54話 鶏幼女軍師の面目躍如
「グッ……『瑞光』が切れた! 子系子、俺の魔法は打ち止めだ!」
MP消費の多い『瑞光』を使用し、その上で特大の『火雨』を連発していた俺のMPは枯渇寸前だった。『レナード商会』で買い貯めていたMPポーションも既に使い切っており、むしろベストなタイミングだったかもしれない。
俺の言葉を聞いて、すぐにエリアチャット画面を操作する子系子。どうやら子系子も鬼モードの俺の姿にはもう慣れたようだ。変身した瞬間なんて腰を抜かしてお漏らししていたからな。
「も、漏らしてません! ちょっと怖かっただけです……」
そう言いつつ、そっぽを向いてローブで自分の身体を隠す子系子。これ以上はやめておいてやろう。俺もレナード商会の鏡で自分を見た時は、夜だったこともあってちょっと漏らしそうになったし。鬼なんてリアルで初めて見たから仕方ないよね。リアルじゃないけどね。
「怖かったけど……かっこよかったです」
「ん? なんか言ったか?」
「怖いからこちらを見ないでくださいと言ったんです!」
子系子は顔を怒りで赤く染めてそっぽ向いてしまった。なにそれヒドイ。こんなに晴明くん頑張ったのに。ブロークンハートだよ。
「それより晴明さま、あの全体攻撃の速度と精度はどういうことなのですか? 考えがあるとは言っていましたが……」
「ああ、あれね。ロックオンしないでロックオンして当てるんだよ」
全体攻撃魔法で相手をロックオンをする場合、対象に意識を向けて『ロックオンした』という感覚になって初めてロックオンが成立するため、かなり時間がかかる。魔法を撃つだけならロックオンする必要もないが、その場合は自力で調整して当てなければならず、こっちは精度が落ちてしまう。
そこで俺は中間を取ることにしたのだ。ボヤ~っとロックオンして、あとは感覚で調整して当てる。これぞ「晴明流 ロックオンしないロックオン術」である!
俺がコアトルビーとの戦いで編み出した技だ。普通に『火雨』を撃とうとすると、ターゲットをロックオンして、火の鳥が空の旅へ出発。それからターゲットの頭上で爆発し、火の雨がロックオンしたターゲットに降り注ぐという流れになる。
ロックオンをした場合、ホースの先を摘まんだ時のように、収束した火の雨が敵に降り注ぐのだが……俺が編み出した「晴明流 ロックオンしないロックオン術」を使って撃った場合、それこそ雨のように散乱して降り注ぐ。
もちろん収束しないため威力は落ちるが……今回のように魔攻力をバフでマシマシにした状態ならば、それこそ一粒で魔物の身体が吹き飛ぶくらいの威力にもなる。ワオルフのレベルならいけるだろうと思っていたが、案の定だったワケだ。
「……オートとマニュアルの中間、そんなことができるなんて……」
「コツを掴めば簡単だぜ。ロックオンしないで当てるのも最初は難しかったけど、慣れればこっちの方が早くて楽だしな」
「オートよりマニュアルが楽なはずないじゃないですか……」
子系子がまるで珍獣でも見るような目をしている。端から見たらお前の格好の方が珍獣だからな。
まあ、ロブハンでロックオンせずに魔法を当てる練習をした経験もあるし。さすがにDRじゃ勝手は多少違うけど、それこそ究極は慣れだろう。コアトルビーと一日中リアルオニゴッコしてりゃ、勝手に上手くなるってもんだ。
「晴明さまがオカシイことは理解しました」
この鶏幼女、手羽先にしてやろうか。
俺はそんなことよりも、一回の戦闘で大人買いしたMPポーションを使い切ってしまったことが予想外だ……これって経費で落ちたり……。
「しません」
「デスヨネー……」
バッサリと子系子に切り捨てられ、ガックリと膝を付く。お、俺の4000Gがぁ……。
「よ、よんせん……そうですね、少しだけ考えておきます。いまは私の持っているMPポーション1つで我慢してください」
膝を付いて涙を流す鎧の男を見て、さすがに哀れに思ったようだ。慈愛に満ち溢れたアルカイック・ヨウジョ・スマイルを湛えて、MPポーションを俺へと差し出す子系子。
「――仏様! ああ、こんなところに仏様がおられた! コケコッコー菩薩様じゃ!」
「コケコです! まったく!」
両手を肩の位置で羽のように広げ、パタパタと羽ばたくニワトリポーズで怒る子系子。どこまでニワトリ推しなんだ。あざとかわいいじゃないか。
しかし、子系子の持っていたMPポーションか……ロリポーションと名付けてロリ協に売れば、ものすごい金額になるんじゃないか……!?
「晴明さまのおかげでなんとかなりそうです。本当にありがとうございました」
俺が脳内でソロバンを弾いていると、ふいに子系子が姿勢を正し、鶏冠を揺らしてお辞儀してくる。
お辞儀から戻った顔にもう絶望の色はなく、「絶対に勝つ」という強い意志を宿しているのが分かった。クリクリなオメメの奥に、メラメラと燃える炎が見える気がする。
フッ……この短時間で成長したな、鶏幼女。
「いいってことよ! でも、俺はしばらく動けそうにないデス……」
「あれだけ魔法を連発すれば当然です。あとは、私達に任せてください」
どっちにしろ守備力がマイナスに大きく割り込んでいるため、前線に出ることなんてできないし、魔法を連発しすぎたからか頭痛がする。お言葉に甘えてちょっとだけ見学させてもらうとしますかね。
体育座りを始める鬼晴明くんを横目に、子系子は家康の身体をよじ登って肩車の姿勢へと納まる。それから頭をゲンコツで2回ほど叩いた。
「家康さま、お願いします」
「承知した!」
けっこう固めに握られた拳だったのに、まったく家康は意に介していない。アイツは頭まで鋼の筋肉を纏っているのか?
それから子系子は、家康の耳元に口を寄せてなにかを囁く。家康はウンウン頷きながらそれを聞くと、全身を使って大きく息を吸い込んだ。
「皆の者! ここからはオレ達の戦いだ! オレの合図で! 振り分けられた通りに魔法を飛ばせ!」
いつもの大声から数段階はギアを上げた超大声で、全軍に向けて命令を飛ばす家康。近くに雷でも落ちたのかと勘違いしそうなほどの大音量に、NPCなんかは腰を抜かしてしまっている。声を抑えているとか言っていたの本当だったんだな……。
聞いただけで鼓膜がブチ破れそうな大声だが、不思議と耳には自然と入る。その証拠に家康の命令を聞いたプレイヤー達は、それぞれの武器を掲げて「おう!」と応答している。
『おうとおうとうする』……ぷぷぷっ。
「はぁ……こういうバカっぽいところさえなければのぅ……」
横で真似して体育座りをしているモミジが何か言っているが、俺には何も聞こえない。もちろん家康の大声で鼓膜破れたのが原因だから。くれぐれも勘違いしないように。
それからも子系子に操られるままに指示を出す家康。あの筋肉達磨は、完全に鶏幼女の支配下に置かれたようだ。俺は昔にテレビで見た、宿主を思いのままに操る小さな寄生虫を思い出していた。
「……(コソコソ)」
「まずは長距離グループ! 私が手を振り上げたタイミングで構え、そして振り下ろしたタイミングで攻撃してください!」
家康の命令を聞き、おそらく長距離グループと言われた10人ほどのプレイヤー達が首を傾げつつ、防御陣地の前に進み出るのが見えた。
いや、カンペをそのまま読んでるから口調が変わっちゃってますけど。大丈夫なのかコイツ。日常生活にも支障をきたしそうだぞ。
「ハッハッハッ! いつもはオレの口調にあわせたカンペが来るから問題ない!」
「家康さま! 集中してください!」
子系子に頭をはたかれながらもバカ笑いを続ける家康。その緊張感のないやり取りが逆に功を奏したのか、周りのプレイヤーから肩の力が抜けた気がする。本人はそれに全く気が付かず、また子系子に頭をはたかれているが。
「――ッ! 家康さま!」
「よ――――し! 構え――――ッ!」
子系子が強めに頭をはたくと、家康は大きく頷き、筋肉が盛り上がった右腕を振り上げる。
たったそれだけで、防御陣地から音が消えた。全員が固唾を飲んで、天へと掲げられた家康の右腕を見つめている。攻撃に参加しない俺でさえ、ギリシャ彫刻のような神聖な美を感じさせる家康から、つい目が離せなくなっていた。
そのまま数秒の静寂が戦場を支配した後――。
「放て―――――――ッ!」
家康の大音量とともに右腕が振り下ろされ、ほぼ同時に長距離グループのプレイヤー達から魔法や弓矢、果てには大槍などが一斉に空へと放たれた。それもただの弓矢や大槍ではなく、オーラのようなモノを纏っている。おそらく魔法やスキルの効果が乗っているのであろう。
全方位へと放たれた遠距離攻撃達はお互いに干渉することもなく、まるで隊列を組むように綺麗なアーチを描いて空を飛んでいく。
――そしてすべての攻撃が、防御陣地に向かって走り寄ってくるワオルフの群れの鼻先へと寸分違わず命中した。
「ビンゴです!」
「ハッハッハッ! 思ったより巻き込めたではないか!」
パチンとカッコよく指を鳴らそうとして鳴っていない子系子と、謎にナポレオンポーズを決めて大笑いする家康。
二人とも全くカッコはついていないが、その成果はかなりのもの。遥か遠くに見える、団子状態になって静止したワオルフの群れがその証拠だ。
先頭集団が攻撃で怯んだからと言って、後続も急に停止など出来るはずもない。勢いを殺せないままぶつかり合い、押しつぶしあった結果……ワオルフの群れは大きな被害を受け、勢いを再度失うこととなったのだ。
これが寄せ集めで訓練もしていない集団の攻撃とは、誰が見ても思わないだろう。それほどまでに見事な連携だった。
完璧な攻撃タイミングと、それぞれの魔法や武器の特性を考慮した配置。たかが10人……しかしその一撃で、数倍ものワオルフを光の粒子へと変えてしまったのだ。
まさに鶏幼女軍師の面目躍如。
「スゴイな、これは……」
「うむ。完璧な作戦だったのじゃ」
体育座りで眺めていただけの俺達。逆によかったかもしれない。あんな器用な真似できる気がしないもんね。ワンマンプレーで場を乱す自信しかない。
「……まあ、晴明さまの魔法一発で、今の数倍は吹き飛んでましたけどね」
そう返しつつも、少しだけ頬を赤くして唇を尖らせる子系子。一丁前に照れているようだ。幼女が頬を赤くしてモジモジしていてもかわいいだけだぞ! もっとやれ!
「て、照れてません!」
「ハッハッハッ! 安倍晴明はロリコンなだけじゃなく、ロリータ殺しでもあるわけか!」
足で首を絞めながら「殺されてません!」と叫ぶ子系子と、ものともせずに大爆笑する家康。最初は「大丈夫かコイツら?」と思っていたが、このチグハグな感じがなかなかいいコンビじゃないか。
周りのプレイヤー達も微笑ましい雰囲気で見守りつつ、「ハァハァ……俺も子系子ちゃんに首絞められたい……」とか「子系子ちゃんに肩車して頭にロリっぱいの感触を味わいたい……」とか呟いている。このキャラバンは犯罪者予備軍だらけだぜ。
「さて、俺達も持ち場に戻るとするか。山賊一味がちゃんと働いてるか監視しないとな」
「といいつつ、タンジュンにみんながシンパイな安倍晴明であった……なのじゃ」
変なモノローグを付けるんじゃありません。
「了解しました。晴明さまもご武運を」
「こっちは任せろ! 危なくなったらすぐ呼び戻すがな! ハッハッハッ!」
鶏冠を下げてお辞儀する子系子と、ナポレオンポーズを決めたままの家康に見送られつつ、サンゾック達が守っている馬車前方へと向かうのだった。
現在VRゲームの日間ランキングで23位! 朝起きてみた時ビックリして三度見くらいしました!
自分がこんなに小説を書き続けられるのも、応援してくださるみなさんのおかげです……!
本当にありがとうございます(´TωT`)
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
次回は土曜日に更新予定です(`・ω・´)




