2話 さらばロブハン
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腰振り大明神:南無阿弥陀仏で奏でるHIPHOP
腰振り大明神:この生き辛い世の中を生き抜き
腰振り大明神:アルベルトは母親物のAVでヌキヌキ
KAITO:暇だからって謎ラップ始めるな!
~LOGIN 美波~
美波:ただいま~
KAITO:おかえり
腰振り大明神:おか芋
†サタン†:†降臨歓迎†
美波:もしかしてビリ?
KAITO:いや、アルがまだ
†サタン†: 邪神復活の儀の最中であろう
美波:あー、またいつもの?
KAITO:どうせ皿の隅々までキレイになめてんだろ
腰振り大明神:息子の唾液でベトベトの皿を洗うとかいう苦行
腰振り大明神:拙者が母親ならあのバカとは縁を切る自信しかない
美波:あの変態性がもう少しマシならモテそうなのにねえ……
腰振り大明神:モテてたらヒキニートしてねえよ
KAITO:たしかにw
~LOGIN アルベルト~
アルベルト:やべえ!!!!!!!!!!!!
KAITO:噂をすれば
美波:おかえり~
アルベルト:聞いてくれ
KAITO:またスプーンに母親が味見した時のリップがついてたか?
アルベルト:そんなことはどうでもいいんだよ
腰振り大明神:!?
KAITO:!?
美波:あのアルが母親の話題をどうでもいい!?
美波:どういうこと!?
アルベルト:今日もマイエンジェルの手料理を食べようと思って部屋から出たのよ
美波:あ、いつも通りだ
KAITO:母親をマイエンジェルって……
腰振り大明神:異常性癖クソニート
KAITO:お前はちょくちょく口が悪いよな
KAITO:名前的にあんまり人のこと言えないからな
アルベルト:そしたら、でけえダンボールとラブレターが一緒にあった
アルベルト:ラブレターをとりあえず10回音読して
KAITO:いや多いわ! あと音読する必要ないだろ!
腰振り大明神:基地外で早漏
美波:アルがマザコンなのは今更だけどね
アルベルト:それからダンボールを開けたわけ
†サタン†:邪神降臨を祝福せし聖母の供物
アルベルト:いや誕生日は9月だからまだなんだよ
アルベルト:あとマザコンではない
美波:さすがに3か月先なら誕生日プレゼントじゃなさそうだね~
KAITO:それで、結局何だったんだよ
アルベルト:その中身っていうのが
腰振り大明神:ワン
腰振り大明神:トゥー
腰振り大明神:スリー
アルベルト:AFOだった
KAITO:なんで発表がベストハ●ス方式やねん
KAITO:絵?
†サタン†: :-0
美波:AFOって
美波:もしかしてアダムス・フューチャーズ・オンライン?
アルベルト:そうなのよ
腰振り大明神:は?
腰振り大明神:初期ロット10000本だぞ
KAITO:マジかよ!?
アルベルト:これがマジなのよ
美波:すごいじゃん!
アルベルト:ってことで、ロブハンやめまーすw
KAITO:随分と急だなオイ!
美波:そうだよ~ 一狩いこうよ~
アルベルト:今日の10時にサービス開始してるんだ
アルベルト:早く始めないと置いてかれちまう
KAITO:ああ、現実と流れてる時間が違うんだっけ?
アルベルト:1日ログインしないだけでゲームでは3日経ってるらしいな
美波:すごい技術だよね~
アルベルト:というわけで、AFO勢になりまーすw
アルベルト:サラダバーw
~LOGOUT アルベルト~
KAITO:おい! まて!
美波:あちゃ、こういう時だけ決断早いんだよねー
腰振り大明神:殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
†サタン†: :-C
腰振り大明神:殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
美波:まあ、しょうがないねー
KAITO:とりあえず、このメンバーでいくか
腰振り大明神:殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
腰振り大明神:殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
KAITO:お前はいい加減落ち着けよ……
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「さ~て、さっそくAFOはじめちゃいますか!」
ロブハンをログアウトした俺は、先ほど開封したダンボールの中から『フューチャーズギア』と書かれているヘルメットのようなゲーム機本体を手に取る。
これを被って電源をONにすると強制的に睡眠状態になるらしい。詳しいことはよくわからないが、人間が夢をみる時の脳みその働きを利用し、ゲームの信号を割り込ませることで夢と現実の狭間に仮想現実を作ることができるという。
夢想現実……通称DRというらしく、これはVRを越える革新的な技術である。とかなんとか、お昼のニュース番組に出てた開発者のおじさんがそんな感じの話をしていた。
発表時には「脳みそを弄りまわすようなことはしてはいけない!」「危険すぎる!」みたいな批判も多く出たらしく、発売中止の噂が広まった時は完全ダイブ型のVRゲームを待ち望んでいた全ゲーマーの嘆きで日本が揺れたものだ。抗議団体に犯罪予告を行って捕まったゲーマーも1人や2人ではない。その事件により、犯罪を助長したという批判までも多くなったりした。
しかし、完全に世論の逆風が吹きすさぶ中でもAFO開発陣は諦めなかった。外野から発売中止が叫ばれるも、それから動物実験(フューチャーズギアを装着するカピバラの映像には笑った)と臨床実験を繰り返し、ついに医学的な安全性が完全証明された上、実験協力をしていた東京工業大学から『フューチャーズギア及びAFOは睡眠障害や認知症に有効である』という論文が発表されたのだ。
それからAFO特集が各局で組まれたり、新聞の一面になるというメディアの熱い手の平返しと、時の首相による「オレもやってみたいね」発言で「政治利用だ! やはりゲームはロクでもない!」という政権批判の再手の平返し。しかしゲーマーなど若者の心を掴んだことで選挙は与党の圧倒的勝利で終わってしまい、その影響力の高さからメディアも再再手の平返しをせざるを得なくなるなど、発売前から多くの伝説を残している。
「こんな物までついているのか~」
ゲーム機にしてはダンボールが大きいと思ったら、フューチャーズギア装着時に使うマクラが付属していた。そりゃ内部にクッションがあるとはいえ、こんな固いヘルメットつけて普通に寝転がったら首おかしくするよね。細部までこだわった親切設計である。
もちろん説明書は母さんからの手紙と一緒に読破済みだ。俺は説明書を読まないことを良しとするゲーム初心者とは違う。説明書とは自転車の補助輪と同じで、無かったとしても何度か転べば乗れるようになるが、補助輪で感覚を掴んでからの方が転ぶ回数も少なくて済むというもの。せっかくいい自転車を買ったのに、転ぶ恐怖で乗ることを諦めてしまうのが一番もったいないのだ。
とはいえ、説明書には大したことが書いておらず、要約すれば「とりあえずゲームを起動しろ! そうすればすべてわかる! 以上!」といった感じ。よほどゲームに自信があるのだろう。ここまでくればもはや潔いな。
フューチャーズギアを装着し、ベットに置いた枕に頭を乗せる。
「こ、これは……人間工学に基づいた、完璧な枕だ……!」
もしかして素材はパンケーキですか? ふわふわの中にしっかりとした芯があって、ただ柔らかいだけじゃない。優しくそしてあたたかく包み込む大いなる母性、そう、これはまるで母さんの太ももだ。
もはや電源をいれなくても自然に眠りに落ちそう。ゲーム以外でも是非使っていきたい。
人生史上最強の眠気に襲われる中、残るすべての力を総動員し、ヘルメットの額部分にデカデカと「POWER!」と書かれて鎮座しているボタンを押す。「POWER ON」という機械的な音声とともに電源ボタンが点灯し、フューチャーズギアの内部が強い光に覆われていく。
その光によって、電源ボタンのちょうど裏側に書かれた文字が浮かび上がった。
『いい夢を』。