48話 大人ってズルい
「いやぁ、アッシ達も狩場を移そうかって話してたんで、ちょうどよかった!」
「頭がいればアルヒドまでの道は安心なんだなぁ」
「むしろモンスターの方が逃げていくでゲス!」
「…………」
冒険者ギルドに着いた俺達を待っていたのは、一緒にアルヒドへ向かう気マンマンの山賊一味と、沈んだ顔で大荷物を持ったエイミーさんだった。
プレイヤーである山賊一味がアルヒドに向かうのは分かる。しかし、なぜNPCであるエイミーさんまで旅支度をしているんだ?
「……晴明さんのせいです」
俺と旅支度、何が関係あるのだろうか。別にエイミーさんと付き合ってるわけでもないし、俺に付いて旅をする必要はないと思うんだけど。
「つ、つき、付き合う!? なななにバカなことを言っているんですか、まったく! そういうのは、もっとちゃんと手順を……」
「……エイミーさん、動揺しすぎですぜ。そりゃ頭は将来有望ですがね。隣にお嬢がいるんで、さすがに望み薄でさぁ」
「ち、ちちがいます! そういうことに免疫がないだけで、晴明さんがどうというわけじゃ……」
乳がいます? そりゃ立派なお方が胸部におわしますがね。
二人で何かコソコソと話しているが、そんなことより理由を教えて欲しいんだけど……。
「おっほん! あの、支部長からなにも聞いていないんですか?」
「アルヒドへ向かう前に、一度冒険者ギルドに寄ってくれとしか」
俺がそう答えると、「全部丸投げじゃないですかぁ」とエイミーさんが頭を抱えてしまう。そういえば、呼びつけた当のジャンがいないな。
しばらくエイミーさんは頭を抱えていたが、やがて大きな溜息を一つして話しはじめる。
「……昨日の夜、荷物をまとめてアルヒドの本部へ向かうように、突然支部長から言われました。晴明さんがアルヒドへ行くので、それに付いていきなさいと」
「なるほど、転勤ですか」
社会人は大変だなぁ。エイミーさんは新人らしいし、上司の命令なら仕方ないよね。
「……それから、そのまま晴明さんの専属受付嬢として働きなさいと言われました~。給料がグーンと上がった代わりに、知りたくなかった秘密をたくさん抱えてしまいましたよ~」
専属なんて制度があるのか。確かに俺は秘密が多いし、エイミーさんみたいな信用できる人がいてくれるのはありがたい。
ジャンが昨日言っていた、「きっと楽しい旅路になりますよ」というのはこのことか。確かに楽しくなりそうだぜ。主に目の保養的な意味で。
「給料が上がったならラッキーじゃないですか! しかも俺とずっと一緒にいれますよ! 役得ですね!」
「そうですね~」
励ましたつもりだが、エイミーさんの目からハイライトが消えていく。もはや心ここに非ずといった風で、虚空を見つめながらブツブツとジャンへの恨み言を呟き始めた。ダメだこりゃ。
お手上げのポーズをする俺をチラリと見てから、モミジがトテトテとエイミーさんの元へと歩いていき、袖を握って上目遣いで話しかける。
「エイミーとずっといっしょなのじゃ?」
「……! そうですね! 晴明さんと一緒ということは、モミジちゃんとも一緒ということじゃないですか! もしかして役得なのでは!?」
モミジのたった一言で、電気のスイッチをONに入れたようにエイミーさんの顔が一気に明るくなった。おかしいな。俺だってモミジと同じようなことを言ったはずなのに。
すっかり元気になったエイミーさんは、モミジを抱っこして胴上げを始めている。メチャクチャ嬉しそうですね! なんか悔しい!
「しょうがねぇですよ。お嬢はみんなのアイドルですから」
「掲示板では専用スレまで出来てたんだなぁ」
「ちなみに頭のアンチスレもできていたでゲス。エイミーさんが専属なんて、さらにアンチが増えそうでゲス」
俺のアンチスレなんて出来ているのか……昨日の一件もあり、良くない注目のされ方をしているとは思っていたが……絶対にそのスレッドは開かないようにしよう。
ネット社会を生き抜くコツは、スルースキルを磨くことだって偉い人が言っていた。
「頭は短気だからなぁ。明日にはアンチスレでバトルしてる未来が見えまさぁ」
「掲示板といえば……オマエ達が賞金欲しさに俺を追いかけたこと、忘れてないからな」
スルースキルを磨くことを決意した俺にも、どうしてもスルーできないことはある。それはそれ、これはこれというヤツだ。
オニゴッコ中はついに遭遇しなかったが、10万Gという賞金が俺にかかった時、すぐに寝返った山賊一味の書き込みがあったのだ。
「「ゲゲゲェッなんだなぁ(でゲス)!?」」
「どうしてバレたんですかぃ!?」
「口癖をそのまま掲示板で使うアホと、俺を『頭』と呼ぶアホはオマエ達だけだ」
まるで匿名の意味がない。もはやチビガリとデブは隠す気ないだろう。
俺の名推理を聞いた山賊一味はガックリと肩を落とし、無言でお金を差し出してきた。コイツ等は俺をなんだと思っているんだろう。なんでも金で解決するヤ●ザじゃないんだぞ。
まったく……3人あわせても200Gかよ! シケてやがるぜ!
「なるほど。晴明殿がアルヒドに向かわれるために、アルヒドへ向かう護衛クエストが多かったのですか」
善意の寄付金を懐に納めていると、ずっと後ろに立っていた会員No.2が急に喋り出した。ロリ協の存在を完全に忘れていたなんて言えない。
いつのまにかピンク色の集団は解散しており、道中でも話していた会員No.2と会員No.40の不倫カップルだけになっている。
「護衛クエスト? 俺となんか関係あるのか?」
俺が質問をすると、会員No.40が引き継いで説明を続ける。
「はじまりの町とアルヒドを繋ぐ街道に、どうやら厄介な魔物が出没しているらしいのです」
「厄介な魔物?」
「はい。ワオルフは知っていますか?」
たしか黒く長い毛で全身を覆い、鉄も貫通するという鋭い牙と爪を持ったオオカミのような魔物だったはずだ。
ただし、オオカミのように群れることはなく、単独で行動していることが多いらしい。パーティーであればそこまで討伐に苦労しないと聞いたぞ。
「それが、群れで襲ってくるらしいのですよ。しかも10や20じゃきかない数で」
「なるほど、それは厄介だな」
ワオルフの討伐推奨レベルはレベル5と言われている。しかし、それは単体であればの話だ。それが数十体を相手にするとなれば、討伐推奨レベルは格段に跳ね上がるだろう。
はじまりの町からアルヒドに移動するプレイヤーは、レベル5前後が多い。護衛クエストの失敗が相次ぎ、NPCに少なくない被害が出たこともあって、アルヒドに向かう商人や旅人が足止めを食らっている状態なのだと言う。
そこでやってきたのが、レベル17の俺という存在だ。ギルド支部長であるジャンはこれをチャンスだと思ったらしく、俺の出発にあわせて一斉に送ってしまおうという計画を立てたらしい。
昨日の夜から割のいい護衛クエストが多数出ており、プレイヤーの間でも話題になっていたようだ。
ワオルフの群れが出てこないならそれでもいいし、もしも出てきたらなら、あわよくば高レベルの俺に討伐してもらおうという腹か。
「クッ……上手く利用された……」
だから俺がいつアルヒドに向かうのかを聞いてきたり、出発前に冒険者ギルドへ寄るよう頼まれた訳だ。伊達にギルド支部長まで成り上がってないね。
「ちなみに、我々も護衛クエストを受注しています。元々この件の調査をするために、最前線から戻ってきていたのです」
横目でチラチラとモミジを盗み見ながら、会員No.2が言う。まるで説得力がない。完全に目的は変わっているだろう。
しかし、会員No.2の金ピカマッチョモードはかなり強かった。隣の会員No.40も弓の腕はかなりのものだったし、魔物が出てきた時は頼りになりそうだ。
「アッシ達も当然受注してやすぜ!」
なぜか対抗するようにサイドチェストをキメながら宣言するサンゾック。コイツ達はザコだから戦力外だ。俺との戦いで装備も破損しているし、肉壁くらいしか使い道はないだろう。
「ひでぇ! これでもレベル8だから、キャラバンの中では強い方なんですぜ!?」
アルヒドへ向かう商隊を、キャラバンと呼ぶことになっているらしい、ファンタジーらしくてカッコイイじゃないか。
しかし、レベルだけ見ればそこそこかもしれないが、ステータスには存在しない『知力』が壊滅的なんだよな……大人なんだからもっとしゃんとして。
「うぅ……あんまりだぁ……」
すっかり肩を落とすポーズが定番化したサンゾック。いと哀れなり。
「兄貴、元気を出すんだなぁ」
「ギャハハハ! やっぱり兄貴に知能労働は向いてないんでゲス!」
まるで自分達は関係ないとばかりに、サンゾックの肩を叩く子分ズ。職場環境が劣悪とか言っていたが、コイツ達の問題な気もしてきたぞ。少しだけ上に立つ人間の大変さを実感した安倍晴明であった。
「俺もどうせならクエスト受注しておくか」
ここでグチグチ言ってても仕方ない。どうせアルヒドに行くことに変わりはないのだから、ついでにクエストを受注して小遣い稼ぎをしてやろう。
なぜか殴りあいに発展している山賊一味は放置し、クエスト掲示板から護衛クエストを探すが……会員No.2が言っていたように、護衛クエストだらけだった。条件や報酬もそこまで大きな差はなく、どれを選んでも変わらなそうだ。
「お、レナード商会があるじゃん。これでいいか」
詳細を見てみると、どうやらアルヒドまで買い付けに行くらしい。もちろんレナードさん本人ではなく、商会のメンバーが担当するようだが。
どうせ受けるなら顔馴染みの商会がいいだろう。ケチなレナードさんらしく、報酬も他より低めだから誰かが受注する気配もない。
【『護衛クエスト:商人を守り隊』を受注しました】
【報酬:1000G】
「護衛依頼を受注していただき、誠にありがとうございます!」
「うおっ!?」
俺がクエストを受注するのを見計らっていたかのように、若い男が後ろから声をかけてきた。
緑色の高そうな服の胸元には、レナード商会を表すバッチが付いている。どうやらこの男がレナード商会の買い付け担当らしい。
「貴方が安倍晴明様ですね。商会長からお噂はかねがね伺っております!」
どんな噂なんだろう。ロクな噂じゃなさそうだ。
「『報酬は相場よりも安く設定しておけ。どうせガキが受注するからな』と言っていました。商会長に信頼されているんですね!」
それ絶対に信頼じゃないよね。パシリに使われてるだけだよね。俺の善意を踏みにじるセリフだよねそれ。
待てよ……このクエストが既に貼られていたということは……。
あのオッサン! 一晩泊めてくれたのも、俺に恩を着せるためだったのか!? クソ、やられた!
こうなったらクエスト破棄して、他の商会の護衛クエストを――。
「それでは! アルヒドに向かうキャラバンは東門に集まっていますので、準備ができたら東門まで来てくださいね!」
ドヒューンという効果音が付きそうなほど、一目散に逃げていくレナード商会の男。ちょっと抜けたフリをしていたが、まさか俺がクエスト破棄しようとしているのを察知して逃げたのか……?
これまた完全にしてやられたぜ。別にメニューからクエスト破棄は可能だが、ここで破棄するのも後味が悪い。
「……まあ、いいか」
一宿一飯の恩義は忘れてはいけない。これで貸し借り無しっていうことで、納得しよう。よし納得した。俺って単純。
「そろそろ行きますかね~」
めんどくさいことはサッサと忘れて、新天地に向かって出発しよう。
なぜか神輿のようなモノで担がれ始めているモミジに愕然としつつ、俺はプレイヤー達を引き連れて、はじまりの町の東門へと向かうのだった。
評価(★★★★★)してくれた人数が、100人を突破しました!
本当にありがとうございます!
小説を書くモチベーションになるので、ぜひぜひ[ブックマークに追加]と、↓↓にある★★★★★から評価をよろしくお願いしますm(__)m
次回は土曜日更新予定です(`・ω・´)




