80話 漆黒の堕天使ルシフェルである!
「オラの『ファルシオン』がぁ、外に出てくれねぇんだべ。いっつもはぁ、外でぇ昼寝するのが好きなんだけんどぉ」
休日のお父さんのように寝そべっている牛を優しく撫でつつ、腰の折れ曲がった老人は悲壮感の混じった田舎言葉で話をしてくれた。
家の中で普通に牛を飼っているこの老人が村長だという。絶対に飼い方を間違っているよね。牛って犬猫感覚で室内飼いする動物じゃないよね。
あとその牛、絶対に『ファルシオン』って顔してないよね。どっちかってと『ゴンズ』みたいな顔だよね。この村は本当に大丈夫なんだろうか。
「他の牛や山羊もおんなじみたいだべ。このまんまじゃぁ、家畜がみんなストレスでしんじまうだ」
「それは由々しき事態だな」
ツッコミたくて仕方ないが、話が進まないためにスルーした。しかし、ポチと直接的に関係があるのか分からないが、村全体に関係するトラブルが起きているようだ。家畜が死んでしまえば、この小さな村では大ダメージだろう。
一番大きい村長の家でさえ、王都の職人街の平屋に毛が生えたレベルのものだ。懐事情はお察しというヤツである。
「それで、ゴンズは」
「ゴンズ?」
おっと、勝手に脳内で命名した名前を呼んでしまった。でもゴンズって呼んだら、あの牛がピクリと反応したぞ。きっとアイツも自分がゴンズ顔だと分かっているのだろう。
「いつからなのじゃ?」
「そうだべなぁ……2日前くらいだった気がするだ」
俺がゴンズと遊んでいると、モミジが核心を突く質問をしてくれた。いかん、遊んでいる場合ではないぞ。このままでは、またモミジに主人公の座を奪われてしまう。
2日前というと、ポチが失踪したのと同じ日じゃないか。これはもしかすると、なにか関係があるかもしれない。
「他に変わったことはないか?」
「そうだべなぁ……たまにだけんど、遠くから犬でも狼でもねぇ、でっけぇ遠吠えが聞こえるだ」
犬でも狼でもない大きな遠吠え……モンスターだろうか。
「それも2日前くらいからか?」
「んだんだ。ファルシオンはその遠吠えを怖がってるみたいだべ」
「そうか……ゴンズが……」
「ゴンズ?」
これを無関係だと思うには、さすがにタイミングが合いすぎている。依然として正体は不明だが、その遠吠えの主が原因である可能性は高い。
「そういえば、ポチがいなくなっちゃうときも、なにかきこえたきがするの」
顎に手を当ててかわいらしく考え込んでいたリアンちゃんが、ふとそんな情報をくれた。となれば、この村の家畜が引きこもってる原因と、ポチが疾走してしまった原因は同じだろう。点と点が繋がったというヤツだ。
「どの方角から聞こえたか分かるか?」
「やまのほうなの」
山があるのは『パプリコ村』より北だ。おそらくポチとヒッキー事件の犯人がいるのは、北にある『はじまりの山』だろう。
「分かった。ついでに俺達の方でも調べてみる」
「本当だべか!? だ、だけんど……オラたちの村は貧しいだ……お礼なんて……」
俺の調べるという言葉に一瞬だけ嬉しそうな顔をしたものの、すぐに俯いてしまう村長。今日の晩飯にも困ってそうだもんな。
「報酬なんていらないぞ」
「「「え?」」」
俺の言葉を聞いて、一斉に同じ反応をするロリーズ。モミジはいいとして、リアンちゃんとミカエル嬢まで目を丸くして驚いているのは何事だ?
「おにいちゃん、わたしのおねがいのとき、『ちなみにィ、ほうしゅーはァ?』っていってたの」
口をぐにゃりと歪めて、酷い悪人面で俺のセリフを真似するリアンちゃん。確かにリアンちゃんの依頼を受ける時に、そんなことを言った記憶がある。えっ、俺ってそんなに腹の立つ喋り方してるの?
「お金もらえない、受ける、ありえないデス……似てる、でも、やっぱり別人?」
どうやらミカエル嬢が探している人物は、相当にがめつい人間らしい。お金がないと動かないなんて、俺は考えられないね。
「きっと、オカネいがいでなにかがあるのじゃ」
モミジさんは俺のことをどういう人間だと思っているのだろうか。俺にだってボランティア精神くらいあるんだぞ!
別に所持している称号一覧にあった、[獣人の友(モナクス)]を見たからとかじゃないよ。この村でも好感度を上げていけば、似たような称号をもらえるんじゃないかとか思ってるわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。
「やはりのぅ……ぎゃくにあんしんなのじゃ」
下心があったっていいじゃない。下心があってもなくても、ボランティアには変わらないし、結果的にこの村が救われるんだから。むしろ村は救われて、俺は称号をゲットしてウィンウィンな関係というヤツだろう。
「しかし、『はじまりの山』か……」
なんとも因縁の深い場所だ。『はじまりの山』の推奨レベルは20。一度登ったことがある俺とモミジはいいとしても、ケルベロス戦でレベル15に上がったところの家康と、非戦闘員であるロリーズを連れていくのは危険すぎる。
「家康たちと合流して、作戦会議をするか」
「サンセイなのじゃ」
とりあえず、家康と子系子に連絡を取ろう。
「またな、ゴンズ」
「フモォ~~!」
「ファルシオン!? おめぇ、いつも鳴かねぇのに、急にどうしただ!?」
急に元気に鳴き始めたゴンズと村長の声を聞き流し、俺達は村長の家から出た。そしてメニューを操作して、パーティーチャット画面を表示する。
―――PARTY CHAT―――
安倍晴明:いろいろと分かったぞ
安倍晴明:作戦会議をしたいからキリのいいとこで村の入り口に集合してくれ
徳川家康:こちらもちょうど終わったところだ!
安倍晴明:オッケー
子系子:こちらも収穫がありました
安倍晴明:家康はともかく、子系子が言うなら間違いないな
徳川家康:ハッハッハッ! 俺は立ってただけだからな!
安倍晴明:さすが家康……
安倍晴明:よく堂々と言えるよな……
子系子:家康さまですから……
徳川家康:そういえば、ミカエル嬢とチャットで話をしたか?
徳川家康:日本語での会話は苦手だが、チャットは流暢で面白いぞ!
安倍晴明:なんだと?
安倍晴明:知ってたなら先に言えよ
徳川家康:ハッハッハッ! 忘れていた!
徳川家康:ミカエル嬢!
ミカエル:我は色欲魔の深淵を覗いている
ミカエル:故に対話に応じる暇はない
安倍晴明:中二病かよ!?
安倍晴明:ってか日本語が上手すぎませんかね!?
徳川家康:ハッハッハッ! 面白いだろう!
子系子:確かに流暢ですが……意味が分かりませんよ……
子系子:これはコミュニケーションがとれていると言っていいのでしょうか……
安倍晴明:俺の監視で忙しいからチャットしてる暇はないらしいぞ
子系子:え!? わかるんですか!?
徳川家康:ハッハッハッ! まさかミカエル嬢のチャットを理解できるとはな!
徳川家康:やはり安倍晴明に預けて正解だった!
安倍晴明:まあ、なんとなくな
子系子:どうして理解できるのですか?
安倍晴明:俺もいろいろあったんだよ……
安倍晴明:とりあえず! 入り口集合だ!
徳川家康:了解だ!
子系子:釈然としませんが、分かりました
――――――
ふぅ……なんだかチャットをするだけで変な汗が出てきたぜ。
誰にだって黒歴史って存在するものだよね。特に中二病という病名が付くくらいだから、中学二年生の時なんて、みんな人に言えない秘密の1つや2つや100個はあるはず。
簡単に言うならば、俺が『アルベルト』になる前のPNは『-*†漆黒の堕天使 ルシフェル†*-』だった。それだけのことだ。
「……」
「分かる、分かるぞミカエル嬢」
「……?」
相変わらず俺をガン見しているミカエル嬢に、なんだか親近感がわいてしまった。難しい漢字とか言葉を使いたくなっちゃうのは、中二病あるあるでも上位に位置するモノだ。これこそ誰しもが通る道だよな。
しかも横文字を使わない辺り、昔の俺と同じ流派のようだ。外国人だというのに、安易に横文字に逃げず、アウェイの日本語で勝負するその姿勢はポイントが高い。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「いつものビョーキなのじゃ」
不審者を見るような目つきになっているのが2名ほどいるが、ミカエル嬢という心の友を得た俺は無敵だ。我こそ光をもたらす闇の天使、追放されし異端なる正義、『-*†漆黒の堕天使 ルシフェル†*-』である!
「はぁ……リアンよ。こやつはほうっておいて、いくのじゃ」
「う、うん……」
そういって先に歩き出すモミジと、それについていくリアンちゃん。
「この世の理を解せぬ者どもよ……やはり我ら上位種が、この世界を統べるしかあるまい。なあ、堕ちた大天使よ?」
「言葉、わからないデス」
頭にハテナマークを浮かべながら俺の言葉をスルーし、モミジとリアンちゃんの後を歩いていくミカエル嬢。まさかの同族からの裏切りだった。
中二言語だったら円滑にコミュニケーション取れるんじゃないの?
「どうして俺がおかしいみたいになってるんだ?」
俺はミカエル嬢の謎行動に首を捻りつつ、モミジ達の後を走って追いかけていくのだった。全くもって、幼女ってミステリー。
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