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第83話 税理士事務所訪問。

「コンコン」


 こういう事務所を訪ねるときにノックが必要かどうかは正直分からないけれども、とりあえず一度ノックしてドアを開く。なぜならば一応内部構造は知っているからね。事務所の玄関先にはどなたもいらっしゃらない。ただカウンターに内線呼び出し用の電話が鎮座しているだけなのだ。


 確か苗字は相原(あいはら)だったよな・・・。無いな・・・。んーとこういう場合は一度総務とか事務に内線電話してから、税理士先生に回してもらうんだっけ。面倒くさいなぁ。えっと受付内線番号は・・・。


「あたるくん、何ぐずぐずしてるの?」


 うおぉ、びっくりするから後ろからいきなり声かけるのやめて・・・。


「こっちよ、前にも打ち合わせに使った部屋ね。覚えてる?」


 導かれるがまま、税理士さんに付いて行く。もちろん覚えていますよ。お客様との打ち合わせ用に用意している小部屋、この部屋は以前の打ち合わせにも使っているからね。冒険者会館の取調室よりも快適だし、コーヒー持ってきてくれる方はお姉さんだし。


 事務のお姉さんが、アイスコーヒーを持ってきてくれたところで、着席する。席に着くとなぜか税理士さんは隣に座って自分の分のアイスコーヒーを引き寄せ、書類を机の上に並べ始めた。なんだよ、と文句も言えないのでそのまま話は進む。


「それじゃ早速、必要書類の確認ね。付箋が貼っているところは、あたるくんのサインをもらう場所だからお願い。」


 言われるがまま、書類を読んで必要箇所にサインしていく。<リーディング>のおかげで英文で書かれた部分はすべて普通に読めるけども、会計や法人に関する法律の専門用語は意味が分からないので、都度税理士さんに質問する。こちらの身分証明は一応パスポートがあればOKらしいから登記書類はこれで完成。あとは設立後の銀行口座の開設くらいかな。


「あたるくん、いつのまにか英語得意になったんだね。」


「まあ【エルフ村】運営していると、海外からの問い合わせも多いですから。」


 実際には魔法が使えるようになるまでは、翻訳ソフトのお世話になっていた。スラングとかネット特有の短縮語には苦労したよ。返事書く場合なんかはもっと苦労したけど、いまは<ライティング>魔法をかけた上でキーボードの前に座れば、どんな言語でも打てる。まあ、対応キーボードがないと若干きついので、キーボードのある英語とロシア語だけだけど。


「うん、書類はこれでOKよ。あとは銀行口座なのだけど、場合によっては代理人でなく、本人が窓口に行ってサインする必要があるかも知れないから、そのときは海外まで出張できる?」


「あ、問題ないですよ。口座開設だけだったら、ビジネスビザもいらないんでしょう?」


「観光ビザというか、日本人なら90日までの滞在はノービザで大丈夫。興行するわけではないからね。税金とか細かいところは都度報告書作るから任せといて。秘書サービスのようなものももう抑えているから、登記が完了した連絡があれば、すぐに今のサービスを移転できるわよ。」


「こっち側というか、今の会社【エルフの村】はどうすればいいですか?」


「そっちは、向こうの会社【elf-village Inc.】からの個人報酬受け取りの会社にするのがいいかな。そしてそこからあたるくんが給料もらう感じかな。向こうの会社としての役員報酬とかも、むこうの会計士と連絡とって、もっとも節税できる方法を考えて貰いましょう。」


「なんだか大掛かりですねぇ。」


「それは単なる節税のためのペーパーカンパニーではなくて、事業移転も含んでいるから。今の広告収入のすべてを向こうに移すでしょ。ちなみにここ数か月の収入ってどうなっているの?」


「あ、最近確認してませんでした。ちょっと見てみます。」


 広告サイトのユーザーページで内容を確認してみると・・・『おおおっ』思わず声が出てしまった。


「あ、あの先月の予定報酬額が900万円超えてます・・・。先々月は400万円程度だったのが・・・。」


「うわ~、さすがあたるくんね、このまま行くとすぐに一億円プレイヤーじゃない。というかアタールくんだったかな?」


 まあ、知り合いには一目瞭然だよね。アカウントの名義と振込先とかもう登記できたら速攻で新会社に移転しなきゃ。もうお金のことは税理士さんにお任せだ。


「とにかく今まで通りお願いします。」


「う~ん、大きな声では言えないけど、私そろそろ独立しようと思っているのよね。都会で仕事するのは私にはあまり向いてないのよ。一応所長にはもう相談しているから、今担当しているクライアントの引継ぎが終われば実家の方に事務所構えようかなと思っているのよ。あたるくんの会社は私のクライアントとして私との契約で良いって所長は言ってくれているけど、あたるくんはどうかしら?」


「実家の近くというのは引っかかりますが、今のまま担当して相談に乗っていただけるならば、まったく問題ないですよ。是非お願いします。」


「相変わらず堅いなぁ、どちらかというとお礼を言うのは私の方よ。いきなり優良顧客獲得なのだもの。でも実家の近くは嫌なんだ~。」


「嫌というか、実家には姉が頻繁に来ますし、せっかく田舎に引っ越したのに、頻繁に実家付近に行くのもなんだかなぁ、と思ってますし。」


「なんだか、他人に対しては数歩引いている感じがするけど、家族に対してもそうなんだね~、あたるくんって。まあ税務処理のほとんどは、今は顔合わせすることなくできるし、領収書なんかもデジタル保管が可能になったから、クラウド系の会計ソフトをクライアントに使ってもらえれば、訪問は年に1回か2回で済むのだけどね。申告も今はネットだし。あたるくんの会社はもともと決算時期を他の会社とずらしているから、ど田舎でも交通費出してくれたら訪問するよ。」


 まあ、実家にあまり近づかないならそれでもいいか。というか『ど田舎』はないだろうに。


「まあ、そう言うことならよろしくお願いします。新しい事務所の場所とかはもう決めたんです?」


「いや、ぜんぜんだよ。ほかの業種と違ってとりあえず開業にあたっては高価な設備とかも要らないし、事務所にお客さんを呼ぶより訪問するのがほとんどだと思うから、自宅でもいいかなぁって思っているくらい。事務所の家賃勿体ないしね。」


 そういうのは僕の仕事と変わらないなぁ。どこでも出来るなら『ど田舎』でもいいのではないのか。こういうときは社交辞令だよね。


「もううち専属で仕事してくれればいいのに~。」


「あらそう?じゃよろしくね。」


 え?え?え?え?何?


「それじゃぁ来週には荷物まとめて、今の会社の住所に荷物送るわね。住まいは斡旋してね。っていうか、あたるくんの家ってドミトリー部屋あったよね。ひと部屋私用にしていい?」


「あ、あの・・・税理士の先生様、なんだか良くわからない感じに物事が進んでいるのではないですかね?世の中には、社交辞令っていうものがあってですね・・・。」


「はぁ?社交辞令も何も、もう決まったのだからしょうがないわね。それともこのか弱い茜お姉さんに今更実家で税理士させる気なの?」


 いや、させる気って、あなた税理士さんじゃないですか・・・。しかもか弱いって・・・。そんなか弱い状況見たことないし。そもそも株式会社エルフの村を立ち上げた時も半ば強引だったわけで・・・。はっ、あの頃から実はこういうのを目論んでいた?いやいやそれはないだろう。あと、この人は彼氏とか居ないのだろうか。もう20代半ばでそこそこ社会的にも良い部類の仕事についているわけで、いい加減にしておかないとそれこそ婚期を逸すると思うんだけどな。まあ、今は30代で結婚も普通なのかな。田舎でネットメインの税理士もやっていけないわけじゃないだろうし、僕の会社の2社分でも高卒程度の年収は行くだろうし。あとは適当にやってくれればいいか・・・。


「あたるくん、聞いているの?そういうことで良い?」


「あ、はい。」


 聞いてなかったけど、聞いてなかったとは言えない雰囲気ではある。なんだかサシャさんの視線と同じようなものが先ほどから突き刺さっているからね。彼氏とか婚期のこと考えている辺りで・・・。

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