60話 ジハード
当話タイトル微修正
銃弾が激しく飛び交う谷間を、俺は匍匐前進で進んでいた。
普段は穏やかな風が吹く穏やかな谷も、今はまるで表情を変えている。あたりには硝煙の匂いが立ち込め、体液をぶちまけた死体がそこら中に転がる……まさにこの世の地獄である。
「クッ……! サンゾック二等兵! 向こうの砦はどうなっている!?」
俺は横を並走するサンゾック二等兵に尋ねる。しかし、サンゾック二等兵から返ってきた言葉は、現状が更に悪化することを決定づける絶望的とも言える内容であった。
「隊長! 『第二ボタン砦』は陥落! こ、このままでは!」
「なに!? もう『第二ボタン砦』まで落とされたのか!? マズイ! 次の『第三ボタン砦』まで落とされてしまえば……」
俺はあまりの出来事に、唇を震わせて呟く。あれだけ堅い守りで有名な『第二ボタン砦』が、こんなにあっけなく落とされることなど、誰が考えただろうか。
そのうえで『第三ボタン砦』まで落とされてしまえば、まさに丸裸と言ってもよく……。
「俺達の『性戦』は負けでさァ……あの『エベレスト山脈』が解放されちまえば……」
「圧迫されていた精が……蜂起する……ッ!」
そんなことになってしまえば、もう終わりだ。この谷間に、新鮮な体液をぶちまけた屍が2つ増えることになるだろう。
俺が打開策を考えていると、サンゾック二等兵が悲痛な叫びをあげた。
「た、隊長、前を見てくだせぇ! だ、『第三ボタン砦』が!」
サンゾック二等兵の言葉を受け、急いで目を前に向けると……。
『キョォオオウハァアアアアアア、アツイデェエエエスネェエエ』
「そ、そんな……馬鹿な……」
固く閉ざされていた『第三ボタン砦』の城門が、奇妙な音を立てて開け放たれる――――。
門の向こう側には……牛乳のように真っ白で、プリンのようにプルルンとした肌と――――。
瑞々しいサクランボのように赤く色づいた、エベレストの山頂――――。
「お、おっぱ――」
パチ――ン!
「なんだぁ!?」
門の向こうに見えた肌色の暴力に抗おうとする直前で、急に頬にハリテを受けて飛び起きる。
なぜか下半身は動かなかったため、腕の力で上半身だけを起こすと……ボロボロになった鶏幼女が、呆れたような顔をして俺を見つめていた。
「どうした子系子、お前ボロボロだな。誰かにやられたか?」
「……いけしゃあしゃあと、よくもまあ」
呆れた顔が怒りの顔にフォームチェンジ。怪鳥十二面相だ。
いや、そんなことより……。
「あれ? 『第三ボタン砦』はどうなった!? 俺達の『性戦』は!?」
『第三ボタン砦』の門が開け放たれ、敵のエベレスト山脈がポロリンチョする寸前だったはず……。
「は? なんですか、それ? 聖戦?」
「なんだ夢か」
どうやら俺は夢を見ていたらしいな。このDRMMO空間で夢を見るのかよく分からないが。
「むむむ。それにしても、どうして下半身がこんなに重い……」
ふと、自分の下半身に目を向けると……。
――エイミーさんが、大胆にも俺の下半身に覆い被さっていた!
俺のお腹あたりを枕にして、足の間に納まる形でグッスリと眠りこけているようだ。お腹に頭があるということは……リトル晴明の上に鎮座して、スライムのように形を変幻自在に変える、この暖かくて柔らかい物体は……。
まさに夢にまで見た、エベレスト山脈!?
「ア、ア、アバンチュ――――」
「――ストップ! 遊んでいる暇はありません!」
突然のラッキースケベと、リトル晴明にエベレスト登頂を先越されたショックで気絶しそうになる俺の頭に、すかさずローキックを入れる子系子。
こいつ、オーガーのクセにいいキック持ってるじゃねえか。意識が吹き飛ぶかと思ったぜ。
「このっ! このっ! ジェットコースターの恨みっ! 食らえっ!」
「ちょっと待って。その水晶って占いに使うヤツだよね。鈍器じゃないよね。助走付けて殴らないで。普通に死ぬヤツだからそれ」
「おっと、怒りに我を忘れていました。それより早く起きてください」
俺が泣きそうになりながら抗議すると、子系子はシレッとした顔でソッポを向く。この鶏幼女、イイ性格をしてやがるぜ。俺が動けないからと調子に乗りやがって。
さて、仕方ない。状況もよく分かってないし、いつまでも座り込んでいるわけにはいかないからな。とりあえず、俺の下半身で眠っているエイミーさんをどけないと……おっぱいをどけ……おっぱい……柔らかい……。
「……早く起きてくださいよ」
「わ、分かってるわいっ」
でも、ほんのちょっと……本当にちょっとだけ、この柔らかいおっぱいの感触を……。
「てーい」
「ああ!」
エイミーさんの体をゴロリと転がし、いつのまにか準備されていた枕の上に乗せかえる子系子。なんてことをしやがるんだ! あと48時間くらいおっぱいを堪能させてくれよ!
「あの、本当にそれどころではないので」
「ごめんなさい」
ちゃんと、真剣に怒られました。
言われた通り、起立する安倍晴明くん。
子系子が言うように、周囲の雰囲気はなんとなく重い。どうやら、いまだに緊張状態にあるようだ。
その原因は……。
「さすがにヤクザキック一発では倒せないか」
「ええ、まだ気絶しているようですが」
遠くの柵にぶつかり、気絶しているデカイ獣の魔物……キングワオルフと呼ぶことになったらしい。このAFOでは、魔物を倒すと光の粒子となって消えてしまう。ヤツの体が残っているということは、まだHPが残っているということだ。
「だけど、どうして放置? みんなで攻撃すればいいじゃん」
そう。俺がヤクザキックで吹っ飛ばしたまま、完全に放置されているのだ。わざわざ防御陣地の心臓近くを昼寝場所として提供するのも、さすがに親切心が限界突破していると思うんだが……。
「……晴明さまを除けば、この中で一番攻撃力が高い家康さまの攻撃も通らないのです」
「ハッハッハッ! そういうことだ! 虎の子の魔法も使ってしまった! しばらくは使えん!」
背中にクッキリと爪痕が残っている家康だが、バカ笑いは健在だ。満身創痍なことを宣言しているはずなのに、何が楽しいんだろうコイツは。
「なあに、オレの役目は終わった! 安倍晴明が来るまでの時間稼ぎは成功したのだ! あとは安倍晴明がヤツを倒すのみ!」
「簡単に言ってくれるぜ……」
完全に他人任せじゃないか。
しかし、キングワオルフと対峙した時から、自分のステータスが上昇しているのを感じていた。称号[運命に抗う者]の効果が発動しているのだろう。やっぱりヤツは俺よりもレベルが上ということだ。
「まあ、やるだけやってみるか。ちなみに、バフの魔法って誰か持ってる?」
やるなら準備はきちんと。バフは大事だからね。攻撃力とか敏捷アップがあればいいんだけど……。
「は、ははははははひゃい! わ、私が、ぼぼ防御アップなら……」
変な声で返事をして手を上げる魔法使いの女の子。どうしたんだろう? 足をガクガク震わせて、まるで化け物でも見るような目を向けてきている。
「コイツ、お化けとかダメなんですよ」
女の子の近くにいた盗賊風の男が説明してくれた。なるほど、鬼モードの俺にビビっていたワケか。不可抗力だけど、なんだか申し訳ないな。
「あ~、防御だったらいいや。大幅にマイナスだから焼け石に水ってヤツだし」
「防御がマイナス……!? そ、そそそう、そうですか、わかりました。ふぅ」
ホッと息を吐きながら豊満な胸に手を当て、あからさまに安心した様子を見せる女の子。ふむ、アレはDカップだな。なかなかの逸材じゃないか。
よし。
「お~ば~け~だ~ぞ~! む~ね~を~も~ま~せ~ろ~!」
「キャアアアアアアアアアアア!」
100人に聞けば100人が思い浮かべる、身体の前で手を折り曲げてプラプラするお化けポーズをしてみた。奇声を上げながら、なりふり構わずに一目散で走り去る魔法使いの女の子。上下に揺れるおっぱい。うむ、絶景かな。
「……セクハラで守備メンバーを減らさないでもらえますか? ドヘンタイの鬼畜野郎」
「コケコッコーも口が悪くなったなぁ」
「コケコです! 誰のせいですか!」
手をパタパタさせる鶏ポーズで怒る子系子。
はて、誰のせいだろう?
「もういいです……」
子系子が地面に『コケコ』とひたすら書き始めたが、とりあえずスルーだ。いま片付けなければいけないのは、あのキングワオルフとかいうヤツだからね。しょうがないね。
俺しか攻撃が通らないというならば、俺がやるしかないだろう。
「今からコイツ倒すから、なるべく離れておいてくれ! プレイヤーはNPCを安全な場所に!」
俺の声を聞いて、俺とキングワオルフから距離をあけるプレイヤー達。子系子もいつのまにか移動しており、NPCとプレイヤーを誘導して、囲んでNPCを守る陣形を取っている。
しばらく眺めていると、準備を終えた子系子が額の汗をグイと拭ってサムズアップしてきた。
「よし……」
一度、呼吸を整えるために深呼吸する。
俺よりもレベルが上のユニークモンスターと戦うのは、これが2回目。
1回目のクイーンビーベアには、まるで歯が立たなかった。たった一発で俺はのされてしまい、隔絶された力の差を痛感したことは、今でも鮮明に覚えている。最後も結局は俺の力ではなく、美女モミジの力を使って勝利したのだ。
しかし、この戦いはガチンコ勝負。さっき一発蹴った感じでは、俺の攻撃は確かにキングワオルフに通っていた。ここは初心者の狩場でもあるし、クイーンビーベアの時のように、50も60もレベルが離れているわけではないだろう。
「バッチリ起こしてやりますかね」
俺だって、昼寝をしていたところを叩き起こされたのだ。コイツにも同じ……いや、俺以上にバイオレンスな目覚めを提供してやらねばなるまい。
「さ~て、ワンちゃん。朝シャンの時間ですよ~。★朱雀の印★」
ピンと立てた人差指と中指の先から、赤い炎が迸る。指を筆、炎を墨として、空中に『火雨』という文字を描いてゆく。やっぱり使い慣れたこの魔法が、開戦の合図にはちょうどいいだろう。
「おはようございま~~~~す! ★火雨★!」
空に舞い上がった炎の鳥が弾け、火の雨が寝そべっているキングワオルフへと降り注ぐ。
安倍晴明vsキングワオルフ。
人間と魔物。
規格外同士のタイマン勝負が、こうして開始されたのである。
一方、その頃。馬車前方の戦場。
「むむっ! 晴明め、またエイミーのおっぱいにデレデレしているのじゃ!」
「急にどうしたんですかい、お嬢!? ちょっ、そんなことより、コッチを助けてくだせぇ!」
「ああ! どうしてか、ムカムカするのじゃ! このっ! キサマらのせいで! 晴明とべつこーどーに! このこのっ!」
「うわっ、ブチギレたお嬢こえぇ~~」
「いま、一太刀でワオルフを3体も切ったんだなぁ」
「ヤクソウ……クウ……ヤクソウ……ワオルフ……」
「よく囲まれてんのに攻撃当たらねぇなぁ。こりゃ出番ねぇや」
「逆に手伝ったら邪魔になるんだなぁ。大人しく観戦するんだなぁ」
「ワオルフ……ヤクソウ……ワオルフ……クウ!」
「テメェはそろそろ正気に戻れ!」
「このっ! このっ! わらわだって、すぐおっぱいボイーンになるのじゃ――!」
ニュータイプモミジによる、ワオルフの蹂躙劇が繰り広げられていた……。
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