中
■1.連載中の作品に評価ポイントを入れる意義
執事「で、お嬢様のよくなかったところでございますが」
令嬢「急にト書き形式ですの!?」
執事「いや、ぶっちゃけ『ゆっくり解説』とか『やる夫で学ぶ』系の話ですので余計な描写は読みづらいだけかなと」
令嬢「読者ファーストですわね」
執事「それで、まずはネトリー様の作品についての話から」
令嬢「はい。いつも感想を書いて応援していましたのに……何がいけなかったわからないのですわ」
執事「Twitterで感想を伝えているのに、評価ptはつけませんでしたよね?」
令嬢「はい、完結していない作品に評価をつけるなんておこがましいですわ」
執事「それが第一の間違いです。ネトリー様の作品の文字数を『小説情報』から確認してみてください」
令嬢「524万字ですわ。それで、あとがきには『第50章完結!やっと物語も折り返しです』と。ここまでで5年かけて書いている超大作ですわ!」
執事「つまり、完結には1000万字以上を要するということでございます」
令嬢「そのとおりですが……それが何か関係あるのかしら?」
執事「もし、すべての読者がお嬢様のように、『完結まで評価ポイントを入れない』というスタンスでしたらどうなりますか?」
令嬢「どうって……あっ!」
執事「お気づきになりましたか」
令嬢「完結の、おそらく5年後まで0ptになってしまいますわ!」
執事「考えてみてください。仮に10年間0ptでしたら、完結まで執筆を続ける気力はわきますか?」
令嬢「……とてもわきません。10年どころか、きっと1ヶ月ももたずに筆を折ってしまいますの」
執事「そうでしょう。いくら『自分が書きたいものを書いているだけだ!』という作者でも、人間である以上どうしても読者からの評価は気になるものです」
令嬢「ううっ、わたくしはネトリーにひどいことをしてしまったのですね……」
執事「過ぎたことは致し方ありません。これから改めていけばよいのです」
令嬢「はい……」
執事「まず、評価に対する考え方を変えましょう。評価ポイントの欄には『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』と記載されています。これがどういう意味かおわかりになりますか?」
令嬢「そのままの意味なのですね。小説の巧拙を評価するのではなく、応援したい気持ちを星の数で表せばよいと」
執事「そのとおりでございます」
■2.マイナージャンルを愛する君がランキングを作るんだ!
執事「いまのお嬢様でしたら、エディンバラ様や、リッチー様や、ナイトー様がかばってくださらなかった理由もおわかりになるのでは?」
令嬢「わかりますわ……。エディンバラ様は科学考証に隙のない近未来ハードSF、リッチー様は昭和の香りが漂う伝奇時代劇、ナイトー様はリアル現代格闘ものの大長編を執筆されておりますもの……」
執事「はい、いずれもナロー学院においては評価を受けにくいジャンルです」
令嬢「にも関わらず、数少ない読者のわたくしが評価をしぶっていては、作者のモチベーションが上がるわけがない……と」
執事「そのとおりでございます。マイナージャンルの読み手ほど評価についての判断が厳しく、ポイントが入りづらい印象があるのですが……これは読者自身にとっても不利益な状況を生んでいると言えるでしょう」
令嬢「不利益って、評価ポイントは作者にだけ関係あるものじゃないんですの?」
執事「ところが、そうではないのです」
執事「お嬢様は、新しい作品を探すときにどこからチェックをされますか?」
令嬢「やっぱりランキングですわ。旬の作品が見つかりますもの」
執事「多くの読者が同じでしょうね。ではランキングはどのように決まるのでしょうか?」
令嬢「それは総合ptが多い順……あっ!」
執事「お気づきになりましたね。ランキングは読者が参考にするものであると同時に、読者が作るものでもあるのです」
令嬢「これまで、そんな視点でポイントを入れたことはありませんでしたわ」
執事「多くの読者が同様でしょう。そして、それは間違ったことではありません」
令嬢「そうですの?」
執事「基本的にナロー学院における読者は、あくまで娯楽の消費者です。そんな小難しいことを考えていては作品に没入しきれないでしょう?」
令嬢「それは……たしかに……」
執事「ですが、昨今のランキングに不満があったり、自分が好きなジャンルの作品がなかなか増えずに悲しんでいる読者にはぜひ一考いただきたい」
令嬢「急に説教臭くなりましたわね」
執事「『麻雀』や『カポエイラ』、『オニャンコポン』などで検索してもまるで作品が増えませんからね……」
令嬢「それはいくらなんでも好みが偏りすぎですの」
執事「お嬢様にだけは言われたくないですね。知ってますよ、この前『プロレス』でヒットした作品を片っ端から読んでいたでしょう?」
令嬢「ブラウザの履歴を追うのはいくらアレックスでもNGですの!」
執事「そしてお嬢様はご自分のお力をきちんと認識せねばなりません」
令嬢「わたくしの力? 人より評価ポイントが20倍入れられるだけですのよ?」
執事「それがナロー学院においてどれだけの意味をなすか……日間ランキングをご覧いただけますか」
令嬢「はい、毎日のようにチェックしていますわ。それがどうかしたのかしら?」
執事「総合ランキングの一番下をご覧ください」
令嬢「えっと、204ptですわね」
執事「お嬢様が入れられる評価ポイントはいくつでございますか?」
令嬢「200pt……わたくしが満点を入れればほぼランキングに入れるということですの!?」
執事「そのとおりでございます。正確には、ブクマの2ptもありますので、202ptですが」
執事「せっかくですのでジャンル別のランキングを見てみましょう。202ptあれば何位になるでしょうか?」
令嬢「ええっと、歴史なら5位、ホラーなら2位、アクションでも2位。激戦区のハイファンタジーでも52位……」
執事「ご自身のお力を理解いただけましたか?」
令嬢「はい……それでみなさん、わたくしの評価について敏感になられていたのですね……」
※いずれも執筆時現在(2021/9/19)の数値です
執事「ナロー学院において『20人分の力』というのはこれほど圧倒的なのです」
令嬢「でも、どうしてそんなにランキングにこだわるのですの?」
執事「お嬢様自身がおっしゃいましたが、多くの読者はランキングから作品を探します。そのため、ランキングに入った作品はそれをきっかけに新たな読者に出会い、さらにたくさんのptを得てランキングを上がっていくという好循環に入るのです」
令嬢「なるほど、そういうことなのですね」
執事「そして一度ランキング上位に入った作品には、後に続く作家を生み出すという効果があるのです」
令嬢「どういうことですの?」
執事「例をあげるなら、『転生したらスライムだった件』や『無職転生』等が人気になったことにより、ランキングは一時期異世界転生/転移に支配され、ついに隔離されるという事態にまで至りました」
令嬢「あっ」
執事「いまで言えば異世界恋愛、悪役令嬢、追放、ざまあなどが該当するでしょう。まだまだ求めている読者も多いと思いますが、食傷して新しいものを求めている潜在層も増えているのでは?」
令嬢「たしかに、異世界恋愛のランキングには変わり種が増えはじめているような気がいたしますわね」
執事「最後まで恋愛していない作品も散見されますが、果たしてジャンル詐欺と言われないものなのか……」
令嬢「それはブーメランになるのでは?」
執事「この場で恋文でも読み上げましょうか?」
令嬢「恥ずかしいからやめて!」
※この作品のジャンルは「異世界恋愛」です
執事「ごほん、ともあれ、読者が『オニャンコポン』を題材とした小説が好きなら、その作品を応援することによって一大『オニャンコポン』ブームが訪れ、一生かけても読みきれないほどの『オニャンコポン』小説が投稿されるかもしれないというわけなのです」
令嬢「それは絶対ないと思うけれど」
※『オニャンコポン』はアフリカ神話の天空神です
■3.不正はいけない
令嬢「評価ptの大切さについて十分理解できましたわ! それでは、みなさんに満点をつけてお詫びをして、学院に戻らせていただきますの!」
執事「それはいけません」
令嬢「えっ、どうしてですの?」
執事「ptと引き換えに対価を求める行為はナロー学院の校則違反です」
令嬢「そうでしたの!? Twitterなどでときどき見かけますけれど」
執事「発覚したら永久追放になりますね」
令嬢「そんな危険な行為でしたのね……」
令嬢「でも、そうしたらわたくしはどうしたらいいんですの……? こんなひどいことをしてしまって、もう学院のみんなに合わせる顔がございませんわ」
執事「それなら、違う道を探しましょう」
令嬢「違う道……それはどんな……?」
アレックスはわたくしの手を取って言いました。
執事「私と共に歩みましょう。一緒に新しい道を探るのです」
令嬢「アレックス……」
わたくしたちは手に手を取って、新しい道を探しに旅に出たのです。