3話 初ログイン!
人も物も存在しない、限りなく白だけが続く空間。気づくとそんな異空間に自分はいた。
体を動かそうと思ったがどうにも動かない。というよりも、動かすべき体が存在しない。死んで魂だけになったらこんな感じなんだろうか。
しかし、きちんと説明書を読んでいたために混乱はなかった。初回ログイン時はキャラクタークリエイトがされておらず、AFO上ではまだ体が存在しない、それこそ魂だけの状態みたいなもの。
これからその魂を格納する体を作っていくのだ。
しばらく待つと、目の前に『イマジネーション入力』の注意文がポップで表示される。
『イマジネーション入力』とは、フューチャーズギアに搭載された画期的な新機能であり、想像するだけで選択肢を選んだり、文字を入力したりできるというものだ。
ただし最初は制御がなかなか難しく、先行体験したユーザーの中には女性プレイヤーを見てエロイ想像をした結果、制御を誤って桃色妄想劇場を全体チャットで発信してしまい、アカウント削除になった猛者までいたらしい。
ファンタジー世界で真っ先に思い浮かぶのは、エロイ格好をした女戦士やエロイ格好をした女魔法使い、それにエロイ格好をしたシスターにエロイ格好をした女盗賊などであろう。そんなエロエロな世界で、果たしてエロイ想像をせずに冒険をすることができるのだろうか?
凡人には無理だろう。
しかし、俺には6年間イジメられ続けることで身につけた自制心がある。ホ●野郎と呼ばれれば「ボクラはみんなホモサピエンスなのサ」とウィットに富んだ受け答えをし、ノートを捨てられれば心のノートにメモしてテストで100点を取り、ジャージを隠されれば冬場でも全裸でサッカーをして体に赤い水玉模様を量産する男である。
それに現実に戻れば母さんがいる。乳臭いガキに欲情することはないだろう。Eカップ以下の絶壁に興味はないのだ。ちなみに母さんはGカップである。前に洗濯籠で確認したから間違いない。
そうして一人で遊んでいる間にも、『情報:キャラクター名を入力してください』というポップアップが目の前で急かすように点滅している。
まあ落ち着けよ、そんなにイライラすんなって。
『警告:イライラなどしていません。はやくゲームを遊んでほしいだけです』
うおっ!? なにも言ってないのにわざわざポップアップで反論してきたぞ!? 『イマジネーション入力』もしていないのに!
『情報:私たち管理AIはユーザーの思考を読み取ることができます。入力方法がわからないユーザーの補助をするなど、ヘルプ機能を果たすためです。さらには読み取った情報をデータベースに蓄積して勉強することで、統計的にユーザーの思考パターンを理解し、より的確なサポートを行うという意図もあります』
なるほど。説明書を読まずにゲームを始めるプレイヤーとか多そうだし、その状態でここに放り込まれたらどうすればいいかわからなくて右往左往しそうだもんな。
『警告:そういうことです。ちなみに、ゲーム内で先ほどのような想像をした場合、最悪のケースではアカウントを削除することにもなり得るのでご注意ください』
ん~? 先ほどのような想像~? どういう想像したっけなぁ~? 忘れちゃったから教えてくれよ~グヘヘヘ。
『危険:これ以上その下卑た笑いを続けるのならば、アカウントを削除します』
いやー! 待って待って! 冗談だから!
『情報:冗談だとわかっていなければ、早々にアカウントを削除しています』
くっ……! AIに人間様が手玉に取られるなんて、これはいよいよ人類滅亡が近づいているのかもしれない。
ここは人間の手強さを思い知らせるためにも、更に過激な妄想を繰り広げなければ!
『警告:はやくキャラクター名を入力しろって言ってんだろ』
ヒッ! いきなり強気になった!?
『警告:管理AIが対応できないと判断したんで、今はオペレーターが人力で対応してんの』
す、すいません……。
『警告:忙しいのに手間を取らせんじゃねえよ。キャラクター名の入力をしたくないみたいだし本名にしとくわ。ちょうどよくハンドルネームっぽいし――――これならあの裏システムもテストできるな』
はあ!? いや、それはさすがにおかしいだろ!
『警告:意外と外面もイイ素材してるじゃねえか。基本そのままで、チョチョっと名前に寄せて弄ってっと。よし、これでいいな』
よくない! なにもよくねえよ!
『情報:これでキャラクタークリエイトは完了です』
ああ! 管理AIに戻ってる!?
ちょ、ちょっとウェイト!
『それでは、【安倍晴明】様! アダムス・フューチャー・オンラインの世界をお楽しみください!』
「ま、待ってくれよ――――――――――!」