41話 スライムをいったい何に使うつもりなんだ……?(すっとぼけ)
「……はい、これで冒険者登録は完了です」
細々とした事務作業をしているエイミーさんの胸部を重点的に眺めていると、冒険者登録に必要な作業が終わったようだ。
【『メインストーリー:はじめての冒険者登録』を完了しました!】
【施設『ギルドカウンター』が解放されました】
【報酬:ハロージョブへの推薦状】
「普通であれば、このまま転職施設であるハロージョブに行ってもらうのですが……晴明さんはもうジョブに就いていますよね?」
「そうですね」
俺は既に陰陽師のジョブに就いている。だから転職と言われても困る……けど、転職をしないと報酬の3000Gが……。
「他のジョブに転職する意思はありますか?」
「ないっすね」
「分かりました。でしたら、そのように処理しておきますね」
【『メインストーリー:就職』が発注されました】
【『メインストーリー:就職』を完了しました!】
【施設『ハロージョブ』が解放されました】
【報酬:3000G】
転職しなくても報酬貰えるのか! ありがてぇ、ありがてぇ……!
「それでは、報酬を渡します。えっと、装備は持っていますか?」
「一部ボッコボコですが、一応は持ってます」
サーベルベアの一撃で鉄の盾は撃沈、鉄の鎧は大破、鉄の籠手も中破してしまった。町の外に出るつもりはなかったので、装備を整えるのは後回しにしていたのだ。
「ボッコボコ……ま、まあ、本来であれば、渡した3000Gを元手に装備を整えてもらうのですが、そちらも大丈夫そうですね。もし購入するのであれば、地図左上の商業地区に取り扱っている店舗が数件ありますので、そちらでお買い求めください」
商業地区といえば、インテリヤクザことレナードさんだ。結局アルバイトで会ったきり、あれから一度もお店に顔を出せていない。
せっかく割引してもらえる『レナードの紹介状』もあることだし、あとで買い物にでもいってやりますかね。
「次に戦闘のチュートリアルに入るのですが……あ、ちょうどいいところに。ソノミチノ=パーイセンさ――ん!」
エイミーさんが呼びかけた先には、遠くに佇む1体の案山子しかいない。幻覚でも見ているのだろうか? まだ若いのに……。
……ん? あの案山子、動いてない?
しばらく眺めていると、案山子は大きくジャンプして体の向きをこちらに変え、一本足を器用に動かしてこちらまで飛び跳ねて近づいてきた。いや、この案山子がソノミチノ=パーイセンなの!?
「呼んだかい? エイミー」
へのへのもへじの『へ』を動かしながら、無駄にイイ声でしゃべるソノミチノ=パーイセンさん。な、なんだ、このへのへのもへじから溢れ出るイケメン臭は!?
「パーイセンさん、こちら安倍晴明さんです。新しく冒険者登録をしまして、次は戦闘訓練をする予定なのですが……」
「ふむ、それ以上は言わなくて大丈夫だよ。晴明くん、君はかなりの使い手だね?」
コ、コイツ……見ただけで、初期装備で見た目ニュービーの俺の力を見抜いただと……!?
「強者は語らずとも、その雰囲気だけで分かるものさ。きっと君は後衛職だと思うけれど、それでも単体で僕よりも強いね……どうする? 基礎的な動作のチュートリアルだし、きっと必要ないだろうけど、戦闘訓練をするかい?」
ソノミチノ=パーイセンさんがどれほど強いのかは興味あるが……俺は戦闘狂ではない。元来が面倒くさがりなのだ。戦う必要がないなら、わざわざ戦わなくていいだろう。
「いえ、大丈夫です」
「そうかい。いやぁ、命拾いしたよ!」
【『メインストーリー:はじめての戦闘訓練』が発注されました】
【『メインストーリー:はじめての戦闘訓練』を完了しました!】
【施設『訓練場』が解放されました】
【報酬:500G】
なんだか会話をしているだけでクエストが消化されていくんだが、これでいいのかチュートリアル?
「え、ええっと、次は……モンスター討伐ですね。スライムを討伐して、そのドロップ品を持ってきて欲しいんですけど……」
エミリーさんが必死に手順書と思われる資料をめくっている。普通はこんなにポンポコ消化されていくことはないだろうから、かなり大変そうだ。まあ、それで給料を貰ってるんだから頑張ってくれ。
「うぅ……新米だから給料も雀の涙ほどなのにぃ……ゴ、ゴホン! スライムのドロップ品! 早く持ってきてください!」
「これですか?」
インベントリからスライムを倒した時に入手したドロップ品を取り出す。
ちょうどよかった。『はじまりの町』に帰ってくる途中に通った『はじまりの平原北』で、行きの駄賃にちょっとだけスライムを狩っておいたんだ。経験値もゴールドも大したことなかったが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
「そ、それは……『スライムの筋肉』じゃないですか!?」
普通のスライムはまんまるの体で、質感は水風船のようにぶよぶよ。そこに北海道のご当地キャラクターである『まりも●こり』の顔を張り付けたような、絶妙に気持ち悪い見た目をしている。
俺が倒したスライムはそれに加えて、まんまるの体から逞しい2本の腕が生えた、なんとも異様な形をしていた。
気持ち悪かったからさっさと一刀両断してやったのだが、その時に落としたのがこの『スライムの筋肉』というアイテムである。見た目はスライムの質感をした、人間の肩から先という感じの気持ち悪いもの。引き取ってもらえるなら、さっさと売ってしまいたい。
「え、ええ!? 私、初めて見たんですけど……スライムじゃないけど、スライムタフはスライムのレア個体だし……クリアにしていいのかな……もう! どうすればいいのよぉ!」
ついにエミリーさんのキャパシティーをオーバーしたようだ。涙目で資料を放り投げて、「降参です!」とばかりに万歳してしまった。
「このクエストの目的は、一人で魔物を狩ることができるか確かめるためにある。スライムのドロップ品が条件にはなっているけれど、極端なことを言えば、魔物のドロップ品を持ってきていれば問題ないのさ」
エミリーさんが投げ放ってしまった資料を拾い集めつつ、ソノミチノ=パーイセンさんが補足する。どうでもいいけど、どうやって木の手で紙を拾ってるんだろう。無駄に器用だな。
「ステータスの『器用』は、高ければ武器を扱う時に補正がかかる。しかし『器用』が必要なのは、なにも武器だけではないのさ。君は強いが、知識がその強さに追いついていないね」
グッ……痛いところを突いてくる。
確かに俺は人里離れた寒村に拉致され、まともな戦闘訓練を積んでいない状態でユニークモンスターをまぐれで倒してしまい、レベルだけが異常に上がってしまった状態だ。ステータスの意味も他のゲームの効果を参考にしているだけで、AFOにおける意味を調べてもいない。
「たしかに僕は君よりもレベルが低いが、先人には『知識』という武器がある。何か困ったことや分からないことがあったら、いつでも訓練場に来るといい。はい、エイミー」
拾い集めた資料を一瞬でページ順に整理し、エミリーさんに手渡すソノミチノ=パーイセンさん。そして『へ』を回転させてニッコリと俺に笑いかけてから、ピョンピョンと一本足で飛び跳ねながらどこかへ消えていった。最後までイケメンな案山子だった。
「そ、そういうことなので、クエストはクリアにしておきます。あと、さっきのは忘れてください」
【『メインストーリー:はじめての魔物討伐』が発注されました】
【『メインストーリー:はじめての魔物討伐』を完了しました!】
【報酬:500G】
「分かりました。『どうすればいいのよぉ!』と叫んで資料を放り投げたのは忘れます」
「忘れる気ないでしょ! もう!」
そりゃ、あんな面白い光景を忘れる訳がない。ふわふわ系知的ガールのエイミーさんがやぶれかぶれになる姿は、なかなかにギャップがあってかわいかったからな。
「……そんなこと言われても、許しませんからね」
ぷっくりと頬を膨らませているエイミーさんも、それはそれでギャップがあっていいね。それよりも、エイミーさんはいつまで『スライムの筋肉』を撫でてるんだろうか。しかも、ちょっといやらしい手つきで擦っている気がする。
見た目に反して、意外とムッツリスケベなのかな?
「そんなに欲しいなら、それあげますよ。見た目が気持ち悪いんで」
「べ、べべ、べつに欲しくなんてないです! 珍しい触り心地だったから、つい触ってしまっただけです! はい、返します!」
返されてしまった。でも、確かにこれは面白い触り心地だ。
おっ、これフィギュアみたいに手を好きな形にできるぞ。そうだな……試しに、中指と薬指だけ90度に曲げて、他の指はピーンと伸ばしてっと……。
「エイミーさん、コレ本当にいりません?」
「だ、だから! いらないって……えっ!?」
やはり食いついた……ッ!
俺がエイミーさんの目の前でスライムの筋肉――略してスラ筋――を右に左にと動かすと、それを食い入るように見つめるエイミーさんの顔も右に左に。まるでチャ●チュールを目の前にした猫のようだ。
「ほ、ほんとにもらっていいの……?」
「ええ、俺は別にいらないので」
思った通り……コイツは正真正銘、ムッツリスケベ女だ!
「そ、そうですね。いらないなら、仕方ないですよね。あくまで、仕事のためです」
「そうですとも! レアモンスターのドロップ品なんですから、受付業務の勉強のためにも隅々まで調べないといけませんとも! どうぞ遠慮せずに受け取ってください! あ、ちょっと、待って、こう持っててください。そのままで…………はい、ありがとうございます!」
今晩のオカズをゲットだぜ。豊満な胸で挟むようにスラ筋を持っているエイミーさんを、スクリーンショットでパシャリとさせていただいた。タダでレアモンスターとやらのドロップ品をあげるんだし、これくらいは許されるはず。
「えっと……これでチュートリアルは終了です。あとは自分の目で、耳で、そして足でこの世界を体験してください!」
スラ筋をいそいそとしまってから、凛とした表情で定型文と思われるセリフを口にするエイミーさん。冒険の始まりを告げる胸アツなシーンなはずだが、今までの流れもあってどうにも締まらない。
だが、これで俺もスタートラインに立てたわけだ。ものすごい遠回りをしてしまったが、その価値はあった。レベルは最前線と同格らしいし、ジョブもレアジョブの『陰陽師』。
ここから一気に捲って、颯爽と最前線に躍り出てやるぜ!
「それで、まず俺は何をすればいいですか?」
冒険者カードを見ると、『冒険者ランク:H』と印字されている。まずはこのランクを上げていけばいいのかな?
「そうですね。モミジちゃんが起きるまで、適当に魔物の討伐でもしてくればいいと思います」
いつのまにかエイミーさんの膝の上で爆睡しているモミジがいた!
どうりで会話に参加してこないと思ったら……というか、エイミーさんもさりげなくモミジを俺に返すまいとしている。どれだけモミジにメロメロなんだ……。
……まあ、ここら辺の魔物なら一人でも大丈夫か。無理矢理起こすのもかわいそうだし。
「この冒険者ランクは、討伐クエストで上がるんですか?」
「討伐クエスト以外にも、採取や納品、調査などいろいろなクエストがあります。とにかくクエストをクリアしていけば、自然に上がっていきますよ」
ふむ。それならあまり考えずに、クリアできそうなやつを何個か受けてみるか。
「分かりました。そしたら討伐クエストクリアしてくるんで、モミジのお守りお願いします」
「お任せください! 私のシフトが終わるまでに帰ってこなかったら、ちゃんとおうちに連れて帰ってお世話もするので! 6時間くらい魔物を討伐してきてください!」
「分かりました。2時間で戻ってきます」
俺はギルド内の隅に配置されていた掲示板で討伐クエストを受注し、さっさと冒険者ギルドを後にしたのだった。
ブックマークが400件を突破しました!
ブックマークや評価(★)で応援いただき本当にありがとうございますm(__)m
来週も3話投稿します。
次は木曜日予定!




