71話 やっぱり痴女じゃないか!
「『はじまりの山』にユニークモンスターが出て、それをレベル1のガキが倒すねぇ」
ひとまず、姉御にここまでの経緯を報告。改めて自分で話していても、作り話にしか聞こえない……しかし事実だ。さすがに美女モミジのことは話していないが、それでも証拠のドロップ品があるから大丈夫だろう。
「それで? その報告に来るために『はじまりの町』から『アルヒド』に向かっている途中、ワオルフの大群の襲撃に遭う。しかもリーダーはこれまたユニークモンスターで、これを3人のプレイヤーで倒しましたと……」
ケルベロスがユニークモンスターだったのは、家康の称号に[ユニークモンスター討伐者]が追加されていたことで確認済みだ。こっちに関しては、NPCとプレイヤーに大量の証人がいるから大丈夫だろう。
「――なめんじゃないよ!」
「ッ!?」
突然の大声と机を叩く音に、鼓膜がブチ破れるかと思った。アマンダさんは瞳に強い怒りを乗せて、犬歯を剥き出しに俺を睨みつけている。盗賊の頭みたいなアマンダさんがブチギレる姿は、とてつもない迫力があった。机を叩いた拍子にブルンと跳ねたおっぱいなど見ている暇もない。
確かに嘘みたいな話だけど、事実なんだからどうしようもないじゃん……そんなキレられてもどうすれば……。
「って、言ってみたかったんだ。ああ、こりゃ面白いしスッキリするねぇ」
怒りの表情をコロリとニヒルに戻し、椅子に座っているのというのに、遥か上から俺を見下すように見てくる姉御。なんだこの人……メチャクチャすぎるじゃん……おしっこちびるかと思った……。
「報告あんがとさん。同じ場所にユニークモンスターが再出現するって話は聞いたことないけど、用心するに越したことはない。あの山に用事がある命知らずなんてそもそもいねぇだろうが、監視するように言っておくさね」
「オ、オナシャス……」
なぜか俺を見ながら『命知らず』という部分を強調する姉御。俺だって好きで行ったわけじゃないやい……。
悪い人じゃないってことは分かるが、いかんせん破天荒でコミュニケーションを取るのが難しすぎる。いまだにこの人が本部長ということも信じられない。ジャンの方がまだお偉いさんっぽい雰囲気があったぞ。
報告するだけなのに、なんだかドッと疲れた……。
「そんで? ガキは陰陽師なんだろ?」
「ファイッ!?」
突然ジョブを言い当てられ、変な声が出てしまう。
なに? ギルドのお偉いさんはジョブを言い当てなきゃいけないルールでもあるわけ?
「ナ、ナンノコトヤラー」
どうして俺のジョブがバレたんだろう。まさか、冒険者カードの情報を不正に入手して……!?
「そんなマネしないさね。ワオルフ戦での戦闘記録と……あとは、勘だよ」
そう言いながら舌なめずりし、獲物を見つけた蛇のように腕を動かして、俺の腕を絡めとる姉御。毎度毎度、力が強すぎる。肩が外れそうなんですけど。
「フフン。こんなモンまで使って隠すたぁ、フツーのジョブじゃないってバレバレじゃないか」
俺の指にはまった『隠者の指輪』を撫でながら、姉御は挑戦的な視線で見つめてくる。一般人なら指輪の効果を知らないかもしれないが、冒険者ギルドの人間なら知っていて当然だよな。指輪の効果を知っていれば、逆に怪しいと思うのもまた当然。
「よく陰陽師を知ってたっすね」
「アタイはこの国の冒険者ギルドのトップだよ? そりゃ、いろいろ知っているさ」
見た目は女盗賊みたいだが、やはりギルドのお偉いさん。この国ではほとんど知られていないと思われる、和風ジョブについても色々と知ってそうだ。できれば他の和風ジョブなんかについても聞いてみたいが……。
「フフン。アタイは夜のお遊びも……いろいろ知ってるんだよ?」
「アノ、どうして俺の手の平をサスサスするんデスカ?」
最初は『隠者の指輪』を撫でていたのに、いつのまにか俺の指を丁寧に一本ずつ撫で始めている。たまに手の平をくすぐるような動きを加えてきたり、なんだか指がエロイ動きをしているんですけど!?
「アタイはさぁ……強くてカワイイ男の子が好きなんだぁ……」
指から腕を伝って、次は胸へと移動する姉御の指。鉄の鎧越しに俺の胸板を撫でる動きは、まさに愛撫とも呼べるような淫らなモノ。これ、どういう状況ですか。
「まだまだ弱いけどぉ……将来有望だねぇ。どうだい、アタイの男にならないかい?」
さっきまで威厳を放っていたハスキーボイスは、脳を溶かしていくような甘い声へと変貌している。こんなに声が変わるなんて、喉が付け替え可能なタイプなのかな? それともコ●ンくんみたいに変成器を使ってるの?
「さ、さすがに、今日会ったばかりの人とは……」
キッパリ断ろうとすると、姉御は徐に立ち上がり、俺へとしな垂れかかってきた。同じくらいの身長のため、ちょうど俺の胸に姉御の胸がくる構図だ。た、谷間が目の間に……!
俺が谷間に目を奪われていると、姉御は俺の首へと両腕をかけ、口を耳元へと寄せてきて囁いた。
「アタイの男になったらぁ……このおっぱい、アンタの好きにしていいんだよぉ?」
「フ、フリーおっぱい!?」
そ、そんな……この、天下のFUJIYAMAを直轄地に……!?
「ほらほらぁ、どうするんだい?」
動揺する俺に追い打ちをかけるように、鉄の鎧の上で胸を弾ませる姉御。俺の鉄の鎧と姉御のビキニアーマー、二重の厚い壁に阻まれながらも、その暖かさと柔らかさがリアルに脳へと伝わってくる。
あの柔らかさを……直に味わったら、どうなってしまうんだろう?
あ、味わいたい……!
「お、俺は、姉御の男に――」
「晴明さん! アマンダさんは70歳ですよ!」
「――なりまえええええ!?」
70歳だって!? そんなバカな!? おばあちゃんの年齢じゃないか!?
「なんだい、別に70歳でもいいじゃないか」
そう言いながら、ムッとした表情でエイミーさんを一睨みして、椅子に戻っていく姉御。
姉御? いや、婆御?
「失礼なガキだね。人間にすりゃ70歳は老人だろうが、アタイの種族ではまだまだ若いさ」
「アタイの種族? 婆っ……姉御は、人間族じゃないんすか?」
危ない。口が滑って『婆御』って言いそうになったら、マジの殺意が飛んできた。やっぱりカタギじゃないよ、この人。だって目がイってるもん。
「ま、いろいろあるのさ。詮索するんじゃないよ」
うぅむ……メチャクチャ気になるけど、教えてくれることはなさそうだ。仏頂面でそっぽを向いてしまっている。
その表情はいつもニヒルな姉御にしては珍しく、子供っぽい雰囲気でちょっとかわいい。でもこの人、70歳なんだよね……。
このAFOで存在が確認している種族としては、人間族・長耳族・短身族・獣人族・魔人族といったところだ。魔人族はまだ出会っていないから分からないが、他の種族であれば、分かりやすい身体的な特徴があるはず……。
「なんだいガキ? アタイは見せモンじゃないよ!」
ちょっと見てただけなのに、めちゃくちゃガンを飛ばされました。さっきまであんなに積極的で色っぽかったのに、まるで別人のようだ。情緒不安定過ぎるだろう。
「エイミー、アマンダは……じゃないかのぅ?」
「え、ええ、そうです。よく気が付きましたね」
「まあ、のぅ」
隅でモミジとエイミーさんがコソコソ話をしている。なんだか仲間外れにされて疎外感を覚えるが、今はそれよりも姉御の種族だ。
どこからどう見ても人間にしか見えない。長耳族の特徴である長い耳も見えないし、短身族の特徴である低身長でもない。そして獣人族みたいに、耳や尻尾が出ているワケでもない……本当に何の種族なんだ?
……おっと、さすがにジロジロ見すぎたようだ。姉御が壁に掛けた大剣に手を伸ばそうとしている。俺もこんなところで死にたくない。
「それじゃ姉御、報告も終わったんで俺達はお暇しやす!」
俺がササッとモミジを回収し、扉から廊下に出ようとすると……。
「待ちな、ガキ」
いつのまにか近くまで来ていた姉御に壁ドンされた。いや、背中にあるのは扉だから、扉ドン?
「な、なななな、なんでしょう?」
女性に壁ドンをされるという謎のシチュエーションと、目の前に再出現した深い谷間に動揺しつつも、俺は冷静に返事をする。声が震えているのは怖いのではなく、全身で貧乏ゆすりしているだけなので。その余波で声も震えてしまっただけなので。
そうして小鹿のようにプルプル震える俺にガンを飛ばしながら、壁ドンしている手と反対の手で俺の顎をさすりつつ、姉御はこう続けた。
「厄介なクエストがあってね、引き受けておくれよ」
俺の顎を潰すように挟みつつ、下半身のすぐそばに膝を待機させている姉御。
これって脅迫ってヤツじゃない? 訴えたら勝てるよね?
エイミーさんに視線を送ってみるが、華麗にスルーされてしまった。よく分からないが、まだ根に持っているのだろうか。どうも助けてくれる気配はない。
「さ、さすがに内容も聞かずに引き受けるのは……」
このゲームを始めてからマトモなクエストに出会っていないからな。その俺の勘が、このクエストはめんどくさいに違いないと告げている。
というか、この姉御が持ってくるクエストがめんどくさくないワケない! だからこそ、ここは拒否を貫き通す!
「依頼者は、かわいい女の子だよ」
「引き受けます!」
かわいい女の子の頼みとあっちゃ、聞かねば男が廃るというものよ!
俺は二つ返事でオーケーしていた。
「晴明……あいかわらずチョロいのじゃ……」
「さすがに分かり易すぎます……」
モミジとエイミーさんがまた何か言っているが、高性能な俺の耳には聞こえない。だってこのクエストを受けたのは、あくまで正義のためだから。決してチョロくなんてないのだから。
姉御が言うには、クエストカウンターの近くに依頼人がいるらしい。外で待機しているキャリアウーマンさんに聞けば分かるという。
クエストを俺に押し付けた姉御は、なんだか晴れた表情をしていた。少しだけ柔らかい表情にも見える。なぜか、それが無性に気になった。
「見世物じゃないって言ったろ。早く行きな」
「ウッス」
気になったが、聞ける雰囲気でもないね。まあ依頼人に会えばなにか分かるかもしれない。
そんなこんなで俺とモミジとエイミーさんは執務室を後にして、依頼人の元へと向かうのであった。
ブックマーク1800件突破しました!
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次回は土曜日更新予定!!
2020/09/19 追記 夕方か夜の更新になります!すみません!




