凍てついた少女
凍てついたまま
300年が過ぎたまま
少女はずっと そこにいる。
家族なんてとっくに最初に死んで
子孫なんて誰もいなくて
誰も知らない人だらけの世界で
それでも少女だけは
溶けない氷のなかで
見せ物になりながらも
同じ場所で 立っている。
少女の故郷の小さな村は
時が過ぎて ビルが建ち並んで
たくさんの人が住んで
少女だけが とても浮いていた。
夏になって どんなアイスも溶けるのに
少女の氷だけは溶けなくて
向日葵の咲く横で
彼女はいつも 凍っていた。
誰も溶かそうとはもう思わない
観光名所になってしまった
みんなみんな スマホで撮る。
中には拝む 人もいた。
一人だけが浮いている
世界中で浮いている
時代にそぐわない村人の格好で
それでもずっと 生きている。
消えたくても消えたくても
自分ではどうすることもできぬまま
300年も経ったこと 知らないまま
願えども願えども
どうなることもないまま
変わらないまま 生きている。
流れ星が光って 少女の凍った瞳にうつった。
どうか助けてと叫ぶことも 叶わず
独りで静かに 泣いている。
涙も出ぬまま 泣いている。