57話 エイミーの過去
木曜日には主人公視点に戻ります!
「ガッ……!」
馬車のようなサイズの黒い魔物……そしてその鋭い爪によって腹を貫かれ、地面に縫い付けられている皮鎧の男。
「ひっ……!」
あまりの凄惨さに、たまらずエイミーは口を抑えて吐き気を堪える。確かに人の生き死にをドライに考えているエイミーではあったが、それはあくまで情報として自分の元に渡ってくるだけだからだ。こうして――。
「……クソッ……グァッ!」
「ダイキ! そんなぁ、イヤぁ!」
「待てよ! 後衛職のお前が近づいてどうするってんだ!?」
腹を貫かれている男に近づこうとする魔法使い風の女を、必死に止める盗賊風の男。おそらくはパーティーメンバーであろう。
他のメンバーも助ける意思はあるものの、足が竦んで動けないようだ。きっと彼らは本能で理解しているのだろう、『勝てない』ということを。
「放してよぉ! あのままじゃ、あのままじゃ、ダイキが死んじゃう――!」
――こうして目の前で人が死ぬところを見るのは、十数年ぶりのことだった。
そう……自分の家族が目の前で殺され、住んでいた村が崩壊したあの日……。
山の麓にポツンと存在していたその村は、地図にも乗らないような小さな村だった。みんなが自給自足で暮らしていて、物々交換で今晩の夕食を揃える毎日。
一年に一回、若い男達が歩いて数日の町まで買い物へ行き、買ってきたものをみんなで分け合うのが唯一の楽しみ。
質素ではあるものの、みんなが幸せそうな顔をしている……どこにでもある、のどかな村だった。
そんなエイミー達の村を襲ったのは、大小さまざまな魔物の軍団だ。魔物達が近づいているという報告を聞いた時にはもう遅く、人口50人ほどの小さなその村は、ものの数分で蹂躙され尽くした。
エイミーは運よく両親と村の外へ脱出できたのだが、そう簡単に魔物から逃げることなどできるはずもない。すぐに追撃隊が差し向けられた。
必死に走って逃げるエイミー達を追っていたのは、まさに目の前にいるような四足歩行のオオカミの魔物。人間の……それもただの村人の足では、振り切れるはずもなかった。
まずは盾になって時間を稼ごうとした父親、その次にエイミーを庇った母親、そして最後にエイミー。1人ずつ引き倒され、引き摺り回され、魔物達が群がった。そして散々弱らせた後で、魔物達は涎まみれの大きな口を開けて――――。
「――ッ! ……ッ……ハァ……ハァ……」
過去のトラウマがフラッシュバックし、過呼吸になってしまう。その時、エイミーは痛感した。自分はトラウマを克服できていたのではなく、ただ忘れていただけであったのだと。
心の奥深くに押し込まれていた魔物への恐怖が、内側からエイミーを縛り付ける。逃げなければマズイことは頭で分かっていても、恐怖で全身が硬直してしまい、一歩も動けずにいた。
とはいえ、身体が動いたとしても逃げることは不可能だろう。なぜなら目の前の魔物が、エイミーを最初に狩る獲物としてロックオンしていたからだ。
一度人間の味を覚えた動物は、次々に人間を襲うようになるという。この魔物も同じで、何度もNPCの商隊や護衛のプレイヤーを襲っていくことで、『ウマイ餌』と『ウマクナイ餌』を見分ける知恵を身につけていたのだ。
死んだら身体が消えるプレイヤーは『ウマクナイ餌』で、身体が残るNPCは『ウマイ餌』。NPCの中でも、特に若い女は柔らかくて『最高にウマイ餌』といった具合である。
いまここで『最高にウマイ餌』である、エイミーが狙われるのは自然な流れ。
その食欲の赴くままに、魔物は動けないエイミーへと近づ――こうとして、何かにつっかえたように動きが止まった。
「ガハッ……行かせ、ねぇ……! 俺が、絶対に止め……るッ!」
「ダイキ……さん……ッ!?」
腹を貫かれたプレイヤー……ダイキが、その腹部から引き抜こうとされている爪を手で掴み、自分の身体に押し戻していたのだ。
「どう……して……?」
過呼吸になりながらも、なんとか言葉を紡いで問うエイミーに、ダイキは沈んだ表情で答えた。
「俺……みんなに迷惑、かけたから……だけど俺だって、NPCを守りたい気持ちは一緒なんだ……だからっ! 俺の目の前で一人だって殺させねぇ……!」
エイミーはダイキと面識がそこまであるわけではない。クエストの完了報告を一度受けたことがある程度の関係だ。そんな浅い関係のエイミーを助けようと、まさに自分の命を投げ打っているダイキの行動に、エイミーは涙が止まらなかった。
「グ……アッ……!」
しかしダイキの奮戦も空しく、魔物は足に付いたゴミを払うような気軽さで、爪を抑えているダイキを投げ飛ばした。レベルも大きく離れ、更には負傷しているダイキがこれに抗えるはずもない。
そのまま高く空へと上がり、重力のままに勢いよく地面へと激突――。
「オーライ、オーライ! フライキャ――――ッチだ! ハッハッハッ!」
――する直前で、いつのまにか落下地点に立っていた男が受け止めた。
「オレ、参陣である!」
筋骨隆々で2メートルを軽く超す大きな体躯に、獅子の鬣のような髪と獰猛な肉食獣の瞳。
『チーム葵の紋』のクランマスターにして防御陣営のリーダー、『徳川家康』であった。
興奮冷めやらず! 今日も投稿しちゃいます((((;゜Д゜))))
う~~ん、我ながら単純!
おかげさまで、現在VRゲームの日間ランキング20位以内に食い込めてます!
応援してくださって本当にありがとうございます(;人;)
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
次回は木曜日……と見せかけて!
明日も投稿する予定! 次回でエイミーさん視点は終了です!