィンスのブローチも紫色のアメジストが施されている。


 ヴィンスは両親に対して軽く会釈するだけに留めたが、着飾ったドロテアの姿を見て、穏やかに微笑んだ。


「ドロテア、とても綺麗だ」

「あ、ありがとうございます。ヴィンス様もとても素敵です」

「……ふ、ありがとう。さあ、座ろうか」


 ヴィンスに腰を抱かれ、ドロテアは用意されていた席に腰を下ろした。

 大きなテーブルなのでヴィンスと席が離れるだろうかと思っていたが、アガーシャたちの指示か、給仕の気遣いか、彼とは隣の席だった。


 因みに、晩餐会ということで、プシュは部屋で待機してもらっている。

 別れる時に少し拗ねていたが、今頃ケージの中で用意したおもちゃと戯れている頃だろう。


 給仕の支度が整うと、デズモンドがグラスを掲げた。


「いただこう。……乾杯」

「「「乾杯」」」


 事前にドロテアは酒があまり強くないことを伝えてあったので、甘いジュースだ。

 その他の三人はワイン飲んでいる。その様は、圧倒されるぐらいに優美だ。


「……今日は大変だったわね。雪崩に巻き込まれるなんて。……本当に、怪我はしていないの?」


 ドロテアが沢山の野菜が入ったテリーヌの味わっていると、アガーシャはヴィンスに話しかけた。


「ええ。驚きましたが、被害はありませんでしたので問題ありません」

「……本当なのね? ドロテアさんも、かすり傷一つないのね?」


 アガーシャの視線がこちらを向いたので、ドロテアは咀嚼を終えて口を開いた。


「はい。ヴィンス様が守ってくださったので、大丈夫です。ご心配をおかけして、申し訳ありません。……それに、プシュのことも受け入れてくださいまして、改めてありがとうございます」

「構わないわ。ねぇ、貴方」

「……ああ。問題ない」


 そこで会話は、ぷつりと途切れた。


(き、気まずい……!)


 せっかくならば話を広げようとプシュの話題を出したが、何一つ盛り上がらなかった。

 フォークやナイフの扱いに失敗して派手な音を出してしまうような人もおらず、食堂は静寂に包まれる。


 気が付けば、もう既にメイン料理だ。

 おそらくヴィンスもこの空間は気まずいのだろう。王城で食事をとる際は、こんなに速くない。よほど早く食事の席を終えたいのだろうか。


(あれ?)


 しかしそこで、ドロテアはふと気付いた。


(今日のメニュー、ヴィンス様が大好きなものばかり……)


 野菜が沢山入ったテリーヌも、カリフラワーを使った濃厚なスープも、メイン料理も全部だ。

 ヴィンスの食事を昔から作っていたシェフは、現在王城にいるので、これがシェフ個人のはからいである可能性は、限りなく低い。


(おそらく、両陛下がシェフに命じたのね……。ヴィンス様の好きなお料理を作るように、って)


 息子の好きな料理を知っていて、それを食べさせてあげたい、喜ばせてあげたいと思う。それが愛情じゃないはずがない。


(それに、森から帰還した私たちを出迎えてくれた時の、両陛下のご様子も)


「怪我はないのか」と問いかけるアガーシャたちの上擦った声や表情から、相当ヴィンスの身を案じていたことが見て取れた。

 さっきだってそうだ。心配していなかったら、愛情がなければ、怪我をしていないかと再度確認するはずがない。


 親から愛されなかったドロテアだからこそ分かる。


(両陛下はヴィンス様のことを、息子として愛している)


 今までのアガーシャやデズモンドの言動からしても、それは明らかだ。


(でも、私がヴィンス様に、きっと愛されていますよって伝えてもあまり意味がない。そんなことでは、ヴィンス様の心の傷は癒えないわ。……どうにかヴィンス様と両陛下の仲を深められたら……)


 滞在は三日から四日。ヴィンスとデズモンドはかなり仕事で多忙なようなので、時間は限られているだろう。


(さて、どうしましょうか)


 頭を巡らせていると、いつの間にか最後のデザートも完食し、晩餐会は終わりを迎えていた。


「ヴィンス、水路についての話を詰めたいから、私とともに部屋に来なさい」

「……分かりました。ドロテア、部屋まで送れずにすまない。今日は早く休めよ」

「ヴィンス様も、お仕事が終わり次第、お休みになってくださいね」


 その会話を最後に、ヴィンスとデズモンドは食堂を出ていった。


「あの、陛下」


 続いて食堂を出て行こうとするアガーシャを、ドロテアは咄嗟に引き止めた。

 何をするにしても、まずは皆の予定を確認しなければならないからだ。

 アガーシャならは、自分の予定はもちろんのこと、デズモンドの予定も知っているかもしれない。ヴィンスの予定については、ドロテアがほぼ把握しているから問題なかった。


「少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 振り向いたアガーシャの美しさに見惚れそうになりながら、ドロテアは問いかけた。

 こちらを見る視線は、鋭いものだ。


「何か聞きたいなら、明日になさい」

「え」

「それじゃあ、私は部屋で休むわ。おやすみなさい、ドロテアさん」

「お、おやすみなさいませ……」


 ……まさかの撃沈である。

 去っていくアガーシャの色気のある背中を見ながら、ドロテアは頭を抱えた。


 精神を立て直すために癒やしを求めたドロテアは、プシュを抱き締めながら眠りについたのだった。

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