白鳥さんは想像以上のポンコツだった⑨
「……柴咲さん――詩緒ちゃんは、私の人生の中で唯一の、親友と呼べる存在なんです」
暫く待っていると、白鳥さんがぽつりぽつりと話し始める。
「里にいた頃、落ちこぼれだった私には友達と呼べる存在はいませんでした」
白鳥さんの育った里には、同世代の子どもが10人程いたらしい。
全員忍者として育てられたようで、最初は仲間意識のようなものがあったようだが、徐々に関係が拗れていったようだ。
白鳥さんは隠密に関してはてんで駄目だったが、体術は世代でもトップの実力だったらしい。
そのせいで目の上のたんこぶのように扱われ、嫌がらせも受けていたそうだ。
女の技についても、白鳥さんは美人でスタイルも良いため期待されていたが、ポンコツであることが判明してからは無用の長物と言われ、同性からも嫌われていたようだ。
「19になり、中忍になる資格を失った私は、里を追い出されて上京しました。最初は知らない世界にトキメキもしましたが、私を騙してどうにかしようとする男の人の多さに一気に怖くなり、軽い男性不信に陥ったんです」
白鳥さんはスタイル抜群なうえにおっとりしているので、さぞ悪い男達から狙われたことだろう。
しかもリアルに田舎から上京したてのぽっと出だったので、騙されることも多かったようだ。
体術に優れた白鳥さんだったが、相手が男というだけで体が強張るようになり、トラブルも増えていた。
「そんな状況で出会ったのが、詩緒ちゃんでした」
柴咲さんは、街で困っている白鳥さんにいきなり声をかけてきたらしい。
持前の面倒見の良さに加え、空手の技で男を寄せ付けない柴咲さんは、瞬く間に白鳥さんのヒーローになった。
「詩緒ちゃんのお陰で、私は都会の生き方を学べ、男性不振も徐々に癒えていきました。詩緒ちゃんはかけがえのない友人であると同時に、恩人でもあるんです」
白鳥さんは、会社で普通に男とも接することができている。
それは柴咲さんが何かとフォローしてくれたことで、少しずつ恐怖が和らいでいったからだそうだ。
会社についても、柴咲さんの勧めで入社したらしい。
なんでも、比較的この会社は無害な人間が多いのだとか。
柴咲さんの能力を知った今だからこそわかることだが、彼女だったからこそ白鳥さんのことを助けられたのだろう。
街で不安や恐怖のニオイをさせた白鳥さんを助け、怪しいニオイを発している男達を遠ざけ、比較的安全な会社に入社させた。
恩を感じるのも当然だと思える。