高校で金融教育が始まる、だと?
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を述べる
高校で金融教育が行われる。このニュースが気になった。
2022年4月から、新しい指導要領に基づき高校で金融教育が始まるという。高校で株式や債権について学ぶようになるらしい。
これには投資と株式に複雑な感情を抱くこのノマが、ひとつ物申さねばなるまい。
■金融を学ぶ理由
『金融リテラシー調査(2019年)』では、日本人の金融知識は低いという結果が出た。金融知識に関するテストの結果、平均正答率は56.6%
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと比較して低い。
日本で株式、投資信託、外貨預金などを購入したことがあるのは2割から3割。そのうちの更に約2割は金融知識が無いまま、それらの商品を理解しないまま購入しているという。
日本は世界の主要国と比較して金融リテラシーが低い。そのため投資家が少ない。
また、特殊詐欺の手口が多様化し、金融トラブルの被害が多い。
金融知識のある人ほど詐欺には騙されにくい。金融トラブルも回避しやすい。また、電子マネーや仮想通貨、ブロックチェーン、NFCとおサイフケータイ、NFTゲームなどなど、新技術で複雑化する経済について知ることも個人の資産を守ることに繋がる。
■先生って大変
特殊詐欺、金融トラブルから家庭を守る為に高校で金融や投資について学ぶ。金融リテラシーの向上が個人の資産を守る。これが目的の新しい学習指導要領。金融知識がこれからの時代に必要で学校で学ぶ意義も理解できる。
しかし、なぜ、家庭科なのだろう?
経済であれば政治経済の分野ではないのだろうか? そして家庭科の先生とは株式や投資のプロとして若者に投資信託や証券、保険などについて教育できるのだろうか?
外貨建て金融商品や為替相場、ワンランク上の資産運用について学校で熱く語る家庭科の先生、というのはおもしろそうだが。
以下は文部科学省の2022年4月改訂の高校学習指導要領から引用。
『家計管理については、収支バランスの重要性とともに、リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする』
■投資と株式
投資とは、主に経済において、将来的に資本を増加させるために、現在の資本を投じる活動を指す。
株式会社とは、株式を発行してお金を集め、その資本を用いて経営を行っていく会社のことを言う。
株主の投資を資本として起業、経営する会社のことを株式会社と言う。
ここで私の個人体験を語ろう。
私の父は会社を経営していた。私が子供の頃、この会社の経営が傾いたとき私は売られそうになったことがある。
買いたいと言い出したのは株主だ。
小さい会社とはその株主とは資産を持つ親戚であることが多い。その親戚が社長の子供を売って欲しいと言う。
父としては私を親戚に売るのは、株主への配当金の一種だとでも考えたのだろう。
だが、母が反対し私が売られることは無かった。後にこれが離婚の理由のひとつにもなる。
私を買おうとした親戚とは、ずいぶん後になってから話を聞いた。
『老後のことを考えて、身の回りの世話をしてくれる言いなりになる人が欲しかった。書類上は養子縁組にして、老後の面倒をみてもらうつもりだった』
株の取引が活発となれば、その裾野では人身取引もまた活発となるだろう。このようなことは株の売買に詳しい人なら知っていることだろう。
こういうことも学校で教えるのは、身を守る為には良いことだ。
■投資の悪性
投資とは、利益を見込んで自己資金を投じること。これは未来の不確定な事象が対象になる。資産運用で未来に金銭的利益を得るのが目的であれば、サイコロの出目に金を賭けるギャンブルと変わりは無い。
また株であれば、価値の安いときに買い、その会社が成長し株の価値が上がったときに売ろう、となれば、これは世間で嫌われる転売ヤーと同じだ。
この先、戦争、紛争が増えミサイル、地雷を作る企業が成長すると見込み軍需産業の株を買うなら、世界が平和から遠ざかることを防衛関連の株価が上がったと喜べるだろう。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以来、アメリカの防衛企業の株価は急上昇している。
個別で言うと、ジャベリン対戦車ミサイルやスティンガー対空ミサイルなどを製造する企業の株価は、8%から22%上昇した。
ギャンブルとして見るなら、パチンコや競馬の方が株よりも平和で健全にも思える。
■パトロン
古典的な投資とはパトロンになる。
ラテン語のパテル(pater)、父が語源とされる。
『後援者』という意味で現代では経済的な支援をする人の意味で使われるが、もとは被保護者であるクリエンテス(clientes)に法的、財政的、政治的援助を与える者のことを言う。
中世ヨーロッパではパトロンは芸術家のスポンサーとして、芸術の発展に大きく寄与した。
これは現代でもアーティスト支援サイト『Patreon』などに受け継がれている。
この投資で得られる利益とは金銭的な価値では無い。
■投資の善性
例えばあなたがテレビゲームが好きだとする。例えの話なのでこれがテレビゲームでもマンガでも小説でもいい。
テレビゲームが好きで娯楽として良い、というのならそのテレビゲームを作った会社の株を買うといい。
株を買うことでそのゲーム会社への投資になる。ゲーム会社はあなたの投資のおかげで経営が安定し、これからも様々なゲームを作り世に出していく。
ゲーム会社に投資することで、これからも自分の好きなゲームが次々と新しいものが誕生していく。
未来において自分が楽しめるものへと投資すること、これはクラウドファンディングやアーティスト支援サイト、ユーチューバーへの投げ銭などと同じ。パトロンのような古典的投資と同様のことになる。
マンガが好きなら出版社に投資し、映画が好きなら映画会社に投資し、自動車が好きなら自動車会社に投資する。
そうすることで自分の未来の暮らしが楽しく豊かになる。
株式の本来の目的は、未来の生活のための投資。人の暮らしに役立つ会社が、安定した経営を続けられるようにするためではないだろうか。
■交換価値と経験価値
例えば新たな林業を行う会社を起業したとしよう。植林が目的の会社だ。
日中戦争や太平洋戦争などによって大量の木材が軍需物資として使われ、日本の山から大量の木が伐採された。
1950年に制定された『造林臨時措置法』、これにより政府の支援を受けながら山林経営者は植林事業を進めた。
その結果にスギとヒノキが大量に植林され、花粉症の増加に繋がった。
新たな植林会社の目的は、花粉症の原因となるスギを減らし、代わりにケヤキなど山の植生を考えた数種類の樹木を植林することだ。
この会社に投資する人が増え、新たな植林会社が活動すれば、日本で花粉症の被害を減らすことに繋がる。
だが、この会社に投資した人は利益を得られない。
京都の清水寺に使われているケヤキの柱は樹齢300年以上の木を使う。ケヤキを植林しても木材として売れるのは300年後のことになる。会社を起業した人も最初の投資家も、300年後には人の寿命を超えている。
こうして作られるケヤキの柱の耐用年数はおよそ800年という。
この植林会社に投資した人が得られる価値とは、金銭的な交換価値では無い。
花粉症で悩む人を減らし、山の植生を自然に近づけた、未来の人々の為になることをした、という満足感だけだ。栄誉や名声、貨幣では交換できない価値のことを経験価値と呼ぶ。
■投資とは
ざっと説明してみたが、まとめると投資とは極論すれば二つ。
未来を売って金を得るか。
金を払って未来を買うか。
この二つに行き着く。
投資や金融というものは法律も絡みややこしく難しいことも多い。利益を出すというマネーゲームに囚われて本来の目的を見失うこともある。
これから投資について学ぶ人は、その投資は何の為にあるのか、何に役立つのか、これを考えて欲しい。
■学校への投資
政府は税金面で優遇が受けられるNISAやiDeCoなどの制度を導入し、個人の資産形成を進めようとしている。
高校教育で投資について教えるのは、個人投資家を増やし経済を活性化させるのが狙いだろう。
私は学生時代、学校の勉強がなんの役に立つのか? と考えていたものだ。今ならなんの役に立つのか、少しは答えられそうだ。
学校を運営する方針を決めるのは政府だ。政治家は企業の献金で成り立つ。故にスポンサーの意向を無視することはできない。
企業にとって労働者とは、安い人件費で反抗もせず、マジメに働いてくれる優秀な社畜が良い。
学校とは優秀な社畜を育てる育成場として期待されることになる。
学校の勉強とは訓練された社畜を育てる役に立つ。
これも政治家が企業からの投資を受けた結果だ。
■不都合な真実
高校で金融教育を行うのは良いことだ。だが、その結果に都合の良い資金源としての投資家が増えるだけでは、特殊詐欺と変わらない。
金融教育の結果に若者が様々なことに気が付くことを期待する。
例えば、オーストラリアのコアラがすむ森を破壊して生産した木材チップを購入する製紙会社がある。この会社に日本の銀行が投資している。
これを知れば、少なくともコアラが好きな人はその銀行に金を預けない。預けた預金がコアラを地上から消すことに使われるからだ。
金融リテラシーが高まり、銀行の社会性を気にする人が増えれば、その銀行は預金者が減少して困ることになる。
銀行が環境保護を気にするようになれば、森林破壊を続ける企業に投資はしないという経営方針になる。
投資を受けられなくなった製紙会社は困ることになる。森林保護に繋がるやり方を模索しなければならなくなる。
金は天下の回りもの、とはよく言ったものだ。
他には、例えば年金。年金もまた未来で金を受け取ることを期待した投資の一種と言える。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2016年に保有全銘柄を公表した。
核兵器・クラスター兵器製造企業への投資額では、約3873億円の株式、約15億円の債券を保有している。
世界で戦争、紛争が増えれば兵器の需要は伸び、兵器製造業の株を持つGPIFは資産運用で利益を得る。
年金受給者は世界で戦争が起きれば、これで日本の年金は安泰だ、と喜ぶのだろうか?
そんなことは知らない、GPIFが勝手にしているだけだ。年金を払っている人は無関係だ、と言いたくなる人もいるだろう。
だが、1人も年金を払わなければGPIFは資金を得られず、何処にも投資する資本が無くなる。
真に無関係だと言えるのは、年金を払わず、年金の受給も拒否した人だけだ。
誰もがこのおぞましいゲームのプレイヤーとして強制参加させられている。
GPIFはロシア軍がウクライナで使用した兵器の製造企業の株式も保有している。
金融について学ぶ人が増えることで、株式市場は大きく変わるかもしれない。
■最後に
経済についてはいくつかの資料を見てきた。その中には支倉凍砂の『狼と香辛料』 ゲーテの『ファウスト』などの小説もある。
私が読んだ経済の解説書として、最も衝撃的でワクワクとした気分で読めた本がある。
ヤニス・バルファキスの
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』
この中の一文を引用してこのエッセイを締めよう。
目を通していただきありがとうございます。
『金属の硬貨が紙幣に置き換えられたとき、人々はショックを受けた。子どもだった私が、1000ドラクマ紙幣を作るのに20ドラクマしかかからないと知ったときと同じだ。
以来、紙幣はますます小さく軽くなり、次第に目につかなくなり、物理的な通貨は消滅しつつある。いまではスマホのアプリでの支払いが当たり前になってきた。それでも収容所のタバコと同じように、通貨を通貨たらしめているのは「信頼」だ』
BGM
『Believer』
Imagine Dragons




