49話 おっぱいは太陽なんだ
大量の商品を積んだ10台を超える荷馬車の隊列が、整備された街道を並んで進んでいく。
その周りを歩くのは、護衛クエストを受注したプレイヤー達、それにアルヒドに行きたい旅人達があわせて50人以上。早歩きほどのペースでアルヒドへと向かっている。
「うぅん……」
はじまりの町を出る時には、たくさんの町人や商人に声をかけられたりした。
『すべて晴明様にかかっています! どうか無事にアルヒドまで送ってくださいませ!』なーんて送り出されたもんだから、俺とモミジも気合を入れて魔物に備えていた訳だが……。
「なんだか拍子抜けだなぁ」
「ぜんぜんデバンがないのじゃ!」
はじまりの町を出てそろそろ半日くらいだろうか。この大人数に魔物達もビビっているのか、ワオルフどころか他の魔物から襲撃されることもなく、あと数時間でアルヒドまで到着するというところまで来ていた。
「魔物が出ないのはいいことじゃないですか~お菓子食べてまったりしましょうよ~」
「モグモグ……このクッキーおいしいのじゃ!」
最初は俺達も、外で護衛しようと思っていたんだよ? しかし、他のプレイヤー達(主にロリ協)に「モミジちゃんを歩かせるわけにはいかない!」と言われ、結局魔物が出てきた時の秘密兵器として馬車へと押し込まれてしまったのだ。
そうして馬車の中で待機していたはいいものの、警戒していても魔物の襲撃は皆無。「休憩するのも仕事だ!」ということで、魔物の警戒は外のプレイヤー達に任せ、俺達はエイミーさん持参のお菓子をつまんでまったりしているのだった。
「急にアルヒドへ転勤なんて言われた時は、この世の終わりみたいな気分でしたけど……なんだか旅行気分で楽しくなってきました」
馬車の揺れで胸部の貨物を揺らしながら、楽しそうに微笑むエイミーさん。もちろん膝の上にはモミジを装備だ。いつのまにか定位置みたいになっている。モミジは俺の式神なのに……。
「バシャにのるのハジメテなのじゃ~ふかふかなのじゃ~」
ふかふかなのはエイミーさんのふとももだ。馬車には厚揚げ並に薄いクッションしか存在しておらず、俺のヒップは既に限界を迎えている。このままでは二つに裂けてしまいそうだ。
「俺もエイミーさんのふとももの上に……」
「何か言いましたか?」
「いや~、今日も気持ちのいい快晴だなぁ~」
分かっているさ、サイズ的にも倫理的にもアウトだということは。半分冗談なんだから犯罪者を見るような目をしないで欲しいよね。
それにしても素晴らしい青空だ。いつもは曇り空のような黒いウェイター服だが、今日は仕事じゃないためか、透き通るような青いワンピースを身に付けている。そして快晴をもっこり押し上げる、2つの大きな太陽が――。
「……私の胸に太陽はありませんよ」
「おっと間違えた」
無意識にエイミーさんのEを見ながら喋っていたようだ。でもこんな手の届く距離に存在するのがいけないと思うの。男だったら自動追尾機能を生まれつき持っていから仕方ないのネ。
「それにしても、エイミーさんが専属でよかった。他のギルド職員と話したことは無いし、エイミーさんなら俺も信用できますから」
「最初のレベル17にもビックリしましたが、それを優に上回る秘密が盛り沢山ですもんね……でも晴明さんと交流がなくても、きっと私が専属になったと思います」
つい昨日のことなんだが、エイミーさんが「レベル17ぁ!?」と叫んでいたのを懐かしく感じる。思い返せば無駄に濃い一日だったな……。
「交流がなくても専属って、どうしてです?」
いまいち意味が分からなかったため、あまり考えずに問いかけると、エイミーさんは少しだけ言い辛そうに続けた。
「……私、孤児なんです。小さい頃に住んでいた村が魔物に襲われて、死にかけているところを支部長に助けてもらって……だから支部長には恩があるし、絶対に裏切ることもありませんから」
「……無神経に、すみません」
思っていたよりも重たい話だった。これは興味本位で聞くようなことじゃなかったかもしれない。俺が謝ると、エイミーさんはフルフルと首を振る。
「いえいえ! もう過去のことですから! はじまりの町に家族もいないし、支部長に恩があるということで、晴明さんの専属となるには適任だったってことです!」
「つまり、俺とエイミーさんは一緒に旅をする運命だったってことですね!」
「ふふふっ、そうとも言えるかもしれませんね」
笑顔で俺の冗談にノってくれるエイミーさん。過去を悲観している様子はなく、どちらかと言うと、この話を聞かされる俺達を心配して言いよどんだらしい。ホッと安心したように溜め息をついている。
なんか、強いな。俺とそこまで年齢も変わらないだろうに、この『死』が身近な世界で、きっとたくさん辛い思いや苦しい思いをしてきたのだろう。それでもこうやって笑えるエイミーさんが、とても俺には眩しく見えた。
「わらわもエイミーがいっしょでうれしいのじゃ!」
「う~~~ん、やっぱりモミジちゃんかわいいです! むしろ転勤最高です!」
膝に座るモミジの上目遣いにノックアウトされ、瞳にハートマークを浮かべて頬擦りするエイミーさん。すっかりモミジもエイミーさんに懐いたようで、まるで仲の良い親子や姉妹にも見える。
……待てよ!? モミジと姉妹ということは、俺とモミジが夫婦だとすれば、エイミーさんは義理の姉になるのか!?
結婚して一緒に住み始めたモミジと俺。そして同じ建物に住む、少しだけ年上で義理の姉のエイミーさん。健康的な男女、同居、何も起きないはずがなく……!?
『ダメだよエイミー、俺はモミジの夫なんだ……』
『ちょっとだけならいいじゃない、先っぽだけよ。お義姉ちゃんの言うことを聞けないって言うの?』
『あ、ああ! そんな! このままでは、おっぱいで窒息死してしまう!』
『ほらほら、お義姉ちゃんのエベレスト山脈は、妹のロリータ平原とは違うでしょう?』
『うぼぼぼぼ……すまないモミジ。やっぱり、エベレスト山脈には勝てなかったよ……』
――このままではマズイ! 夫婦の絆に亀裂が走ってしまう! 不倫ダメゼッタイ!
「……今からでも支部長にかけあって、転勤を考え直してもらおうかしら。身の危険を感じます」
「はぁ、晴明はあいかわらず、エイミーのおっぱいばっかりなのじゃ。これのナニがいいのじゃ?」
「あっ、モミジちゃん、ちょっと、んっ!」
呆れた顔で俺を見つつ、エイミーさんの胸を揉みしだくモミジ大明神。モミジの小さな手がパン生地を捏ねるように動く度、エイミーさんのおっぱいパンもドンドン形を変えていく。
いいぞ、もっとやれ! なんてこった! スクリーンショットを撮る手が止まらねぇ!
「あん! だ、だめ! 晴明さんは外に出ていてくださいっ」
「オゲッ」
涙目のエイミーさんに馬車の外へと蹴り出され、顔から地面に着地してしまった。チクショウ! あと1000枚くらいスクリーンショットを撮りたかったのに!
「頭ぁ……みんな真剣に護衛してるんですから、昼間っからそういうのは……」
顔に付いた砂を払う俺の前には、呆れた顔をするサンゾックがいた。周りでは前屈みになりながらも武器を杖代わりにして、えっちらおっちら歩くプレイヤー達がコチラを睨んでいる。
どうやらエイミーさんの悩ましい声が外まで漏れていたようだ。まったく男ってヤツは仕方ないね、節操がないんだから。
「……前屈みで言っても説得力の欠片もねぇでさぁ」
「ちゃ、ちゃいますねん! ちょっと腹痛が……」
「頭がエセ関西弁になった時は、なにかをごまかす時なんだなぁ」
「分かりやすいでゲス!」
クソッ! こういう時だけ調子に乗りやがって!
こうなったらもう一度決闘をして、自分の立場ってヤツを分からせてやる必要があるかもしれないな。そして二度と逆らえないようにしてやるぜ。
「いやぁ……さすがに頭に勝てるはずもないんで……」
「ブルブル……もう火のシャワーはごめんなんだなぁ」
「棄権でゲス!」
なんて情けない山賊共だ。
「山賊ロールしてんのにヒヨってんじゃねぇよ! オラッ!」
「ギャー! って決闘も成立してないんだからダメージ入りませんぜ」
俺が鉄の剣で切りかかるが、サンゾックは防御もしない。サンゾックの言う通り、剣が当たってもダメージにならないのだから当然だが、そのノーガード姿勢を見て更に溜まるフラストレーション。
「うるせえ関係あるかい! 俺のストレス発散だ!」
「ギャー! ダメだ! 頭が暇すぎておかしくなっちまった!」
「兄貴! 下剋上の時なんだなぁ!」
「やっちまえでゲス!」
俺が剣を持って追いかけ回し、逃げるサンゾック。それを周りで煽る子分ズと、冷めた視線で眺めるプレイヤー達。なんとも平和な時間だ。こんな時が、ずっと続けばいいのにな。
「敵襲! 斥候からの報告では、10分ほどで接敵する距離! 例のワオルフの群れです!」
平和な時間、即終了!
人は平和の中にいると、いつまでも平和が続くものだと思ってしまうものだ。しかし平和とは砂上の楼閣のようなもの。いつ雨が降り、川が氾濫し、突風が吹いて倒れるか分からない。
俺はいま、AFOから平和の尊さと脆さを学んだ。
AFOは……哲学なんだ!
「頭ぁ! アホなことやってる時間はありませんぜ! 囲まれる前にバリケード作らねぇと!」
さっきまで追いかけっこをしていたはずのサンゾックが、いつのまにか迎撃の準備に入っている。見たこともない真剣な表情をしていて、これでは俺だけ遊んでるみたいじゃないか。
「わ、わかってるやい!」
とは言ったものの、イマイチなにをすればいいのか分からない。迎撃って言われても集団戦なんかしたことないしなぁ。近くにいたプレイヤーに聞こうとしても、みんな真剣な表情で荷馬車を移動したり、防壁のようなものを築いたりしている。
「あ、あの~、なにか手伝うことは……」
「ねぇよ! 忙しいんだから話かけんじゃねえ!」
試しに近くのプレイヤーに話しかけてみるが、一蹴されてしまった。なんだかみんなピリピリしてるなぁ……ってプレイヤーネームをよく見ると「会員No.8」……ロリ協の連中だった。こりゃ間が悪い。
うぅん、どうしよう。
「サンゾック、なにか手伝うこと……」
「こっちはいいんで、お嬢のところに戻ったらどうですかぃ?」
「そ、そうだな。俺もそうしようと思っていたところだ」
サンゾックが作業をしながら、顔だけで振り返って答える。なんだこの山賊、無駄に手際がいいぞ。子分ズと連携して次々に木の柵を作り上げていっている。これは確かに手伝う必要が無さそうだ。
サンゾックと追いかけっこをしている内に、元の場所から離れてしまっていた。確かにモミジとエイミーさんの様子も気になることだし、一度戻ることにしようか。
俺はなんだか疎外感を覚えつつも、モミジとエイミーさんが乗っていた荷馬車の方へと歩いていくのだった。
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