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 舞台は王立ナロー学院。

 そこは小説家を志す貴族や富裕層の子弟が集まる創作者たちの虎の穴である。


 * * *


「メリス、もういい加減にがまんならん。お前との婚約は解消させてもらう! それからこの王立ナロー学院からも追放する!」


 ワナビ王子から突然そんなことを言い渡されたのは、公募一次通過作品発表記念パーティーの場でしたの。

 わたくしはわけがわからず、思わずワナビ王子に泣きすがりました。


「どうしてですの? わたくしは何も悪いことはしておりませんわ」

「自分がしたことにも気がついていないのか!」


 王子のかたわらには平民出身のネトリーが腕を絡めて立っていました。

 なるほど、わかりましたわ。このふしだらな女がワナビ王子を籠絡(ろうらく)し、きっとあることないこと吹き込んだのですね!


「わたくしはネトリーに嫌味も言っていなければ、教科書を破ったり持ち物を隠したりもしておりませんし、男子生徒をたぶらかして襲わせようとなどもしておりませんし、階段から突き落とそうともしておりませんわ!」

「いやそんなことは一言も口にしてないのだが」

「ではどういうことですの?」

「それは……ネトリーから説明してもらおう。つらいだろうが、できるか?」

「はい……王子、ありがとうございます」


 困惑するわたくしをよそに、ネトリーが淡々と言葉をつむぎます。


「メリス様、あなたは私の作品に面白い面白いといつもおっしゃってくださいましたね」

「ええ、ネトリーの特撮ヒーローものはツボに入りましたから、本心からの言葉をお伝えしたまでですわ」

「それなら……どうして……どうして評価ptをくださらなかったのですか!」


 ――ピシャァァァアアアン!!


 学院の上空に突如暗雲が立ち込め、一条の雷が時計塔に落ちた!


「ど、どうしてって。まだ完結もしておりませんし。完結前の作品に評価を下すなど、わたくしにはおこがましくってとてもできませんわ」

「そうではないのです。そうではないのです、メリス様……」


 ネトリーが泣き崩れます。

 一体何が違うのでしょうか。わたくしはわたくしなりに作品に真摯(しんし)に向き合っているつもりなのですが……。


 はっ、きっとネトリーに毒されていない他のみなさまならわかってくれるはず!

 そう思って視線を巡らしますが、誰もわたくしの味方になってくれそうな方がおりません。

 侯爵嫡子のエディンバラ様も、豪商の跡取りのリッチー様も、若くして一代騎士に任命されたナイトー様もわたくしと目を合わせてもくれません。

 これは一体、何が起きているんですの!?


「それがわからないお前にナロー学院にいる資格はない。いますぐ荷物をまとめて出ていけ!」


 わたくしはもう何も言い返す言葉も思いつかず、降りしきる豪雨の中をとぼとぼと帰っていくのでした……。


 * * *


「お嬢様、ずぶ濡れでございますよ。まずはお身体をお拭きください」


 わたくしが公爵邸に帰るなり、出迎えてくれたのは執事のアレックスでした。

 差し出してくれたふわふわのタオルも目に入らず、思わず抱きついてしまいました。


「学院のみなさまったらひどいんですの! こんなことがありましたのよ!」


 アレックスの胸に顔をうずめ、思わず泣き出してしまいました。

 アレックスはわたくしの濡れた髪を優しく撫でながら、じっくりと話を聞いてくださいました。


「なるほど、そんなことが……。ともあれ、まずはお風呂に入って体を温めてください。詳しいお話はそのあとに致しましょう」

「ひぐっ、ひぐっ……はい……」


 わたくしは、その提案に従ってゆっくりお風呂に入り、侍女たちからいつものヘアケアと入念なエステを施されてからアレックスの待つ執務室に向かいましたの。

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