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31話 逃走劇


「晴明! 右後ろから3体なのじゃ!」


「オッケー! ★朱雀(すざく)の印 火雨(ひさめ)★」

 

 一瞬だけ立ち止まり、指の先から(ほとばし)る炎で空中に『火雨』の字を描く。炎の鳥が空へと飛び立って弾け、火の雨がコアトルビー3体の頭上に降り注いだ。


 HPを全損させることはできなかったものの、攻撃を食らって2体が(ひる)み、1体は羽に引火して地面に落下した。これでしばらく時間が稼げるだろう。


「坊主! まだ遠いが、左後ろからも2体くる! はよう逃げるぞォ!」


 前を走るジジイが、足を止めずに顔だけで振り返って急かす。


「分かってるよ! 鉄が微妙に関節部で干渉して走りにくい!」


「ワシの作った完璧な防具に文句を言う余裕はあるようじゃのォ!」


 コアトルビーの群れに囲まれていることに気がついた俺達は、山を越えるために休まず走り続けていた。全身鉄装備で全力疾走するのは、最初こそコケそうになったものの、敏捷(びんしょう)値が高いこともあって現実より早く走ることができていた。大胆に走ると関節部の鉄が(こす)れて微妙に痛いけどね。


 最初はただ走って逃げるだけだったが、虫タイプの弱点が炎であることはこの世の摂理。試しに火雨を使ってみたところ、レベル1でも有効だと分かった。それから追いつかれそうになる度に火の雨を浴びせて、なんとか時間稼ぎをしながら逃げ続けているところだ。


 コアトルビー達の群れは前方にはあまりいないようで、後ろから追いかけてくる敵が多いということも不幸中の幸いだった。


 真っ向勝負になってしまえばレベル1の俺とモミジは勝負にならないが、逃げるだけであればどうということもない。オニゴッコで鍛えた逃走技術を()めないで欲しいね。まあ俺、オニゴッコで逃げる側に回ったことないんだけど。


 一つ問題なのは、モミジのSP値が低いため……。


「晴明! だっこなのじゃ!」


「はいよ! だっこイッチョウ!」


 モミジのSPが切れかける度に、俺かジジイが抱えて走らなければいけないことだ。いくら幼女で軽いとはいえ、抱えている方の負担は増える。ジリジリと俺のSPも危険域へと近づいてきていた。


「おじいちゃん! 前から来たのじゃ!」


「チョチョイのチョイ!」


 前から針を突き出して飛んできたコアトルビーを避けながら、足を止めずにマサカリで両断するジジイ。アイツはまだまだ余裕っぽいな……相変わらずタフなジジイだぜ。


 いつもは猫背気味な背中をピンと伸ばし、無駄に綺麗なフォームで独走状態だ。あのゴボウみたいな足であれだけの速度をよく出せるものだと感心する。


「……ん?」


 走るジジイのゴボウ元……いや足元、そこに何か違和感を覚えた。


 分かりづらいが、よく見ると大きな足跡のようなものが前に続いている。


 そしてその足跡は、ジジイがいる数メートル先で途切れていた。


「――止め足ッ!? ジジイ、右だ!」


「ぬんッ!?」


 右から振るわれた丸太のような物体を、ジジイはかろうじて身を(ひね)ることで(かわ)した。完璧には躱し損ねたようで服が少しだけ裂かれているが、どうやら血は出ていないようだ。


「……助かったぞ、坊主。コアトルビーに続いてサーベルベアとはのォ」


 『モナクス』へ向かう道でジジイに教わった止め足。足跡を見つけたのは単なる偶然だが、なんとかサーベルベアが潜んでいることを察することができた。あの一撃をモロに食らっていれば、いかにタフな獣人のタヌ耳ジジイとはいえ危なかっただろう。


 攻撃をしてきたサーベルベアと思われる存在は、こちらを警戒しているのか茂みから姿を見せようとしない。しかし、それも背中を見せればすぐに襲い掛かってくるだろう。


 熊はその鈍重(どんじゅう)そうな見た目に反して、時速50キロで走ることができるほどに素早い。現実でそれなのだから、ゲームではもっと早いかもしれない。到底逃げ切れるものではないだろう。


「詰み、か……」


 サーベルベアとコアトルビーにコンビネーションでも取られた日には万事休すである。俺とモミジなんてオツマミ感覚でペロリといただかれてしまう。俺は引きこもりニートで不健康だし、きっと硬くて美味しくないと思うから、土下座したら見逃してくれたりしないかな。


 しばらく考え込んでいたジジイだが、何か思い付いたようで、顔をあげて俺に問いかけてきた。


「坊主。コアトルビーなら、なんとか逃げれるな?」


「……ああ。ちょっとSPとMPが心許ないが……火でビビってくれるだけ、熊よりはマシだな」


 サーベルベアを対処しろと言われれば無理だが、火雨が効いて、なおかつ直線的な攻撃だけのコアトルビーならば逃げることくらいできるはずだ。


 俺がそう答えると、ジジイはニカッと笑った。


「ならば、ワシがサーベルベアを追い払うとするかのォ。コアトルビーは坊主を追うと思うが、なんとか逃げ切るんじゃぞ」


「……大丈夫なのか?」


「ワシの好物は熊鍋じゃ。よく走った分、きちんと精をつけんとなァ」


 ジジイの好きな食べ物なんて聞いてねえよ。


 とはいえ、他に打開策があるわけでもない。この前もジジイは軽々とサーベルベアを倒していた。俺はサーベルベアと戦えないし、さすがのジジイでもコアトルビーとサーベルベアを同時に相手取ることは厳しそうだ。状況から考えれば、敵を分散させる方がいいだろう。


 ……しかし、この山に入ってからイレギュラー続きなこともあって、どうにも不安を拭えない。体の奥から胃液が上がってくるような、大きな不快感がどうにも消えてくれないのだ。


「坊主、コアトルビーが後ろから迫っておる。あまり時間はないぞ」


 ここで悩んでいる内にコアトルビーがやってきたら、それこそ一貫の終わりだ。「いま考えてるから待って」と言ったところで、敵は待ってくれるはずもない。


「……分かった。さっさと片付けて追いついてこいよ」


「坊主の顔が(ふく)れ上がって別人になる前に、追いつくようにするわい」


 こんな状況でもふざけたジジイだ。しかし、それだけ余裕があるとも言える。


 俺も初めてのピンチというピンチに緊張してたのかもしれないな。いつもと変わらないジジイを見てたら、なんだか大丈夫な気がしてきた。


 追いかけっこは俺達の得意分野だ。チョチョイと虫ケラ共をぶっちぎって、山の(ふもと)で熊鍋の準備でもしておこう。


「おじいちゃん、きをつけてなのじゃ!」


「ほっほっほっ、モミジちゃんの応援があれば、おじいちゃん負ける気しない!」


 モミジの一言で顔を(とろ)けさせたジジイ。モミジの頭を一撫でしてから、近所を散歩にでもいくような足取りで茂みに入っていった。


 そろそろ聞き飽きた大きな羽音が聞こえてきてげんなりするが、ジジイが茂みに消えていった以上、目の前の俺達を追ってくることは明白だ。


 とりあえず火雨をコアトルビー共の鼻っ面に叩き込み、逃走を再開することにした。4体くらい見えたが、なんとか怯ませることに成功したようだ。


「SPも回復したな? もうひとっ走りいくぞ!」


「モナクスのみんなにまけないためにトレーニングじゃ!」


 この状況でも元気よく答えるモミジの姿に励まされつつ、俺達は不安定な山道を全力で走った。



 日が落ち始めた山は不気味さを一層と増し、まるで俺達の未来を暗示しているようだった――――。



総合評価700pt突破しました!


ブックマークや評価(★)で応援いただき本当にありがとうございますm(__)m

これからも投稿がんばります(`・ω・´)


目標:シリアスとコメディの両立

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