74話 私、サタンさん。今、AFOやってるの。
『総理が総理執務室に閉じこもって、もうすぐ3日となります。今日は【引きこもりに国を任せられるのか?】と題しまして、ここ数日の官邸について解説していただこうと思います』
「ズズズッ、総理大臣が引きこもりなのか~ズズッ、日本もまだまだ捨てたもんじゃねぇな~」
もともとアルヒドで取っていた宿に入り、ベッドでログアウトしたのがつい先ほど。母さんが作り置きしてくれた冷やし中華をリビングで食べながら、俺は珍しくニュース番組なんぞを見ていた。
食事中に暇だからテレビをつけてみると、なんだかおもしろそうなニュースが目に飛び込んできたからだ。
『考えられないね、国の代表が顔を見せないなんて。巷じゃ体調を崩して見せられないんじゃないかって声も聞こえてくるよ』
『確かにそうですね。国会が閉会しているとはいえ、そういう噂が広がっている以上、姿を見せて国民を安心させる義務があると言えるかもしれません』
したり顔で話すコメンテーターの議員に同調し、神妙な顔で頷く司会者。
なんでだよ! よく分からないけど国会をやってないならいいじゃないか! 引きこもる権利は誰にだってあるんだぞ!
「別にいいんじゃないすかね。政務が滞ってるって話も聞かないですし、集中して仕事でもしてるんでしょ。TV会議には出席しているって聞いてますよ」
そんな俺の意見を代弁するように、コメンテーターの芸人が総理サイドの意見を述べてくれた。そうだそうだ! あのカツラ議員にもっと言ってやれ!
「あのね、君は芸人でしょう? 多少は勉強しているのかもしれないが、政治というものを理解していないよ」
「芸人だろうが議員だろうが一般人だろうが、意見を言うのは平等でしょ。日本は民主主義国家なんですよ? 政治のこと理解してます?」
「芸人風情が……!」
ボーっとみてたら、ものすごく険悪なムードになってた。すげえ煽るじゃん。確かにあのカツラ議員の態度は鼻に付くし、もっとバッチバチにやりあって欲しい。
「私はね! 一時は与党の官房長官として――」
「緊急のニュースが入りました! 総理がただいま姿を見せたそうです!」
コメンテーターの議員が思わず立ち上がって、すわ喧嘩がはじまるかという刹那、画面が突然切り替わった。どうやら官邸に待機していたカメラのようで、いままさに総理が出てくる姿を捉え――。
「ズズッ、あ、やべ」
総理の姿が映る瞬間、水を飲むためにコップを取ろうとして、間違えてリモコンでテレビの電源を切ってしまった。
引きこもりを克服した総理の代わりに、ボサボサ髪で呆けたアホ面を晒し、ズルズルと冷やし中華を啜っている現役ヒキニートの姿がテレビに映る。
「クソッ、仲間だと思ったのに……もういいや……」
あっさりと引きこもりを克服してしまった総理に裏切者の烙印を押した。日本の今後が心配だ。
ちょうど冷やし中華も食べ終わったため、流し台にお皿とコップを置き、俺は自室へと戻ることにした。昨日はシャワーを浴びてる余裕もなかったため、昼食前にササッと浴びてある。トイレもキッチリ済ませて、AFOに戻る準備は万端だ。
時計を見ると、現実時間は12時45分。
少し早いが、さっさとAFOを起動してしまおう。現実にいてもいいことはない。この世界では、引きこもりに人権などないのだ。
「……ん?」
フューチャーズギアを手に取ったが、視界の端でスマートフォンの通知ランプが点灯していることに気が付いた。あまりにも日常生活に必要がなさ過ぎて、スマートフォンの存在を忘れていたぜ。ええっと、あの色は……メールか?
「メ、メールかぁ……」
正直、開きたくない。例の「メンヘラ中二病のメール爆弾事件」があるからな……。
絶対に開きたくない。
だというのに……。
「ぐぬぬぬ、どうしてスマホを握る俺の右手よ!」
意志とは反して、俺の右手はガッチリとスマートフォンを握っており、左手はロックを解除するために、スマートフォンの前でバッチリ待機している。何が俺をそこまで駆り立てるのか。どこかの研究機関でガッツリと研究して欲しい。
「ま、まあ、サタンとは限らないし……」
そんな風に言い訳して自分を納得させる。自分で聞いていても苦しいが、やっぱりタテマエってものは必須なのだ。俺にメールを送ってくる相手など、それこそ限られているわけだが。
俺は深く息を吐いて気合をいれ、スマートフォンの画面ロックを解除。メーラーアプリを起動した。
「あれ? 美波さん?」
俺の予想とは反して、メールの送信相手はロブハン仲間の癒し系お姉さん。美波さんだった。
俺達は通話せずにチャットだけでコミュニケーションをとるという、古風なMMOスタイルを継承している稀有なクランだ。そのため、本当に25歳の女性かどうかも知らないワケだが……。
夢を持つのは良いよね!
「美波さんからメールとは珍しい」
クランメンバーは全員がメールアドレスを交換しているとはいえ、ゲームのイベント期間に日程調整で使ったり、ゲーム関係でホットなニュースがあった時に連携するくらいでしか使っていない。いまいち心当たりはないんだが……。
《差出人:美波 件名:速報!》
《内容:クランメンバーみんな第2陣の抽選に当たりました~! 4日後には合流できそう~!》
ほほう、これは運がいい。フューチャーズギアが大量生産できるものではないらしく、10000名ずつ抽選で増えていくという話だ。かなり倍率も高いというので、合流には時間がかかると思っていたが、思っていたよりも早くに集まれそうだな。
《アルはけっこう進んでるのかな~? もしよかったら、私達のレベル上げも手伝ってね~》
王都『アルヒド』と『はじまりの町』は近いし、戻って一緒にプレイするのはアリだ。みんながどんなアバターでプレイするのかも気になるしな。特に腰振り大明神。
《ところで、サタンちゃんがずっと浮上しないよ~ やっぱアルから連絡してあげて~》
うっ、あいつまだメンヘラっているのだろうか。新着のメールは来ていなかったから、てっきりもう戻っているものだとばかり思っていたが……。
《もしかしたら、AFOでアルを探したりしてるかもね?》
なにそれこわい。
さすがに名前もアバターも全く違うから、サタンがAFOをやっていたとしても気づかれることは無いと思うが……できればクランメンバー大集合まで捕まりたくないものだ。
《AFOは半分寝てるみたいなものらしいけど、完全な睡眠じゃないらしいよ~ やりすぎは注意してね? それじゃ、また4日後にAFOで!》
相変わらず文字だけでも癒し系だ。魑魅魍魎が跋扈する俺達のクランが仲良くやれているのも、美波さんのお姉さん力によるものが大きい気がする。身体の心配までされてしまった。
まあ、廃人プレイはやめないんですけどね!
ということで、美波さんに返信して、再度フューチャーズギアを手に取る。
「……一応、サタンに連絡しておくか」
美波さんに頼まれたしな。『浮上していないらしいけど大丈夫か?』というザックリした内容でメールを作成して送信する。
これで俺の仕事は終わった。AFOに戻るとしよう。最近のSNSとは違って、メールなんてそうそう早いレスポンスがあるものでは――。
ブー、ブー。
お、おかしいな。そうそう早いレスポンスがあるものではないはずなんだけどな。
「ま、また美波さんかもしれないもんな。うん、きっとそうだ」
かなりキリのいいところで終わったため、その可能性は限りなく0パーセントに近いわけだが、そう言い訳でもしていないとやってられない。
無視してフューチャーズギアをかぶろうかとも思ったが、それはそれでモヤモヤする。あまりにもタイミングがよすぎて、これを避けて通るのは何か負けたような気になってくるのだ。
「……よし」
メールを見よう。現実のモヤモヤした気持ちをAFOに持っていくのはイヤだしね。なにせあっちこそ、俺のホームなんだから。
俺は再度気合をいれて、スマートフォンの画面ロックを解除し、メーラーアプリを起動した。
新着のマークがついている、一番上のメールに目を向けると……。
《差出人:サタン 件名:私、サタンさん。今、AFOやってるの》
俺はスマートフォンを放り投げて素早くフューチャーズギアを被り、震える手で電源ボタンを連打した。
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