表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/98

45話 友達の友達は友達ジャン


「さて、いきなり本題に入りますが……晴明様は、『陰陽師』ですね?」


 老紳士のギルド支部長……ジャン・オーネットに案内されたのは、支部長の部屋らしき広めの個室だった。


 ちなみに、「ぜひ『ジャン』と呼んでください」と言われてたので、遠慮なくジャンと呼ぶことにした。雰囲気が執事っぽいから、なんだかお坊ちゃまになった気分だ。


 ジャンの部屋は入ってすぐ商談用のソファとテーブルがあり、その奥には紙の束が積まれた社長が座るような机と椅子。一見すると質素で実務的だが、壁に掛けられた絵画やアンティークな小物、ところどころに置かれた観葉植物が上手くプライベートな空間を演出している。


 座り心地のいいふっかりソファでジャンお手製の紅茶を(すす)り、一息ついた後の第一声が冒頭のセリフである。ゴングが鳴る前に飛び蹴りを食らったような気持ちだ。プロレスだったら大ブーイングだぜ。


「ナ、ナンノコトヤラー」


 どうして俺のジョブがバレたんだろう。まさか、冒険者カードの情報を不正に入手して……!?


「冒険者カードの情報は見ていませんよ。そもそも、全体に公開された情報しかギルドは把握していません」


 どうして心の声がバレたんだろう。まさか、精神干渉系魔法……!?


「いえ、全て口から出ていますから」


「なんと!」


 こんなやり取りをマキビさんともした気がする。


 これは昔からの癖だから、どうしても治らないんだよな……期末テスト中に答えを無意識に喋ってしまっていて、カンニング疑惑をかけられたのは懐かしい記憶だ。その時は俺に友達がいないため不問となったが、いま思い出しても釈然(しゃくぜん)としない。


「ま、まあ、それはいいとして。どうして俺が『陰陽師』だと思ったんだ?」


 ジョブは『パーティーのみ公開』に設定している。ジャンの話が本当なら、俺のジョブを見ることはできないはずなんだが……。


「――あ! もしかして、『鑑定』を使ったのか?」


「おや、よくこのスキルをご存知ですね。使える者が少なく、あまり知られていないのですが……」


 ジャンはダグラスと同じスキル『鑑定』を使い、俺のステータスを閲覧したわけだ。対象の情報を閲覧できるスキルで、基本的にはモノに使うが、格下ならば生物にも使えるとか言っていた気がする。


「って誰が格下やねん!」


「はい?」


 おっと、思わずセルフツッコミをしてしまった。


 しかし、俺のステータスが覗かれているということは、少なくともレベルが俺よりも上だということだ。さすがギルドのお偉いさんとだけあって、実力もそれ相応と言ったところか。


「昼過ぎにエイミーくんと話していたところをお見かけしましてね。彼女が『どうすればいいのよぉ!』と叫んで資料を放り投げることなど滅多にないので、つい相手が気になってしまい……いや、悪いクセですね」


 エイミーさん。上司にあなたの奇行はバッチリと見られていました。どうか成仏してください。


 しかし、だからエイミーさんにモミジを接待させて俺の帰りを待っていた訳か。変な時期にレベル17の陰陽師が冒険者登録に来たら、そりゃ不審にも思うよね。


「『陰陽師』は天風人のジョブのはず。『神からの遣い』である晴明様が、どのような経緯で転職したのか……よろしければお聞かせいただけませんか?」


 さすがにギルド支部長となると詳しいな。


 正直『陰陽師』と『モナクス』については、誰にも話す予定はない。単純に面倒くさいのもあるが、何よりあの村の生い立ちからして、あまり公にするべきじゃないからだ。


 ……そのつもりだったんだが……俺のゲーマーとしての勘が、これはフラグだと囁いている!


 レベル17で『陰陽師』の俺は、この町にとって異物と言っていいだろう。冒険者ギルドのお偉いさんとしても、俺が危険人物かどうか見極める必要があったりするのかもしれない。


 だが、それならここまで接待する必要もないんじゃないか? モミジに頬をパンパンにするほどのお菓子の山を与えたり、支部長の個室に案内して紅茶でもてなす必要があるだろうか?



 なにより、どうしてジャンは期待するような、そしてどこか不安そうな眼をしているのだろうか?



 もしかしたら全て俺の勘違いで、有用な情報を聞き出そうとしているだけなのかもしれない。どこからか情報が洩れて、『モナクス』の人達に迷惑がかかるかもしれない。それでも……。


「分かった、話すよ。最初は変なジイサンに騙されて……」


 完全に俺の勘でしかないが、ジャンは信用できる気がする。余所者を忌避するような素振りも見せないし、むしろマキビさんやジジイのように好意的な雰囲気を持っているように思う。


 俺は自分の勘を信じて、個人名や村の情報は伏せつつ、陰陽師になるまでの経緯を話すことにしたのだった。


 そして俺がマキビさんと会ったことを話したあたりから、次第にジャンは納得したような、どこか安心したような表情へと変わっていった。 


「……その老人は、名前を『マキビ』というのではありませんか?」


「ほわっつはぷん!?」


 ジャストに言い当ててきたため、思わず変な声が出てしまったじゃないか。


 いや、そんなことより! さすがに特定はマズイだろう! 個人情報保護の観点から! このままでは掲示板に『アンチマキビスレ』とか出来てしまうかもしれない!


「ナ、ナンノコトヤラー」


「そうですか……マキビは、やはり生きていましたか……」


 おかしいな。はぐらかそうとしているのに、ジャンは完全に納得顔をしている。もしかして、瞬間的に日本語が通じなくなってるんだろうか。早くバグを修正してくれ運営。


「……あの、マキビさんと知り合いで?」


「ええ。少しの間ですが、パーティーを組んで旅をした仲ですよ」


 まさかの元パーティーメンバーだった!


 だから陰陽師っていうジョブに敏感に反応していたのか。『神からの遣い』ことプレイヤーが、最初にこの『はじまりの町』に降り立つことは、この世界の住人も認識している常識だ。


 天風という土地でなければ普通は転職できないとなれば、俺が陰陽師になる方法は限られてくる。


「そのマキビさんに、『輪廻転生』とかいうヤツで陰陽師にしてもらったんだ」


「マキビが『輪廻転生』を……やっと後継者を見つけたのですね……」


 ジャンはすっかり冷めた紅茶を一気に飲み干して一息つく。俺も喉が渇いていたことに気がつき、真似をするように一気に喉へと流し込む。やっぱり冷めていたものの、なんだか温かい時よりもおいしく感じた。


 それにしても後継者ってイイ響きだね。そうか、俺はマキビさんの後継者か……。


「詳しくは知りませんが、『輪廻転生』は特別なスキルで、マキビは人生で一度しか使えない大事なモノだと言っていました。それだけ晴明様を認めたということですよ」


 えっ、そんな大事なスキルだったの。出会って数分ですぐ合体みたいな軽さで使ってたけど、どこにそこまで信頼される要素があったのだろう……。


「結果的に、晴明様は期待を裏切っていない訳ですから」


「そんなもんか」


 まあ、友人であるダグラスの紹介だったしな。裏鬼門の召還を成功させたりしているし、中級魔法も覚えて着々と陰陽師として成長している気もする。あのクイーンビーベアを倒したモミジの力も、式神という陰陽師の力の一部と言えなくもない!


「……クイーンビーベアですか?」


「『はじまりの山』のデカい熊だよ。めちゃくちゃ強かったけど。おかげでレベル17にひとっ飛びできたわけだし、今になって思えば感謝していいかもしれないな」


「その話、もう少し詳しく聞いてもいいですか?」


 あ、やべ。


 クイーンビーベアの話も、基本的に言わないでおこうと決めていたのだ。


 ユニークモンスターと言うくらいだし、かなり希少価値が高いはず。システム的に所持アイテム等を奪われることはないが、変な奴に目を付けられたらたまったものじゃない。


 だから信頼できる人にだけ教えようと、安倍晴明脳内臨時国会で決議されたというのに!


 ……いや、待てよ。俺は既にジャンを信頼しているのではないか? マキビさんのこともゲロっちゃったし、もはやいまさらなのでは?



 …………。



 ………………。



「なるほど、ユニークモンスターですか……」


 すっかり話しちゃうことにしました!


 『クイーンビーベアの特上毛皮』と『クイーンビーベアの鋭利なサーベル』というドロップ品を見せつつ、クイーンビーベアとの戦いを掻い摘んで話してやると、ジャンは驚いた顔で俺を見つめてきた。


「ユニークモンスターという存在自体は知っていましたが、私が支部長になって数十年……討伐報告は(おろ)か、発見したという噂すら聞いたことがありませんでした……」


 ひえぇ……やっぱり超絶レアモンスターだったぁ……。


「あ、あの~、このことは内緒で……」


「……こんなトップシークレット、迂闊(うかつ)に話せるわけがありません。ただし、さすがにアルヒド王国のギルド本部へ報告はいたします。近場ですし、いつ次が現れるともしれませんから」


 それはそうだ。さすがにユニークモンスターがポンポンと出てくるとも思えないけど、1往復しかしていない俺がチョチョイと遭遇しちゃったからな……。


 また遭遇するのがプレイヤーならいいが、ジジイみたいなNPCの場合には大問題だ。さくせん『いのちだいじに』。


「遭遇して逃げるだけでも難しいだろうに、まさか倒してしまうとは……まったく、晴明様は規格外ですね。マキビが惚れこむわけです」


「それほどでもない」


 規格外! なんてキモチイイ響きなんだ!


 まあね? たしかに俺レベルになっちゃうと、そこら辺の凡人とは一線を画す存在になってしまっているのは否定のしようがない。あ、これは俺が言ってるんじゃないですよ? みんなが言ってるんですよ、みんなが。


「モミジちゃんの種族が『コオニ』というのにも驚きました。マキビが連れていたコオニは、もっと魔物らしい見た目をしていましたから」


 やはりモミジも鑑定済みか。確かにマキビさんのコオニはゴブリンみたいだったもんなぁ……。


「晴明様もそうですが、モミジちゃんのステータスは隠した方がよろしいでしょう。これをお使いください」


 ジャンが懐から取り出したのは、銀色のシンプルな2つの指輪だった。火を吹くドラゴンのマーク……冒険者ギルドのシンボルが彫られている。


「これは『隠者の指輪』というアイテムです。ギルドの職員にだけ配られる特別なものですが……晴明様には必要でしょう」


「えっ、そんな貴重なものを貰うわけには……」


 だって普通は入手できない激レアのアイテムじゃない!?


「それは困りましたね。名入れまでしてしまったのですが……」


 受け取ってよく見てみると、指輪の内側にはそれぞれ『安倍晴明』と『モミジ』という字。


【隠者の指輪(安倍晴明)……他者から閲覧される情報を改変できる】


【隠者の指輪(モミジ)……他者から閲覧される情報を改変できる】


 装備名にまで名前が入っている。これはある意味で専用装備みたいなものかもしれない。こうなったら他者への譲渡や売却も出来ないし、受け取らないのも逆に迷惑だよな。ここはファンタジーなんだから、日本人特有の謙虚さなど捨てるぜ!


「……分かった。ありがたく頂戴する」


 俺にとって有用なのは間違いない。もしかしたらプレイヤーで『鑑定』を使えるヤツが出てくるかもしれないし、偶然でもステータスを覗かれたらめんどくさいことになりかねない。


 よく分からないが、ロブハンのメンバーにも「お前はすぐ調子に乗りすぎ。そういうところだぞ」とか言われるし。保険をかけておくに越したことはない。


「モミジちゃんの冒険者カードも作成してしまいましょうか。人間のような魔物など珍しいですから、身分証明書は持っていた方がいいでしょう」


「それはさすがにやりすぎでは!? 職権乱用じゃない!?」


 魔物が冒険者カードを作るなんて聞いたことがない。というか、ダメだろう。常識的に考えて!


「融通を聞かせるために偉くなったのです。安月給で働いているのですから、こういうところで元を取らないともったいない!」


 柔らかい物腰からは想像がつかないほど俗物的だった。エミリーさんも給料安いとか嘆いていたし、冒険者ギルドってなかなか世知辛いのかもしれない。


 支部長のジャンがいいと言うのだから、ここはお言葉に甘えることにしよう。身分証明書がないとクレジットカードも作れないからな!


 式神やテイマーの従魔は、頭上に浮かぶアイコンがプレイヤーと同じだ。冒険者カードを持っていたら、他のプレイヤーもきっと誤解してくれるはず。VIP待遇最高だね。


「ところで、晴明様はいつ『アルヒド』へと向かう予定ですか?」


「え? うぅん、ジャンやエイミーさんと知り合ったばかりだから、もっと話したいって気持ちもあるが……この町じゃ俺にちょうどいいクエストがないし、明日にでも行きたいってのが本音だな」


 俺が『アルヒド』へ行くって、どこから漏れたんだろう。別に隠すことじゃないからいいけど。


 『はじまりの町』は初心者用の町ということもあり、レベル17の俺には物足りないのだ。火雨を撃つだけで倒せるから楽でいいんだが……せっかくRPGなんだからストーリーも進めたいし、もっと血沸き肉躍る戦いに身を投じたい。


「『神からの遣い』の助けを必要としている人は多いでしょう。あまり些事(さじ)に拘らず、思うがままに行動してください」


 『はじまりの町』と『アルヒド』はそこまで離れていないしな。ジジイやマキビさんと違って、厄介な山を越えたりする必要もない。会いたくなったら会いに来ればいいか。


「うぅん、そうだな……じゃあ、明日の昼にでも出ようかな」


「了解しました。そうしましたら、出発する前に一度ギルドへ寄っていただけますか? 本部に送る報告書がありますので」


 さっきのクイーンビーベアの件かな。俺が原因みたいなところはあるし、それくらいはいいだろう。どっちにしろ出発前に挨拶はしようと思っていた。


「わかった」


「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。きっと楽しい旅路になりますよ」


 ん? 報告書を持ってるとなんで楽しい旅になるんだ?


 目で「どういうこと?」と問いかけてみても、「明日になれば分かります」と笑うだけで教えてくれない。むむむ、変に隠されると逆に気になるじゃないか。


「それでは戻りましょうか。あまり遅くなると、エイミーくんがモミジちゃんを連れて帰ってしまうかもしれません」


 話は終わりとばかりにジャンは席を立ってしまった。釈然としないが、ここでうだうだと言っても教えてくれそうにない。


 めちゃくちゃ気になるが、扉を開けて待っているジャンに続いて、俺もモミジたちの元へ戻ることにするのだった。



ついにVRゲームランキングで四半期に爪先が引っかかりました!

現在98位です!


ブックマークや評価(★)で応援いただき本当にありがとうございますm(__)m


次回は土曜日の更新予定です

今週も3更新いけそう(`・ω・´)


ちょっと2章になってから、文字数が多くなる傾向に……(´・ω・`)

でも特に山場じゃないのに分割してもなぁ、とも思ったり。

「読み辛いから分割しろよ!」とか意見あれば気軽に感想等で教えてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ