25話 円周率を100桁覚えたところであまり意味はない
ステータスの(+XX)は、
値の内の装備による上昇分を意味しています。
「ふんっ、持ってけ泥棒!」
自暴自棄になったジジイが泣きそうな声で叫ぶ。
小悪魔モミジの手によって骨抜きにされたジジイは、クエストの報酬通りに俺とモミジの装備をタダでプレゼントすることとなったのだ。
完全に俺はおこぼれにあずかった形だが、式神であるモミジの手柄は主である俺の手柄。遠慮なく一番高いのをいただいていくぜ!
とは言ったものの、AFOの装備にはステータスが絡んでくる。装備シリーズごとのステータス要求値があるため、最初から最強装備でガッチリというワケにもいかないのだ。自分のステータスや値段と相談して、順々に装備もランクアップさせていくことになるのだろう。
いくら強い装備を手に入れたところで、使えなければ宝の持ち腐れだ。レベル1だから伸びしろをみてもいいかもしれないけど……やっぱりすぐに使える装備をもらうことにした。
俺がもらった装備は、『鉄の剣』『鉄の盾』『鉄の兜』『鉄の鎧』『鉄の籠手』『鉄の靴』『戦士の首飾り』の7つ。しめて9250Gです。
なんで戦士職用の鉄シリーズ装備で固めているのかって?
俺が本当はジョブを戦士職にしたかったからだよ!
というのは半分冗談だ。もちろん戦士として剣を操り、モンスターをねじ伏せることへの憧れがあることも事実だが、召喚したモミジが後衛寄りのステータスだったことが一番の理由である。魔法職だけのパーティーは安定性が欠けるし、俺のステータスだったら戦士職をやれなくもない。
見た目が小学生のモミジを盾にして、俺は後ろから魔法で戦うってのもカッコ悪すぎる。女の子を守るのは男の義務だしね。
「ワシの商品がァ……9250Gがァ……」
ジジイがまだブツブツ言っているが、もうこの装備は俺のモノだ。さっそく身につけてみよう。
---ステータス---
名 前:安倍晴明
レベル:1
種 族:人間族(天風人)
職 業:陰陽師
H P:49(+22)
S P:28(+10)
M P:27(+2)
攻撃力:39(+24)
守備力:63(+54)
魔攻力:16(+4)
魔守力:24(+15)
敏 捷:16(+6)
器 用:14(+2)
運命力:27(+4)
スキル:式神召喚(不可)
式神契約(1/1)
魔 法:なし
-----------
現状で装備できる最高の装備なだけあって、全体的にステータスの上がり幅がスゴイ。全身を鉄シリーズで揃えたことにより、セット効果で守備力が更に+15されているのも素晴らしい。どこからどう見ても前衛職のステータスだ。
ここに、全身を重厚な鉄装備で固めた陰陽師……世にも奇妙な『鉄の陰陽師戦士 安倍晴明』が誕生したのである。いとカオス。
「さて、気を取り直してモミジちゃんの装備じゃ! たくさん試して、好きなものをもっていけばええからのォ~」
「わーい!」
うん、俺の時と対応が全然違うよね。分かっていたけどね。
さっきまでこの世の終わりのような顔をしていたジジイだが、はしゃぐモミジを見て、まただらしなく顔を蕩けさせている。
ジジイから両手いっぱいに服を受け取ったモミジは、チラリと俺に期待するような眼差しを向けてくる。「いってこい」と手で合図すると、ものすごく嬉しそうな笑顔で試着室へと小走りで駆け寄っていった。
そしてここからモミジによる試着ショーが開催されたのだ。
あまりにも時間がかかったので、ダイジェストでお送りしよう!
…………。
……………………。
「おまたせしました、ごしゅじんさま」
「幼女メイド! そこはかとない犯罪臭!」
幼女にご主人様と呼ばせるのは倫理的にアウトなのでボツ。
「おちゅうしゃするのじゃ」
「幼女ナース! これもアブナイ匂いがプンプンする!」
イケナイお医者さんごっこが始まりそうなのでボツ。
「ニーハオ、なのじゃ!」
「チャイナ幼女! これはこれで……」
太もものスリットから、おパンツが見えてしまいそうのでボツ。
「晴明~、このボウシとカバンはなんじゃ?」
「幼児服幼女!? そりゃ似合っているけど!」
あまりにも似合いすぎていたのでボツ。
「これは、ふくなのかのぅ?」
「スク水幼女! ちゃんと胸に『2年A組 モミジ』って書かれているので加点です!」
しかしプールに行く予定はないのでボツ。
……………………。
…………。
「なんで全部コスプレ衣装なんだよ!?」
ついに堪忍袋の緒が切れた。
どう考えてもおかしい! ファンタジーなオンラインゲームで、最初からコスプレチックな装備のヤツがあるか! それはある程度進んでから課金して手に入れるモノだろう!?
「孫にかわいい服を着させようとして、何がいけないんじゃァ!」
「服のチョイスが最悪なんだよ変態ジジイ!」
全身鉄装備男と変態タヌ耳ジジイの取っ組み合いが始まった。
くっ……装備で底上げしてもまだ劣勢なのかッ!?
やはり39のレベル差は装備だけで埋められるはずもなく、俺はついに投げ飛ばされてしまう。不慣れな鉄装備の重さも相まってか、うまく衝撃を逃がすことも出来ず、そこら中のモノを倒しながらゴロゴロと転がって壁に思い切り衝突した。ボウリングの球ってこんな気分なのかな……。
「あー! おじいちゃんが晴明をいじめてるのじゃ!」
試着室から出てきたモミジは、元の和服姿に戻っていた。ボウリングボールと化している俺を見て、ジジイを涙目で睨みつけている。
「ち、ちがう! ワシは悪くないんじゃァ!」
「晴明をいじめるおじいちゃんはキライなのじゃ!」
ガーンという擬音が聞こえてきそうな勢いでジジイが落ち込み、床に膝をついて項垂れた。ザマーミロ。
「よしよし、モミジはかわいいなぁ」
俺が頭を撫でてやると、目を細めてうれしそうにするモミジ。この小動物感がたまらないね。うちは一人っ子だから、妹でもいたらこんな感じだったんだろうか。このピュアーなまんまるオメメで見つめられたら、何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
「晴明、どのソウビがいいかの?」
「う~ん」
まともなモノがなかったんだよなぁ……。
コスプレで遊ぶにはまだ10年ほど早い。いろいろな服を着せるのは楽しいけど、それはリ●ちゃん人形を着せ替えて遊ぶのと同じようなものだ。
俺とモミジのパーティーで遊んでいる余裕なんてないし、いまはビジュアルよりステータス重視で装備を選ばなければいけないだろう。さっきのネタ装備を選ぶわけにはいかない。
「さっきの全部、坊主が買った装備より強いがのォ」
まさかのビジュアルとステータスの両方を兼ね備える最強装備だった。
え、全部欲しいんですけど……。
「ダメじゃ」
ですよね。
う~~~ん、でもやっぱり。
「いまのモミジが一番かわいいな」
ポン!というポップコーンが弾けるような音が聞こえた。無意識に声に出してしまっていたようだ。こいつは失敬。
「いつものことじゃがなァ」
うるせえジジイ。
それにしてもこんなことで赤面するなんて、モミジもなかなかマセているじゃないか。いつも子供っぽさが目立つからちょっと新鮮だ。これがギャップ萌えというヤツなのかね?
「うるさい! ばか! あほ! おたんこなす!」
そう言いながら、俺の膝を何度もローキックするモミジ。ははは、痛いじゃないか。人間の体はそっちに曲がるようにできていないんだぞ?
「しかし、ステータスの強化は必要だからな……」
召喚陣で見た紅葉の美しさを忘れることなどできないし、それを体現するかのような深紅の和服を着ていないモミジには、言葉では言い表せない大きな違和感を感じる。 腰まで伸びた艶やかな黒髪と深紅の瞳、新雪のように白く透き通った肌と、それを包み込む深紅の和服……このすべてが揃ってこそのモミジだ。
だからといって、ステータスに何の恩恵もない装備のままというワケにもいかない。これから俺の式神として、一緒に戦っていってもらわなければいけないのだ。敵の攻撃を受けることもあるだろうし、少しでも防御力を上げておきたい。
う~ん、どうしたものか……。
「それならば、オーダーメイドで作るかのォ」
「オーダーメイドだと!?」
「そうじゃ。素材にもよるがのォ……ちょうどイイ素材があることじゃし、いまと見た目が同じ装備を作ればいいんじゃろう?」
なんてユーザーファーストのゲームなんだ!
ある程度の制限はあるようだが、装備でキャラクターのグラフィックが変わる系ゲームあるあるの、『この装備けっこう強いんだけどビジュアルがなぁ~現象』に悩まされずに済むじゃないか。
これでモミジの装備は解決だ。コスプレモミジも魅力的だが……お金に余裕ができたら購入すればいいだろう。コスプレ幼女は俺のHP回復にもなる。ロリコンじゃないけど。
む、そうだ。オーダーメイドができるなら。
「俺の装備もオーダーメイドで頼む。全身を黄金でピッカピカにして、背中から羽を生やし、武器はロ●の剣みたいな感じで……」
「脳筋は鉄でも振っとれ」
カッチーン。ワタクシ、カッチーンときましたわよ。
どこからどう見ても、インテリジェンスの塊である俺に対して脳筋だと? 俺は円周率だって100桁覚えてるんだぜ? 馬鹿にするなら、お前も円周率を諳んじてみせろ!
「その円周率は戦いで役に立つのかのォ」
「ぐぬぬぬぬ」
ダメだ。数学の授業以外の使い道が分からない。日常会話の中で、「ああ、コレは円周率の37桁目が関係しているネ」なんて言ったこともないし、この先も言うことはないだろう。戦闘中に円周率を唱えたところで強力な魔法が飛び出すわけでもない。
モミジも「えんしゅうりつ? おいしいオカシかの?」と首をかしげている。
これが論破ってヤツか……くやしいッ!
「屁の突っ張りにもならない坊主の特技なぞ置いといて……うむ、明日の朝には出来上がるからのォ。また明日、ここに取りに来い」
いつのまにかモミジの採寸をしていたようで、メジャーをしまいながら俺に向けてシッシッと手を振るジジイ。なんて腹の立つ顔と態度と顔と顔だ。『抱かれたくないAFOキャラランキング』があったら間違いなく1位だろう。おめでとう!
「あ、モミジちゃんは置いていってええぞォ。おいしいお菓子もあるでのォ。なんならそのままウチの孫養子に……」
「わ、わらわは晴明と……うぅん、でもオカシ……」
お菓子というワードに釣られて、どっちに付いていけばいいか迷っているようだ。俺とジジイの間をオロオロと行ったり来たりしている。まったく……。
「モミジは俺の式神だ! ジジイには渡さん!」
モミジを抱き上げ、鍛冶屋の扉を蹴り開けて出ていく。しばらく状況に置いていかれてボーッとしてたモミジだが、抱かれていることに気づいたようで、俺の腕をキュッと握って嬉しそうに笑った。
「わらわは晴明のオンナか」
「え、今回は式神って言った……」
「じょーねつてきにせっぷんもしたしのぅ。みもこころも、わらわは晴明のモノじゃ♪」
首に手を回してきてホッペにチュッ! ってしてニコッ! う~~~ん、カワイイ!
唇に指を当てながら微笑む仕草は、記憶の中の彼女と瓜二つ。少しだけドキッとしてしまい、赤くなった顔を隠すように背ける。近くで見ると、やっぱり整った顔立ちをしていた。式神召喚の出来事も思い出してしまって、なんだかたまらない気持ちになった。
ま、まあ、式神も女も同じようなものか。これから共に歩んでいく伴侶と言う意味では一緒だ。ニアリーイコール。問題ないだろう。
閉じた扉の向こうから、まるで100トンハンマーで石の床を破壊したような音が聞こえた気がするが、きっとジジイがギックリ腰でもやったのだろう。気にしない気にしない。
「接吻じゃとォ!? ロリコンがァ! ワシのモミジちゃんは絶対に渡さんからのォ――――!」
さーて、明日の朝まで時間が出来てしまった。
村の散歩でもしてマキビさんの神社に戻りますかね。
俺はジジイの遠吠えをスルーしつつ、モナクス散策へと繰り出すのだった。
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月曜日は更新をお休みします。 ※代わりに土曜日に2話投稿しました




