58話 家康 vs キングワオルフ
「ハッハッハッ! オレ、参陣である!」
隕石のように降ってくる人間をキャッチしたと言うのに、家康はまるで堪えた様子がない。いつも通り背筋を伸ばし、いつも通り大きな高笑いを上げている。
「ダイキ、よくぞエイミーを守った! 後はオレに任せろ!」
「……すまねぇ、頼んだ」
悔しそうに顔を顰めるダイキを地面に降ろした家康は、パーティーメンバに介抱を任せ、インベントリから4メートル近い大きな槍を取り出した。
「一番槍だ!」
その槍の石突きを地面に突き立て、棒高跳びの要領で大きくジャンプ。空中で大きく一回転しながら近づき、勢いを乗せて魔物の顔面へと槍を突き立てる。大柄な体躯には似合わず、まるで曲芸師のような軽い身のこなしだ。
しかし、魔物の体は鉄のように固く、家康の突き出した槍を軽々と弾いてしまった。家康は弾かれた勢いのままバク宙して距離を取り、離れた場所で再度槍を構える。
しばらく睨みあう一人と一匹。さすがの魔物もレベル13の家康は放っておけないらしい。「お前は後だ」とばかりにエイミーへと流し目を送り、それから家康の方を向いて、魔物は牙を剥き出しに威嚇を始めた。
「ふむ、ワオルフにも似ているが……子系子、アレはなんだ?」
「ワオルフの上位種だとは思いますが、さすがに種族までは……ただ、件の『ユニークモンスター』ではないでしょうか」
いつのまにか家康の近くに寄っていた、鶏冠を頭につけた幼女……子系子が、珍しく歯切れ悪く答える。
『このゲームに存在するらしい』という噂が立っているものの、誰も討伐したことも、遭遇したことすらないと言われているのがユニークモンスターだ。魔物が限界を超えて成長した存在。元の魔物の性質を持ったまま、全くの別物へと変化する超進化だ。
「ハッハッハッ! 確かに、ワオルフをちょっとデカくした感じだな!」
「どう見てもちょっとじゃありません! 軽く3倍くらいは大きいですよ!?」
この状況でも高笑いを続ける家康に頭を抱えつつ、「どうしてここは変な人しかいないんでしょう」と呟く子系子。もっとも横にいる『変な人』は、それに全く気が付いていないようだが。
「……名前がないのは不便なので、ひとまず『キングワオルフ』としましょう。あのキングワオルフ、家康さまは勝てそうですか?」
不安げに見つめる子系子に、家康は大きく頷いて答えた。
「うむ! 普通に戦えば、ボロ負けするだろうな! ハッハッハッ!」
「『ハッハッハッ!』じゃありませんよ!? 家康さまの負けは、即ちこの戦いの負けなのですよ!?」
手をパタパタさせて怒る子系子。子系子の『鑑定』ではステータスを覗けないし、家康は相手のステータスを知る術を持たない。それでも本能的に、戦えば負けるだろうと家康は理解していた。
「――だから、子系子。安倍晴明を呼んで来るのだ。アイツなら必ず勝てる」
一瞬のうちに表情をコロリと変えて、真剣な顔で子系子を見つめる家康。いつも高笑いをしてアホなことばかり言っている家康とは、まるで別人のような凛々しい顔だ。子系子は一瞬だけ背筋が伸びる思いだったが、ふと気が付く。
「まるで『我が必勝の策!』みたいに言っていますが、結局は他力本願ですよね?」
「ハッハッハッ! そうとも言う! 結局は勝てば何でもいいのだ!」
またまたコロリと表情を変え、高笑いを再開する家康。大きな溜息を吐く子系子。もはや恒例の凸凹漫才だ。
「まあ、安倍晴明が来るまでは耐えてみせよう。行けい! コケコッコー!」
「コケコです! 晴明さまの真似をして! もう、絶対に死なないでくださいよ!?」
家康にローキックをかましてから、子系子はパタパタと走り去っていった。家康は蹴られた脚も全く気にせず、槍を構えてジリジリと摺り足で移動。キングワオルフとエイミーの間に位置を取る。いつキングワオルフの気が変わり、エイミーを先に狙い始めるか分からないからだろう。
「い、家康、さん……っ!」
「ハッハッハッ! 安心しろエイミー! 安倍晴明がすぐ助けに来る!」
背中を向けたまま笑う家康。その家康の言葉に、エイミーはようやく正気を取り戻す。いままでトラウマに圧し潰されて、呼吸すらままならなかったというのに。その名前を聞いただけで、ポッと灯火がともるように心の中で希望が生まれるのを感じた。
そうだ。隔絶された強さを持つ、あの晴明が来れば……目の前の恐ろしい魔物だって倒してしまうのではないか。そして絶望の淵にいる自分を、救い出してくれるのではないか。
ジャン・オーネットが、幼き日のエイミーを救った時のように。
「子系子に宣言してしまったからな! 耐えてやろうではないか!」
そう言いながら槍を頭上で回し、キングワオルフへと突進していく家康。
「えっ!? 耐えるんじゃないんですか!?」
思わずツッコミを入れるエイミーであったが、まるで関係なくワオルフへと殴り掛かる家康。先ほど突きが効かなかったため、今度は柄の部分で叩いて攻撃するようだ。
「ハッハッハッ! 攻撃こそ最大の防御と言うだろう! オレはいま攻撃しているのではない、防御しているのだ!」
笑って答える家康。清々しいまでの脳筋である。
槍の石突近くを持って振り回し、遠心力を最大まで増幅させて叩き込む一撃。槍といえば突くものというイメージが強いが、実は叩いた時の威力は想像を絶するものがある。戦国時代の足軽が持っていた竹製の槍は、鉄板を仕込んだ防具の上から肋骨を砕くほどの威力があったとも言われているのだ。
そんな骨をも砕く一撃を、さすがのキングワオルフも脅威と感じたようだ。先ほどのように受けることはせず、右へ左へと反復横跳びで回避をしている。
「ええい、ちょこまかと! デカイ図体でよくも!」
そう言いながら、またもや槍高跳びを披露し、今度は突きではなく上からの叩きつけを行う家康。その大振りな一撃はさすがに避けられ、着地した硬直にキングワオルフが鋭い爪での攻撃を加える。
しかし、着地した家康は地面に槍を叩きつけた低い姿勢のまま、グルリと体ごと槍を一回転。そうしてちょうど一周した場所で、キングワオルフの爪と家康の槍の穂先がかちあった。体重と遠心力を乗せた家康の一撃は、その衝撃でキングワオルフを後退させることに成功する。
家康は攻撃に利用した回転の力を殺さず、そのままグルグルと回転しながら距離を取り、自然な流れで上段の構えを取る。一連の攻撃はまるで演武のように華々しく、周りでみていたプレイヤーが自然と拍手していた。
きっとキングワオルフが喋れれば、家康と同じセリフを吐いただろう。「デカイ図体でよくも」と。
そこから一進一退の攻防が始まった。最初こそ攻め続けていた家康だが、槍の間合いを把握し始めたキングワオルフに避けられることが増え、その隙をついて爪や牙で攻撃されるようになる。
家康も槍で受け流したり、時には身体を地面に投げて回避するものの、時間が経つほどに身体への傷が増えていった。覆しがたいレベル差によって、家康の攻撃はキングワオルフにほとんど通らないが、逆は掠っただけでも大ダメージだ。
次第に減っていくHPに、家康は焦っていた。このままではジリ貧である。それに晴明が来たとき、敵が全くの無傷では面目が立たないだろう。
そこで家康は勝負に出ることを決めた。子系子が呼びにいった時間から考えても、そろそろ晴明が到着してもおかしくはない。
「せめて傷の一つでも付けておかねばな!」
気合を入れるように大きく吠えた家康は、さっきと同じ槍高跳びの姿勢を取る。ビデオの巻き戻しのごとく、全く同じ動作で回転して叩きつけを行うが、当然のごとくキングワオルフは距離を取って避ける。
勢いよく地面に叩きつけられる槍……しかし、ここで家康の行動が変化した。叩きつけた槍を支えにして、テコの原理で更に空中で回転。キングワオルフとの距離を詰め――。
「★パワードスピア★! 食らうがいい、三葉流槍術……一ノ葉、落葉松!」
『パワードスピア』は、戦士が覚えることができる数少ない魔法の一つ。一定時間、刺突系武器での攻撃力が大幅にアップする効果がある。
この魔法によるバフに、重力の勢いを乗せて放つのは、『三葉流槍術 一ノ葉 落葉松』。落葉松からの落ち葉を一つ余さず空中で刺し貫く修行。それを落葉松が枯れるまで続けることで習得できる、まさに三葉流槍術の奥義だ。
「ハイハイハイハイ! ハイ――ッ!」
瞬きする間に身体が蜂の巣になるとまで言われた、高速の連続突き。キングワオルフもなんとか避けようとするも、身体が大きいこともあり、すべてを避けきることなど出来るはずもない。
魔法で強化された攻撃は、鉄のように固いキングワオルフの表皮を貫き、傷を負わせることに成功する。突くごとに増える傷を見て、家康は勝利を確信した。「攻撃が通るのであれば、押しきることができる」と。
「これで……終わりだッ!」
連続攻撃によって、遂にキングワオルフが怯んだ……その一瞬を見逃さず、家康は力を溜めた必殺の槍を突き出す。
怯んだキングワオルフの急所……曝け出された首元へと、家康の渾身の突きが迫る。
大きな風切り音を発しながら進む槍は、キングワオルフの首に――――。
「なに!?」
――刺さる寸前で、突然キングワオルフの姿が消失した。
まるで電気のスイッチを切ったように、一瞬で跡形もなく消えてしまったのだ。
「どういうことだ!? ヤツはどこに!?」
槍を振り回して警戒する家康だが、槍が何かに当たることもない。耳を澄ませてみても、目をこらしてみても、どこにも気配を感じないのだ。どうも理解できないが、ひとまず戦闘は終わったらしい。
「ううむ! 不完全燃焼だ!」
石突を地面にドンドンと突き立てて激昂する家康。しかし、ふと「結果オーライじゃないか?」と思い直し、ひとまずエイミーの元へと戻ることにした。
「エイミーよ! なんだか知らないが、終わったぞ! ハッハッハッ!」
戦闘は終了したと、高笑いしながらエイミーに声をかける家康。
だが、そんなに都合のいいワケがない。
殺すか、殺されるか。
それが戦場の掟なのだから。
「家康さん! 後に!」
「なに!? グアァッ!」
今度はスイッチを入れたように、家康の後ろに突然現れるキングワオルフ。視界に映らない、匂いもしない、音も聞こえない、気配すらない……しかし、確かにそこにヤツは存在し、相手が油断する瞬間を狙っていたのだ。
「ステルス……だとぉ……ッ!?」
背中を大きく切り裂かれて、地面に沈む家康。死んだわけではないが、HPの大幅欠損によって身体が動かなくなったらしい。
「エイ……ミー! 逃げろ……ッ!」
動かない身体を力尽くで動かし、エイミーに警告をするが……キングワオルフの姿が、また視界から消えた。ステルスモードを発動したようだ。これではどこから襲ってくるか分からず、逃げようにも逃げられない。
「ひっ……!」
だが、エイミーは感じ取っていた。自分が狙われていることを。魔物が発する殺意を。
そして餌を食すことができる、悦びを。
「あ、あ……あぁ……」
ステルスモードのキングワオルフが、恐怖で座り込んだエイミーに迫る。目には見えずとも、すぐに自分が死ぬことを理解した。エイミーが出来ることは、蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のように、ただ自分が食われるその瞬間を待っているのみだ。
「たす……け……て……ッ!」
声を絞り出して懇願しても、言葉の通じない魔物は止まらない。
そして遂にその時が来る。
大きく開いたキングワオルフの口が近づき、エイミーを一息で丸呑みする――――。
「させるか――――ッ!」
直前で、何者かがエイミーとキングワオルフの間に割り込んできた。
その何者かは、見えないはずのキングワオルフへと……。
「コレは俺のエベレスト山脈じゃ――――ッ!」
思い切りヤクザキックをぶちかました!
今日もジャンル別日間で9位((((;゜Д゜))))
応援してくださって本当にありがとうございます(;人;)
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
今回でエイミーさん視点終わるつもりだったけど……微妙に残ってしまった(´ω`)
ってことで、明日もチョットだけ投稿して、今度こそ本当にエイミーさん視点終わりです!
明後日の木曜日に主人公に戻ります~(´ω`)
晴明視点を待ってる方は、もう少しだけ待ってください><。




