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66話 ファンキーロイヤルジジイ


 『第一の国 アルヒド王国』。


 この『アダムス・フューチャーズ・オンライン』……通称『AFO』の舞台である大陸『アドイルシオン』には、合計で5つの国が存在する。その中でもプレイヤーが最初に到達するのが、この『アルヒド王国』だ。


 アドイルシオン西部の広い部分を治める大国で、プレイヤー達が最初に降り立つ『はじまりの町』から東にすぐの距離に、この王国の王都『アルヒド』が存在する。広大な面積を高い城壁で囲み、中央に白亜の城が建った典型的な城塞都市で、掲示板などでは『テンプレ王国』なんて呼ばれているらしい。


 『はじまりの町』の冒険者ギルドで冒険者登録をしたプレイヤーは、まずレベルを上げてこの国へ行くことをお勧めされる。もちろん近いという理由もあるが、一番の理由とも言えるのが――――。



「おお! 勇者『安倍晴明』よ! そなたが来るのを待っておった」



【『メインストーリー:おお! ゆうしゃよ!』】

【内容:『第一の国 アルヒド』の王都『アルヒド』にて、国王に謁見する】

【報酬:5000G】


 この『メインストーリー:おお! ゆうしゃよ!』が発注されることである。チュートリアルをこなしていくと発注されるこのクエストは、国王に会って話を聞くだけで5000Gもらえる超オイシイクエストだ。これを受注しない手はないだろう。


 俺が棒立ちしている(ノリで(ひざまず)こうとしたらいらないって言われた)場所から、5メートルほど離れた上段に設置されているシンプルな玉座。そこに座るのが、この『アルヒド王国』の国王であるキング17世である。


 いや、分かる。すごい名前だよね。だって英語にしたらキングキングになっちゃうもん。このゲームの英語版が出たらどうするつもりなんだろう。


「このままでは世界は闇に飲み込まれ、やがて滅んでしまうことに……なんじゃ?」


「おっと、なんでもないです。続けてどうぞ」


 キングキング陛下の顔を胡散臭そうに見ていたのがバレてしまった。しかし特に気にした様子もなく、「それでは続きを話すぞ」と言いながらすくりと立ち上がる。


 キングキング陛下はそのでっぷりと太ったお腹を揺らし、まったくサイズの合っていない王冠を直しつつ、意気揚々と演説を再開した。


「他の大陸は魔族によって支配されてしまい、もはや残る大陸も『アドイルシオン』のみ。すべては勇者の活躍にかかっておるのじゃ!」


 ここら辺はホームページにも乗っていたストーリーそのままだな。『征服されない未来』と題されたこのゲームは、タイトルそのままに、悪魔から征服されない未来を目指すロールプレイングゲームだ。


「勇者『安倍晴明』よ! 魔王を倒し、魔族からこの世界を取り戻してくれ!」


 このメインストーリーこそ、AFOが王道RPGと言われている所以(ゆえん)である。王様に勇者と呼ばれ、魔王というラスボスを倒して欲しいと頼まれるこの展開……きっとゲーム好きなら胸が熱くなるだろう。小さい頃に憧れた『勇者』に、プレイヤーはなれるのだ。


「わしからの贈り物じゃ!」


【『メインストーリー:おお! ゆうしゃよ!』を完了しました!】

【施設『アルヒド城』が解放されました】

【報酬:5000G】


 これでこのクエストは達成らしい。本当に話を聞いただけだった。


 しかし、5000Gは素直にありがたい。防衛戦でポーションをほとんど使い切ってしまったし、余裕があれば防具のアップデートもしたいところ。


「ありがとうございます! キングキング陛下!」


「……キングキング陛下? ワシはキングじゃぞ?」


 おっと、間違った。そして紛らわしい。


 仮にも一国の王様に向かってとる態度じゃないことは分かっているんだが、太っちょ体型に温和な顔立ちというコミカルな雰囲気もあって、どうにも(うやうや)しい態度を取るノリにならない。本人もあまり気にしていないようだしね。


「しかし、勇者『安倍晴明』よ」


「呼び辛くないですか? 晴明でいいですよ」


「おお、そうか! 晴明よ!」


 王様なのに超フレンドリーだ。威厳の欠片もないけど、この国は大丈夫なのかな?


 キングキング陛下の横にいるバーコード大臣(見た目で命名)も、何も言わずに書類の確認をしている。そちらに目を向けても、「いつものことです」と肩をすくめるばかり。


「勇者とは何人か会ってきたが、小さい幼子は珍しい。紹介してくれぬか?」


 どうやらモミジが気になるようだ。キングキング陛下も、ダグラスみたいに目尻が垂れ下がりまくっている。モミジのロリータパワーが恐ろしい。


「モミジです」


「なのじゃ! キングキングおじいちゃん!」


 俺が紹介してやると、それに続いて元気よく手を挙げるモミジ。初っ端からおじいちゃん呼びだ。これは……。


「ホッホッホッ。これでもワシ、偉いんじゃよ?」


「なるほど! キングキングおじいちゃんはすごいのじゃ!」


「ホッホッホッ、ちょっと今日は城に泊っていかんか?」


 おじいちゃん特効を持つモミジの本領発揮。大国の主でさえ、2ラリーで完全にオチている。これが傾国の幼女というヤツなのか……。


「いそがしいからムリなのじゃ!」


 幼女すごい。王様のお誘いをにべなく断っている。しかも理由がテキトーだぞ。


「そうかそうか。何か困ったことがあれば、おじいちゃんに相談するのじゃぞ?」


「わかったのじゃ!」


 そしてアルヒド国王との太いコネクションができた。ちょっと待って、このゲームの主人公は俺のはずなのに、式神が中心になってきてるんですけど。勇者モミジになりそうな勢いなんですけど!


「さて、従者『安倍晴明』よ」


「降格してる!?」


「ホッホッホッ、冗談じゃ」


 クソッ! ロイヤルジョークをかましてくるとは! ふざけたジジイだ!


 どうして俺の周りにはマトモな老人がいないんだろう……マキビさんはマトモだけどオチャメなところもあったし、ジジイは詐欺師だし、ジャンも詐欺師だ。そして新キャラのキングキング陛下は、ファンキーロイヤルジジイ。


 AFOの老人マトモなキャラいない説を提唱するぜ。


「一国の主に対して、ファンキーロイヤルジジイとは……モミジちゃんがいなければ死罪じゃぞ?」


「す、すみません……」


 キングキング陛下の温厚な表情が、一瞬だけ冷酷な色を見せた。やはり王になるくらいだから、ただのファンキーロイヤルジジイじゃないらしい。ちょっとトイレ行きたい。


「まあ、よい。実はワシにも息子がおってな。モミジちゃんと同じくらいのはずじゃが」


「はず?」


「しばらく留学しておる。大河の国『ヴィエゲンス共和国』にな」


 『ヴィエゲンス共和国』とは、キングキング陛下が『大河の国』と呼んだように、その領土のほとんどが河という変わった国である。『ヴィエゲンス河』という大河を挟んで両岸に町があり、国民は両岸の町と河上の船で生活をしているとか。


「もしも『ヴィエゲンス共和国』に立ち寄ることがあれば、我が息子とも遊んでやってくれ。名前は『アヴァン』という」


「分かりました」


「わかったのじゃ!」


 アヴァン王子か。このファンキーロイヤルジジイの息子だし、きっとファンキーロイヤルキッズなんだろうな。どうか出会いませんように。


「それでは、俺はそろそろ」


「では、また合おう! 勇者『安倍晴明』よ!」


 最後の挨拶は定型文なのかな? 晴明でいいって言ったのに、変なところで真面目なファンキーロイヤルジジイだぜ。


「またな、ファンキーロイヤルジジイ」


「よし、大臣。こやつを指名手配にするのじゃ」


 表情が消え失せるキングキング陛下。そして何も言わずにホイッスルを鳴らし、兵隊を集め始めるバーコード大臣。まったく冗談が通じないジジイは!


「嘘です申し訳ありませんキングキング陛下それではワタクシはこれで失礼しますサヨナラ――!」


 俺は早口で(まく)し立てるように謝罪しつつ、モミジを抱えてダッシュで逃げ出した。


第三章『陰陽師と天使』のはじまり!


ブックマークが1600件を突破しました(*´ω`*)

応援してくださって本当にありがとうございます(;人;)


また、小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m


次回更新は土曜日の予定です!


2020/11/20 王子の名前を『アヴァン』に変更。

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