第70話 合流。
僕の場合、前の盗賊のときも魔物の捕獲も、そして今回もおそらくだけど、後始末に最も時間を要するのだと思う。盗賊は何とかなったけど、島の魔物はまだほとんどが生きたままインベントリの中だし、今回は<リペア>でどう解決したかの説明や、アーティファクトの修復という事象も何かしら追求というか、説明を求められそうだ。
もしこれで魔物の山から魔物があふれていると大変だから、後で魔物の山に沿って、空か地上視察も考えないといけないかもしれない。
でもこんなに早く解決するなら、エレナ以外に電話渡すんじゃなかった。絶対あの人たちしょっちゅうかけてくると思う。
どうやらサシャさんが復帰したようなので、結界コントロールの魔道具を確認してもらおう。
「サシャさん、魔道具の確認をお願いします。魔力チャージの魔法石は、一応ここにあるものすべて、修復と銀色になるまでの魔力チャージを終えています。」
「あ・・・ありがとう?」
まだ少し様子は変だが、お礼の言葉の後に、魔道具や魔法石の確認を始めた。サシャさんは魔力の感知もできるから、<リペア>前との違いはわかるだろうし、全体の動きは違いがないこともわかるだろうとは思う。
「問題は無さそうね・・・。でも、どう報告しようかしら・・・。」
「サシャさん、一応本当に問題がないかどうか、僕は上空から結界を魔物が越えないか、確認する必要があると思っています。<リペア>の魔法に自信はあるのですが、初めてのことですし。」
「そ、そうね。それじゃ最終的な報告はその後としても、問題が解決したかもしれないということだけは伝えておこうかしら。」
伝える相手はもちろん国王様だろうな。僕は了承して出していた椅子とテーブルを収納・・・しようとすると、サシャさんがそのまま置いておいてくれないかとお願いされたので、これも了承して、とりあえずみんなで部屋を出た。
「プルルルルル。」
「余だ。」
建物の外に出てすぐ、サシャさんにスピーカーモードを教えて国王様に電話をかけてもらったけど『余だ』はないでしょう。今度『もしもし』から、電話の日本式マナーを教えないといけないな。
「サシャです。早速ですが、今アタールさんがもう、結果守の村に来てくれています。」
「おお、そうか。それで皆に紹介はすんだのか。これからアタール君には世話になるからな。村にアタール君用に家も用意せんとな。研究は一朝一夕で結果が出るわけではない。毎日ではないが、腰を落ち着けてそのうち成果を出してくれればよいし、成果が出ずとも、必ず何かしらの役に立ってくれると余は信じておるからな。アートの領も、スラム地区の問題を解決してもらった上に、結界の件まで手伝わせたとあって、まったくアタール君には頭が上がらないと言っておったぞ、それに・・・」
「叔父様、ちょっとうるさい。」
ほおっておくと、延々と話し続けそうな国王様をけっこうというか、かなりきつめのお言葉でサシャさんがぶった切る。国王様がいろいろと褒めてくれたり評価してくれたりするのはありがたいが、こういう状況で聞くと、いたたまれなくなるよね。国王様の話が止まったので、僕も挨拶しておく。
「国王様、アタールです。朝はいきなり押しかけてすみませんでした。」
「いやいや、おかげでこうやってこの魔道具で話せるのだから、まったく問題ないぞ。」
「ありがとうございます。ところで、結界の件ですが、サシャさんから報告があります。」
横でサシャさんが、え?という顔をしているが、もちろん説明は公爵様の担当だよね。
「お、叔父様、一応簡単に報告しますね。魔力チャージの魔法石の劣化についての問題は、解決しました。あと、結界の魔道具も新しくなりました。以上です。」
「サシャは何を言っとるんだ。え?解決?魔道具が新しく?意味が分からん。」
「叔父様、言葉通りです。それ以外の何ものでもありません。」
「いや、しかし・・・。」
「いやも、しかしもないのです。以上。」
あ、サシャさんが電話切った・・・。いわゆるガチャ切りだ。あ、僕の方にかかってきた・・・。しょうがない。電話取るか。
「はい、アタールです。」
「おお、余だ。」
「なんでしょうか?」
「先ほど、サシャが問題は解決したとか・・・。」
「はい。その通りです。それではまた。」
電話切ったった。今度はエレナの電話にかかってきたので、さすがに一連の出来事を丁寧に説明した。何度も途中で会話が止まったが、向こうで国王様は固まっている時間だったのだろう。電話の向こうで落ち着いたと思ったら、今度はアート様にも説明しろと言いだした。
『それは魔物の山から魔物が出てこないか最終確認してからです。』と返すと、その流れで確認方法の話になり、『余も行きたい。』の一言に、サシャさんまでもが賛成し、結局午後からみんなで上空から偵察することになってしまった。そのかわり、アート様への説明は国王様に全部請け負って頂いた。
時間も勿体ないので、遺跡からサシャさんの家の前までは転移し、そこから研究所に向かう。途中の打ち合わせで、研究所の魔法石の処置と説明は後回しにすることになった。魔物確認の後に、国王様にどう説明するのか判断していただく。重要な件は丸投げだ。
しかし、サシャさんは、僕が<リペア>で魔道具を修復する件は国王様に電話で説明したんじゃなかっただろうか。何故あんなに驚いたのだろう。もしかして『大雑把に説明した。』というのは文字通り“大雑把”で、要点が全く伝わっていなかったとか・・・。サシャさんならありえるな。わざと要点を省いて、問題が起こったときは『国王様が判断されたことですから。』とか言いそうだ・・・。優しい方なんだけど、そういうところは老獪なのかも。公爵様だし。この件は聞くと藪蛇になりそうなので、スルーしとこ。
そろそろエレナがお腹の辺りを気にし出したので、昼食にしよう。
「サシャさん。そろそろ昼食にしませんか?」
「そうね、研究所では用意出来ないから、私の家に戻りましょうか。」
せっかく研究所に向かっていたのだけれど、踵を返してサシャさんの家で、初めて異世界に来た日と同じ、ビーフシチューと黒パンを頂いた。エレナが満足そうで、僕も満足だ。
国王様からの電話は思ったより早くかかってきた。僕の電話がスマホなのに気付いたジト目のサシャさんをスルーして電話に出ると、アート様への説明が終わったらしい。でも僕の予想では、いい加減にしか説明していないと思う。
昨日と同じようにサシャさんの家の使用人に買い物をお願いして、また遺跡に行くと伝言を残し、国王様は以前の会議室に、アート様は執務室にそれぞれ転移で迎えに行った。電話はこういう時には利便性を発揮するよね。
転移してきて早々、すぐに色々聞かれそうだったので、『とりあえずその話は空の上で。』と、提案すると黙ってくれた。それでも国王様とアート様は通信魔道具の話で盛り上がっていたけど。
ほんとはもう用事や用件はメールでお願いしたいくらいだけど、設定でどの言語を選んでも地球言語なので、こちらでは相手がメールを打てない。リーディングの魔法は、自重するようにしている。日本語の書物とか危なっかしくて持ってこれなくなってしまうからね。会議のときにエレナにかけるときくらいだ。
さてこれも昨日と同じく、インベントリから車を出し、みんなに乗り込んでもらい、光学迷彩風障壁を展開する。そして<フライ>の呪文で車は空に飛び立つ。




