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ミスラ  作者: C.F.M
2/7

一話

 町の片隅、どこからどう見てもボロとしか言いようのないビルの一階、そこが恭也のねぐらだった。



 ただ、付け加えておくならば、ボロなのは外見だけであって、中は綺麗に整えられている。本当に用がある者だけが訪れるように配慮しているのだ。

 


 そんなビルの主である恭也は一階の事務所の所長用の椅子に座って読書をしていた。


 

 時折、デスクの上のパソコンの画面を眺めてキーを叩き、また読書をして、冷め切ったコーヒーをちびちびと飲んでいる。


 

 その姿は仕事をしているようにも見えるし、サボっているようにも見える。

 

 

 「恭也君?いる〜?」

 


 事務所の入り口のドアが開き、カウベルが鳴る。


 

 まるで喫茶店のようだが、これは恭也の趣味ではなく、知り合いが無理矢理取り付けたものだ。



 外したら商品を値上げしてやる、と脅されて仕方なくそのままにしている。



 そして、少々間延びした色っぽい声の主は、ある事件がきっかけでここに出入りするようになった、政府に属する“機関”の構成員という出自の怪しい女性である。



 名前はアルマ、恭也の推測では偽名だ。

 


 「相変わらず扇情的な格好だな・・・」

 


 ちら、と入ってきた女性の方へ視線を向けて恭也は嫌そうにため息を吐いた。



 胸元は開いているし、すらりと伸びた脚を惜しげもなく見せびらかすようなミニのスカートを穿いている。それが似合っているのが一番の問題かもしれない。

 


 「あら、なんならお相手してあげてもいいわよ?」

 


 その口調は意外にもからかう風でもなく真面目なものだった。

 


 「遠慮しておく。用件はなんだ?」

 


 恭也は読んでいた本をデスクに置いて、アルマと視線を合わせる。

 


 「残念ね、いつになったら思いが通じるのかしら」

 


 アルマはそう言いながら、鞄から書類を出して恭也の前に置いた。それに恭也は目を通していく。

 


 「ずいぶん多いな」

 


 そこに書かれていたのはここ一ヶ月で行方不明、もしくは誘拐ではないかと思われる被害者のデータだった。


 

 さらに、発生している地域がここの近辺に集中している。

 


 「ええ、これ以上の被害が拡大する前にあなたに解決してほしいの」

 


 恭也はもう一度書類に目を通してから、それをアルマに返した。



 アルマはそれを受け取って鞄にしまう。しばらく、恭也は目を閉じて考えをまとめていた。

 


 「この事件を俺に頼む理由は?」

 


 恭也は目を開いて、アルマを見つめる。



 アルマは呼吸をひとつ置いてから、答えた。

 


 「あなたにしか解決できないと思ったからよ」

 


 「その根拠は?」

 


 アルマの言葉にすぐに恭也は声を継ぐ。

 


 「一つ目、ほとんどの事件にまともな目撃者が誰もいない。


 

  二つ目、いなくなったのはほとんどが10歳以下。



  三つ目、いなくなった時に側にいた人間から不思議な声を聞いたという証言がいくつか出ている。

  だから、普通の事件とは違う気がするの」

 


 「根拠としては薄弱だ」

 


 「そうね、でも、違っていたらそれでいいの。普通の捜査で見つかるのなら、それに越したことはないわ」

 


 恭也はその言葉に頷いた。本当にその通りだ、と。

 


 「わかった、依頼を引き受ける。いつもの通り、依頼料は安いが実費は高いぞ。それから、普通に行方不明になっている人間と、救出した後の処理はそちらで対処してくれ」

 


 恭也が言うと、アルマは微笑んだ。

 


 「わかっているわ。実費は、500万円で足りるかしら?」

 


 恭也は頭の中で計算をする。

 


 「確か、被害者の総数は20人を超えていたな・・・」

 


 そのうちのほとんどがターゲットで、必要な道具を揃えて、ひとりひとり助けていくとなると少々足りない。



 ただ、今回は別々の事件が絡んでいるとは考えにくいから、この方法を取ることはないだろう。

 


 「やっぱり少ないかしら?」

 

 

 「いや、まとめて助けることになるだろうから、そうしたら200万で済む」

 


 「それは助かるわ」

 


 「だけど、浮いた分は次のために取っておいたほうが良いんじゃないか?予算も無尽蔵ってわけじゃないんだろ?」

 


 「あ、それがね、今度の事件を解決できたら、もしかしたらそうなるかもしれないわ」

 


 「どういうことだ?」

 


 アルマはまた鞄の中から書類を一枚取り出して恭也に見せる。

 


 「この子、富豪の娘でね。そこのお婆様から直に私たちに依頼の打診がきてるの」

 


 書類の写真には大人しそうな少女が写っていた。ただ、その瞳に不思議な芯の強さを恭也は感じた。

 

 

 「この書類はさっきのものには入ってなかったようだが?」

 


 「混ざらないようにしておいたのよ。実は正式にはまだ依頼は受けてないの・・・引き受けて駄目でした、だとちょっとね」

 


 「その、お婆様ってのは、それほど影響力を持ってる人間ってことか?」

 


 「ええ、西条院美影、裏から世界を動かしている人間の一人よ。



  その孫娘である竜胆鈴は確かに西条院ではないけれど、西条院美影のお気に入りで、



  しかも、西条院を継げるのが彼女しかいないの」



 「・・・血筋で残っているのが、彼女しかいないのか」

 


 書類に記載された情報には彼女が直系であり、唯一の生き残りだということが書かれていた。



 西条院は不思議な一族で、直接西条院を継がせることは一度足りともなかったようだ。



 竜胆は父方の名字であり、そういう風に外で結婚をさせた後、継ぐものが決まれば西条院に戻す。



 これは法律的には離婚させて、結婚の事実自体はそのまま継続しているという状態だ。



 なぜこんなことをやっているのか、思い当たる節がない・・・というわけでもないが、絞り込むには情報が足りない。


 

 「それで、一応言っておくわ。彼女がこの依頼の最優先のターゲットよ」



 アルマがそう言うと、恭也は立ち上がってその肩に右手を置いた。



 「そうか、わかった。聞かなかったことにしておく」

 


 「ふふ、やっぱりね。だから、ここへ来たのよ、私は」

 


 恭也から向けられる殺意を受け流しながらアルマは答えた。そして、鞄から現金の束を取り出すと恭也に渡す。

 


 「実費の200万。依頼の報酬は成功したらね。もっとも、失敗するとは思ってないけど」

 


 さっきは駄目だと困るみたいなことを言っていたくせにな、と恭也は思ったが、あの言葉はアルマの属する機関の思惑で、念のために強調したのだろうと思い直した。



 恭也は金を受け取ると懐に仕舞った。そして、すぐに身支度をし終える。

 

 

 「期限は三日だったな?」

 


 書類に書かれていた依頼の期限を恭也は口にした。

 


 「ええ、そうよ」

 


 「ずいぶん気の長い話だ。今日中に片をつけるから、そこにある本でも読んで待ってると良い」

 


 デスクの上の本を示して、そんなことを言った後、恭也は事務所を出て行った。

 


 「本ね・・・」

 


 アルマはそっと手に取ってタイトルを眺める。

 


 そこには『神隠しの原因〜諸要素と解決法〜』と書かれていた。

 


 「依頼が無くても解決する気だったわけね・・・それにしても、こんな本どこで売ってるのかしら?」

 


 アルマは本を調べてみたが、どこにも奥付はなく、著者名も発行年月日が何時なのかもわからなかった。



 











 


 恭也は事務所を出た足で、一つ目の目的地へ向かっていた。


 

 そこは近くにある神社で、名前を日嗣神社という。


 

 ここには恭也の商売上の知り合いが居る。


 

 まずは事件の解決に必要な道具の調達をしに来たのだ。

 


 「雪はいるか?」

 


 神社の境内で顔見知りである巫女に恭也は声を掛けた。

 


 「あ、せっちゃんなら弓道場で練習してるで」

 


 竹箒で境内を掃除する手を止めて、巫女は恭也に言った。

 


 「そうか、ありがとう」

 


 表情を変えずに恭也はお礼を言った。



 巫女は慣れているのか、恭也のそんな態度も気にしていないようだ。

 


 「いやあ、こんなんお礼言う内に入らへんて、にしてもデートのお誘いかなんかなん?」

 


 元から細いキツネ目をいっそう細くして巫女はにやっと笑った。

 


 「仕事のための道具の買い付けだ」

 


 淡々と恭也は答えた。

 


 「なんや、浮ついた話やなかったんやね、じゃあ、引き止めるのもあれやし、この辺で、頑張ってな」



 巫女は右手を少し掲げて、にぱにぱと開け閉じした。

 


 「ああ、全力を尽くす」

 


 恭也は告げて神社の奥へ向かった。



 「ん〜、なんやいつもと違って恐い顔してはったな、どういうことやろ?」

 


 恭也はいつもと同じような仏頂面だったというのに、恭也が歩いて行った方を見ながら、巫女は不思議そうにしていた。



 恭也が道場へ着くと、ちょうど雪は休憩しているところだった。

 


 「あ、恭也さん、いらっしゃいませ」

 


 正座をして深々と頭を下げる雪に恭也は、ああ、とだけ答えた。

 


 「ふふ、気を張りすぎると、うまくいくものもいかなくなりますよ?さ、深呼吸をして」

 


 雪に言われた通りに恭也は深呼吸をする。



 一月に何回かは恭也も弓を射ちにこの道場へ来ているし、夕食をご馳走になることもある。恭也と雪は友人と家族を兼ねたような仲だった。



 だからこそ、恭也は素直に言葉を受け取った。

 


 「いや、すまない。みっともないところを見せたな」

 


 恭也は少し照れて頭を掻いた。相変わらず表情はあまり変わらないが。

 


 「いえ、そんなことはありませんよ。術具を買いにいらしたのでしょう?仕事前に気合が入るのは普通のことです」

 


 「そう、か。ああ、そうだな」

 


 頷いた後、恭也は雪の前に胡坐をかいて座った。

 


 「それで、どんな術具をお求めになられますか?」

 


 恭也は懐から札束を取り出して、雪に渡す。

 


 「雷神符を三枚、水龍召喚符を一枚買いたい」

 


 「ええと、200万では足りませんけれど?」

 


 特殊な媒体を使用する符には原材料が高いものも多々ある。それに符に力を込めるにも相応の負荷がかかる。


 

 符が高いのは別に儲け主義というわけではない。

 


 「雷神符は一枚を制御に特化したもの、二枚は中程度の威力で、水龍の方は制御はいらないから威力だけ高めた奴を頼む」

 


 雪は少し考えて頷いた。

 


 「・・・わかりました、それなら150万円で売りましょう。しかし、大丈夫なのですか?制御をつけないと水龍が暴走するかもしれませんよ?」

 


 おつりの50万円を束から引き抜き、雪は恭也に返した。

 


 「大丈夫、それもひとつの手だからな」

 


 恭也の言葉に、あまり心配を掛ける様な事はしないでくださいね、と雪は言った。恭也はそれにただ頷いた。

 


 「それでは、お父様に頼んで来ますね。符の材料はもう用意してありますから」

 


 「・・・やっぱりお見通しだったか」

 


 「ええ、小さい頃からの付き合いだから、だそうです」

 


 そう言って雪は笑った。

 


 雪との付き合いは三年だが、その父親である日嗣源太とは恭也が小さい頃からの付き合いだった。


 雪は母方の家で生活していたのだが、三年前に母親が死んで、父親の家に来たのだ。



 夫婦仲が悪いわけでもないのに別々に住んでいた理由を恭也は知らない。


 

 そこまで立ち入るのは無遠慮だと思ったからだし、いつか話してくれるとも思っているからだ。



 「それじゃ、よろしく頼む」

 


 「はい、頼まれました」

 


 道場を後にする雪に挨拶をして、恭也は符が出来るまでの間の時間で弓を射ることにした。


 

 精神を集中するには丁度いいからだ。

 


 恭也は小さい頃からここで弓を射ってきた。



 ここへ来たばかりの頃の雪に弓を教えたのも恭也だ。



 ただ、恭也は弓を射るのが目的ではなく、この動作による精神の集中が目的だった。



 それゆえ弓術という面ではもはや雪には敵わない。

 


 今も精神の集中が目的だから、座禅でも構わなかったのだが、今日はなんとなく弓が良いと思ってしまった。



 それがどんな理由の故なのか恭也にもわからなかった。



 もしかしたら、昔の自分を思い出したかったからなのかもしれない。

 


 上着だけを脱いで、弓を構える。



 着替えもせず、手にも何もつけていない状態では本来射るべきではないのだが、今道場に居るのは恭也だけだ。


 咎める人間はいない。



 呼吸を整えて、体の余分な力を抜いていく、そう、余計な力が入っていたら物事はうまくいかない。



 正しい順序で、正しい動きで、正しい意志で、弓を射るように・・・。

 


 的と自分が重なり合った感覚がして、矢は放たれた。



 そうあるように、矢は的の真ん中を射抜いていた。

 


 「なんとか、無駄な力は抜けたか・・・」

 


 力はなにかを成し遂げるためのものだが、無駄があれば邪魔になる。



 あの人が居た頃、よく言われたものだ。

 


 勝手に道場を使ったことがばれたら親父さんに怒られるかもしれないな、と思いながら恭也は弓と矢を片付け始めた。



 「お待たせしました」


 

 道場で座りながら、事件のことを考えていた恭也に声がかかった。

 


 雪は恭也の前に符を並べて差し出す。

 


 「出来はどうでしょうか?」

 


 恭也は符を丹念に見ていき、最後にひとつ頷いた。

 

 

 「問題ない。いつもながら良い出来だ」

 


 「ありがとうございます」

 


 恭也は懐に符をしまうと、立ち上がった。

 


 「急ぐから、もう行くよ」

 


 「ええ、わかっています。あ、お父様から言伝です、今度うちで食事でもしていけ、だそうです」

 


 「ありがたいな。ぜひ、お邪魔させてもらう」

 


 「いつが空いてますか?」

 


 「今日中に片がつけば、今週の土日は空いてるな」

 

 

 「今日が水曜ですから、三日後ですね。あれ、木金は駄目なんですか?」

 


 「事件のことでなにかあるかもしれないし、まあ、予備日でもあるしな」

 


 余裕があるときほど不測の事態に備える。


 

 それは事態というものは常に悪化するものだと考えていなければ、救えたはずのものを取りこぼすから。


 

 これも教えられたことだ。

 


 「なるほど、では、今週の土日ですね。泊りがけでしょうか?」

 


 「いや、さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないだろ。どちらかの夕飯だけで良いよ」

 


 「・・・そうですか、土日で、泊りがけで、朝から来るのですね」

 


 「え、いや、違・・・」

 


 「お断りになると、困ったことになりますよ。お父様、もうお前になんて符なんか売ってやらねぇ、とか言い出しそうですし」

 


 源太氏はいい歳をしているのに子供じみたところがある。



 確かにそういうことを言いかねない。

 


 「・・・仕方ないな、じゃあ、頼むよ」

 

 

 「はい、頼まれました」

 


 雪は嬉しそうに微笑んだ。

















 少年は空を見ていた。


 

 今日も澄んだ青空がそこにはあった。


 

 やがて、透明な夜が来て、月が浮かぶだろう。その前に・・・そう、彼が来る。

 


 「やあ、久しぶり。ローザはいるか?」

 


 漆黒のジャケットを羽織って、清廉で潔白な魂をその身に宿し、怠惰で偽装した熱情で災いを焼く。


 

 それが彼の役目だ。

 


 少年はぼんやりと空から彼に視線を動かす。そして、こくっと、ひとつ頷いた。

 


 「ローザを呼んで来よう。少し待っていると良い」

 


 少年から紡がれた言葉は仕草とまるで合っていない大人びたものだった。

 


 「ああ、頼む」

 


 彼は人に頼ることを躊躇しない。



 それは自分の出来ることを知っていて、出来ないことを知っていて、そして、誰かを信じることを恐れないからだ。

 


 少年は礼拝堂へ入っていく。



 そこには彼が頼るに値する人間がいる。扉を開き、少年は彼女を呼んだ。

 


 “ローザ、彼が来たよ”、と。



 恭也はローザが出てくるまで、教会の外で待っていた。


 

 伝言を頼むような相手ではないと知ってはいたが、“彼”が快く承諾してくれたのだから、良しとした。

 


 「恭也、お久しぶりです」

 


 ローザは礼拝堂から出て、まっすぐ恭也の前に来た。いつものシスターの服装ではなく、空色のワンピースを着ていた。

 


 「珍しいな、その服。シスターの服はどうしたんだ?」

 


 あの服はローザのトレードマークだし、それなりに思い入れもあるはずだ。



 その辺の事情はある程度聞いている。

 


 「似合いませんか?」

 


 ローザの瞳が恭也を射抜くように見た。

 


 「あ、いや、似合ってはいるが・・・」

 


 恭也は強い視線に気圧されるように少し後ろに下がった。


 

 ローザの瞳は右目だけが不思議な色合いをしている。



 光の角度によって色が違って見えるのだ。



 だが、聞いたところによると、そんな見え方をしているのは恭也ひとりだけで、町の人間には両目とも金色に見えているのだそうだ。

 


 「恭也、似合っているのであれば、何も問題はない。そうではないですか?」

 


 「あ〜、そうだな」

 


 大方シスター服を教会に住んでいる子どもの誰かに汚されたのだろう。



 そして、それを庇っているというわけだ。恭也はそう考えた。

 


 「それで、なにか御用があって来たのではないのですか?」

 


 「ああ、そうだった。加護の祈りが込められた聖水が欲しい。一本で良いんだが」

 


 ローザはそれを聞いて、訝しげにした。

 


 「加護が欲しいのであれば、祈りを捧げていけば良いのでは?」

 


 後ろの礼拝堂をローザは示した。

 


 「いや、それはまずい。他の術具と競合するからな。ここの教会は加護が強すぎるんだ」

 


 ローザの能力の故だろうか、ここの敷地内は清浄な力に満ちている。


 

 立ち寄るだけで信仰のない者にさえ加護が宿るくらいにだ。



 もっともその場合の効果はやはり薄い。


 

 しかし、本来の教会の在り方としては異常だ。



 信仰する者だけを救うのが、本来、神と呼ばれるものの在り方なのだから。



 そして、そんな存在の加護を受けると術具の発動に支障をきたしかねない。



 自分自身がニュートラルでないと恭也の術式はうまく作動しないのだ。

 


 「・・・お仕事の事情ですか。では、仕方ありませんね」

 


 「ああ、すまない。念のために聞くけど、この教会でいなくなった子どもは?」

 


 書類には載っていなかったし、この敷地には守護者がいる。



 そんなことはありえないのだが、恭也は尋ねた。


 

 何事にも例外はある・・・というか、これはただの心配性かもしれない。



 「大丈夫、いませんよ。そんなことを聞くということは、最近頻繁に起きている失踪事件を解決しにいくのですね」

 


 「ああ、その通りだ。それで、聖水はすぐ用意できるか?」

 


 「お急ぎのようですね。いくらで売ればよろしいのですか?」

 


 「これが準備のための残りの金だ。全部と引き換えに用意してくれ」

 


 懐から50万円を出して、恭也はローザに渡した。

 


 ローザは金額を確認もせずにそれを仕舞った。

 


 「それでは、しばらく待っていてくださいね」

 


 一度頭を下げて、ローザは礼拝堂に戻っていった。

 

 

 「慈悲を受け取らぬのも罪、だったか?」

 


 本当ならあんな特殊なものは50万円では足らない。一度きりしか使えないとはいえ、効果からすれば金額の桁が違っている。

 


 「これも誤魔化していることになるんだろうか?」

 


 恭也は空を見上げて、なんとなくため息をついた。


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