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43話 百姓は生かさぬよう殺さぬよう


「う~ん、さすがにレベル1だと弱いなぁ」


 レナード商会で買い物をした後、俺は『はじまりの平原南』というフィールドで魔物を狩っている。初めてまともな討伐クエストを受けるということもあり、ポーションを大量に買い込んで気合を入れていたわけだが……。


「レベル17だからな~……★朱雀(すざく)の印 火雨(ひさめ)★っと。お、4匹分ゲット~」


 『はじまりの町』周辺の攻略推奨レベルは基本的にレベル1。高いところでもレベル3程度と、THE初心者用の狩場なのだ。いまは大型犬ほどの大きさに成長したネズミの魔物――フットラットというらしい――をひたすら狩っている。


 クエストの達成条件はドロップ品を6つ持ってくることだが、多く納品すればランクアップに必要な貢献度はそれだけ上がるらしい。


 他にすることもないので、タブレットサイズの小ウインドウで掲示板を眺めつつ、フットラットの集団に火雨を打ち込む作業をひたすらに続けているところである。


「これも使ってみるか~。★白虎(びゃっこ)の印 瑞光(ずいこう)★」


 白虎の印は、親指だけ手のひら側に折って、後の指はピンと立てるシンプルな結び方だ。立てた指の先から漏れ出る雷のような光を筆として、画数が多くて苦労しながらも『瑞光』と空中に描く。


 雷光で描かれた『瑞光』は収束すると、雄々しくも美しい白い雷の虎へと変化し、俺の体へと吸い込まれていった。雷が俺の体を駆けめぐり、やがて自分の能力が一段階あがったような感覚を覚える。


 力が……(みなぎ)るぜ……ッ!


 クエストの前にステータスを確認したところ、レベルアップによって4つの初級魔法と1つの中級魔法を覚えることが可能になっていたのだ。


 どうやらレベル15がボーダーラインになっているらしく、中級魔法が選択肢に追加されていた。いろいろ種類があって迷ってしまったが、最終的に選んだのが、この『白虎の印 瑞光』。


 魔法ごとにツリーが存在し、初級を取得しないと中級が取得できない仕様だったため、ついでに初級の『白虎の印 回光(かいこう)』も取得している。



【白虎の印 回光……単体のHP・SP・MP・運命力以外のステータスを一定時間1.2倍に上昇させる】


【白虎の印 瑞光……単体のHP・SP・MP・運命力以外のステータスを一定時間1.5倍に上昇させる】



 瑞光はMP消費が多い上に効果時間が短いが、それでもステータスの1.5倍上昇はかなり魅力的だ。しかも称号[運命に抗う者]の効果で、自分よりレベルが上の敵と戦う時にはさらに1.5倍になる。この合わせ技はぶっ壊れと言っていいかもしれない。


 あとの初級魔法は、適当に攻撃魔法と補助魔法を取得した。回復魔法にするか迷ったが、前線で戦う俺にそんな暇はない。もし必要なら回復専用のパーティーメンバーか式神を用意すればいいだろう。


 まあ魔法をいろいろと覚えたところで、全体攻撃かつ高威力かつ超カッコイイ『朱雀の印 火雨』の使い勝手が良すぎるから、ほとんど火雨で片付けちゃうんだけどね。全体攻撃ってホント便利。


「おっ、冒険者ギルドでの一件でスレが立っているじゃないか! どれどれ……おっと、★朱雀の印 火雨★……ってなんだこれ!? ほとんど『のじゃロリカワイイ』だけじゃないか! クソロリコン共が!」


 『冒険者ギルドでテンプレ事件発生wwwwww』とかいうスレが上がっていたから期待したが、俺に触れたのはほんの最初だけで、あとはエイミーさんの胸に埋もれてお昼寝をするモミジの話題で持ちきりだった。こんなはずじゃなかったのに……。


「「それもこれも、すべてアイツのせいだ!」」


「「ん?」」


 一言一句、まったく同じセリフが近くから聞こえてきた。こういうのってすごく親近感を覚えるよね。きっと俺と似て、知的でユーモアに溢れるイケメンなんだろう――。


「「ってお前かよ!?」」


 振り返った先には、全身を青銅シリーズに揃えた悪役面の大男。まさかのサンゾック・コワモテーノ氏が、シェーみたいなポーズで固まっていた。またまた子分と思わしきプレイヤー2人を引き連れての登場だ。


 しかし、噂をすればなんとやらと言うが、なんというタイミングで現れるんだコイツは。俺がギルドを出た時は、道路で大の字になって気絶していたのに。


 向こうもフットラットを狩っていたのか、足元には光の粒子へと変わるフットラットが見えた。


「いいトコロで会ったぜ、ニュービー。さっきはよくもやってくれたな雑魚が!」


 俺に斧を突き付けて叫ぶサンゾック。


 その雑魚にポーンと投げられて気絶してたんだけどね……。


「あれはマグレなんだな! 掲示板でもオマエはホラ吹きって書いてあったんだな!」


「そうでゲス! (カシラ)がド変態のロリコンに負ける訳がねぇでゲス!」


 俺のメンタルに100のダメージ。掲示板での俺の評判は、「ホラ吹き」「ロリコン」「ド変態」「エイミーさんに色目を使うゴミ」といった感じ。ちょっと泣きそう。


「テメェが雑魚だってことを、ここでハッキリさせてやるぜ。決闘しやがれ!」


 子分に(はや)したてられて気分を良くしたのか、ニヤケ面で宣言するサンゾック。レベル8という比較的に高いレベルもあって、自分が負けることなど想像もしていないようだ。



【サンゾック・コワモテーノ から決闘を申し込まれました。決闘を受けますか?】



「いいえ」


「なんでだァ――!?」


 そんなめんどくさいこと、するはずがないじゃないか。こんなムサクルシイ男共より、早くギルドに戻ってエイミーさんの胸を凝視したいのだ。キャラクターを再作成してEカップ以上になってから話しかけて欲しい。


「……決闘成立しないとプレイヤー同士じゃダメージ入らないから、アホみたいに囲んでても意味はないぞ? 説明書ちゃんと読んだかニュービー共?」


 AFOでは双方合意がないとPKが成立しない。こういうめんどくさいヤツに粘着されたらたまったもんじゃないしね。ありがたい仕様だ。


 その仕様があるから、俺をいくら囲んで袋叩きにしようにもノーダメージなんだが……。


「オマエがフットラット討伐のクエストを受けていることは分かってるんだな!」


「こうやって囲んでいたら、フットラットも狩れねぇでゲス!」


「あ、じゃあ大丈夫です。クエスト条件は達成してるんで」


 掲示板を眺めている間に暇だから狩っていただけだしな。『討伐クエスト:スライムの討伐』と『討伐クエスト:フットラットの討伐』の完了条件は満たしているから、あとはギルドに戻って報告すればクエスト完了である。


 あれから2時間くらいは経つし、そろそろ戻りますかね。


「テメェがその気なら仕方ねぇ。あのガキを袋叩きにして、決闘せざるを得ない状況にしてや――」


「――殺すぞ」


 サンゾックの後ろに素早く回り込み、ヤツの首に剣を添える。レベル差が10もある上に、瑞光によって1.5倍になっている敏捷値のおかげで、サンゾックはまともに反応が出来なかったようだ。エサを待つコイみたいにただ口をパクパクさせている。



 しかし……今の一連の流れ……。



 めちゃくちゃカッコよくなかった!?



 まるでドラゴ●ボールのような高速移動で敵の背後を取って、低い声で渾身(こんしん)の「殺すぞ」ってセリフ。これはバトル漫画好きなら一度は憧れるシチュエーションだろう!


「テ、テメェ、いつのまに……!?」


 くぅ~! サンゾック氏もその反応、分かっていますねぇ!


「お、お前こそ分かっているのかなんだな! 自分でダメージ入らないって言っていたんだな!」


「そ、そうでゲス! また下手な手品でごまかそうとしやがってでゲス!」


 これも手品とか言われるのか。フッ、強すぎるのも困りものだぜ。


 仮にモミジが襲われたとしても、コイツ達では勝てると思えないが……付きまとわれるのは純粋に不快だ。ここいらで一発、シメといた方がいいかもしれない。


「よし、まとめて決闘を受けてやる。条件は所持金の全部をかけることだ」


 シメるついでに小遣い稼ぎをするとしよう。俺に受けてやる義理はないんだから、せめてメリットでもないとやる気が起きない。サンゾックはレベル8らしいし、そこそこ貯めこんでいるはず……。


「お、おう! いいだろう! えっと、所持金は……400Gだ!」


「オ、オイラは30Gなんだな……」


「8Gでゲス!」


 なんと全員が金欠だった!


 サンゾックの野郎はまだマシだが、それでも足して438G。まさかレナードさんのアルバイト代より安いとは……。


「……俺は3000G」


 いや、負けるつもりはモチロンないからいいんだが……なんだろう、ものすごく損をした気分だ。


 既にげんなりとしている俺とは対照的に、サンゾック一味は3000Gと聞いて目を輝かせている。「ウザイヤツを叩ける上に、3000Gも儲かってラッキー」とか考えているんだろうか。ちょっとイライラしてきた。


素寒貧(スカンピン)にしてやるぜ山賊一味がッ!」



【サンゾック・コワモテーノ(パーティー) に決闘を申し込みます】

【条件:お互いに所持金のすべてを賭ける】



「上等だコラァ! テメェの金で俺様も鉄シリーズ装備買ってやるぞゴルァ!」


「カシワの魔法杖を買うんだな!」


「鉄のナイフと薬草が買えるでゲス!」



【サンゾック・コワモテーノ(パーティー) が決闘を受けました】



 意外と堅実な使い道だ。酒とか賭博とか女に使うんじゃないのかよ山賊。


「まあ、いいか。★朱雀の印★」


 立てた人差指と中指から炎が(ほとば)り、その炎を筆として空中に文字を描いていく。


「あん? なんだコイツ、文字を書き始めたぞ?」


「やっぱり手品なんだな! そんな火でオイラ達がビビると思ったら大間違いなんだな!」


「ギャハハハ! コイツめっちゃ字が下手でゲス!」


 魔法の準備をしている俺を、馬鹿にした顔で見ている山賊一味。やはり陰陽師の魔法を見たことがなく、完全に油断しているようだ。馬鹿め。あとチビガリは真っ先に殺す。


「★火雨★」


 『火雨』という文字が完成すると、炎で描かれた文字は収束して美しい炎の鳥へと変化し、一鳴きして大空へと羽ばたいていった。そしてあんぐりと口を開けて固まっている山賊一味の頭上に辿り着くと、炎の鳥が一斉に弾け飛んで真っ赤な火の雨を降らせる。


「マ、マズイ! 防御しろ!」


「「ギャ――――――なんだな!(でゲス!)」」


 サンゾックは咄嗟(とっさ)に反応し、青銅の盾を頭上に(かか)げることができたようだが、子分ズはそもそも盾を持ってすらいない。


 全体攻撃から逃げることもできず、火の雨をモロに浴びてしまった結果、この一撃で体力が全損してしまったようだ。子分ズは光の粒子となって消えていった。もちろんチビガリには集中豪雨を降らせてやったぜ。


「い、一撃……だと……!?」


 なんとか防御したサンゾックも、青銅の盾はところどころ穴が開いてボロボロになっている。魔法攻撃力が上がったこともあって、俺の火雨もなかなか威力が増しているようだ。今ならコアトルビーでもチョチョイと倒せるかもしれない。


「さて、お前で最後だな。★朱雀の印★」


 ボケ―っと突っ立てボロボロになった盾を見ているサンゾックに、炎が吹き出る指先を向けてやる。あとは『火雨』と書くだけで、この勝負も終わりだ。あまりにもあっけないが、だからといって手加減してやる義理もない。サッサと死に戻って反省してもらうとしよう。


「★火さ――」


「ま、ままま待ってください!」


 俺が火雨を放とうとすると、サンゾックが急に土下座をし始めた。武器も盾も放り投げて、完全に白旗を振っている。


「なんだ山賊。命乞いは見苦しいぞ」 


「命だけは! レベル8にもなると、デスペナルティの経験値減少が洒落にならないんですぅ!」


 サンゾックは涙と鼻水でコワモテを台無しにした、なんとも情けない顔で懇願(こんがん)する。あれだけ高圧的だった態度が、まるで別人のようだ。2メートル近い体躯も、今ではハムスターみたいに小さく見える。


「いや、知らんし。そもそもお前から襲ってきたんだろうが」


「そ、そそ、それはそうですが……な、なんでもします! く、靴でも舐めます! お願いですから命だけはぁ~!」


「やめろ! お前の舌の方が汚いわ!」


 なんだこいつ……プライドってもんはないのか……?


 完全に戦意を喪失しているようで、営業マンのように揉み手をしながら、気色の悪い猫撫で声で必死に命乞いをするサンゾック。その情けない姿を見ていると俺もだんだんとやる気が無くなってきた。


 しかし、何でもするね…………。


「5000G」


「……え?」


「5000Gで許してやろう」


 クックックッ、我ながら頭が冴えてやがるぜ。


 俺がジジイにしている借金5000G、それをコイツに肩代わりさせてやる。これで俺は借金のことなど気にせず、自由にお金が使えるというもの。完璧な返済計画だ。


「あ、あの……さすがに5000Gなんて大金は……」


「さ~て、習字の練習でもしよう。火雨なんていいかもしれないな~」


 まだ書いている途中だった『火』を完成させて、『雨』を書くふりをする。それだけでサンゾックの肩がビクリと跳ね、面白いくらいにガクガクと震えはじめた。


「わ、分かりました! いつになるか分かりませんが、絶対に返します!」


 5000Gゲットだぜ。


「よし、利子は無しにしておいてやる。とりあえず、決闘を降参しろ」


「は、はい! ありがとうございます!」


【サンゾック・コワモテーノ(パーティー) が降参しました】

【勝利報酬:438G】


 これで借金の10パーセントの利子を貰ったようなもの。「百姓は生かさぬよう殺さぬよう」と江戸時代から言われているのだ。暴利を(むさぼ)って金の成る木が枯れては元も子もない。


 これにて、一件落着!


「よし、とりあえずギルドに戻るぞ」


「ヘイ! 分かりやした、(カシラ)!」


 誰が頭だ。



第一章とは比べられないほど、晴明君が強い……ッ!


ブックマークが500件を突破しました!


ブックマークや評価(★)で応援いただき本当にありがとうございますm(__)m


明日も更新します!

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