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44話 ロリータ熱愛症候群


(カシラ)ぁ、自分だけ生き残るなんてズルイんだなぁ」


「そうでゲス! オレ達は死に戻ったでゲスよ?」


「俺様はもう頭じゃねぇ、兄貴と呼べ。そしてコチラが新しい頭だ」


 俺の後ろをぞろぞろと付いてくる山賊一味が何か言っている。誰が頭だ。


 あの後、『はじまりの町』に戻った俺とサンゾックを門で待ち構えていたのが、俺の火雨によって一発で死に戻ってしまった子分二人だった。なかなか死に戻ってこないため、こっちから戻ってくるだろうとずっと待っていたようだ。ご苦労なこって。


 俺達が冒険者ギルドに行くと言えば、さも当然のように後ろについてくる子分ズ。


 その結果……陰陽師戦士・山賊・山賊・山賊の勇者パーティーが誕生した。なんだこれ。頼むから5メートルくらい離れて歩いて欲しい。


「ん? 冒険者ギルドの前が殺人現場みたいになってるな」


 なぜか分からないが、冒険者ギルドの外が血の海になっていた。何か事件があったとしか思えないが、周囲はそこまで騒ぎになっているようにも見えない。近くの人に視線を向けても、両手を肩の位置にあげて『やれやれポーズ』をするのみ。ミステリーだ……。


「また頭みたいなのが暴れただけじゃないっすか」


 コイツ、もう一回シメた方がいいかもしれない。そして利子を十一(トイチ)にしてやろう。死ぬまで金を絞り続けてやるぜ。


「じょ、冗談っすよ……」


「兄貴、情けないんだなぁ」


「三下感が半端ないでゲス」


「う、うるせえ! 頭はこえぇんだよ!」


 周りの人がヒソヒソ話はじめてるから、ちょっと黙ってくれないかな……これじゃ俺まで山賊の仲間みたいじゃないか。


「……とりあえず、中に入るぞ」


「「「へい、頭ァ!」」」


 だから誰が頭だ。



 相変わらずガヤガヤとうるさいギルドの中を歩いていく。そろそろ夕方ということもあり、むしろさっきよりも賑やかかもしれない。


 ギルドの隅っこにあるテーブルスペースは、どうやら夜には酒場になるようで、木製のジョッキを打ち鳴らす音があちらこちらから聞こえてくる。


 木製ジョッキになみなみと注がれたビールと大雑把な料理、それを飲む戦士風の男や、魔法使い風のローブを羽織った女。どこかでバード(吟遊詩人)がハープを鳴らしている音まで聞こえてくる。


 まさにこれぞファンタジーといった光景に、どこか異世界にフラッと迷い込んだような感覚になった。剣で魔物と戦ったり、魔法を使ったりすることにも感動したが、明確に日常と非日常のギャップを感じるこういった身近な光景にこそ、真の意味でファンタジーを感じるものだと思う。


「頭! 兄貴! オイラ達はあっちで飲んで待ってるんだなぁ」


「頭にハネられたんで水しか飲めないでゲス……」


 そんな俺の感傷をぶちこわす子分ズ。ハネるってお前達から勝負をしかけてきたんだろうが……。


「……200Gずつやるからテキトーにやってろ」


「さ、さすがは頭なんだなぁ! ケチな元・頭とは大違いなんだなぁ!」


「こ、このお金があれば、薬草がたくさん買えるでゲス……ッ!」


 俺が400Gを投げて寄越すと、子分ズは変な踊りをしながらテーブルの方へと走っていった。チビガリの方は外に出ていこうとしなかったか? どんだけ薬草が好きなんだアイツは……。


「すいやせん、頭。気ぃ遣わせちまって」


 道中で聞いた話だが、サンゾックと子分二人は、リアルの会社でも上司と部下の関係にあるらしい。


 なかなか職場環境が良くないらしく、AFO内で山賊プレイをしてストレス発散しているのだと言う。確実にストレス発散の方向性を間違えているよね。大丈夫か日本のどこかの会社……あなたのところの社員、山賊になってますよ。


「安心しろ。お前の借金に上乗せしておくから」


 俺の言葉を聞き、見事に石化をして体全体で驚きを表現するサンゾック。部下の分も上司が責任を取るのは当然だろう。あくせくゲームの中でも働いてくれたまへ。


 ちなみに、俺がタメ口なのはデフォルトだ。これはゲームだからリアル年齢は関係ないし。


「そ、そんなぁ……現実でもゲームでもブラックじゃないかぁ……」


 それにこうしてガックリと項垂れるサンゾックを見ていると、敬語を使う必要性を全く感じない。俺は不労所得で生きる30代男性ということにしているが、まあ信じていないだろう。MMOなんてこんなものだ。


 こちらをチラチラ見ながら「借金ちょっとまけてくれないかな~」みたいな顔をしているサンゾックを無視して、受付カウンターへと進んでいく。こっちも相変わらず盛況なようで、長蛇の列がいくつもできていた。


 うぅん、この分だとエイミーさんの列なんてすごいことに……。


「あれ?」


「あそこだけスゲェ空いてますね」


 サンゾックが言うように、エイミーさんの前だけがポッカリと空いていた。これがアイドルの握手会なら涙を呑むところだ。昼は大人気だったはずなんだが……。


 とりあえず、エイミーさんが座るカウンターの前まで歩いていくと……。


「あ、晴明さん。早かったですね」


「ひどいのじゃ! モグモグ……わらわを、おいてモグモグ、いくなど!」


 受付カウンターでアフタヌーンティーが繰り広げられていた!


 口いっぱいにお菓子を詰め込みながら抗議するモミジと、それを恍惚の表情で眺めながら紅茶を(すす)るエイミーさん。モミジはエイミーさんの膝の上から移動しており、どこから持ってきたのか、エイミーさんとカウンターを挟んで向き合うように置かれた子供専用椅子に座っていた。


 シフトがあと6時間あると言っていたはずだが、完全に職務放棄している。これはクレームを入れる必要があるかもしれない。ギルドのお偉いさ――ん、職員がサボってますよ――――!


「ち、違います! 休んでていいから、晴明さんが戻るまでモミジちゃんの相手をしていなさいとギルド支部長に言われて……」


 半分冗談だったが、体の前で手をワタワタさせて焦るエイミーさん。前に出した腕で挟まれて、おっぱいがあっぷっぷしてる。これにはクールキャラの安倍晴明君もニッコリ。


「えっと、支部長ですか?」


 おそらく冒険者ギルドのお偉いさんだと思うけど、俺は一度も会ったことがない。そんな接待をされる覚えはないのだが……。


「私も詳しくは分かりません……晴明さんが戻ってきたら報告するように言われているので、私は支部長のところに行ってきます。モミジちゃん、またお茶しようね?」


 お菓子に夢中のため、後ろ手を振るモミジに寂しそうな顔をしつつ、エイミーさんは建物の奥へと消えていった。最後までチラチラとモミジを確認する姿は、とても哀愁を誘うものだった。


「モグモグ……モグッ!? ヨコハイリヒゲダルマ! どうして晴明といるモグッ!」


「食べるか喋るか、どっちかにしなさい」


 お行儀が悪くてよ、モミジさん。


「モグモグモグモグ……」


 あ、そっちなのね。なんとも食い意地の張った幼女だ。


「お嬢、さっきはすいやせんでした。アッシも心をいれかえて、頭の子分になりましたんで!」


 一回も認めてないんだけどね……。


 俺の抗議の目を無視し、モミジの前で膝をついて頭を下げるサンゾック。


 サンゾックの言葉を聞いたモミジは、お菓子で頬をパンパンにしながら、なぜか偉そうに腕を組んでウンウンと頷いている。俺の注意を守って律儀(りちぎ)にしゃべらないところが愛おしい。結婚しよう。


 微笑ましく見ていると、今度は俺へとモミジのターゲットが移ったようだ。


「それより、ひどいのじゃ! わらわをおいていくなんて!」


「いや、ぐっすりと眠ってたもんで……」


 腰に手を当てて分かりやすくプンプンしている。


 確かに置いていったのは申し訳ないが、一人でも余裕なクエストばかりだったし、わざわざ起こすのも気が引けたから仕方ない。式神は経験値もちゃんと配分されるみたいだしね。


「む~! しかも、またエイミーのおっぱいばかりみてたのじゃ」


 やべっ、バレてた。


 しょうがないじゃないか。おっぱいとは、男の視線を集めるブラックホールなのだ。こんな矮小(わいしょう)な存在が宇宙の神秘に抗えるはずもない。


「お嬢、ありゃ男ならみんな見ますぜ。ここにいる連中で、エイミーさんの顔を見て話す方が(まれ)でさぁ」


「そ、そうだ! 目が自然といっちゃうだけで、やましい気持ちはないぞ!」


 サンゾックのナイスフォロー。コイツなかなか使える男じゃないか。俺の中で評価が睫毛(まつげ)3本分ほど上がった。


 周りの男からは同情の視線が向けられ、女からは軽蔑の視線が突き刺さる。しょうがないよな、やっぱり男はおっぱいには勝てないんだ。


 俺達の開き直りとも言える発言を聞いたモミジはプルプルと震えて床を見ていたが、突然顔を上げて大声でとんでもないことを叫んだ。


「晴明のウソツキ! わらわがイチバンだっていったのじゃ! わらわは晴明のパートナー(ヨメ)だっていったのじゃ!」


 何かに(ひび)が入る音。


 周りを見渡すと、そこら中で木製のジョッキからビールが噴出している。男からは強い殺意が、女からはゴキブリでも見るような嫌悪の視線がビンビンに飛んできているじゃないか。


 こんな公共の場でなんてことを言いやがるんだ!


「頭ぁ……さすがにこの年齢の娘を嫁ってのは……」


「ち、ちがうぞ! まだ嫁にするとは言っていない! なぜなら俺はロリコンではないので!」


「いや、『まだ』とか言っている時点で、重度のロリコンでさぁ」


 ロリコンじゃない! たぶん……きっと……もしかしたら……ちょっと自分でも自信が無くなってきた。俺ってロリコンなのかな。ロリコンかもしれない。さっきも無意識に結婚しようとか心の声で言っていたし。


「クソッ……あのロリコン、殺してやる! あんなにかわいい和服のじゃロリを悲しませやがって!」


「エイミーさんに色目を使うだけじゃなく、あんな幼女にまで粉かけてやがったのか……地獄に落ちロリコン!」


 マジックではなく、純粋なチカラでスプーンを曲げつつ、こちらを睨みつける男達。


「我々はロリを見守ることが仕事。婚約をしていたとしてもそれは変わらない」


「と、取締役! 目から血涙が出ています! いけません! ロリータ熱愛症候群が!」


 目から赤い涙を流しつつ、慈愛の眼差しで虚空を見つめ続ける中年男と、それを介抱する若い女。


「アタシが剣を買ったのは、今この時のタメだったんだわ」


「ま、待つんだ。君が子供好きなのは知っているが、さすがにここで剣を出すのはいけなギャー!」


 そして血走った目で剣を抜き放ち、コチラへと駆け寄ってこようとする女と、それを必死に止める彼氏らしき男。あ、彼氏が袈裟切りにされた。南無三。


 他にも物騒な声はあちらこちらから聞こえてくる。もはやギルド内は暴徒の集会だ。標的はもちろん俺。このままでは生きて帰れないかもしれない。


 モミジはほっぺをプックリと膨らませ、俺達に背中を向けてお菓子を食べる作業に戻った。我関(われかん)せずといった風で、背中からは話しかけるなオーラがビンビンに漂っている。これはクイーンビーベアの時よりもピンチかもしれない。主に社会的に。


「これはまた賑やかですね。安倍晴明様、お待たせしました」


 まさに爆発寸前というところで、ギルド内に渋い男性の声が響いた。声をかけられたので振り向くと、黒い燕尾(えんび)服を着た老紳士。ロマンスグレーの髪をオールバックに固め、ピンと上を向いた口髭が渋い顔にベストマッチしている。


 綺麗な立ち姿で一見すると執事のようだが、後ろに手を振っているエイミーさんがいるということは、この人が(くだん)のギルド支部長なんだろう。


 さすがにギルドのお偉いさんが出てきたからか、暴徒達も剣を収めたようだ。ギルド支部長、ナイスタイミング!


「奥の個室で話しましょう。エイミーくんは、もう少しモミジちゃんを見ていてあげなさい」


「はい喜んでッ!」


 居酒屋の店員のような挨拶をして、モミジの元へとダッシュするエイミーさん。そんなに走ったら……あぁ! ブルンブルン! ヤツは服の中に猛牛でも飼っているのか!?


 男達の視線を釘付けにしながらも、モミジに夢中で全く気付いていないエイミーさん。気づけば彼女はただのラッキースケベ要員になってしまっている。あんなに知的な雰囲気だったのに……どうしてこうなった……これが小悪魔モミジの力だというのか……。


 その小悪魔モミジはまだプンスカしており、俺が声をかけても「晴明よりオカシなのじゃ」と取り付く島もない。恨めし気にエイミーさんの胸を見つめながら、お菓子を口に運ぶマシーンになってしまった。


「晴明さん、お任せください! 私のシフトが終わるまでに帰ってこなかったら、ちゃんとおうちに連れて帰ってお世話もするので! 2時間くらいギルド支部長とお話ししてきてください!」


「30分ほどで終わりますよ」


 バッサリと切り捨てるギルド支部長。その言葉にしょんぼりとするも、モミジを直接懐柔して連れ帰る方針に切り替えたようだ。両手でお菓子を持ってメチャクチャな餌付けを始めた。どれだけモミジを連れて帰りたいんだあの人は。


「頭、借金の方はアッシがエイミーさんと詰めておきますんで」


「……ああ、任せた」


 個人間の契約をギルドに立ち会ってもらうことができるらしい。どうせならキッチリとしようとサンゾックが言うので、モミジの回収ついでにギルドに来たのだった。ちょっと忘れていたのは内緒にしておこう。


 リアルでサラリーマンだからなのか、山賊のクセに真面目なんだよな……そんなロールプレイングでいいのだろうか……まあ、サンゾックの山賊ロールなんて気にしても仕方ない。


「それでは、行きましょうか」


「わかりました」


 そう言って俺を(うなが)し、先導するギルド支部長。人気モデルもビックリなウォーキングの老紳士に続いて、俺もギルドの奥へと真似してモデルウォークしていくのだった。



総合評価が1700ptを突破しました!


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次回は来週の木曜日です!!

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