52話 軍師は鶏幼女!?
2020/08/15 この話のタイトルを変更。旧タイトルは次話で使用。
「どうしたのじゃ晴明、そんなへんなカオをして」
「酸っぱい物を食べたみたいな顔ですね」
ウインドウを操作してエリアチャットを見ていたが、話が一段落したために顔を上げると、モミジとエイミーさんが声をかけてきた。エリアチャットが見れない2人はポカンとした顔をしている。
「なんでもないやい」
……エリアチャットで醜態を晒したなんて言えない。でも仕方ないじゃないか。あんな綺麗にダチョウルートに乗せられてしまえば、誰だって抗えないだろう。ジョブを隠したことだけでも褒めてもらいたい。
今いるのは、馬車や木材で構築されたインスタント防御陣地の中心部。エイミーさんや商人など、NPC達が集められている場所だ。半径30メートルほどの場所に商人・旅人が40人弱と、それを守るプレイヤーが6人いる。
プレイヤーを除けば戦闘力は皆無と言ってもよく、ここまで進行されたら俺達のゲームオーバーだ。護衛クエストがいつのまにか拠点防衛クエストになっている件について。
「モミジの作戦通り、敵が見えたら魔法をぶっ放すぞ」
他のプレイヤーはタイミングを合わせるらしいが、なぜか俺は勝手にどうぞって感じだった。
アレコレ命令されるのは性に合わないし、これはこれでよかったんだけど、仲間外れにされている感じでちょっとだけ寂しい。
「よしよしなのじゃ」
「なぜ撫でる」
急にモミジが俺を撫でてきた。わざわざエイミーさんに肩車までしてもらっている。これはどういう状況なんだ。
「晴明がさみしそうだったのじゃ」
「……そんなことはない」
ハクといいモミジといい、俺は幼女に頭を撫でられる星の元に生まれているのだろうか。幼女のやわらかぷにぷにおててで頭を撫でられる感触……正直、やみつきになります!
「晴明さん……」
「待ってくださいエイミーさん、俺はロリコン「敵が来たぞ――――!」です! ってオイ!」
突然、家康の大声が頭上から降ってきた。あの筋肉達磨に遮られた所為で、俺がロリコン宣言をしたみたいになっているじゃないか。
どうしてくれる!
せっかく和解していたエイミーさんの目が、犯罪者を見る目に変わっているぞ!
声がした方を見上げると、一番大きな馬車を改良して作った櫓の上に立ち、持ち前の大声で敵襲を知らせている家康がいた。
いや、エリアチャット使えよ。
「……♪」
胡散臭げな眼で家康を見ていると、家康の横にいる幼女が笑顔でコチラに手を振ってきた。
青いボブカットに、サファイアのように輝く青い瞳。130cmくらいの小柄な体型を紫色のローブで包み、右手には頭と同じくらいのサイズの水晶玉を持っている。
一番の謎が……頭に付いた赤い鶏冠。白いローブに繋がっているフードの頂点に、まさに鶏の頭に付いている鶏冠がデンと自己主張しているのだ。わけが分からないよ。
なんなんだあのミステリアス幼女。俺に愛想よく手を振っているのもよく分からない。あんなファーストインパクトが大きい幼女と会った記憶は無いんだが……どうして俺は幼女と謎の縁があるのだろう……。
「安倍晴明! そろそろ敵が見えるぞ! 安倍晴明! 聞こえているか! 安倍晴明!」
そして目敏くも俺を捕捉した家康が、俺に向かって大声で叫ぶ。聞こえてます。大丈夫なんで、そんなに名前を連呼しないでください。ちょっと恥ずかしいです。
ひとまずモミジを肩車して装備。それから馬車の外側に作られた柵を利用し、華麗に2段ジャンプをする。それだけで、家康がいる高さ5メートルくらいの櫓へと飛び移ることができた。
現実の体じゃ絶対にできない芸当だが、ステータスによって強化されたこの世界なら余裕のよっちゃんだ。
「ハッハッハッ! お前は猿みたいなヤツだな!」
「まるで本当の身体のよう……いえ、現実の身体よりも自由自在に動かしていますね。もはや感嘆の一言です」
俺のダイナミックな出現に、大爆笑する家康と称賛する鶏幼女。幼女のクセに小難しいことを言うじゃないか。幼女なら頭の上のモミジみたいに「すごいのじゃ~!」とかの方が可愛げがあるというものだぜ。
「晴明、ニヤけているのじゃ」
「歯にスルメイカが詰まっただけだ」
別に幼女に褒められたって、嬉しくないんだから! 嬉しくないけど! お菓子あげちゃう! 幼女はみんなお菓子が大好きだからね!
「いえ、戦闘前なのでお菓子は結構」
普通に断られてしまった。
コイツ……まさかネカマか!?
AFOで幼女をロールプレイすることは、理論上可能である。キャラクタークリエイトで性別を変えることができるし、声も体型に依存するため、変に自力で声を作ったりする必要もない。ある意味では、他のゲームよりハードルが低いかもしれない。
ただし『理論上』と言ったように、現状では不可能と言っていいだろう。それは偏に、『公益社団法人日本ロリコン協会連盟』というクランが原因だ。
このクランの会員は、幼女判定の精度が99.9パーセントとまで言われているエリート変態達。その判定によって幼女じゃないことがバレてしまい、アカウント削除することになったネカマは星の数ほどもいるとか。
この鶏幼女(仮)は、その最強の敵に立ち向かおうとしているのだ。
頑張れ! 鶏幼女(仮)! 99.9パーセントの壁を越えてみせてくれ!
「こうして話すのは初めてですね、晴明さま。私は『子系子』といいます。家康さまから軍師に任命されたので、どうぞよろしくお願いします」
心の中でエールを送ってみるも、今度は華麗にスルーされてしまった。初対面なのに俺の扱いがテキトーすぎない?
それにしても……『鶏→コケコッコー→コケコ→子系子』とは、なんと安直な……というか、孫子じゃなかったんだ……。
「――ってお前か! 俺をエリアチャットで嵌めやがったのは!」
忘れもしない。エリアチャットでダチョウメソッドを使い、俺にステータスを公開させた張本人じゃないか。せっかく『隠者の指輪』まで使ってステータスを隠しているというのに、コイツのせいで全てが台無しだ!
「完全に自滅でしたが」
「…………」
ぐぅの音も出ない。確かに俺が晒さなければよかった……だけど! あの流れで言わないのは無理じゃん! ノリってそういうものじゃん!
「私はノリのいい男性、好きですよ」
「そんなこと言われても許さないからな」
幼女に好きと言われたところで、俺はまだロリコンじゃないんだ。小指の爪ほども嬉しくないぞ。
「ま~た、カオがニヤけているのじゃ」
「ハッハッハッ! 安倍晴明は幼女の尻に敷かれる趣味があるのか!」
どんな趣味だ。
くそう……この幼女、かなりあざといぞ。幼さを際立たせるボブカットの間から覗く、宝石のような青いまんまるオメメ。それが上目遣いに見つめてきて、「好きですよ」なんて言うんだから、男だったら嬉しくなっちゃうはず。
しかし、疑惑が確信に変わったぜ。コイツは間違いなくネカマか、女だとしても間違いなく幼女ではない。なぜなら、こんなにあざとかわいい幼女がいるはずがないから!
「そうですね……容姿にはあまり手を加えていない、とだけ言っておきましょう」
そう言って意味深に微笑む子系子。うぅむ、この世界の幼女はミステリー。
「安倍・ロリコン・晴明よ! 幼女と戯れるのは後にしろ! 敵が見えたぞ!」
「勝手に変なミドルネームを付けるな!」
毅然として言い返すものの、家康の視線は遥か遠く……四方八方から迫る砂煙へと注がれている。
「ちょ、ちょっと待ってください! 事前の情報と違います! あ、あれはどう見たって――」
子系子の目が大きく見開かれていき、言葉を失ったように口をパクパク。ニワトリというより鯉みたいだ。
俺も同じように砂煙を見つめていると、だんだんその発生源がオオカミの群れだということが視認できた。
しかし、オオカミにしては大きいし、顔つきが凶悪な魔物のソレだ。実物を見るのは初めてだが、アレが件のワオルフだろう。ここまでは聞いていた話と違いはない。
しかし、これは……。
「――1000匹以上の大群です!」
10や20じゃきかない数とは聞いていたけど、さすがに振り幅が大きすぎません!?
総合評価が2800ptを突破しました!
VRゲームの四半期ランキングも順調に上がって68位です(`・ω・´)
本当にありがとうございます!
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
次回は土曜日に投稿予定!!