53話 任せろコケコッコー!
この話で似たタイトルを付けたため、前話のタイトル修正してます。
「ハッハッハッ! よく見えんが、メチャクチャな数だということは分かるな!」
「笑っている場合じゃありません!」
確かに見えるだけでも、すでに数えられる数じゃない。オオカミの魔物……ワオルフの雪崩とも言える光景が、目の前に広がっていた。
さっきまで冷静に俺をあしらっていた子系子も、さすがに顔を真っ青にして声を荒げている。
髪と目が青いんだから、顔まで青くなちゃったらどこが顔か分からなくなっちゃうぞ。
「そんな冗談を言っている場合ですか!」
普通に怒られました。確かに緊張感が足りなかったかもしれない。
「こんなの……どうしたって守り切れない……商隊のみんなが、死んじゃう……」
自分の肩を抱いて、ブルブルと震えている子系子。どうやら俺と同じ、この世界の住人が『生きている』と思っている類のプレイヤーらしい。
AFOも所詮はゲームで、NPC達はただのデータの塊。生き返ることはないらしいが、運営が復元しようとすればできる程度の存在……そういう考えのプレイヤーがいるのだという。これだけ現実世界に近いAFOでも、はっきりゲームと割り切って、NPCの犠牲を何とも思わない人間が。
俺はそれを間違っていると思わないし、否定するつもりはない。スタンスの違いがあるのは当然だ。
確かにAFOは現実と限りなく近いが、現実の俺は変なヘルメットを被って寝ているわけだし、開発だって『ロールプレイングゲーム』として売り出している。ある意味では、そっちの方が正しいAFOの楽しみ方なのかもしれない。
「もうイヤぁ……私の前で人が死ぬなんて……そんなの、ヤダよぉ……」
だが俺は……俺達は、この世界の住人の死を許容できない。クエストとは言え、一緒に旅をして語り合った仲間だ。はじまりの町に家族を残して、俺達を信じて付いてきたヤツだっている。そんな仲間達を、絶対に死なせるわけにはいかない。
なによりコッチにはエイミーさんがいるんだ。あの人類の宝たるエベレスト山脈を失うわけにはいかない、絶対に。
「お前の計算だと、どれくらいまでなら守り切れる? 軍師さんよ?」
「こ、こちらのプレイヤーは60人……そこから中心部の守りに6人と、戦力外が私を含めて4人なので、50人で防御に当たります。3段階の魔法で削れること、防御陣地の地形有利を考えると……3倍……いえ、4倍までなら……」
いまにも泣きそうな声だが、冷静に分析して答える子系子。こんな状況でも思考が止まっていないのは、さすが軍師を引き受けるだけはある。
ええっと、50の4倍ってことは……。
「200か! 敵は約1000だから、800を削ればいいわけだ! 安倍晴明なら余裕だな!」
家康が強烈なインターセプト。俺が知的に計算結果を発表しようとしていたのに、余計なことをしやがってからに。
しかも余裕って……何を根拠に言ってるんだ?
「ハッハッハッ! オレの勘だ!」
「はぁ……やっぱり家康はテキトーなのじゃ……」
何も考えてないだろうコイツ。頭の上にいるモミジの呆れ顔がありありと目に浮かぶ。当の家康は、モミジの毒舌も相変わらずどこ吹く風だ。
胡散臭げに家康を見つめていると、急に真面目な顔で俺を真っ直ぐと見つめ返してきた。
「安倍晴明、お前は何かを成し遂げる男だ。オレはバカだが……人を見る目だけは自信がある」
いつもの豪快な雰囲気からは想像できないほどの毅然とした態度と物言いに、俺は面を食らってしまう。野生の獣のような風貌も、今は気高い獅子を思わせる……一種の神聖さすら感じた。
「……たぶんな! ハッハッハッ!」
コロッと表情を変えて、いつものように高らかに笑う家康。
すべて台無しだ。ちょっとだけカッコイイと思った俺の気持ちを返して欲しい。クジラみたいに大きく開けたあの口に、今すぐ鉄の剣をぶち込んでやりたい気分だぜ。
しかし、『自分は人を見る目がある』とか言ってきたヤツは、AFOで二人目だ。俺はこういう変なヤツと縁があるのかもしれないな。
「晴明も、たいがいヘンジンなのじゃ」
頭上から何か聞こえてくるが、俺には聞こえない。だって俺はAFOで一番の常識人だから。
「そんなことよりも、俺達の編み出した『必殺技』を使う時が来たな」
「うむ、おもったよりはやかったのじゃ」
レナード商会に泊まった夜……モミジが魔法を覚えられることに気が付いた俺達は、魔法を覚えるついでに連携技を考えていたのだ。「いつか使うかもしれないから必殺技考えようぜ!」みたいなノリだったが、まさか数日中に使うことになるとは……。
モミジが覚えることができる魔法は、大きく2つのツリーに分かれていた。1つが自身の身体強化系で、そしてもう1つが支援・攻撃系といった感じ。おそらく前者が本来のコオニのツリーで、後者が『理から外された者達』としての種族のツリーだろう。
覚えられる数もプレイヤーと違うらしく、レベル13の現在は2つしか覚えられなかったが……俺との連携も考えて、次の2つの魔法を習得することにした。
【鬼化粧……単体の種族を一定時間『鬼人』に変更する。『鬼人』になると守備力・魔守力が0になる代わりに、守備力・魔守力のステータスからの減算分がそれぞれ攻撃力・魔攻力へと加算される】
【鬼酒……敵複数に対して、低確率で酩酊効果を付与する水を浴びせる。酩酊になるとステータスのSP・敏捷・器用が大幅に減少し、低確率で敵の幻影を見るようになる】
今回使うのは……もちろん『鬼化粧』の方だ。
まずは俺の『白虎の印 瑞光』で魔守力を1.5倍した後、『鬼化粧』で鬼人となって魔攻力へとプラスする。そうして最大限に火力の上がった全体攻撃の『火雨』をぶち込み、近づかれる前に敵を殲滅するというTHE・机上の空論……いや、空論となるかがこの一戦に懸かっていると言っても過言ではない!
ちなみに、『瑞光』よりも『鬼化粧』の方が少しだけ効果時間が長い。そして『瑞光』の効果が切れた瞬間、元のステータスに1.5倍されていた差分がマイナスされ、0になっている守備力・魔守力がマイナス値になるという超絶副作用があったりする。
レナード商会で試してみた俺は「え? これバグじゃない?」と思い、運営にすぐ問い合わせてみたのだが……AIからの回答を要約すると「そんな強力な力をリスク無しで使えると思ってんの? 馬鹿じゃない?」みたいな返事だった。まさかの仕様でした!
つまり、『瑞光』の効果が切れる前に、ワオルフを800匹は倒さなければいけないというワケだ。こういうギリギリの展開って、不謹慎だけどメチャクチャ燃えるよな!
「あ、あの、全体攻撃があると聞いていますが……さすがにこの数では……」
「確かに! 一匹一匹ロックオンしている内に、どんどん敵が近づいてきてしまうな!」
全体攻撃は便利な反面、敵をロックオンする工程が発生する。もちろん敵が多ければ多いほど時間はかかり、これがまた魔法職の課題と言われているわけだが……。
「俺に考えがある」
コアトルビーにMP切れ寸前までぶち込み続けた経験が、いまここで活かされるのだ。俺だって何も考えずに魔法を撃ってるわけじゃないんだからね!
「そうか! ならばやってみせろ、安倍晴明! それにモミジ!」
「サー! イエッサー!」
「イエッサーなのじゃ!」
怖さは、ある。
だが……あのクイーンビーベアとの死闘を思い出せば、これくらいのピンチどうってことなく思えてくるから不思議だ。生物の本能で『勝てない』と感じてしまった、あの圧倒的な強者の雰囲気をワオルフの群れからは感じない。
「お、お願いします……私を……みんなを、助けてください!」
必死な表情で俺に向かって頭を下げる子系子。自分の力が足りないせいで、大切な人を失ってしまうかもしれないという恐怖。一度経験した俺には、コイツの気持ちは痛いほどによく分かる。
でも、だからこそ……。
「任せろコケコッコ!」
「ち、ちが! コケコです!」
安心させてやりたい。俺には、その力があるはずだから。
冗談めかして名前を間違えた俺に、まだ涙目ながらもプンプンと訂正し、やがて呆れたような笑顔になる子系子。やっぱりコイツには、幼女らしからぬちょっと大人びた表情がよく似合う。
ここまでやったからには、絶対に負けは許されない。この戦いの行方は、まさに俺達にかかっていると言っても過言ではないだろう。
「……俺だって、成長してるんだ」
レベルも17まで上がり、ステータスは格段に上昇した。色々な魔法も覚えたし、戦闘の経験だって積んだし、たくさんの称号だって手に入れた。
「わらわもいるのじゃ」
そう言いながら、俺の頭を撫でるパートナー。あの時だってそうだった。俺とモミジが力を合わせれば、どんな敵にだって負ける訳がない!
「俺達のコンビネーション! あの犬ッコロどもに思い知らせてやろうぜ!」
「はじめてのキョードーサギョーなのじゃ!」
それはちょっと違う気がする。
……まあ、いいか!
「いくぜ! ★白虎の印 瑞光★!」
空中に描いた『瑞光』という文字が収束し、雷の虎へと変化。大きく咆哮してから、俺の身体へと吸い込まれていく。
「★鬼化粧★なのじゃ!」
俺の頭の上から飛び降りたモミジが、続けざまに和服の袖を振りながら魔法を唱えると、振られた袖から大量の紅い葉がハラハラと舞った。
紅い葉は風に乗ってコチラへやってきて、俺の全身に余すところなく貼りつき、大きな紅葉の蛹を作り出す。
紅葉の蛹の中で行われるのは、安倍晴明という存在、その種族の改変だ。『輪廻転生』で味わった自分の身体が作り変えられるような感覚……そうして作り上げられた新しい身体から感じるのは、暴れ狂う『力』の波動。
「なっ……晴明さま、その姿は……ッ!?」
「ハッハッハッ! 安倍晴明が鬼になったぞ!」
大きく目を見開いて後ずさる子系子と、一瞬の間の後に腹を抱えて大爆笑する家康。全く反応のベクトルが違うが……まあ、2人が驚くのも当然だろう。
あの日に見た紅葉のように紅い肌と、怪しく光る瞳孔の開いた深紅の瞳。そして額から天を衝く2本の角を生やした姿は、もはや人間のソレではない。人知を超えた存在……まさに力の権化とも言うべき存在へと変化したのだ。
「大切な仲間を守るため……そして俺の成長を確かめるために、糧となってもらうぞ」
俺はその力を確かめるようにグッと拳を一度握ってから、ワオルフの群れに向かって低い声で宣戦布告をする。
その声が届いたとは思わないが、遥か遠くでワオルフ達の足が一斉に止まった。それから遅れてやってくるのは、困惑・畏怖・絶望という強い負の感情の気配。
強者と弱者……蹂躙する側と蹂躙される側……その図式が、まさにひっくり返った瞬間だ。
「その毛皮に付いたガンコな汚れ、キレイサッパリ洗い流してやるぜ! ★朱雀の印 火雨★!」
獣のような鋭い爪が生えた、異形の指先で描く『火雨』という文字。やがて文字は収束すると、今にも暴発しそうなほど強い魔力を秘めた火の鳥へと変化し、真っすぐに頭上へと羽ばたいていった。
もはや視認できないほど……雲の上まで飛び立った火の鳥は、やがて世界中まで木霊するような大声で一鳴きした後――。
――太陽と見紛うほどの熱量と光量を放ち。
――――大きな音を立てて爆発した。
平原を焼き尽くすように、雲を突き抜けて地表へと降り注ぐ火の雨。
50vs1000……戦力差20倍という、一見すると絶望的な戦いの火蓋が、まさに切られた瞬間だった。
VRゲームの四半期ランキングが順調に上がって66位です(`・ω・´)
本当にありがとうございます!
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
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