下
「ああ、帯の推薦文の締切まであと2時間。次はテレビのコメンテーター出演……忙しすぎて休む暇がございませんわ!」
「その後は、ラジオ出演と、いまや気鋭の作家となったネトリー様との対談の予定もございますね」
「お願いですから……お休みをちょうだい」
「次のお休みは2ヶ月後でございますね」
はぁ、とため息をついて机に突っ伏したわたくしの鼻孔を、甘い香りがくすぐります。
「これは……」
「近頃評判のマロンケーキでございます」
顔を上げると、王都で一番人気のケーキ屋さんのマロンケーキがありました。
外はいつかを思わせる大雨なのに……こんな中、アレックスは人気店に並んでケーキを買ってきてくれたのです。
よく見れば、アレックスの姿はずぶ濡れでした。
あれから5年、ひたすら読み専としての活動をしていたわたくしをアレックスは献身的に支え続けてくれたのです。
アレックスに諭されたわたくしは、心を入れ替えて作者の応援をすることに集中をいたしました。
期待する作品には遠慮なく評価ptを入れ、感想も書き、レビュー0件の作品には率先してレビューを投稿しました。
そうこうするうちに、ネトリーの作家デビューが決まり、ワナビ王子やエディンバラ様、リッチー様にナイトー様と次々と書籍化が決定しました。
もちろん、それはわたくしの力ではなく、面白い作品を書いていたみなさまがあってのことなのですが……それが世に出るきっかけを作れたことにわたくしは満足しました。
学院から復学……というか教授として迎え入れたいというお誘いもいただいたのですが、それは丁重にお断りしました。
いまの私は書く側ではなく、ただひたすらに読み、作者を応援する存在になったのですから。
そんな活動を続けているうちに、わたくしは「次代のヒットの仕掛け人」「令和の名伯楽」「究極のスコッパー」などと呼ばれるようになり、いまでは文芸評論家として引っ張りだこの毎日です。
そういえば、なんとアレックスも作家デビューが決まり、今日が初版の発売日のはずでした。
書籍のタイトルは『令和最強雀豪伝説オニャンコポン~アフリカ大陸最強のカポエイラ使いが現代日本で無双する!~』です。
カポエイラは南米の武術だったと思うのですが……細かい考証は抜きにして、「面白ければよかろうなのだ!」の精神で書いたのでしょう。
それは、一部の警察を招き寄せる行為ではありますが、読者ファーストを信条とするアレックスらしい割り切りでもあります。
「ところでお嬢様、折り入ってお話があります」
アレックスは『オニャンコポン』のサイン入り書籍を差し出してきました。
これは覚悟していた瞬間です。
きっと、作家として一本立ちする覚悟を決めたので、わたくしの元を離れて作家業に専念することに決めたのでしょう……。
わたくしは、わたくしは誇り高いヨミセン公爵家のひとりとして、その決意を引き止めることなどできるわけがありません。
「いえ、そうではないのです。お嬢様」
思わず涙がこぼれそうになったわたくしの目元を、アレックスはそっとハンカチで押さえてくださいました。
「『オニャンコポン』の初版各国語版を合わせて1億部、アニメ、実写ドラマ、ハリウッド映画化決定の功績をもちまして、私は侯爵位を賜ることとなったのです。いままではしょせん身分違いの恋だと諦めていましたが……」
アレックスが『オニャンコポン』の表紙を開くと、そこには輝く指輪が挟み込まれていました。
――まるで特典SSのように!!
「アレックス、改めアレックス=オニャンコポン侯爵は、メリス=ヨミセン公爵令嬢に結婚を申し込みます。お受けいただけますか?」
わたくしの目からハンカチでは押さえきれないほどの涙があふれました。
アレックスはそんなわたくしの頭を胸に抱いて、ゆっくりと髪を撫でてくださいました。
(了)
■まとめ
・評価ptを積極的に入れよう!
・長編作品は途中でも評価しよう。それがエタらせる可能性を下げる
・とくにマイナージャンルが好きな人ほど、今後のなろうに投稿される作品の傾向を変えられる可能性を持っている
・1日に200pt入るとさまざまなランキングで上位に入れる
・1人が投じられるポイントは最大12pt
・自分ひとりが評価しなくても……と思うかもしれないが、ひとりひとりの貢献が度合いがものすごく高いので「自分の力」を侮ってはいけない
執事「さあ画面の前の君も今すぐお気に入りの作品に★★★★★を入れるんだ!」
令嬢「突然誰に向かって叫んでおりますの?」
本作は空野奏多様の「ブルジョワポイント評価企画」への参加作品です。
▼企画詳細
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1302968/blogkey/2860005/
「小説家になろう」という場は普通の書籍とは違い、「読者が参加できる」という点が醍醐味だと思います。
読み専の方もぜひ評価等々を通じて、次代の「小説家になろう」を作る遊びを楽しんでいただけたら幸いです。
なお、この作品の作者はこんなかんじの変な味の作品を発作的に投稿する習性があります。
変化球が好きな方は、作者をお気に入り登録するとマイページに新着情報が出て便利です。