72話 幼女の髪は時間泥棒
執務室を後にした俺達は、キャリアウーマンさんの後に続き、クエストカウンターの近くにいるという依頼人に会いに来ていた。
冒険者ギルドでクエストを受注する場合、プレイヤーは2種類の場所で受注することが可能だ。
ひとつがクエスト掲示板と呼ばれるオブジェクト。冒険者ギルド内の各所に設置されている掲示板で、通常の討伐クエストや採集クエストを受注することができる。
そしてもうひとつが、現実の役所のようなカウンターに受付嬢が座る『クエストカウンター』と呼ばれる場所だ。掲示板で受注できるクエストも受注可能で、自分のレベルに合ったクエストを見繕ってくれたり、冒険者ランクが上がるとギルドからの指名依頼を受注できるようになるらしい。
『はじまりの町支部』ではカウンターが5つだったが、本部には50ほどのカウンターが存在し、それぞれに長蛇の列が出来上がっている。冒険者の中にはNPCも存在しているようで、頭上にキャラクター名が表示されていない者もチラホラと見受けられた。
俺達を先導していたキャリアウーマンさんは、そんな大盛況なクエストカウンターを――――華麗にスルーして、奥にある扉に入っていってしまった。
こちらを一瞥すらしないその態度は、「何も言わずとも付いてきて当然ですよね?」と言っているようだ。関係者以外立ち入り禁止という札が掛けられているし、完全に職員用の部屋だと思うんですけど……エイミーさんはいいとして、俺達が入っていいのだろうか。
「晴明さん、入りましょう」
俺が扉の前で迷っていると、後ろからエイミーさんが声をかけてくれた。職員であるエイミーさんがいいと言うのだから、入っても大丈夫そうだ。俺達は本部長の命令で来ているワケだし、逆に入っちゃいけないなんてことはないよな。
禁断の場所に足を踏み入れるようなドキドキを感じながら、関係者以外立ち入り禁止の札がかかる扉のドアノブを握り、部屋の中へと入った。
おそらくプレイヤー未踏破地区へ、俺が記念すべき一歩目を踏み出したところで、小さな影が俺の足元へと走り寄ってくる。
その影は勢いそのままに、俺の足へと抱きついて――。
「ポチ!」
急によく分からないことを叫んだ。
冒険者ギルドの職員用の部屋――おそらく職員の休憩室だろう――に響く、涙交じりの高い声。
俺の足へと抱きついている物体を改めて確認してみると、どうやら小さな女の子のようだ。身長は俺のちょうど足と同じくらいで、年齢は恐らく5歳前後だろう。
亜麻色の髪を二つ縛りにして、髪と同じ色のワンピースに身を包んだ素朴なスタイル。そして幼女特有のクリクリおめめに涙を浮かべながら、必死な表情で俺に「ポチ! ポチ!」と謎の呪文を唱えてきている。
いや、俺はポチじゃないんだけど……。
「またようじょなのじゃ……」
和風幼女が言うように、どこからどう見ても普通の幼女だ。見た目だけで言えば、『村の子供B』という言葉がピッタリな感じ。「ここは〇〇の村だよ!」とか言ってそう。本当にこの子が依頼人なのか?
「この子はリアン。王都『アルヒド』から北に少しの場所に存在する、『パプリコ村』の子供です」
俺が混乱していると、キャリアウーマンさんが補足してくれた。欲しい情報をササッと教えてくれる辺り、やはり仕事のできる女といった感じだ。とても助かる。
しかし、想像していた通り、『パプリコ村』という村の子供らしい。それは別にいいんだが……。
「依頼内容は『ポチ』という名前のペット捜索。期限は3日です」
本当にこの子が依頼人らしい。さっきから叫んでいた呪文は、ペットの名前だったというワケか。ポチっていうくらいだから犬だろうか。しかし、まさかペットの捜索とは……。
「あのね、ポチが、いなくなっちゃったの」
「ふむ」
俺を見上げて鼻声で喋る幼女。不安そうに揺れている瞳は、とても保護欲をそそるもので、思わず助けてあげたい気持ちになった。しかし、これがクエストというならば、気になることがあるのも事実。
「ちなみに、報酬は?」
キャリアウーマンさんに聞いてみるが、俺の足元を指さすのみ。本当に必要以上のことを喋らない人だ。
えっと、足元に――。
「こ、これ……」
10Gを手の平に乗せ、俺へと差し出す幼女がいた。キャリアウーマンさんを再度見るも、その指はリアンちゃんに固定されたままだ。そこから導き出される答えは……。
「えっ!? 報酬10Gなの!?」
「だから、晴明さんにお願いしているのです。ギルドで斡旋しているクエストは、基本的に報酬100G以上というのが条件でして」
つまりこれは冒険者ギルドは関係なく、単純にこの子……リアンちゃんからの直接依頼ということ。知らない場所できっと不安だったろうに、きっとこの子は自分のペットのためになけなしのお小遣いを出し、冒険者ギルドにクエストを発注しようとしたのだろう。
無表情で困った表情という器用なことをするキャリアウーマンさんを見れば、その経緯は大体の察しがつく。条件を満たしていなければ、ギルド側で受け付けることはできない。お役所というのは、そういうところだ。
個人的に依頼するとしても、クエストが溢れるくらいのこのアルヒドで、わざわざ報酬10Gのクエストを受注する意味もないだろう。リリースされたばかりのゲームで舞い上がっているだろうし、こんなボランティアみたいなことをするゲーマーは、そんなに多くないのかもしれない。
「晴明」
俺を真っすぐと見つめてくるモミジ。その言葉こそ短いが、言いたいことはよく分かった。
俺の答えはもちろん。
「オッケー! 俺達がポチを探してやる!」
リアンちゃんの頭を撫でて、そう宣言してやる。
【『労働クエスト:ペットの捜索』を受注しました】
クエスト受注のポップアップが表示された。これでこのクエストは俺達が責任をもってクリアしなければなくなったワケだ。最初から姉御にお願いされていたしな。たまには困っている女の子を助けるために、寄り道してもいいだろう。
え? 寄り道しかしていない?
はははっ。
「え~っと、じゃあ詳しい話を――」
くぅ~~。
俺がクエストの詳細を聞こうとしたところで、部屋の中にちょっとマヌケな、かわいらしい音が響き渡った。音のした場所には、お腹を手で押さえて恥ずかしそうにするリアンちゃん。きっとクエストを受けてもらったことで安心し、緊張の糸が切れたのだろう。
「なにか食べながら話すか」
「う、うん」
頭を撫でながら聞くと、恥ずかしそうな表情のまま、少し遠慮がちに頷いた。ふむ……こういう大人しいタイプの幼女は、このAFOで逆に新鮮な気がしてきた。なぜかみんなキャラが濃いからな。
「ん!」
しばらく亜麻色の髪を撫でていると、横からズイッと綺麗な黒髪が割り込んでくる。濃い幼女キャラ筆頭、和服のじゃロリ名人のかまってアピールだ。それもしばらく撫でてやった。
右手に黒髪の和風のじゃロリ、左手に亜麻色髪の純朴村娘ロリ。
これはまさに……両手にロリ!
「あの……いつまで撫でているんですか?」
ふわふわな撫で心地の髪で至福の時間を味わっていると、エイミーさんの呆れたような声が聞こえてきた。俺は気が付かなかったが、エイミーさんのハイパージトジトフェイスを見るに、結構な時間を撫で続けていたようだ。幼女の髪は時間泥棒。
「よし、じゃあ食堂に行って――」
俺が幼女達の頭から手を離し、扉の外に出ていこうとした瞬間。
「ハッハッハッ! 話は聞かせてもらったぞ!」
手動のはずの扉が自動で開き、向こう側からノッポリと巨体が姿を現した。
2メートルを軽く超える身長に、一切の無駄がなく洗練された筋肉。ライオンの鬣のように生えた真っ赤な髪と髭を揺らしながら、バカ笑いをあげるその男は……。
「この『徳川家康』が、そのクエストを手伝ってやろうではないか!」
『はじまりの町キャラバン防衛戦』でリーダーを務めた、クラン『チーム葵の紋』のクランマスターにして超脳筋……徳川家康、その人であった。
投稿が遅くなってすみません><。
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