62話 激戦! ケルベロス!
「まさか、ケルベロスになるとはね……」
スキル『鑑定』を使って見たわけではないため、本当に『ケルベロス』という名前かどうかは分からないが、その姿はギリシア神話で語り継がれているケルベロスと酷似している。きっとファンタジー好き100人に聞けば、120人がこの姿を思い浮かべるだろう。
漆黒の毛で覆われた馬車サイズの大きな体躯はそのままに、首の根元から3つの首に分かれ、それぞれが意志を持つように別々に動いている。俺が殺気を感じて避けた時、『ガチン!』と両耳からステレオで聞こえたのは、左右の頭からの噛みつき攻撃が原因だったというワケだ。
「問題は……どれくらいパワーアップしたかってことだ」
さっきまでは、俺が圧倒する展開にあった。それがこのケルベロス化で、どれほど強くなったのか。
「見た目は首以外、そこまで変わっていないが……ッ!?」
ケルベロスが大きく跳躍し、俺に向かって鎌のような爪を振り下ろしてくる。さっきよりも断然にスピードが早く、俺は紙一重で横っ飛びに緊急回避して、どうにか避けることができた。しかし――。
「――ッ! そういえば頭が増えてるんだった、な!」
ケルベロスの右をすり抜けるように回避したが、その先に待っていたのは、先ほど増えたヤツの左首。俺が前宙した着地点に合わせるように、噛みつき攻撃が迫っていた。俺は左手に持った盾を武器のように思い切り振り、攻撃にかちあわせた衝撃を利用して距離を取る。
ケルベロスの動きは断然早くなっており、敏捷値はコアトルビーを超えただろう。まさか敏捷だけが上がっているはずもないので、基本的にステータスアップをしていると見ていい。
なにより……頭が増えただけと高を括っていたが、これがなかなかに厄介だ。鋭い牙での噛みつき攻撃は単純に強力であり、その攻撃範囲が大幅に拡大されたということになる。
「俺にブチギレているのは、不幸中の幸いってところか」
先ほどまでならいざ知らず、今のケルベロスが他のプレイヤーやNPCにターゲットを変えたら、俺一人で止められるとは思えない。
しかし俺が散々に煽った結果なのか、その3つの顔に存在する計6つの瞳は、完全に俺をロックオンしてくれている。モテる男は辛いね。
「まあ、やることは変わらないな、っと!」
噛みつき攻撃を放ってくる真ん中の頭を、バックステップで躱して、ついでに剣で一撃くれてやる。やはり守備力も上がっているらしく、斬り傷が入ったものの、先ほどよりも浅く感じた。
「さすがにコケにしすぎた……いや、あまり関係ないか」
俺が煽りまくってブチギレたようにも見えるが……おそらくは体力が一定値を下回った時に行動パターンが変化したり、超絶強化されたりする、ゲームのボスでよくある仕様によるものだろう。
スライムやワオルフのような雑魚キャラにはなかったため、ユニークモンスター特有の仕様なのかもしれない。クイーンビーベアは美女モミジがワンターンキルをかましたため、特に波乱は起こらなかったが……かわいそうなクイーンビーベア。
しかし、守備力まで上がっているのはマズイ。いまは『鬼化粧』で攻撃力が上がっているからいいが、効果が切れて元の値に戻ってしまえば、素の攻撃力ではほとんどダメージを与えられなくなってしまうだろう。つまり、長期戦は不利になるだけということ。
「こうなったら、なりふり構ってられねぇ!」
俺はロリポーション……子系子からもらったMPポーションをグイと一気飲みし、回復したMPで魔法を唱える。
「★白虎の印★」
使う印は白虎。親指だけ手のひら側に折って、後の指はピンと立てるシンプルな手印だ。
そして唱えるのは、『瑞光』……ではない。その効果の高さゆえに、『瑞光』はクールタイムが長く、いまだに使用可能となっていないからだ。
だから、ここで唱えるのは……。
「★回光★!」
『瑞光』を習得するため、ついでに習得していた『回光』。この2つを重ね掛けはできなかったが、『瑞光』の効果が切れている今なら使える!
伸ばした指から迸る雷光で、空中に『回光』という文字を描く。文字は収束して白い雷の虎へと変化し、俺の身体へと吸い込まれていく。『瑞光』ほどではないが、自身の能力が上がった感覚がした。
「撤回するぜ、お前は強い」
改めてケルベロスの真ん中の首……元から存在していたキングワオルフの瞳を真っすぐと見つめ、俺は呟いた。俺がそうであるように、ヤツもまた瞳に炎を宿し、「絶対に負けない」という気迫を込めて見つめ返してくる。
「だけど……」
一気に地面を踏み抜いて、ケルベロスとの距離を詰めるために走った。『回光』で上がった敏捷を生かし、左右の反復移動を混ぜつつ、ターゲットを絞られないように近づいていく。
そして剣の届く間合いまで近づいたところで、爪先に力を入れて真正面で一時停止……わざと隙を見せ、ヤツの攻撃を誘った。
狙い通りにケルベロスが好機と捉えたらしく、その鋭い爪を振り下ろし、俺の体を八つ裂きにしようとする……その瞬間に、思い切り右に飛ぶ!
まさに数センチというギリギリのタイミングで躱したワケだが、対するケルベロスにも油断は無い。先ほどの立ち合いを巻き戻すように、俺の着地点へと左首が迫り、俺の身体に牙を――。
「俺の方が!」
――突き立てられる直前で、地面に盾を突き刺し、片腕でハンドスプリング。左首の噛みつきを躱しながら、空中でグルリと一回転して――。
「100億倍は強い!」
両手で鉄の剣を握り、回転の遠心力をも利用した渾身の一撃。
まさに『かいしんのいちげき』とも言えるその剣は、噛みつきをスカした左首の付け根へと吸い込まれていき……。
ケルベロスの左首を、根元から断ち切った。
「よっしゃ! まずは一本!」
完璧な手応えを感じ、思わずガッツポーズをする。
「って、ええー……」
しかし、次に俺の目に飛び込んできたのは、切り離した首の断面……そこから黒い影のような煙が発生し、粘土細工のように何かを形作っている光景。呆気にとられながら数秒眺めていると、黒い煙はやがて顔へと変形していき、断ち切ったはずの首が元通りになってしまっていた。
「再生するのはズルくない!?」
思わず叫んだ俺への返答は、再生した左首による噛みつき攻撃だ。倒したはずの左首が復活した衝撃に、俺は反応するのが遅れてしまった。
「まずっ……!?」
超至近距離で放たれた噛みつき、もはや避ける術はない。ハンドスプリングで使用した盾は、ギリギリ手の届かない位置で地面に突き刺さっており、一か八かで防御をすることもできない。まさに万事休すだ。
俺は死を覚悟し、静かに目を瞑る。
――その時、横から強い衝撃を受けた。
あまりの衝撃に俺の身体は吹き飛び、ボーリングのピンのように跳ねまわりながら地面を転がっていく。まさかケルベロスの爪攻撃かとも思ったが、なぜかHPの減少がない。
数メートル転がったところでなんとか着地し、俺は大混乱に陥りながらも、ケルベロスの方へと視線を移すと……。
「ハッハッハッ! オレ、参陣である!」
槍を横薙ぎに振りぬいた姿勢で高笑いする、筋肉達磨の姿があった。
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次回は本当は木曜日の予定なんですけれども……。
ケルベロス戦もいいところなので、明日か明後日にまた投稿しようかな~と思ってます!
とか言いつつできなかったらごめんなさい(´ω`)




