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23話 黒髪の美女じゃなくて……幼女?


「晴明、またあったのじゃ!」


 俺の首に抱き着いてぶら下がりながら、嬉しそうに笑っている黒髪幼女。ちょっと待って、晴明まだ全然状況を飲み込めてない。


「黒髪の美女、ですか……まさかこの年頃の子を美女とは……」


「マキビさん!? 誤解です! こんな小さくなかったんですって!」


 マズイ! このままでは俺がロリコンだという風評被害が広まってしまう!


 ハクも大概がロリ寄りとはいえ、それでも中学生くらいの見た目であった。だけどこれは100割の確率でアウトだ。現実世界だったら『ちょっとチミ、交番まで一緒に来てくれるかな案件』である。


 どう見ても小学校低学年とかそこらだもん!


「むー、わらわはちいさくないのじゃ!」


 俺の体を器用に両足で挟んで固定し、両方のホッペタを手でつねってくる黒髪のじゃロリ。


 コラコラ、そんなに簡単に異性にボディタッチしたらダメだぞ? もしオジサンが悪い大人だったら、物陰に連れ込んでたっぷりとスケベされていたところだからね? オジサンは良い大人だから大丈夫さ! さて、あそこの布団まで一緒に行こうか?


「晴明さん、とりあえず落ち着きなさい」


「ハッ!」


 危うくロリコンになるところだった。俺には心に決めたヒトがいるんだ。ごめんよ母さん(マイエンジェル)、そして黒髪の美女(マイハニィ)。浮気ダメ絶対。


「あんなにじょーねつてきに、せっぷんしたのにのぅ」


「晴明さん……?」


 黒髪のじゃロリ名人、ここで王手飛車取り。完全に詰ませに来ましたね。参りました。これには安倍晴明七段も投了です。


 さらに追い打ちをかけるように、地面に下りての必殺上目遣い。そして何かを思い出すように、そっと下唇を人差し指でなぞって恍惚(こうこつ)の表情をする。誰が見てもナニかあったと確信するだろう。その仕草は、幼女の姿からは想像できないほどに妖艶(ようえん)で、自分の記憶の中の誰かと瓜二つであった。


「接吻……? まさか、本当に俺が召喚した黒髪の美女なのか?」


「そうなのじゃ!」


 にわかには信じ難いが、どうやら黒髪の美女がロリ化しているらしい。見た目も黒髪の美女をそのまま小さくした感じだし、なんとなく予想はしていたが……。


「つまり、召喚をした時には大人の姿だったはずが、契約をして顕現(けんげん)した時には子供の姿になっていたと?」


「ええ……俺もよく分かりませんが、そうみたいです……」


 黒髪のじゃロリは「えっへん」と言いながら、なぜか絶壁を突き出して偉ぶっている。あれは完全にAAAカップ。俺レベルになれば触らなくても分かる。


 う~ん、さすがにこの幼女には欲情できない。恋愛対象外である。


 ……いや、待て! もしかしたら式神も成長する可能性がある。いずれはあの黒髪の美女になったりして。


 自分好みの女になるまで囲う長期戦略、『光源氏作戦』を実行する必要があるのかもしれない。


「晴明! なまえつけてくれ!」


 俺が『源氏物語』の『若紫の巻』を記憶から掘り起こしていると、唐突に黒髪のじゃロリが名前をせがんできた。


「名前? 名前かぁ……」


「かわいいなまえをたのむ!」


 そういえば、ステータスでも『名称未設定』と表記されていた。だけど名前なんて自分のゲームキャラクター以外に付けたことないぞ。


 うぅん、まあ適当にポチかタマで……うっ、めちゃくちゃ期待を込めた、キラキラしたまんまるオメメで見つめてきている……!? これはちゃんと考えないと泣かれてしまいそうだ。さすがに幼女を泣かせるのは外聞が悪すぎる。


 この子……いや、黒髪の美女を考えた時、一番最初に頭に浮かぶのは……召喚陣から見えた神秘的な紅葉だ。鮮血で色づけたような(あか)色は、残酷なまでの美しさがあった。現実で何度か紅葉狩りに出かけたことはあるものの、あれほど心を震わす絶景に出会えたことはない。その後の戦闘とセクハラの衝撃が凄すぎて忘れていたけど、やはり名前をつけるのであればコレしかないだろう。


「紅葉……うん、『モミジ』にしよう」


「『モミジ』か! あれはキレイだからスキじゃ!」


 そのまま過ぎてどうかと思ったけど、「モミジ! モミジ!」と阿波踊りしながら楽しそうに俺の周りをグルグル回っている。どうやら気に入ってくれたようだ。



---ステータス---

式神召喚(不可)

式神契約(1/1)

 ┗名前:モミジ レベル:1 種族:コオニ

-----------



 無事ステータスにも反映されていた。


「モミジですか。確かに、この子の瞳は印象的な紅色をしていますね」


 マキビさんのお墨付きもいただいた。マキビさんはモミジを抱っこしながら優しい目をしている。こうして見ると好々爺(こうこうや)と孫の微笑ましい光景にしか見えない。


「そういえば、モミジの種族は『コオニ』っていうらしいんですけど、マキビさん知ってますか?」


「コオニ……ですか?」


 マキビさんは少し考えるそぶりを見せ、モミジを地面におろす。「そんなことが……」とか「しかし裏鬼門なら……」とかブツブツと呟きながら長考に突入した。


 暇すぎてスタンディングスリープしそうになったところで、やっと考えがまとまったのかマキビさんが顔をあげた。


「見てもらった方が早いですね……顕現」


 マキビさんがそう呟くと、モミジを顕現させた時と同じような召喚陣が地面に浮かび上がる。そして光が集まり、小さい人型の式神が現れた。


 (しわ)くちゃで(すす)汚れたような土色の肌と、瞳孔(どうこう)の開いた大きな瞳。潰れた大きな鼻に、鋭い犬歯を覗かせる大きく裂けた口はとても不気味だ。そして眉毛の上から伸びた二本の角が、人間とは違うことを強烈にアピールしている。


「これは……」


「私が契約している『コオニ』です」


「『コオニ』……ということは、モミジと同じ種族ですか!?」


「ええ。他の陰陽師が契約しているコオニや、山に住んでいるコオニも多数見てきましたが……このコオニの容姿が一般的なものです」


 どう見ても同じ種族には見えない。100人に聞いたら120人が俺と同じ意見になるはずだ。モミジが人間と変わらない容姿なのに対して、マキビさんが召喚したコオニは異形と呼ぶにふさわしい、まさにおどろおどろしい妖怪といった雰囲気であった。


 マキビさんが召喚したコオニは見た目こそ不気味なものの、かなり気のいいヤツだったらしい。「ギャギャギャ!」と鳴き声をあげて、頭ひとつほど小さいモミジとじゃんけんやあっちむいてホイで遊び始めた。うぅむ、こうして仲良く(たわむ)れていても同じ種族にはとても見えないな……。


「やはり、裏鬼門の召還が原因ですか?」


「恐らくは……『(ことわり)から外された者達』は、かつては他の妖怪と変わらない存在だったと言われています。それが、何かの原因で『理から外された者達』となった」


「契約して姿が変わってしまったのは?」


「妖怪は拾魂(しゅうこん)数……簡単に言えば、生物を殺めた数が一定数に達した時に、妖怪としての格が上がっていきます。しかし、式神召喚をして契約をすることで、この拾魂数がリセットされる」


 モミジはもともと普通のコオニだったということか? あの黒髪の美女の種族がわからないが、どこかのタイミングで別の存在……『理から外された者達』へと変化した。そして『理から外された者達』として黒髪の美女の種族になっていたが、俺と契約をしたことでリセットされて、初期段階のコオニへと戻ったと。


「つまり、モミジもいずれは黒髪の美女へと成長するということですよね?」


「前例がないので何とも……しかし、その可能性は高いでしょう。普通のコオニが昇格した場合は……顕現」


 地面に先ほどよりも3倍ほど大きい召喚陣が浮かび上がる。


 召喚されたのは、鋼で塗装したような(にび)色の肌と、身長3メートルを超える筋骨隆々の体躯。瞳孔の開いた瞳と潰れた大きな鼻、それに鋭い犬歯を覗かせる大きく裂けた口はコオニの面影を感じさせる。左右3本ずつ生えた太い腕に、それぞれ違う武器を持った大男……いや、大鬼だった。


「『キシン』です。『コオニ』が昇格した、おそらくは最終的な姿です」


「これが……たしかに、モミジがこの姿になるとは思えませんね……」


 あの黒髪のじゃロリがこんな筋肉ゴリッゴリの大男になったら、さすがの俺でもトラウマになる。確実に一週間は眠れない。


 このキシンも面倒見がいいようで、モミジとコオニと一緒に遊び始めた。キシンの計6本の腕を複雑に絡ませてジャングルジムを作り、コオニーズがえっちらおっちら登っている。えっ、なにそれ楽しそう。


「ステータスを見てみては? なにか手掛かりがあるかもしれません」


「それもそうですね」


 俺がキシンに登りたくてウズウズしているのに、マキビさんは気にせずに話を進めてくる。キシンジャングルジムも気になるが、モミジのステータスも気になることは確かだ。


 えっと、式神からモミジを選択して……ステータスと。



---ステータス---

名 前:モミジ

レベル:1

種 族:コオニ

H P:15

S P:10

M P:30

攻撃力:5

守備力:5

魔攻力:20

魔守力:20

敏 捷:15

器 用:20

運命力:5

スキル:???

魔 法:なし

-----------



「う~ん、かなり後衛よりのステータスだなぁ」


「後衛寄り、ですか……教えていただいても?」


「いいですけど……えっと、上から――」


 他人のステータスは基本的に見えないため、口頭でマキビさんにステータスを伝える。スキルも魔法もまだ持っていないが、これは望んだ通りの遠距離支援&魔法攻撃が得意な式神に育つかもしれない。黒髪の美女が刀をブン回す脳筋だったことが心配だけど。


 スキルの『???』も気になる……どうやら解放されていないらしく、詳細を見ることはできなかった。マキビさんも見たことがないというので、考えても仕方ないだろう。


「……しかし、おかしいですね」


「おかしい?」


「ええ。通常のコオニは、物理攻撃が得意な近距離特化型です。それはキシンになっても変わりません」


 そう言うと、コオニとキシンがレベル1だった時のステータスを教えてくれる。うちのモミジとは正に真逆、完全にパワーこそジャスティスな脳筋設計だった。キシンなんかは見た目からしてパワータイプだもんな。電信柱とか引っこ抜いて投げてきそう。


 そして、マキビさんのコオニと比べて、モミジはステータスが全体的に高いことに驚いた。魔法関係の数値なんか3倍以上の差がある。


「裏鬼門から召喚された式神がここまで強力とは……ふふっ、人生は何が起こるか分かりませんね。陰陽道をそこそこ極めたつもりでいましたが、まだまだ勉強不足みたいです」


 そう言いながら口元を袖で隠して優雅に笑うマキビさん。


 その目線の先には、遊び疲れたのか、鏡餅のように三段重ねで眠っているオニーズの姿があった。モミジ以外はTHE妖怪って感じのおどろおどろしい見た目をしているのだが、なんだかハートフルな光景だった。


 カメラを持ってくればよかった……あ、これゲームだからスクリーンショット機能あるじゃん。パシャっとこう。


 あどけない寝顔を眺めていると、素直にかわいいなと思った。もちろん恋愛的な意味ではなく、ペットや娘を愛でる的な意味で。俺はロリコンではないのだ。


 しかし、ものすごく複雑な心境である。一目惚れしてキスまでした女の子が、その記憶を持ったままロリってしまった……いったいこれからどういう付き合い方をしていけばいいのか……。


「ぐがー……すぴー……晴明ぃ……わらわはまんぞくじゃぁ……うへへぇ……」


「ふっ、なんだそりゃ」


 ゴチャゴチャと考えるのが馬鹿らしくなる、無邪気でかわいい寝言だった。よだれたらしてるし、いったいどんな夢を見ているのやら。



 なんにせよ、こいつが俺の最初の式神(パートナー)だ。


 ゲームを始める時は、まさかジョブが陰陽師になったり、召喚した妖怪に一目惚れをしたり、幼女が仲間になったりするとは想像もつかなかった。戦士に転職して、脳筋プレイでズンズン魔物を倒しているはずだったのに、どうしてこうなったのか……。


 でも、そんな王道を外れたAFOライフを突き進んでいることも、ちょっとずつ楽しくなってきている自分がいる。


 きっとこれも『縁』ってやつなんだろう。


 人との『縁』、物との『縁』、そして自分自身との『縁』。レナードさんに出会って『紅葉石』をもらい、ジジイと出会ってモナクスに辿り着き、マキビさんと出会って陰陽師になり、そして式神召喚をして……モミジと出会った(一目惚れした)


 俺がこのゲームを始めた意味。


 そして安倍晴明という名前で生まれた意味。


 自分の人生において、なにか大きな転換点となるような、なんだかそんな気がした。



「晴明ぃ……ちゅー……あっ、そんな、おっぱい……んっ、だめじゃ、そこは……」


 悪夢でもみているのか、しばらくうなされていたモミジだが、だんだん吐息が多く(なまめ)めかしい声へと変わっていく。なぜか太ももを(こす)りあわせながらムズムズとし始め、服を着ているのに胸と股間の部分を両手で隠す。


「……むにゃむにゃ……はじめては、やさしくしてほしいのじゃ……」


「……」


「晴明はやっぱり、どすけべ」


 マキビさんの暖かく優しい目が性犯罪者を見る目に変わっていき、いつのまにか起きてきたハクからの止めの一言。



「お、お、俺は……俺は、ロリコンじゃねぇー!」



 否定するつもりで叫んだことが逆効果となり、モナクスの村人との距離は更に開いていくのだった……。



沢山の方にブックマークや★をいただけて、とてもとても嬉しいです。

投稿のモチベーションになっています。本当にありがとうございますm(__)m


月曜日に投稿ができそうにないので、本日の夕方にもう1話投稿する予定です!

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