55話 いますぐキミの乳幼児になりたい……!
「兄貴~! 助けてくれなんだな~!」
「ヤ、ヤバイでゲス! ワオルフなんかマトモに戦えるワケないでゲス!」
「うるせえ! 死んでも踏ん張りやがれ! すぐに頭が来てくれらぁ!」
俺が山賊一味の防衛する馬車前方に戻った時、既にそこではワオルフとの接近戦が開始されていた。ウォーリアのサンゾックが前に立って防御し、後ろからシーフチビガリとウィザードデブが援護する陣形だ。
しかし、さすがに十匹あまりのワオルフをサンゾックだけで抑えきれるはずもなく、後ろの子分ズまでワオルフが群がっているカオス状態。
サンゾックはレベル8だからワオルフよりレベルは高いが、子分ズは確かレベル5だ。タイマンならまだしも、囲まれれば一溜りもないだろう。まさに絶体絶命とも言える状況だった。
「か、頭ァ! やっぱり来てくれたんですねェ!」
「さすがは頭なんだなぁ! ヒーローは遅れてやってくるんだなぁ!」
「パパーッと、あのスゴイ火の魔法で蹴散らしてほしいでゲス!」
近づいていく俺達を見つけた山賊一味が、とても嬉しそうな顔でコチラを見てきた。子分ズに至っては万歳三唱までしている。
ここまで期待されては仕方がない。
俺も一肌脱いで――――。
「さんぞっくぅーがんがえー」
精一杯、応援をしてやらなければ!
「……しかたないとはいえ、なさけないのじゃ」
チアガールよろしく、足を高く上げて「フレー! フレー!」と応援を始めた俺を見て、大きな溜息を吐くモミジ。だって仕方ないじゃない、いま超絶デバフ状態なんだから。
「頭!? ふざけてる場合じゃねぇですよ!?」
「オイラ達、どうみてもピンチなんだな!」
「し、死ぬでゲス~! 薬草が足りないでゲス~! 薬草クレでゲス~!」
そんな俺の事情を知らない山賊一味は愕然としている。ゴチャゴチャ言いつつも、ワオルフの攻撃はキチンと捌いているあたり、意外と余裕はありそうだ。特にチビガリ、アイツは助けないと誓った。
「う~ん、MPもまだ回復してないしなぁ。山賊一味を助けるためにロリポーション使うのはもったいないし……」
「ロリポーション……?」
おっと、隣のモミジが不審者を見るような目つきに変わってしまった。ロリポーションは俺の中での呼び名であって、子系子からもらったMPポーションのことだ。そんなアイテムがあるわけではない。
「ちょっ! マジでヤベェんですって! なんで頭はコサックダンスなんかしてるんでさぁ!?」
失礼な、チアガールだと言っているだろう。そこまで身体が固くないやい。
「助けたいのは山々なんだけど……いろいろあって、いま守備力がマイナス164なのよね」
「守備力がマイナスゥ!? どういうことですそりゃぁ!?」
あまりの驚きで大袈裟に振り向いたことより、遠心力を乗せた斧がワオルフにクリーンヒット。当たり所がよかったらしく、ワオルフはそのまま光の粒子となって消えた。なんだそのギャグみたいな倒し方は。
「うお~~!? レベルが上がった~~! ってそんなことより、どういうことでさぁ!?」
サンゾック・コワモテーノ、レベルが9に上がったらしい。おめでとう。ケツにワオルフが噛みついているのも、きっと祝福しているんだね。
「魔法の副作用みたいなモノでな~。攻撃力と魔攻力が大幅アップする代わりに、守備力と魔守力がマイナスになっちゃってるんだわ」
俺の守備力は、防具のプラス分を引けば131だ。コレが『瑞光』で1.5倍して197になり、『鬼化粧』で0となった。そして『瑞光』の効果切れによって、197から131を引いた差分の65がマイナスに……。
「……あれ? なんで164も守備力がマイナスになっているんだ?」
おかしい。全く計算が合わないじゃないか。中学時代に数学のアベレージが95点だった俺だぞ。こんな初歩的な計算ミスをするわけ……。
「晴明さま―――――――!」
木の枝を使って地面で計算しようとしていると、遠くから焦ったようなロリボイスが聞こえてきた。この知的ロリボイス……子系子か?
「ろりぼいすをブンルイしていて、しかも、みないでせーかいする晴明がおそろしいのじゃ……」
俺の素晴らしい推理力に言葉を失うモミジ。どうやら正解のようで、遠くから鶏冠を揺らして走り寄ってくる鶏幼女の姿が確認できた。ちなみにモミジは小悪魔ロリボイス。
「どういうはんのーすればいいか、よくわからないのじゃ……」
小悪魔ロリボイスが何か言っているが、どうやら今はそれどころではなさそうだ。子系子は息を切らしながらコチラに走り寄ってきて、俺の足に縋りついた。
「どうした子系子? 家康がワオルフの踊り食いでも始めたか?」
「そ、そんな、ふざけている場合じゃありません! とても強力な個体が、防御陣を突き破って中心部に! いまは護衛パーティーと家康さまが抑えていますが、このままではッ!」
「強力な個体だと……?」
ワオルフの討伐推奨レベルは5で、対する家康はレベル13だ。群れであることを考慮に入れても、普通に考えれば家康が負けるはずがないのだが……この子系子の焦り様を見るに、いまにでも負けそうだと言わんばかりである。これは、何かがおかしい。
おかしいと言えば、俺のステータスもだ。計算と全く合わない数値がマイナスされている。もしかして、ここに何か相関関係が……。
「まさか……俺よりもレベルの高い魔物がいるのか……?」
俺がいま設定している称号は[運命に抗う者]。
【運命に抗う者……パーティーの最大レベルとのレベル差が50以上ある敵を打倒した場合に取得。自分よりもレベルが高い敵と対峙した時、HP・SP・MP・運命力以外のステータスが1.5倍になる】
元の守備力131に『瑞光』で1.5倍して197、そこに[運命に抗う者]で更に1.5倍すると295となる。この295から131を引くと……。
「マイナス……164になる……ッ!」
つまり、家康はレベル18以上の魔物と戦っているということか!?
「このままじゃマズイ! 魔物は防御陣地の中心にいるんだな!?」
「え、ええ! 移動していなければそのはずです!」
超絶デバフ状態の俺が助けに行ったところで、瞬殺されるだけかもしれない。しかし、この防御陣地で一番レベルが高いのは、この俺だ。周囲ではいまだにワオルフの攻勢が続いており、数を頼りに囲んで倒すこともできない。
高レベルの魔物と戦えるのは、俺か美女モードのモミジだけだ。
「か、頭ァ! なんだかヤバそうなのは分かるんですがね!? コッチも俺達だけじゃ無理ですぜ! ここを突破されても終わりでさぁ!」
「オ、オイラも魔力がレッドゾーンなんだな……」
「あああああ! 薬草だと思って食べたら毒草だったでゲスゥ!」
最後のアホは置いておいて、確かにサンゾックが倒れるのはマズイ。馬車前方はもともとプレイヤーが少なく、レベルの高いサンゾックが死に戻ってしまえば、ワオルフ達は中心部まで一直線で突破できてしまうだろう。
しかし俺達の手札は限られている。そうなると、ここの守りには……。
「モミジ」
俺が声をかけると、モミジはクルリと背中を向けてポツリと呟く。
「さいきん晴明とべつこうどうばかりなのじゃ」
「うっ、それは申し訳ない……」
背中を向けているから顔は見えないが、唇を尖らせて拗ねた表情をしているのだろう。
確かに討伐クエストに一人で行ったり、モミジを置いてジャンと話しに行ったりしたからなぁ……契約をしてから『はじまりの町』に戻るまでは、ほとんどずっと一緒だったこともあり、寂しい思いをさせているのかもしれない。
「でも、頼めるのモミジしかいないんだ」
モミジの前にまわりこんでしゃがみ、正面から目を合わせると……やはりムスッとした表情をしていた。口も『ヘの字』で不機嫌モード全開だ。
艶やかな長い黒髪を指で遊ばせ、「むむむ~」と声に出して唸っている。そのちょっと子供っぽい仕草が、とても可愛かった。そんな場合じゃないのは分かってるけど。
しばらく見つめあっていると、モミジはやがて諦めたように「ふぅ」と息を漏らし、ちょうど届く位置にあった俺の頭を優しく撫でる。
「まったく晴明はあまえんぼうさんなのじゃ。わかっておる、わらわにまかせておくのじゃ」
俺の頭を撫でながら、幼女らしからぬ慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべるモミジ。
これが母性ロリ……なんだこの圧倒的母性と包容力は……いますぐキミの乳幼児になりたい……!
「ほれ、こっちはわらわにまかせて……晴明もがんばるのじゃぞ?」
「……ああ!」
これで終わりと頭をポンポン叩き、俺の手を取って立たせるモミジ。小さくて柔らかい手だが、何よりも強くて頼もしい、大好きなパートナーの手だ。
目にも見えないし、ステータスにも表示されない……だけど、とてつもないパワーをもらったような気がした。
「よっしゃ、オマエ達! 死んでもこことモミジを死守しろよ! 死んだら罰金1万Gと反省文だ!」
「罰金ってそりゃないですよ頭ァ!? 現実よりブラックだァ! チクショー!」
「兄貴ぃ、反省文ならオイラ達、書くの慣れてるんだなぁ。それにかわいい女の子がいるだけ現実よりマシなんだなぁ」
「ヤ、クソウ……オレ……ヤクソウ、タベル……ニンゲン、ヤクソウ、ボリボリタベル……」
なぜかゾンビみたいになっているヤツがいるけど、モミジの参戦で山賊一味の士気は上がったようだ。実際レベル13のモミジが援護に入れば、この戦場は安定するだろう。
「よし、行くぞ! 子系子!」
「はい! ってちょっと待ってください! なんで米俵みたいに担ぐんですか!?」
片腕でヒョイと子系子を肩に担ぎ、クラウチングスタートの姿勢を取る。中心部まで急ぐためには必要なことなんだ。我慢してくれ。
これから俺は……風になる!
「訳が分かりません! いいから降ろしてください! わ、私の身体から、骨が軋むような音が鳴っていますよ!?」
ゴチャゴチャ言ってる鶏幼女はスルー。いまは一刻を争う緊急事態だ。
中心部までのRTAまで、3秒前~。
3……2……1……。
「い、いや、ちょっ――」
「スタ――ト!」
足の裏に一点集中。超絶バフされた攻撃力を爆発力に変換して、思い切り飛び出す!
「フルパワーだぜ! 信じらんねぇ! 風を……風を拾うんだ!」
「キャ――――――――ッ!」
これからしばらく、陣地内にかわいらしい鶏幼女の悲鳴が響き渡ることとなったのであった……。
VRゲームの日間ランキングで20位! 四半期でも59位まであがりました!
まさか日間ランキングを更新できるなんて思ってませんでした(´TωT`)
応援していただき本当にありがとうございます(´TωT`)
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
明日も更新予定です(`・ω・´)




