47話 VRMMOにリアルを持ち込むんじゃありませんよ!
「いやぁ、よく寝た。おはようございます、社長」
「おはようなのじゃ~」
「……ウチは宿屋じゃねぇんだがなぁ」
オニゴッコに疲れた俺は、商業地区にある宿屋でログアウト……しようとしたら宿屋前にプレイヤーが数百人待機しており、イヤな予感がしたため近くのレナード商会に逃げ込んで、一晩だけ泊めてもらったのだ。
あとで掲示板を確認してみると、『【見つけたら】安倍晴明の出現情報【囲んで殺せ】』とかいうキ●ガイみたいなスレッドが立ち上がっており、あの宿屋前にいたプレイヤーは全て敵だったことが分かった。一人に対して追っ手が1000人近いって……むしろ逃げきった俺に賞金の10万Gくれないかな。
さすがに初心者の町ということもあり、追っ手がそこまで厳しくはなかったのは幸いだった。ピンク集団の連携がえげつなかったのと、ピンク幼女だけ異様に強かったくらいだ。
そのピンク幼女も「どういのうえなのじゃ」とモミジが言った途端、目を輝かせて「いいですね!」と笑顔になり、ペコリとオジギをして「明日の予習があるのでアイは帰ります」と去っていった。この世界の幼女はミステリー。
どうやら0時でオニゴッコも終了していたらしく、「以降は報酬も出ないので、むやみに安倍晴明へ危害を加えないように」という言葉でスレッドが締めくくられていた。まさに一時的なイベントだったようだ。この分なら、もう外に出ても大丈夫だろう。
「それじゃ俺は行きます。また町にきたら寄りますんで」
「おう」
俺がそう声をかけると、商品の目録を見ながら返事だけするレナードさん。なんともアッサリしたものだ。まあ、挨拶は昨日したからいいか。
「シャチョー! ありがとなのじゃ!」
「おう! 今度はもっとオイシイお菓子を用意しておくぜ!」
「わーいなのじゃ!」
いつのまにかモミジとレナードさんが仲良くなっている。このモミジの社交性はいったい誰に似たのだろうか。あのカタブツのレナードさんがニッコリして手を振ってるぞ。俺の時と対応が違いすぎる。
べ、別に、悔しくなんてないんだから……ッ!
「よし、行くか」
「リョーカイなのじゃ!」
ということで、レナード商会を出て、冒険者ギルドに向かうことにした。
アルヒドに向かう前に冒険者ギルドに寄って欲しいと言われていたからな。約束は果たす男、安倍晴明です。どうぞAFOキャラクター投票で清き一票をよろしく! そんな投票ないけどね!
しばらく大通りを歩いていると、ピンク色の鎧を着たプレイヤーが少しずつ集まってきて、やがて数十人が距離を開けて俺を囲み始めた。
イベントの続きかとも思ったが、特に攻撃をしかけてくることもない。なんなんだコイツ等は。
「昨日は出しに使うような形になり、申し訳ありませんでした」
俺が訝しげに見ていると、冒険者ギルドでも対峙した中年男が進み出てきた。そして綺麗に腰を折り曲げて謝罪をする。いや、だったら最初からやめて欲しかったんですけど……。
「『イベント以降は禍根を残さないように』と、会長であらせられるアイ様のお言葉がありましたので。個人としてはこの場でタマを捻り潰したいのが本音ですが、アイ様に逆らう訳にも参りません」
「取締役、殺意が漏れています」
威嚇するように筋肉を盛り上げる中年男……「会員No.2」を、同じくギルドでも隣にいた若い女性……「会員No.40」が窘める。
「殺意が漏れています」とか常識人を装っているけど、この人も大概だ。弓を持つ手が震えているし、力強く握りすぎてミシミシ言っている。アンタも絶対に納得してないだろ。
このピンク集団は『公益社団法人日本ロリコン協会連盟』……略して『ロリ協』と呼ばれるが、ロリータの愛護団体みたいなクランなのだという。
別ゲーでも有名だったらしく、掲示板ではロリータへの狂信者っぷりが凄まじいと評判だった。プレイヤーネームが名前ではなく、番号ということからしてヤバイ。刑務所かよ。
ランドセルに交差するリコーダーの紋章が刻まれた胸を誇らしげに張り、俺達をボディーカードのように囲んで警護するロリ協のメンバー。これどういう状況やねん。
「……イベントの気分を引き摺って、晴明殿を害する不届き者が現れるとも知れません。我々が騒ぎ立てた分、この町の中くらいは安全に過ごせるよう気を遣いなさいと会長が仰ったのです」
不満を隠そうともせず、ブツブツと説明する会員No.2。変なところでちゃんとしている集団だな。このVIP待遇は安全かもしれないけど……メチャクチャ目立つし、逆に迷惑なんだよなぁ……。
もちろん口には出さない。絶対にめんどくさいことになるからな。いっそこの状況を楽しんでしまおうと、俺は大統領気分で冒険者ギルドまで歩いていくのだった。諦めって大事だよね。
途中で俺に弓矢が飛んできたが、近くにいた会員No.40が弓矢で撃ち落とすという曲芸を披露し、犯人と思われるアーチャーはすぐに捕縛されてどこかへと引き摺られていった。どこからか響く断末魔の叫び。俺は何も見なかったことにした。だってこわいから。
「そういえば、なんで取締役なんだ?」
「私はリアルで取締役の会社に勤めているのです」
ただ歩くのも暇なので、テキトーに気になったことを聞いてみると、即座に会員No.40が答えてくれた。リアル上司とゲームするの流行ってるのかな?
「ここでは副会長と呼んでくれと言っているのですがね。彼女はどうにも頑固で……」
しかも副会長なのかよ。No.2だから偉いとは思っていたけど、つまりは生粋のロリコンってことじゃないか。こんなのが取締役で大丈夫なのか、日本のどこかの会社。
「じゃあ、二人きりの時みたいに『タダシさん』って呼びましょうか?」
「や、やめたまえ。どこに耳があるとも知れないじゃないか」
悪戯な笑みを浮かべて挑発する会員No.40と、それにタジタジの会員No.2。
やめろよ! ファンタジーゲームだぞこれ! リアルを持ち込むんじゃないよ!
ってかロリコンじゃないのかよ。アバターだからリアルは分からないが、会員No.40はどう見ても20代そこらだ。肩まで伸びた黒髪をセンター分けにして、凛と立つ雰囲気もまさしく大人のOLって感じ。ロリータとはかけ離れている。
対する会員No.2は、そこら辺にいそうな小綺麗な中年男といった風情だ。俺を攻撃してきた時はスキルの効果なのか、金色のオーラを纏った筋骨隆々の男だったが、いまは中肉中背の普通のオジサンだ。
年の差による犯罪臭はスゴいが、とてもロリータを愛する男には見えない。もしかしてファッションロリコンか?
「勘違いしないでくれたまえ。ロリータは恋愛対象ではなく、保護対象なのだ。現実には同い年の女房もいるし、小学校の娘に性的な感情を持つこともない!」
「いつになったら奥さんと別れてくれるの? キミが一番だっていつも言ってるクセに!」
「アッ、ソウッスカ。ガンバッテクダサイ」
ただならぬ関係だと思っていたが、さらに不倫という事実。しかも急に修羅場が始まった。もう俺には背負いきれない。
忘れることにしよう、よし忘れた。いまの俺は冒険者ギルドまで歩くだけのロボットだ。ロボットは何も考えない。
話してもロクなことにならないことを実感した俺は、モミジの耳を塞ぎながら無言で冒険者ギルドまで歩いていくことにした。
急に耳を塞がれたモミジは、「なんなのじゃ?」と純真無垢な顔で見上げてくる。そのあまりのかわいさに、鼻血を吹き出したピンク色の鎧が数人タンカで運ばれてくのが見えた。俺はそれも無視して、ひたすらに歩き続けるロボットに徹するのだった。
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章のタイトルを変更しました。
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