75話 ロリータ平原の覇者
「はあ……やっぱり現実はコワイ……」
あれから逃げるようにAFOを起動した俺は、モミジ達がいるギルドの食堂へと戻ってきていた。
結局は件名だけでビビり倒してしまい、サタンのメールを開くことなくAFOにログインしてしまったのだ。悪いとは思うが、あんなメールを送る方も悪いと思うの。
「よしよし、なのじゃ。よくわからぬが、晴明はえらいのじゃ」
「ばぶぅ」
そうして食堂に辿り着いたわけだが、いつのまにか子供用の椅子に座るモミジに膝枕され、永遠と頭を撫でられていた。
椅子と椅子の間に安倍晴明大橋がかかっているという、なんとも不格好な状態だが、ロリ母性を極めつつあるモミジの膝枕は至福の一言。俺は現実で負った心の傷を、小さくも大きなロリ膝枕によって癒してもらっているのだった。
「晴明さん……そんな小さい子に膝枕をさせるのは、あまりよくないですよ」
「しかたないんです。なかまにうらぎられるし、すとーかーみたいなのもいるし、げんじつはこわいんです」
引きこもり仲間だと思っていた総理には裏切られるし、ゲーム仲間だと思っていたサタンからはストーカーみたいなメールが送られてくるし、ハイパーイケメンだと思ってた俺はボサボサ頭のヒキニートだし……。
それにしても、モミジの膝枕は格別だ。和服越しに感じる柔らかい太ももに頭を預けながら、ぷにぷにおててで頭を撫でつけられるこの幸福。きっと時代が違えば、王侯貴族にのみ許された最高級の贅沢だっただろう。
リアンちゃんが新種の生き物を見るような目つきになっているが、それすらも快感へと変換して、俺は至福の時間を味わい続けた。
ああ……幼女の柔らかい太ももクッションに、俺の負の感情が吸われていく……これがロリータセラピーか……魂が……浄化されて……真のロリコンに……。
「あ、あの、せっかくなら私の膝枕で――」
「ハッハッハッ! 待たせたな!」
エイミーさんが何かを言いかけたタイミングで、もはや聞き慣れたバカ笑いが全てをかき消した。顔を見なくても分かる。確実に家康だ。
「うるさいヤツが多くて手間取ったわ!」
「こちら時間では昨日ぶりです、晴明さま」
振り向いて確認すると、やはりいつも通りナポレオンポーズをキメる家康がいた。そしてその頭の上には、小柄な人影。
青いボブカットと、サファイアのように輝く青い瞳。全身を覆うローブと一体になっているフード……その頂点で存在感を放つのは、大きな赤い鶏冠だ。『占い師』という珍しいジョブを持つ鶏幼女、子系子である。
「あれ? なんで子系子がいるんだ?」
そしてなぜ家康と一緒にいるんだろう。こいつら、もしかしてデキてるのか?
身長130cmほどの子系子と2メートル超えの家康では、美女と野獣……いや、幼女と怪獣といった感じだ。デコボコカップルとかいうレベルじゃない。ちゅーする時とかどうするんだろう。
「晴明さま、変なこと考えてますよね」
「ソンナコトナイヨー」
どうして俺ってばすぐバレるんだろうね。こんなにもクールで澄ました顔しているのに。もっと仮面とかつけて、表情を読まれないようにした方がいいかな?
「仮面をつけても意味ないと思いますよ。晴明さまは独り言が大きいので」
ジト目で俺を見る子系子。なんだか子系子が冷たい。やっぱり男が出来ると、女ってのは変わってしまうんだな。お兄ちゃん悲しいよ。
「誰がお兄ちゃんですか! 私も『チーム葵の紋』に入っただけです!」
「この前の戦いで子系子の有能さは分かったからな! オレがスカウトしたのだ!」
確かに防衛戦でも家康と相性が良さそうだったし、どう見ても足りていない家康の知力を補う人材としてふさわしいだろう。子系子も鶏関連でアホっぽくなるところが偶に傷だけど。
「誰がアホですか! 晴明さまには言われたくないです!」
両手を肩の位置で羽のように広げ、パタパタと羽ばたくニワトリポーズで怒る子系子。そういうところなんだよなぁ……。
「それで、なんで子系子がいるんだ?」
「MPポーションのお代を支払いに来たんです」
なるほど。俺はあの防衛戦の時に、『はじまりの町』で買い溜めしていたMPポーションを使い切ってしまったのだ。それで子系子に「経費で落ちないか?」とダメ元で聞いてみたら、「考えておきます」とか答えていたはず。
本当に経費で落ちるとは思っていなかったが、実際にMPポーションが無くなったわけだし、補填してもらえるのはかなりありがたい。
「いやあ、申し訳ないねぇ。あ、馴染みの商会で割引してもらったんで、ちょっとくらい少なくても大丈夫ですぜ?」
俺が手のひらを差し出し、お金を催促するが……子系子は直立不動のままだ。なぜか指で自分を指している。なんだコイツ。
「……あの、金は?」
「ないです」
「ハァッ!?」
大人をナメてんのかこの鶏幼女は。まさか「金を返す誠意を見せに参りました」とか抜かすんじゃなかろうな。そんな時間があるならバイトでもして金を稼げ! 誠意じゃおまんまは食えねぇんだよ!
「お金はありません……なので、体で支払おうかと」
「ハァァァンッ!?」
ビックリしすぎてB級ヤクザみたいな声が出てしまった。か、体ってもしかして、そういうこと!?
で、でも、さすがにこの幼女体型に興奮なんてしない……。
「晴明さまぁ、子系子に手伝わせてください」
俺を上目遣いで見つつ、俺の腰辺りを指でチョンチョンとする子系子。
強くもなく弱くもない、絶妙な力加減で腰をチョンチョンされて、俺はなんとも言えない気持ちになってしまった。いったいこのぷにぷにおててとロリータ平原で、何をどう手伝うつもりなんだ。
お、おお、俺は幼児体型に、こここ興奮なんてしないぞ!
「はあ……また幼女ですか……」
「晴明はしょうがないのじゃ……」
視界の端で溜息を吐く二人が見えるが、そちらを気にしている余裕もない。俺を見つめる子系子の瞳はうるうるとしていて、どこか物欲しそうにも見える。腰のチョンチョンも、最初は側面の方だったものが、少しずつ内側へと移ってきていた。
こ、これってオーケーサインだよね!? むしろここでいかなければ、据え膳なんちゃらってヤツだよね!? あの宿屋、ベッド小さかったけど大丈夫かな!? 子系子は小さいし大丈夫か!?
『晴明さま。子系子、はじめてでこわいです』
『俺も初めてだけど、大丈夫だよ。安倍晴明のセイとはつまり、性欲のセイでもある。生まれた時から性の達人なのサ』
『そんな……晴明さま、たくましくてカッコイイですぅ』
『はっはっはっ、もちろんコッチもたくましいぞ』
『わわっ、すごい筋肉です。子系子は、この筋肉でメチャクチャにされちゃうのですね』
『優しくするよ。安倍晴明のセイとはつまり、誠実のセイでもある。生まれた時から誠実の塊なのサ』
『たくましいだけじゃなくて、お優しい……どうぞ、子系子は幼女なので小さいですけど……』
『ケルベロスを倒して、称号[はじまりの平原の覇者]を手に入れたんだ。ロリータ平原の覇者にもなっちゃうゾ』
『だめぇ、ロリータ平原が開拓されちゃう――!』
「ものすごいニヤケ顔ですね……」
「あれはきっとモーソーしてるカオなのじゃ」
視界の端で溜息を吐く二人が見えるが、そちらを気にしている余裕もない。
子系子はてっきり家康のことが好きだと思っていたが、まさか俺のことが好きだったとは。これはマズイぞ。俺の嫁はモミジだというのに、これではまた浮気に……。
「どうやら勘違いされていますが、クエストを手伝うということですからね?」
「なに!?」
子系子はそう言いながら、ローブで身体を隠して3歩ほど下がる。そして俺をみながら、片目を瞑ってアッカンベーをしやがった。あ、あの、小悪魔鶏幼女軍師が……! サムゲタンにされてぇのか……!
「で、でも、鬼モードの晴明さまなら……ちょっとくらい……」
頬を赤く染めつつ、全身を覆っているローブに手をかける子系子。ちょ、ちょっと!? 何を、ちょっと、どうするのですか!?
「モミジ!」
「ちかよるなヘンタイ。ウワキモノ。ロリコン。スカタン」
モミジになんとか『鬼化粧』を使ってもらおうと試みるも、ツンとそっぽを向いて腕を組んでしまっている。顔の方に回り込んでは反対に背けられ、回り込んでは背けられを3ラリーしたが、まるで取り合ってくれない。
チクショウ……せっかくスケベできるかもしれないのに……。
「はあ……晴明はウワキモノなのじゃ……」
大きな溜息を吐くモミジ。違うんだモミジ、これは浮気じゃない! 異文化交流だ!
「晴明さん、そ、それなら、私とスケベを――」
「忘れていた! 安倍晴明に紹介したい娘がいるのだ!」
またもなにかを言いかけるエイミーさんと、それを打ち消す家康の大声。
家康さん。エイミーさんがすごい顔してるから、そろそろ一回謝っておいた方がいいと思う。あれ確実に人を殺す時の目だから。ハイライトが消えちゃってるから。
「紹介したい娘? 子系子なら知ってるぞ」
コイツはついに記憶まで筋肉に支配されてしまったのだろうか。きっと頭の中には筋トレとプロテインのことしか残ってないのだ。脳筋っていうものは、人間をやめていくことなのかもしれない。
「ハッハッハッ! 子系子のワケがなかろう! 安倍晴明はバカだな!」
「バカ……!?」
い、家康にバカって言われた……?
頭脳明晰で運動神経抜群、エリートヒキニートである、この俺が……?
「ヒキニートならバカにされてもしょうがないと思いますが」
「うるせぇ鶏幼女! 北京ダックにするぞ!」
「ダックは鶏ではなく、アヒルです」
ぐぅ……。
ダメだ。武将タイプの俺では、軍師タイプの子系子に舌戦では勝てぬ。俺は勝てない戦いをするほどバカじゃない。
「それで、誰を紹介するって?」
子系子との戦いを放棄して、家康へと視線を移す。家康は俺の視線を受け止めると、「うむ」と大きく頷いてから、食堂の入り口の方へと声をかけた。
「ミカエル嬢、入ってこい!」
シ――――――ン。
食堂の時間が止まった。誰も言葉を発せず、食堂の入り口をただ凝視するだけの時間。これはなんだ、新しいドッキリの形か? ドッキリしないドッキリという、ドッキリの概念そのものをフリとした大ボケなのか?
そのまま数秒ほど待ってみたワケだが、食堂の入り口には隙間風が吹くのみ。映画館で無駄に長い予告編を観ている時の様な、なんとも言えない気持ちになってきた。
リアンちゃんなんか、静かだと思ったら爆睡しているし。お腹いっぱいで眠くなっちゃったのかな。かわいい。
「ハッハッハッ! 全く人見知りというヤツは敵わんな!」
そして、やはり一番辛抱のできなさそうなヤツが最初に声を発した。家康はそのままズンズンと大股で歩き、食堂の外へと出て行く。
なんだろう、学校で転校生が来る時みたい。ちょっとドキドキするね。とはいえ転校してきたヤツも、数日後には俺をイジメる側にまわっていたし、転校生にイイ印象は全くないんだけどね。
共通の敵を作ると仲良くなるとか言うけど、アレって本当なんだって実感したものだ。俺は敵というより、サンドバッグだったけどな。かなり硬めの。
「よしよし、なのじゃ」
なぜかまた撫でられた。ばぶぅ。
「それにしても、家康さんがわざわざ紹介したいなんて、いったいどんな人なんでしょう」
「どうせ、またようじょなのじゃ」
さすがに幼女はないだろう。現時点でも既に和風のじゃロリ・軍師系鶏ロリ・純朴村娘ロリという、属性の違うロリータが揃い踏みだというのに。逆にこれ以上、ロリータで属性を増やすことなんて無理だ。
「ハッハッハッ! 待たせたな! この娘がミカエル嬢だ!」
全く小さくなることも、あまつさえ枯れることのない大声を発しながら、家康が戻ってきた。どうやら無事に目標を捕らえたらしい。
親猫が子猫を運ぶ時のように、服の襟を掴んで片手で持っているのは……。
「金髪天使ロリ!?」
まさかの、新しい属性のロリだった!
ようやくジャンル別の年間ランキングに乗りました!
まだまだ90台ですが、どんどん伸ばしていけるように頑張ります!
応援してくださって本当にありがとうございます(;人;)
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
次回は木曜日投稿予定です(`・ω・´)
2020/10/04追記 忙しくて書けてない……書けたら投稿します