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24話 小悪魔モミジ


「わらわはつよいっぞでっかいぞ~♪ みるものすべてひざをつく~♪ ゆけっ! ダグラス! すべてをけちらしてすすめ~♪」


 よく分からない自作ソングを口ずさむ黒髪の幼女……モミジの後を歩いていく。


 ピョコピョコと左右に揺れる黒髪の向こうでは、タヌキ耳のジジイ……ダグラスがキモチ悪いくらい緩んだ笑顔でモミジを見ていた。あのジジイ、3歩くらい進むごとに振り返ってないか?


 マキビさんの神社で一泊した俺達は、朝からジジイに呼び出されて鍛冶屋へと向かっているところだ。


「モミジちゃん、そろそろワシのことを『おじいちゃん』と呼んでくれんかのォ?」


「わかった! ダグラス!」


「ほっほっほっ、モミジちゃんはかわええのォ」


 デレデレしすぎだろう。顔は緩むを超越して、もはや溶けている。目尻なんて鼻よりも下まで垂れ下がっているぞ。アイツは妖怪か何かか?


「おじいちゃん、なんで俺達は鍛冶屋に付いていかなきゃいけないんだ?」


「貴様におじいちゃんと呼ばれる筋合いはないわァ! わきまえろクソ坊主ァ!」


 モミジも呼ぶ筋合いは無いわけだが。


 先ほどまでのデレッデレに(とろ)けきった顔を、憤怒(ふんぬ)の形相に一瞬で切り替えるジジイ。アシュ●マンかな?


「ひっ! 晴明、ダグラスこわいのじゃ~」


「よしよし、あのこわいおじいちゃんには近づかないようにな~食われるぞ~」


 ダグラスの大声にビビってしまい、俺の足にヒシッと抱き着いて怯えるモミジ。柔らかい黒髪を撫でつけてやると、次に顔をあげた時には元気いっぱいな笑顔に戻っていた。なんてチョロかわいいんだ。小動物のようで保護欲をそそられるね。


 その一連の流れを見ていたジジイは、ギリギリと歯が欠けるくらいに噛みしめて悔しがっている。ザマーミロ!


「ぐぬぬぬぬ……ふんっ、坊主はどうでもいいが、かわいいかわいいモミジちゃんが丸腰なのはいかん。ちゃんと武器と防具を見繕(みつくろ)ってやらんとなァ」


「たしかに」


 俺もモミジも完全なる丸腰だ。いくら基礎能力が高かったとしても、武器がなければ戦いにならないだろう。


 特にリーチの短さでは痛い目を見たばかりだ。黒髪の美女に通用した必殺パイ揉みアタック戦法も、敵が男だったら完封されてしまう。これからを考えれば装備の調達は必須だろう。


「さすがはダグラス様、ご慧眼(けいがん)に脱帽いたします」


「おだてても1Gたりとも負けてやらんからのォ」


 チッ! 使えねぇジジイだ!


 5000Gもらったから少しは余裕があるものの、ここはジジイに(たか)ってなんとか安く済ませたい。


 というか、報酬として渡した金で自分の店の商品を買わせるとか、これが流行りのマッチポンプ詐欺というやつなのか。(ゼニ)ゲバジジイめ!


 心の中で悪態をつきながらジジイの背中を睨んでいると、クエストの発注画面が急に表示された。


【『友好クエスト:老人もおだてりゃ金を出す』が発注されました】


 『豚もおだてりゃ木に登る』のオマージュなのか分からないが、こりゃまたヒドイ名前のクエストがあったものだ。友好クエストって……友好の欠片もない気がするんですが……。


 あ、クエストの詳細も見れるんだな。とはいえ、さすがの俺でもこんな詐欺みたいなクエストを受けるワケには……。



【『友好クエスト:老人もおだてりゃ金を出す』】

【内容:どんな手を使ってでもいい! 老人に貢がせろ!】

【報酬:装備費用の全額負担】



 『装備費用の全額負担』。



 ……………………。



 …………………………………………。



【『友好クエスト:老人もおだてりゃ金を出す』を受注しました】



「ダグラスおじい様、今日もナイスなミドルでカッコイイですね! その男らしい手を振られただけで、世の女性は股を濡らして心も体も簡単にオチてしまうことでしょう!」


「なんじゃ急に気持ち悪いのォ。1Gたりとも負けないと言ったじゃろうが」


 クッ……! 欠片も思っていないからか、まったくジジイの心に響いてない!


 どうしよう。いくら探してもジジイの褒めるところが見つからない。悪口だったらいくらでも出てくるんだが……。


「い、いやぁ~、本当にダグラス様と出会えたのは、まさに運命だったのではないかと! 改めて愚考する所存で御座いまして! ええ!」


「無視すればよかったと、何度も嘆いておったがのォ」


 うぅん、取り付く島もないぞ。


 まあ俺だってジジイが急に(こび)を売ってきたら、120パーセント詐欺だと確信するだろう。ファーストコンタクトから詐欺にあったようなものだったしね。


 どうやら俺には人をおだてる才能がないらしい。ドンドン溝が深まっていく一方だ。もともとマリアナ海溝並みに深かったわけだが。


「晴明、わらわにまかせろ」


 俺が諦めてクエストを放棄しようとしていると、いつのまにか俺の体に張り付いていたモミジが耳元で囁いてくる。


 幼女特有のハイトーンボイスにもかかわらず、悪戯っぽく、妖艶(ようえん)にも聞こえる囁き声にゾクゾクしてしまった。ああっ、だめぇ。そんな、息を吹きかけないでぇ! 耳は敏感なのぉ!


 一人でクネクネと快感に(あえ)ぐ俺を放置して、トコトコとジジイに走り寄っていくモミジ。そしてジジイの服の端っこを摘まみながら……あ、あれは! ロリコン必殺『上目遣いおねだり』じゃないか!


 俺も食らったことがあるから分かる。あれは同種族である幼女族以外に対して、確定でクリティカルヒットを叩き出す禁じ手だ。きっと言葉の通じない動物や魔物でさえ、あのおねだりの前では地面に(あご)が突き刺さるほど、首を縦に振らざるを得ないだろう。


 案の定ジジイの目は(とろ)けきっているし、縦に振りそうになる首を両手で必死に抑えている。あれでオチないとはジジイもなかなかやるじゃないか。だが、どう見てもあと一押しでオチる。


 がんがえー! モミキュアー!


「おじいちゃん? モミジね、たんじょうびプレゼントがほしいのじゃー」


「ほ、ほっほっほっ、しょうがないのォ。モミジちゃんの装備はタダにしてあげようかのォ」


 すごい! モミジの装備が一瞬でタダになったぞ! もう一押しだ! 俺の分もなんとかタダにしてくれ!


 モミジの小悪魔っぷりが果てしない。細かい目線や仕草は、子供のかわいさを逸脱しないギリギリのあざとさで攻めているし、いつもは『わらわ』と言ってる一人称が『モミジ』になっているところもかなりポイントが高い。技術点・演技構成点ともに文句なしの満点だ。


「晴明のも、タダにしてほしいのじゃ。ダメ?」


「坊主のはさすがにのォ……」


「モミジは晴明のこども。モミジはおじいちゃんのまご。つまり、晴明はおじいちゃんのこどもみたいなものじゃ。なかまはずれはかわいそうじゃ!」


「うぅん、しかしのォ……おじいちゃんにも生活が……」


 チクショウ! 意外と固い!


 モミジはただ甘えるだけではなく、三段論法を使って論理的に攻める手法まで使っている。あの多角的な攻めをジジイもよく(しの)ぐものだ。俺なら3秒でオチている。



 ここまでやってもジジイは首を縦に振らない。



 やはり、ダメなのか……。



 俺達はこのクエストを達成することはできないのか……。



 AFOではじめてのクエスト失敗だ。よりにもよって、こんなヘンテコなクエストで……。



 敗北感に打ちひしがれ、ついに膝をついてしまう。モミジは絶望する俺をチラリと見た後、しばらく考えるそぶりを見せる。顎に指を当てて「う~ん」と考える仕草が、とても子供っぽくて愛らしい。


「そうじゃ!」


 何か思いついたようで、「よいしょ、よいしょ」と言いながらジジイの体をよじ登っている。あ、ジジイのデレデレ具合が10段階くらい上がった。目尻はついに顎の下まで垂れている。失敗した福笑いみたいだ。


「わかったのじゃ。タダにしてくれとはいわない!」


「ほ、ほっほっほっ。そうじゃのォ、モミジちゃんに頼まれたから、0.1パーセントくらいは割引してやってもええぞォ」


 0.1パーセントなんて割引の内に入らねえよ。


「んーん、ちがうのじゃ。モミジがまえばらいしておくのじゃ」


「ほ?」


 モミジはジジイの耳元で囁いた後、ゆっくりと黒髪をかきあげる。ジジイは怪訝(けげん)な表情をしながらも、モミジの妖艶な雰囲気に圧倒されて動けずにいるようだ。あのウィスパーボイスには、強力な(しび)れ成分が入っているのかもしれない。


 モミジはジジイの首に腕を回して自分の体を持ち上げ、ゆっくりと顔を近づけていき――――。



 ――――ジジイの頬にキスをした。



「ほ」


「これでどうじゃ、おじいちゃん?」


「ほ」


「ほ?」


 驚きすぎて口が『お』の形で固まってしまっている。なぜか目がスロットのように回転し始め、モミジが鼻を目押しするとキレイな白目で止まった。大当たりだ。



 そのままジジイは大きく息を吸い込み――。



「ほあああああああああああああああ!」



 全身を痙攣(けいれん)させて絶叫した後、糸を切られた操り人形のように崩れ落ちるジジイ。そして呻き声を上げながら地面をのた打ち回り、やがてはピクリとも動かなくなった。


「オチたな」


「うん、あれはオチた」


【『友好クエスト:老人もおだてりゃ金を出す』を完了しました!(最高評価)】

【報酬:装備費用の全額負担】

【特別報酬:???】


 腕を組んで頷く俺の横に、いつのまにか同じように腕を組んで頷くハクがいた。


「ひまだから」


 そう言って俺をジッと見た後、うんうんと数回頷き、木陰の方へと歩いて行った。きっと昼寝するのだろう。アイツはアレを言うためだけに近づいてきたのか? なんてマイペースなヤツだ。


 猫みたいな性格の狐を気にしても仕方ない。全額負担の報酬を無事ゲットした俺は、MVPであるモミジの頭を()り切れるほど撫でた後、気を失ったジジイを引き()って鍛冶屋へと向かうのだった。



ここ数日間、まるで夢のような気分です。

初めて小説を書いたもので、自分の作品がランキングに乗るとは思っていませんでした。

それも、3日続けてランキング50位付近にいるなんて……!


ブクマや★で応援していただき、本当にありがとうございますm(__)m

「連日でしつこい!」とか思われるかもしれませんが、感謝が尽きないんです許してください;ω;


これからも投稿頑張っていきます!

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― 新着の感想 ―
[一言] これだから狐の妖怪は恐ろしい。異性に対してクリティカルヒットしてくるから
[良い点] 老人もおだてりゃ金を出す( ゜д゜)笑 小悪魔モミジ好き♡ もう笑わないところがないほどに面白い! 流石です(*^^*)
2020/09/07 22:03 退会済み
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