37話 エピローグ of 陰陽師と黒髪の美女とキス
ジジイのマサカリによって気絶させられた後、日が明けた頃に『はじまりの町』へと到着した俺達は、念のため病院に直行した。
診断結果は全くの問題なし。俺とモミジは疲労が少し残っているくらいで、ジジイに至っては健康そのものだと言う。イイことなんだが、どうにも納得いかない。10年くらい寝込んでいればいいのに。
ちなみに、モミジは美女モードの時の記憶がないらしい。目を覚ましたモミジは、「おいしいカブをたくさんたべたのじゃ!」とかいうお花畑な夢の報告をしてくれたのだ。かわいいから、オーケーです。
そんなこんながありつつも、今は『モナクス』へと帰るジジイを見送るために、『はじまりの町』の出口に来ているところだ。
「一人で大丈夫なのか? もうちょっと休んでいっても……」
「いつもは一人じゃし、歩き慣れた道じゃ。それに山を越えるなら今が一番安全じゃろうて」
ジジイが言うには、あのサーベルベア――ドロップ品から推測するに『クイーンビーベア』というようだ――は、あの辺りを縄張りにしていた主であろうとのこと。その主を倒したことで縄張りは空白地帯になっており、今なら魔物の襲撃もほとんどなく山を越えられるだろうから、サッサと帰るというのだ。昨日の今日だというのに忙しないジジイだぜ。
「改めて晴明、それにモミジちゃん。今回はお主たちのおかげで命拾いしたわい。ありがとなァ」
ジジイが姿勢を正して、似合わないお辞儀をしてくる。このジジイにまともな態度を取られると、なんか背中がムズ痒くなってくるな。
「それなら感謝の印として、防具を貢がせてやってもいいぞ」
「まったく……おじいちゃん、晴明はテレているだけなのじゃ。ほら晴明、ちゃんとおじいちゃんにアイサツしないとダメなのじゃ」
いや、お前は俺の母親かよ!
どうやら登山中のパートナー宣言を受けて、モミジに「パートナーのために尽くさねば!」という意識が芽生えてしまったらしい。
いや、あの、まだ結婚は早いと、ワタクシは何度も言っているんですけどネ……。
モミジ曰く、「だいじょうぶなのじゃ。すぐバインバインのボインボインになって、晴明はわらわのトリコになるのじゃ」とのこと。なんて健気な幼女なんだ。もう幼女でもいい気がしてきた。
「……まあ、無事でよかったよ。帰りも蜂には気をつけて、風通しのイイ体にされないようにな」
「もう! 晴明はすぐにそういうことをいうのじゃ!」
モミジは腰に手を当ててプンスカしている。そのちょっと背伸びをして俺を叱る姿は、お嫁さんごっこをしている感じでかわいかったり……ハッ! 俺は気がつかない内にロリコン思考になっている!?
「ほっほっほっ、坊主が天邪鬼なのは今にはじまったことではないからのォ。ワシもさすがに慣れたもんじゃ」
改めてジジイにそう言われると腹が立つな。俺は天邪鬼なのではない。ちょっとだけオチャメが過ぎるだけだ。
「おじいちゃん、ほんとうにありがとうなのじゃ。わらわも晴明も、いっしょにタビできてたのしかったのじゃ!」
「こちらこそ、ありがとうなァ。モミジちゃんと旅ができて、おじいちゃんもたのしかったわい」
おっと、俺が油断している間に幼女が総括をはじめたぞ。幼女嫁の尻に敷かれる男子高校生夫……設定だけ抜き出すと、なんだか萌えるな! できれば物理的にも尻に敷いて欲しい!
これからしばらく会えないからか、ジジイはモミジの頭をナデナデしながらハイパーデレデレタイムに突入している。また目尻が顎の下まで垂れ下がってるぞ。アイツの顔の構造はどうなってんだ。
「レベルがもうちょっと上がったら、また『モナクス』に遊びに行くよ。それまでくたばるなよジジイ」
「坊主の方が早死にしそうじゃがのォ」
否定しきれないのが悔しい。レベル1で2回もボス戦に巻き込まれて死にかけたからな……改めて考えてみても、本当によく死ななかったよね……。
「今度は村でゆっくりしていくがええ。美味い酒でも用意しておくでのォ」
「俺、未成年なんだけど」
もちろんAFOでも未成年の飲酒は禁止だ。そして風俗も禁止だ。チクショウ!
「未成年でも飲める酒はある。まあ、期待しておくがええ」
甘酒みたいなものかな? それなら大丈夫か。マキビさんと3人で飲み会とか楽しいかもしれない。俺だけ年齢が違いすぎるけど……野球とか政治の話をされても俺はついていけないぞ!
「それじゃあ、そろそろワシは行く」
なんともあっさりしたものだ。もうちょっと俺との別れを惜しんで泣いたりすればいいのに。かわいくないジジイだぜ。
初めての旅仲間であり、なんだかんだ一緒にいた時間はジジイが一番長い。詐欺には遭うし、殺されかけたし、パシられはするし……とんでもないヤツだったけど。
ジジイのおかげでマキビさんとハクに出会い、陰陽師へと転職し、モミジと出会うことができた。普通にプレイいていたら経験できないようなことを、たくさん経験させてもらったのだ。これは詐欺を補って余りある功績でもある。
だからと言って、ここで感謝を述べてお別れってのも、俺とジジイの間柄じゃ違うだろう。きっとジジイも感謝されたところで背中がムズ痒くなるだけのはずだ。
普通に「またな」って言うのも簡単だが、それはそれでつまらない。
だから俺は、ちょっとだけ遊び心を加えてみる。
「またな、友よ」
ジジイは一瞬だけキョトンとしたが、すぐに意図を理解したようで、ニカッと楽しそうに笑いながら応えた。
「おお、また会おう、友よ」
ジジイは俺とガッチリと握手をして、それからモミジの頭を名残惜しそうに五撫でしてから、散歩に行くような軽い足取りで町の外へと歩いて行った。相変わらず、老人とは思えない力強い後ろ姿だ。あれなら帰り道にどんな化け物が出てきても大丈夫だろう。
「おじいちゃん、しんぱいなのじゃ」
「うん、そのセリフで一回フラグが立ったからやめようか」
さすがに二度も同じことがあるとは思わないが、縁起の悪いことは言わない方がいい。モミジは「ふらぐ?」と不思議そうにしているが、説明もめんどくさいので放置だ。
「ん? 晴明、ヨロイになにかはってあるのじゃ」
モミジは俺の背中にまわると、「うんしょ、うんしょ」とめいっぱい背伸びをして、背中に付いたナニカを剥がす。モミジからビジネスホテルの部屋に置いてあるメモリーフサイズの紙を受け取ると、そこには無駄に達筆な字でこんな内容が書かれていた。
『坊主の怪我の治療で使った高級ポーション代金5000G。今度モナクスにきたら返済してね(はーと)』
「あ、あの銭ゲバジジイ! 最後まで金金金金と!」
俺の感動を返して欲しい。冒険が始まる前から借金を背負ったぞ。
なにが「おお、また会おう、友よ」だよ! 友達だと思ってるんだったらポーション代くらいオマケしてくれたっていいだろ!
「晴明。トモダチだからこそ、オカネかんけいはキチンとしないとだめなのじゃ」
なんて無駄に含蓄のある言葉を言う幼女だ。ぐうの音も出ない。
「だいじょうぶなのじゃ。いっしょにはたらいて、かえしていくのじゃ!」
そしてなんて良い妻なんだ。
そう、これからは夫婦(仮)水入らずの二人旅である。俺とモミジが一緒なら、5000Gくらいなんてことない気がしてきた。もしかしたら、モミジはアゲマンとかいう種族なのかもしれない。
「あ、そういえば」
「ん? なんじゃ?」
これから二人旅をしていくにあたり、あのことについて話し合っておかなければなるまい。今後の夫婦生活(仮)を左右する問題でもある。
「キスのことなんだけど」
美女モミジは、スキル『???』を使用するなと言った。そしてこのスキルは、どうやらキスがトリガーとなっているらしい。つまりモミジとキスをするなということと同義だ。
これについて、きちんとモミジにも説明しておく必要があるだろう。ハプニングキッスで殺戮マシーンになられては困る。
例えば「晴明、くちもとにゴハンがついておるのじゃ」とか言って、俺の口元についているゴハンを直接口で取ろうとした結果、操作を誤ってチュッ! 殺戮マシーン! とか。
例えば王様ゲームをしていて「2番が王様にキッス!」となった時に、たまたまモミジが2番で俺が王様。ルールだから仕方なくチュッ! 殺戮マシーン! とか。
例えば眠っている俺がかわいくて、モミジがついついチュッ! 殺戮マシーン! とか。
ちょっと考えただけでも、これだけのハプニングキッスが思い浮かぶのだ。このままでは色々な意味で精神衛生上よろしくない。きちんとしたルールを設けることが必要だ。
「き、ききき、きすぅ!?」
俺はしごく真面目な表情で切り出したのだが、急にモミジが素っ頓狂な声を上げた。はて、何をそんなにビックリしているんだろう?
「そういえば、そうだったのじゃ……この! ヘンタイ! しきじょーま!」
そして、すかさず俺の股間を親の仇のように蹴り上げ始めた。なかなか腰が入った素晴らしいキックだ。はて、なぜ股間を蹴られているんだろう?
「晴明が、あのピンチのときに、きゅうに『キスをしよう』とかいったからじゃ! おもいだしたら、ハラがたってきたのじゃ!」
はっはっはっ、それで助かったんだからいいじゃないか。女の子がそんなに男の股間を蹴るのはやめたまえよ。はしたないじゃないか。
「な、なぜ、ビクともしないのじゃ」
「そりゃ、モミジに開発されたからな」
首と股間の2点攻めには度肝を抜かれたものだ。あの刺激を経験した今では、幼女モミジの蹴り上げなど、蚊に刺されたくらいにしか感じない。刺激がァ……足りねぇんだよォ……!
「キ、キモイのじゃ……」
まさにドン引きという表情で後ずさるモミジ。
「グヘヘ……待ってくれよぉ、お嬢ちゃん。そこの陰でスケベしようやぁ……」
「ひっ! こっちくるな! ヘンタイ!」
イヤよイヤよもスキのうち。分かってるんだぜ、俺のこと好きなんだろ? へへっ、最初だし優しくしてやるからよぉ。大丈夫、俺はアダルトなビデオで予習もバッチリ。AFO界の加●鷹とは、俺のことだッ!
「ちょっとそこのキミ」
陰陽師と式神のオトナなスキンシップを楽しんでいると、突然後ろから声をかけられた。なんだよ、いまイイところなんだから邪魔すんじゃねえよ。これから俺のゴール●フィンガーが火を吹く……いや、水を吹かせるところだからよォ!
「ちょっと、衛兵詰所まで同行してもらえるかな?」
振り返った先には、とてもイイ笑顔をした屈強な衛兵さんが3人立っていた。しかし、目はまるで笑っていない。まるで犯罪者を見るような目つきだ。どうしてだろう?
「ハタからみれば、はんざいしゃそのものなのじゃ」
「なに!? 俺は犯罪者じゃない! ただ純粋な気持ちで、幼女モミジとスケベしようとしただけア――レ――――……」
俺の必死の弁解も空しく、3人のガチムチ衛兵に囲まれて、衛兵詰所まで任意(強制)同行させられるのだった。
「……ふぅ」
長時間かぶっていたことで、少し蒸れて息苦しいフューチャーズギアを外す。この世界に体を慣らすように、3度ほど深呼吸をしてから起き上がり、ベッドから緩慢な動きで下りた。
衛兵に拉致られてからも大変だった……モミジが俺の式神であると何度説明をしても分かってくれないし、おまけに俺が冒険者ギルドで冒険者登録をしていないことも厄介な問題だった。身分証明書とも呼べるものを、この世界でまともに持っていなかったからだ。
本来であれば、冒険者登録をした時にもらえる冒険者カードがあれば十分なのだが、もちろん冒険者ギルドに足を踏み入れたことのない俺が持っているはずもない。そのせいで強姦罪に加えて浮浪罪にも問われそうになった。
俺の身ぐるみが剥がされそうになった段階で、ようやくモミジが「自分はこのヘンタイの従魔のようなものだから問題はない」という証言をしてくれたのだ。被害者(仮)がそういうのだから衛兵もそれ以上は何も言えず、小言を言われながらもなんとかシャバに出ることができた。
さすがに心身ともに疲れ果ててしまった俺は、宿屋で部屋を借りることにして、一度ログアウトしたのだった。
現実時刻は19時頃。AFOではまだ朝の10時だったため、かなりの時差がある気もするが、だんだんと体も慣れてきたようだ。お腹は現実時間通り、夜ご飯を求めてグルグルと呻いている。
「ん? 今日は静かだな……まだ2人とも残業してるのか」
階下に耳を澄ませてみても、誰かがいるような気配はない。俺の両親は共働きであり、尚且つかなりの仕事熱心。残業で遅くなることは、そう珍しいことでもないのだ。
スマホのメールを確認すると、案の定「晩御飯は適当に済ませてください」という旨のメッセージが母さんから入っていた。まだカップラーメンが余っていたはずだから、ちゃっちゃと済ませてAFOに戻ろう。
「……母さん、いま忙しいかな?」
なぜかと言われれば、自分でもよく分からない。AFOで体験したいろいろな出来事を、誰かに話したくなったのかもしれない。俺は気がつけばスマホを操作して、母さんに電話をかけていたのだった。
「……あ、ああの、もももしもしもしも? マイエンジェ……か、母さん? 俺だけど」
久しぶりの電話な上に、母さんとまともに話すのも実に3か月ぶりだ。緊張してドモりまくってしまったが、変に思われていないかな?
「……え? オレオレ詐欺? ち、ちが、ちがうよ! 俺だよ、晴明! 息子の声、忘れちゃったの!?」
どうしよう、完全にオレオレ詐欺だと思われている。「息子の声忘れちゃったの!?」と言ってみたが、喋るのも3か月ぶりだしな。元からおとぼけ気味な母さんだし、忘れているという可能性も無きにしも非ずだ。「ウチに息子はいません!」というオレオレ詐欺対策の常套句を言ってるし。俺の心に100万のダメージ。
「タカアキって誰だよ! あー、あれだ、電話番号。よく見て、俺の電話番号でしょ? そう、いや、そこは偽装できないから。お願いだから信じて」
声からは不信感が駄々洩れだけど、ひとまずは話を聞いてくれそうだ。
「あー、その。母さん、ゲーム、ありがとう。めちゃくちゃ面白いよ、あれ」
ゲームという単語を出すと、ついに俺が本物だと信じてくれたようだ。俺に持ってる印象が分かりやすくていいね。なんとも複雑な心境ではあるが、これでやっと話が進む。
「だから本物だってさっきから……あー! 母さん、落ち着いて。ウェイト、ドントクラーイ、イエース、ドントクラーイ、オーケー? ステンバーイ、ステンバーイ」
危うく泣き出すところだった。今だってものすごく涙をこらえている声だ。
「え? 今日は仕事は終わりにする!? いや、いいって! ほんの5分くらい、ちょっと話せればいいかなって思ってただけだし。あー、うん。まだ直接は、やっぱり、ちょっと……」
危ない。仕事を放り出して帰ってこようとしたぞ。それでいいのか社会人。一応はそれなりの地位の人だったはずなんだが。
「俺さ、ゲームの中でだけど、いろいろなこと経験したんだ……聞いてくれる?」
泣きそうな声で「もちろん!」と母さんは言ってくれた。いまさらだけど、こんな状態で仕事に戻れるのかな? 母さんは一度泣きはじめると、完全にダムが決壊して止まらなくなるからなぁ……。
まあ、本人が大丈夫だって言っているからいいか。完全に自己中で自己満足だけど、聞いてもらおう。俺の……俺達の、冒険の話を。
「ゲームの中なんだけど、実は『親友』と『師匠』ができたんだ。しかも、冒険のパートナーはかわいい女の子でね――――」
結局電話は5分で終わらず、1時間ほどは話していただろうか。偉い人に母さんが怒られる声を聞きながら、俺はそっと通話終了ボタンを押したのだった。
これにて第一章は完結です!
よろしければ感想をお聞かせくださいm(__)m
これからも投稿を続けていくモチベーションになるので、
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第一章まで投稿した感想や、これからの投稿のことは別途活動報告に書いています。
そちらもご確認いただけると幸いです。
とはいえ、まだまだ物語もやっと始まるようなものですしね。
これからも生暖かく見守っていただけると嬉しいです!




