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86話 母は強し(物理)


「そうかい……ポチがね……」


 何かを耐えるように、表情を曇らせて俯くリアン母。自分の娘があんな状態で帰ってきたのだから、それも仕方ないだろう。


 追っ手を振り切って『はじまりの山』を脱出し、俺達はすぐに『パプリコ村』まで戻ってきていた。いまは村長への報告をモミジとミカエル嬢に任せて、俺は泣きつかれて寝てしまったリアンちゃんを家まで送り届けたところである。


「……リアンは、どうだった?」


「かなり取り乱しているように見えたな」


 俺の言葉を聞き、さらに沈んだ表情になるリアン母。簡単に『はじまりの山』で起こったことを伝えたわけだが、ポチの話をしたあたりからリアン母の様子がおかしい。


 魔物だからポチを毛嫌いしているのかと思えば、そういうことでもないらしい。どうにも事情がありそうだ。


 俺がポチとリアン母の関係を考えていると、真面目な表情でリアン母は話し始めた。


「リアンはね、あたしの娘じゃないんだ」


「パードゥン?」


 このオバサンは急に何を言い出すんだ。それがポチの話のどこに関係あるのか謎だし、ぶっこむにしても話が重すぎないか?


「次にオバサンって言ったら、明日にはファルシオンの餌になってるからね」


「すみませんでした」


 あんな駄牛の餌になるなんて御免である。俺だって最低限は人間としての尊厳を持って死にたい。真面目に話を聞くことにしよう。


「あたしの夫は狩人だったんだがね、結婚してすぐ魔物にやられちまったのさ」


「……」


 やはり、この世界には死が溢れている。


 まるでなんでもない世間話のように旦那の死を話すリアン母に、俺はどう返事をしたものかと悩み、結局は何も言うことができなかった。


 友達の亡くなった父親……しかも実は血が繋がってないとかいうディープな話、俺はどんな顔をして聞いてればいいのか。


「まあ、よくある話さ。そんなスライムみたいな顔しなくていいよ」


「このシリアスムードで、あんな変態みたいな顔してます?」


「ああ、悪い悪い。スライムみたいな顔は元からだったね」


 やれやれと肩を竦めながら、大袈裟にため息を吐くリアン母。


 友達の母親だけど、グーで殴っていいかな。あのデカイ腹はサンドバッグみたいで殴り甲斐がありそうだ。


「それで、旦那の葬式の帰り道さ。この子を拾ったのは」


 俺の殺意の波動を涼しい顔で受け流しつつ、昔を懐かしむようにリアンちゃんを眺めながら話すリアン母。


「拾った? どこで?」


「赤ん坊だったリアンを魔物が家の前に置いてったのさ。魔物にしては、だいぶ小奇麗だったけどね」


「はあ?」


 魔物が人間の子供を置いていく? お残しを許しまへん感じの見た目に反して、頭の中はお花畑なのか? その図体でちょうちょさんをキャッキャウフフと追いかけまわしているのか?


 しかし、優しい母の顔でリアンちゃんを見つめる姿からは、まるで冗談を言っている雰囲気を感じ取れない。


 本当に魔物がリアンちゃんを運んできて、ここまで育ててきたというのだろうか。自分の夫を魔物に殺されたんだぞ。恨みを持ってしまってもおかしくないどころか、そっちの方が自然だろうに。


「人をバカにするかと思えば、今度は自分のことのように心配してる。まったく忙しい男だね」


「心配なんてしてないやい」


「素直じゃないねぇ……しかし、不思議な男だよ。リアンの話は、あたしが墓まで持ってくって決めてたんだけどね」


 リアンちゃんの頭を柔らかい手つきで撫でながら、珍しく小声でボソリと呟くリアン母。狙ってもいないのに、リアン母の好感度が上がっている気がする。とても不本意です。というか、怖いです。


「誰にも言ってなかったのか? 急に子供が出来たら怪しまれるだろう?」


「あんたが言うように、腹がデカイからね。リキんだら生まれたって押し通したさ」


 誇示するように腹を張って、なぜか得意げな顔をするリアン母。


 いや、無理があるだろう。確かに3人くらい子供が入っていてもおかしくないが、実は子供ができてて踏ん張ったら生まれたなんて聞いて、「はい、そうですか」と納得するはずもない。


「そりゃ、気味悪がられたさ。特に子供達なんて露骨でね、リアンはロクに友達もできなかったよ」


「それで俺達が友達って言った時、ちょっと嬉しそうだったのか」


 大きく頷くリアン母。俺のリアンちゃん友達いない説も当たっていたというワケだ。まさか、ここまで深い事情があるとは思っていなかったが。


「村で孤立して寂しそうだったが、あたしにはどうすることもできなくてね。そんな時に連れてきたのが……ポチだったのさ」


「なるほど」


 ここまで聞いてしまえば、あのリアンちゃんの取り乱し方にも納得がいくというモノだ。孤立していた自分にとって、初めてにして唯一の友達だったポチ。例え邪悪な姿に変り果てていたとしても、それでもリアンちゃんにとって、ポチはポチなのだ。


 自分の判断が間違っていたとは思っていないが、リアンちゃんには酷いことをしてしまったかもしれない。


「でも、ポチはもう邪悪な魔物に変わっちまったんだろ?」


「……俺には、そう見えた」


 よく分からない行動はいくつかあったものの、敵対行動を取っていたのは間違いない。


 魔獣将軍オオジンの能力は分からないが、魔獣将軍という名前と能力から推測するに、魔物を率いるというテーマを持ったキャラクターだろう。ポチを支配下に置いている可能性は高い。


「こんなことをあんたに言うのも残酷かもしれないけど、大事なのは人の命さ。ポチがこの村を、人を襲うというのなら……頼んだよ」


「……そうだな」


 壁にかかったランタンの揺れる火を見ながら、俺は曖昧に返事をする。


 俺だって理屈は分かっているが、実際にポチと対峙した時に、果たして剣を向けることができるのだろうか。リアンちゃんの大事な友達を、俺は殺すことができるのだろうか。



 いや、そもそも……。



 あの強そうなビーストキメラに、勝てる気がしないんですけどネ……。



 いろいろな意味で不安な気持ちを抱えつつ、俺は揺れるランタンの火を眺め続けた。


また投稿が不定期になってごめんなさいm(__)m

仕事も落ち着いたので、投稿再開です……ッ!


小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m


次回は掲示板回!

明日投稿……できるかな(遠い目)

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