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65話 エピローグ of 陰陽師とテンプレ


「いや~、本当にありがとうございました!」


 レナード商会の買い付け役が、俺の手を握ってブンブン振りながらお礼を言ってくる。かれこれ5分くらいずっとコレだ。肩が外れそうだから、そろそろ勘弁してほしい。


「アルヒドに無事辿り着くことができたのも、晴明様のおかげです!」


 あそこで俺と家康がケルベロスを倒したことにより、防御陣地を囲んでいたワオルフ達は一斉に逃げ出したらしい。しばらく警戒していたが、戻ってくる気配もなかった。


 ということで、サッサと防御陣地を引き払ってアルヒドへ再出発し、やっとアルヒドの城門を抜けたのがつい先ほど。


 今は広場に馬車を停め、クエスト達成の報酬をもらっているところだった。


【『護衛クエスト:商人を守り隊』を完了しました!(高評価)】

【報酬:1000G】

【特別報酬:MPポーション×2】


「聞いた話によると、晴明様はMPポーションをいくつも使ったとか。これはほんのお気持ちです……商会長には内緒ですよ?」


 そう言いながらようやく手を放し、背負った荷物からMPポーションを2つ取り出して俺に渡してくる。男の言い振りからすると、商品をそのまま報酬にしているようだ。つまり横流しというヤツ。それでいいのかレナード商会。


 まあ、遠慮なく受け取るんですけどね。俺は遠慮を知らないジャポネーゼ。MPポーションを使い切っているのは事実だし、買うと高いからプレゼントは素直にありがたい。


「安倍晴明! ここにいたか!」


 俺がMPポーションをホクホク顔で受け取っていると、後ろから大音量で家康が声をかけてきた。振り向かなくても誰か分かるからありがたいね。できれば暑苦しいから話しかけないで欲しいんだけどね。


「俺に何か用か?」


「うむ! フレンド登録をするぞ!」


 なんだコイツは(やぶ)から棒に……。


「共に戦ったオレと安倍晴明は戦友だろう! つまり友! フレンドだ!」


「いや、無理矢理すぎない!?」


 相変わらずのハチャメチャ思考だ。さすがは自他共に認める脳筋。


「連絡を取れるようにしておきたいのだ! あとで頼みたいこともあるからな!」


「ふむ」


 冒険者カードはモロモロの設定を『非公開』にしているため、フレンド登録をしても大丈夫だ。


 ただし、フレンドになると『現在いるエリア』が表示されるため、無節操にフレンド登録しまくるわけにもいかないが。まあ、家康ならそこらへんで不義理なことはしなさそうだ。


 しかし、フレンドか……。


「オイ! サンゾック!」


「ヘイ!? なんでしょう頭ァ!?」


 離れた場所で子分ズと話していたサンゾックを呼ぶと、頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、健気に小走りで近寄ってきた。下僕根性が身に付いていて、とてもよろしい。


「フレンド登録するぞ、サンゾック」


「ヘイ! フレンド、フレンドっすね……ってぇ!? フレンドォ!?」


 シェーポーズで驚くサンゾック。段々とシェーポーズもキレが増してきている気がする。見た目は(いか)ついのに、すっかりコミカルなキャラになってしまったな。


「なんだその反応は?」


「い、いい、いえ! まさか頭が、そんな簡単にフレンド登録をする人だとは思わなかったもんで」


 コイツは俺をなんだと思っているのか。確かに現状のフレンドは0人だが、フレンドリーな優男(やさお)だと(ちまた)では有名なんだ。コミュニケーション障害を患っているのは現実だけだぞ!


「しないならいいですぅ~」


「いえいえ、そんな! 是非しましょう!」


 サンゾックが慌てた様子でウインドウを開き、フレンドの申請操作を行う。しばらく待っていると、俺の目の前にポップアップが表示された。


【サンゾック・コワモテーノ からフレンド申請がきています】


「拒否」


「なんでですかい!?」


 おっと、つい癖でやってしまった。山賊と友達ってどう考えてもアウトローだよね。というか、俺とコイツは主従関係だよな。フレンド登録じゃなくて、下僕登録とかないの?


「ほんと、頭は頭ですねぇ……」


【サンゾック・コワモテーノ からフレンド申請がきています】


【サンゾック・コワモテーノ とフレンドになりました】


 俺が『承諾』を選択すると、フレンドリストに『サンゾック・コワモテーノ』が追加された。記念すべき、一人目のフレンドだ。


「もう用はないから行っていいぞ」


「ほんと、頭は頭ですねぇ!?」


「フレンドになったから、借金の取り立てがやり易くなったな!」


「……借金の取り立てのためにフレンド登録するなんて初めてでさぁ」


 肩を落として子分ズの方へと歩き去っていくサンゾック。うむ、やはりサンゾックは情けない姿がよく似合う。


「ハッハッハッ! 安倍晴明もなかなかに義理堅いじゃないか!」


「なんのことだ?」


「山賊と出会ったのが先だから、先にフレンド登録をしたのだろう! なんだ女々しいところもあるのだな!」


「しらん」


 すっとぼけるも、高笑いしながら俺の背中をドガンドガンと叩く家康。鉄の鎧が軽く凹んでるから、マジでやめて欲しい。


 そのまま家康と、家康の陰からニュッと登場した子系子ともフレンド登録をした。


「それでは、改めてまた連絡するぞ! サラバだ、安倍晴明! ハッハッハッ!」


「晴明さま! また一緒に冒険しましょう!」


 最後にドゴンと一発背中を強めに叩き、高笑いしながら頭に鶏を乗せて、家康は堂々と去っていった。防具を新調した時には、『チーム葵の紋』で領収書を切ろう。あとMPポーション代の請求。


 それだけじゃない。家康のせいでステータスを晒すことになったのだから、その慰謝料も必要だ。概算して100万Gほど貰わなければ、腹の虫が収まらないぜ。


 まずは肝臓からいただいて……。


「晴明、ついたかのぅ?」


「ふぁ~、よくねました」


 俺が家康への復讐を考えていると、馬車の扉が開いて、中からモミジとエイミーさんが顔を覗かせた。ちなみに、エイミーさんは一度気絶してから眠り続けていたようだ。意外と肝っ玉がデカイのかもしれない。


「モミジ、ほら」


 あの小さい身体では、一人で馬車から降りるのも大変だろう。モミジに向かって手を差し伸べてやると、「うむうむ」と言いながら俺の頭を撫で、それから嬉しそうに手を取った。


「ごくろう! なのじゃ!」


 馬車から降りたモミジは、なぜか無い胸を張って偉ぶっている。かわいい。


 かわいかったので頭を撫でてやると、上目遣いで俺をチラリと見た後、「まったく晴明はしょうがないのじゃ」と目を瞑って笑った。


 ケルベロス戦の前にモミジと別れた辺りから、なぜかモミジの口癖が「晴明はしょうがないのじゃ」になりつつある気がするんです。よく分からないけど、そのロリ母性に俺のバブメーターは高まってしまう。ばぶぅ。


「晴明さん、あの、私もお願いしていいですか?」


 俺がばぶばぶしていると、エイミーさんが少し恥ずかしそうに声をかけてきた。いけない、モミジのかわいさに幼児退行して時を忘れるところだった。


「ああ、すみません。どうぞ」


 さっきと同じように手を差し出すと、遠慮がちにエイミーさんは俺の手を握った。


 恋人繋ぎで。


「あ、ああああにょ、ウェイミーソン? その、フツーに、手を、握って、くれ、まソン?」


 この繋ぎ方はマズイ。何がマズイって、よく分からないけどマズイ。普通に手を握るよりも指同士が絡まりあっていて、その絡まる指先から電気が走ってくるように、得も言われぬ快感が全身に押し寄せてくるのである。


「ア、アルヒドでは、これがフツーなんです!」


「なるほど。じゃあ、しょうがないですね」


 これがフツーと言われれば、ここは異世界みたいなものだし……そんな文化があってもおかしくない。現実でも外国なんかは、挨拶でキッスやハグをするのだから。挨拶で恋人繋ぎをする国があってもいいよね。


 近くで荷物を下ろしているレナード商会の男が、「いや、そんなことなくね?」みたいな顔をしているが、ヤツも『はじまりの町』の住人だ。知らなくても仕方ないだろう。よく覚えるんだぞ。


「あの、なんでニギニギするんですか?」


「えっ、それは……強度! そう、強度を確かめているんです!」


「なるほど、それはシッカリと確かめないといけませんね」


 エイミーさんは石橋を叩いて渡るタイプのようだ。確かにこの指を噛み合わせる様な握り方、握りが甘いと下りる時に危ないからな。


 これは強度を確かめているんだから。俺の(すね)を蹴り続けるモミジさん、おやめなさい。


「そ、それでは……」


 数分ほど強度の確認をしたエイミーさんは、グッと力を入れる。どうやら信頼に足りる強度だと認められたらしい。あと3時間くらい、強度確認してくれていいんだけどな。


「いざ!」


 エイミーさんはそう気合を入れると、俺の手をギュッと握ったまま、足に力をいれて――大きくジャンプした!


「なんで!?」


 翻る空色のワンピース。飛んでいくエイミーさんの眼鏡。そしてジャンプした反動で暴れまわる――エベレスト山脈(Eカップのおっぱい)


 重力と遠心力を爆発力に変換し、大地震を起こしながら迫りくるエベレスト。俺は咄嗟のことに、避けることができなかった。


 ついにエベレストは……俺の顔を飲み込む。


 そのまま山脈に押し倒され、俺は地面で思い切り後頭部を打ったが、もはや痛覚など消え失せている。いま俺を支配しているのは、120パーセントの快楽だけだ。


「うぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 いくらもがいたところで、大いなる山の前で人間は無力である。どこを向いても柔らかい肌色が続く山の中、俺は生まれて初めて、遭難を経験した。息が苦しい、これが高山病ってヤツか。なんて、なんて幸せなんだ……。


 それにしても、鼻の穴が100メートルは広がるほど、いい匂いがすぎる。甘いチョコレートのようなその匂いに、脳みそから溶かされていってしまう感覚。この匂いを嗅いだら、365日エサを食っていないライオンでさえ、腹を見せて服従するだろう。


 エベレスト山脈で遭難し、チョコレートの匂いに惑わされつつ、生死の境を彷徨(さまよ)っていると……。


「ばかめ、やりすぎなのじゃ」


「あいたっ」


 唐突に、俺は救助された。いや、救助されてしまったというべきだろうか。


 どうやらモミジがエイミーさんの頭をはたいて、俺の上からどかしたらしい。「助かった」という賛成派と、「あのまま遭難していたかった」という反対派で、安倍晴明脳内国会は大荒れである。静粛に!


「モミジちゃん……」


「わかっておる。エイミーも、なのじゃろう?」


「……!」


 俺が脳内国会で賛成派議員を殺戮(さつりく)していると、モミジさんとエイミーさんがよくわからない会話をしているのが聞こえてきた。きちんと主語をつけて話しなさいって小学校で習わなかったのかな?


「わらわはまけないのじゃ。せーぜーがんばるがよいのじゃ」


「わ、私だって! 諦めませんよ! こ、ここ、このおっぱいで、メロメロにするんですから!」


「むむっ! すぐにわらわもおおきくなるのじゃ!」


 なぜか胸元のボタンを一つ外すエイミーさんと、胸元を緩めるモミジ。モミジさん、通気性がよくなって風邪を引いちゃうからやめておきなさい。


「まったく、けしからん!」


「エイミー、しょうきかのぅ? こんなヘンタイなカオをして、はなぢをたらすようなおとこなのじゃ」


「うっ……で、でも、それだけ私に興味を持ってくれているということです!」


 まだ何かを言っているが、俺はそれどころではない。もうちょっとで見えそうなのだ。ガバリと開いた胸元から、それぞれ大ぶり小ぶりな山の頂上に鎮座する、鮮やかなピンク色の――――。


「――殺気!?」


 俺が背伸びをして山の頂上を覗き込もうとしたその時、第六感とも言える超感覚で身の危険を感じ、俺は勢いよくしゃがんだ。


 ヒュン! という風切り音を残し、俺の頭スレスレを飛んでいく弓矢。その弓矢は綺麗な放物線を描いて飛んでいき、遠くで子分ズと話していたサンゾックのケツにぶっ刺さった。


「なんでぇ!? どうしてケツに弓矢が!?」


 悲鳴をあげるサンゾック。アイツもつくづくケツにツキがある男だ。さっきの防衛線でも、ワオルフからの攻撃はケツに集中していた。スキル『ケツ=ターゲッティング』とは、山賊のクセになかなか面白い技を使うじゃないか。


「……そんなアホなこと言ってる場合じゃなさそうだな」


 誰が弓矢を撃った犯人かと、問い詰めるまでもない。目の前に矢をつがえた犯人がいるからだ。しかも、敵はどうやらアーチャー(弓使い)だけではないらしい。


 俺を遠巻きに取り囲むのは、多くのプレイヤー達。その数は、パッと見でも100人なんてモノではない。なんだか似たような光景を『はじまりの町』でも見たことがあるぜ。


「俺達の宝を……エイミーさんの胸をひとり占めしやがって……」


「モミジちゃんのちっぱい……それを見るのは犯罪だろうがよォ……!」


「子系子ちゃん……アイツを殺せば、俺をお兄ちゃんって呼んでくれるかい……?」


「スネークちゃん……どうしてあんなドヘンタイゴミクズ男に……ッ!」


「アイツを殺して……魔法使いの彼女ゲットだぜ……」


 ブツブツと呟きながら、ジリジリと距離を詰めてくるゾンビの群れ(プレイヤー達)。スネークちゃんって誰だ。魔法使いの彼女って何のことだ。


 しかし、これはマズイ。オニゴッコはもうコリゴリだってばよ。


「あ、あの~、双方の承諾がないとダメージ入らない仕様ですけど?」


「「「「「知ってる」」」」」


 どうやら仕様は理解しているようだ。


「ダメージ与えられないのに、そんな武器を持ってどうするつもりなんですか?」


「「「「「とにかくボコボコ」」」」」


 すごい。打ち合わせもしてないだろうに、息がピッタリだ。そしてとにかくボコボコにするらしい。どこの蛮族だよ。


「なんでも教えるから、見逃してくれたり?」


「「「「「しない」」」」」


 試しに情報を対価として提示してみたが、これは交渉の余地なしだ。まるで狂信者の集まりで、合理的な判断などできそうにない。こうなってしまえば、やることは一つだけ。


「笑って~?」


「「「「「いい●も~!」」」」」


「また来週~!」


「「「「「逃げたぞ! 殺せ!」」」」」


 逃げるしかない!


 タ●さんよろしく爽やかに退場すればバレないかと思ったが、さすがにそこまでバカではなかったようだ。ウキウキウォッチングしてくれよ。いや、ウォッチングはされているのか。


 馬車の屋根に上り、そこから頭の上をジャンプで越えて逃げ出した俺を、憤怒の形相で追ってくる狂信者の群れ。よくあるゾンビパニック映画の一幕を思い出す。アレってこんなに恐ろしい物なのね。


「結局またオニゴッコかよ――――!」



 俺 vs 第一の国アルヒドの(ほぼ)全プレイヤー。



 到着して早々、『アルヒド』全域を対象としたリアルオニゴッコが、ここに開幕したのだった。


「はぁ……」


「やれやれ、なのじゃ」



第二章はこれで完結です(`・ω・´)

よければここまでの感想などお聞かせください!


また、小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m


次回更新は土曜日の予定です!

第三章『陰陽師と天使』がはじまるので、ぜひぜひこれからも『どうして俺だけ和風なの!?』をよろしくお願いします(`・ω・´)

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[良い点] 主人公のノリと性格がとても愉快で面白かったです!他にもノリノリに殺してくる掲示板民も面白いです! [一言] これからも頑張ってください!
[良い点] セリフが毎回面白い [気になる点] ロブハン勢との合流はいつになるのだろうか [一言] 応援しております。
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