表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/98

36話 カクカクシカジカでスットコドッコイのドッコイショ


 う~~ん、また気絶してしまったか。


 ぷかぷかと宙に浮いているような不思議な感覚……こう何度も経験しているとさすがに慣れてくるよね。


 しかし、今回はかなりヤバかった。


 あれは一体何だったんだろうか。


 ハクの助言通りにモミジとキスをしたら、黒髪の美女が出現したのだ。


 久しぶりに見た彼女は、強くて、美しくて、たまにかわいくって……ってそうじゃない。何か気になることを言っていたはず。



『今回は仕方なかったかもしれんが、『???』は使ってはならぬ。それは理の外へと近づく力じゃ』

 


 『理の外へと近づく』……これが裏鬼門の話で出てきた、『理から外された者達』に関連することは想像がつく。ここで気になるのが、『理から外された者達』という表現が受動的なのに対して、『理の外へ近づく』という表現は能動的だということだ。


 ということは、今のモミジは()()()におり、スキル『???』を使うことで()()()へと引っ張られていくということだろうか。契約前の殺戮(さつりく)マシーンが理の外だとすれば、スキル『???』は大きな爆弾を抱えていることになる。


 俺は感情豊かなモミジが好きだ。泣いて、笑って、時には怒って……そんな普通の子供みたいなモミジが大好きなんだ。



 だから、あのスキルは使わないようにしよう。



 モミジの笑顔を守るために。



 ……ん?



 もしかして……モミジとのキス禁止令?

 


 そんな! い、いや、幼女モミジとキスできないことが残念というわけじゃなくて! 禁止ってなったら、それはそれで、こう、なんか違うじゃん!



 ――ああ! 気絶から覚める感覚が!?



 まだ脳内会議が終了していないんだから、ちょっと待っ――――。




「む、起きたようじゃのォ」


 俺の制止の声も空しく、やはり意識が覚醒してしまったようだ。


 ぼやける視線の先に誰かの顔が見える。頭の下には冷たくてゴツゴツした感触と、それに漂う強烈な加齢臭……デジャヴのデジャヴ……これは……。


「ジジイの膝枕かよォ!」


 背筋をフル稼働させて慌てて起き上がる。


 そう。今回はマキビさんでもハクでもモミジでもなく、まさかのジジイの膝枕。晴明史上で最悪の目覚めだった。


 無駄に筋肉質なゴツゴツした足で寝ていたからか、ものすごく首が()っている。精神的にも肉体的にも大ダメージだ。


「なにしやがるジジイ! テメェの膝で寝るくらいなら、そこらへんの岩で寝た方がマシだわ!」


「じゃってぇ……みんな膝枕してたから、ワシもしてみたくなったんじゃもん……」


 じゃもんって……いまだかつて、ここまで可愛くない『もん』を聞いたことがあるだろうか? いや、ない!


「ジジイ、ふざけてるな?」


「モチのロンじゃ」


 ダブルピースして答えるジジイに渾身(こんしん)の右ストレートをお見舞いしてやる。


 俺の拳とジジイの手の平が衝突し、剛速球をキャッチャーミットで受け止めたような、とても小気味よい音が鳴った。


「おお?」


 いつのまにか、身体が動くようになってるじゃん。しかも今のストレート、かなりいいパンチだった気がする。ゲーセンのパンチングマシーンで今すぐ試したい。


 その証拠に、ジジイは受け止めた手をヒラヒラさせて痛がっている。顔もちょっとだけ悔しそうだ。ザマーミロ!


「アイタタ……坊主、筋力がかなり上がったんじゃないかのォ? レベルも上がったんじゃろ?」


「あ、ああ」


 そういえば、美女モミジがサーベルベアを倒した瞬間、壊れたCDみたいにレベルアップのファンファーレが鳴り続けていた。


 あの時は俺の首と股間がピンチだったため、気にしている余裕もなかったが……めちゃくちゃ気になる。私、気になります!


「ス、スス、ステータシュ!」


 緊張しながらステータスを開く。ほんのちょっとだけ噛んでしまったが、音声認識は優秀だったようで、きちんと認識してステータスを表示してくれた。


 それが、これだァ。



 ワン。



 トゥー。



 スリー。



---ステータス---

名 前:安倍晴明

レベル:17

種 族:人間族(天風人)

職 業:陰陽師

H P:261(+22)

S P:157(+10)

M P:368(+2)

攻撃力:209(+24)

守備力:185(+54)

魔攻力:240(+4)

魔守力:229(+15)

敏 捷:131(+6)

器 用:142(+2)

運命力:270(+4)

スキル:式神召喚(不可)

    式神契約(1/1)

魔 法:朱雀の印 火雨

-----------



 ええ…………。



 なんかもう、ドン引き。



 信じられますか? 俺の戦闘歴、まだ1戦0勝0負の無効試合1なんですよ?



 どういう理屈か分からないが、上がりにくいと言われているレベル10台を全力で駆け抜けている。


「レベル……17まで上がってました……」


「ええ…………」


 ジジイが俺の心の声と全く同じ反応をしていた。いまだけはジジイの気持ちがよくわかる。1から17にひとっ飛びとか、チートを使ったとしか思えない。運営に通報されて、アカウント削除されたりしないよね?


 パチパチと、夜闇に焚火の火が跳ねる音が響く。俺とジジイは、しばらく無言で焚火の火が揺れるのをボーっと見続けた。


 どうしてこんなに火を見ていると落ち着くんだろう。前世は放火魔だったのかな。ジジイは今世が犯罪者みたいなものだし、放火の一つや二つくらいしてそうだ。


 ……ん?


 そういえば、俺はなんでナチュラルにジジイと会話できているんだろう。ジジイは無様にもサーベルベアに敗北して、コアトルビーの操り人形に成り果てていた。救出して解毒はしたものの、重症だったはずだが……。


「獣人はジョウブなんじゃ。HPは放っとけばドンドン回復しよるからのォ」


 チッ! 死にぞこないが!


 あんなに青い顔をしていたのに、ピンピンしてやがる。お腹の傷も完全に塞がっているようで、コアトルビーの針で空いた服の穴からは、傷一つない肌が見えている。ジジイの腹チラとか需要ないからすぐにしまって欲しい。


「じゃが、毒は自然に治らん。晴明のおかげで助かった……ありがとうなァ」


「あ、ああ」


 なんだよ。普段は憎まれ口ばっか叩く癖に。


 まるで親しい友にでも向けるような、穏やかな笑みをたたえて俺を見てくるジジイ。真面目に感謝されると、こう、むずがゆい。いつもは『坊主』と呼んでくる癖に、名前で呼んでくるところもムズムズポイントだ。

 


 しかし、改めて実感した。



 俺達は、ダグラスを守ることができたんだ。



 最後は美女モミジ頼みだったわけだが……それでも、ダグラスを死なせずに済んだ。この事実は変わらない。


 そう考えると、なんだかたまらない気持ちになって、俺はいつのまにかジジイに抱きついて泣いてしまっていた。人生で初めて、声をあげて泣いた。


 そんな俺をいつものように馬鹿にするでもなく、ダグラスは何も言わずに頭を撫で続けてくれた。


 やっぱり、俺はダグラスのことが好きなんだ。いつも憎まれ口を叩くし、顔を合わせる度に喧嘩しているが、それすらもどこか楽しく感じている。なんでも明け透けに言いあうことができる、俺が想像していた『親友』とも言うべき、そんな大切な存在にダグラスはなっていたようだ。


「どうじゃ、ワシは『人を見る目はある』と言ったじゃろう?」


 顎を上げて自信満々に言い放つジジイ。クソッ、なんて腹の立つ顔と仕草と顔と顔だ。俺が織田信長なら即座に首を刎ねている。


「ヘッ、ぬかせ。今度は熊を見る目も鍛えておくんだな」


「赤い目をして皮肉を言われても、痛くも痒くもないのォ~」


 うるせえ。新しく取得したスキル『邪気眼』だよ。


「そういえば、ここはどこだ?」


 俺は恥ずかしさをごまかすために、話題を変えることにした。


 ジジイの膝枕事件とステータス爆上げ事件で周りを気にする余裕がなかったが、俺達がいるのは山の中ではなく、草原のような開けた場所だ。気絶していたから全く状況が分からない。助かったことは理解できるが……。


「ここは『はじまりの平原北』じゃなァ。『モナクス』に行く途中にも一回通ったじゃろう」


 いまいち暗くて見えづらいが、そう言われると見たことある気もしてくる……まあ、別にどこでもいいや。覚えておく平原はハクの胸だけで十分だ。


「そうか……山を抜けられたのか……」


「モミジちゃんはともかく、坊主を運ぶのには苦労したわい」


 どうしてだろう? 俺の髪の毛と鎧が砂まみれなんだよね?


「それはモチロン、引き()ってきたからじゃなァ」


 ●す。


「まあ待て。モミジちゃんをだっこしておったのじゃ、坊主まで抱えては歩けんじゃろ」


「それはしかたない」


 何事もレディーファーストだ。これは母さんの教えでもある。


「――そういえば、モミジは!?」


 やべえ、完全に忘れていた。今回のMVPだというのに。モミジの謎の寝言を最後に、俺も気絶してしまったため、モミジがどうなったのか把握できていない。


「モミジちゃんなら、テントの中に寝かせておるよ」


 ジジイの指差す先に、小さいテントが張ってあるのが見えた。あれは以前の山登りの際に組み立てを強要された、ジジイのテントだ。近づいて中を見てみると、モミジが安らかな顔でスヤスヤと眠っていた。


 やっぱり、ロリモミジに戻っている。


 あ、そういえば。モミジのステータスも見ておこう。



---ステータス---

名 前:モミジ

レベル:13

種 族:コオニ

H P:79(+10)

S P:88

M P:321(+60)

攻撃力:100(+45)

守備力:83(+45)

魔攻力:304(+65)

魔守力:308(+65)

敏 捷:177(+20)

器 用:248(+35)

運命力:75

スキル:???

魔 法:なし

-----------



 俺とレベルの上がり幅が違うが、ステータスは依然として高い。レベルが上がったことで魔法も覚えることができるはずだし、これは優秀な後衛職として働いてくれそうだ。



「ふぅ……」


 HPもちゃんと残っているし、状態異常もない。ジジイとの話の流れ的に無事であることは分かっていたが、自分の目で見て、本当の意味で安心ができた。


 俺もモミジもダグラスも、誰一人として欠けることがなかった。これは大勝利と言ってもいいだろう。


「ワシが起きた時には敵がいなくなり、坊主とモミジちゃんが倒れておったんじゃが……いったい何があったんじゃ?」


 そういえば、ジジイに経緯を話していなかったな。仕方ない、俺の英雄的な活躍と、サーベルベアとの死闘を語ってやろうじゃないか。


「カクカクシカジカでスットコドッコイのドッコイショ」


「なるほどのォ」


 俺が簡単に説明してやると、ジジイは理解できたようだ。ウンウンと腕を組んでしきりに頷いている。


「つまり、すべてモミジちゃんのおかげってことじゃのォ」


 まるで理解していなかった。


「ついに脳まで腐ったかジジイ? 俺だってコアトルビーと互角に立ち回ったんだぞ! それにモミジが強くなったのだって、俺がキスをしたから――」


「キス、じゃとォ?」


 あ、やべ。絶対にめんどくさくなると思って、さっきはボカしたことを勢いで言ってしまった。


 ジジイの背後から、爪を鋭く研いで鬼の形相をしたタヌキのオーラが立ち上がっている。絶妙に弱そうだ。


「ワシが瀕死(ひんし)で苦しんでいる間に、ず~いぶんと楽しんだようじゃのォ?」


「ダ、ダグラス御爺様? 目が笑っておりませんことよ!?」


 あー、ダメだ。完全にあれはブチギレてる。これはもう何を言っても藪蛇(やぶへび)ならぬ藪狸(やぶだぬき)になってしまう気がする。


「もう一度……いや、永久に眠っておれェ! このロリコン坊主がァ!」


 ジジイがマサカリを振りかぶって、俺の頭へと振り下ろした。せっかく助けてやったというのに、なんて理不尽な。解毒草の代金を100倍にして返して欲しい。あわよくば、壊れた装備も全部新調して欲しい。もちろんオーダーメイドで。


 そんなことを考えながら、額にマサカリの柄がクリーンヒットした俺は、何度目かも分からない気絶世界へと華麗に旅立っていくのだった。


 ぷかぷか~。



総合評価1000pt突破しました!


ブックマークや評価(★)で応援いただき本当にありがとうございますm(__)m


次話でついに第一章も完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ