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第53話 エレナさん。

 本当なら、列から外れて待っていたいのだけど、肝心の受付のお姉さんが席を立ってしまったので、そのまま待つ。後ろは気まずくて振り返れないので、正面を見据えるしかない。お嬢様姿のエレナさんと一緒だから、絡まれる心配もあるし。あれは物語だけかな。


 そう長く待たず、受付のお姉さんが戻ってくるとともに、もうひとりのお姉さんが、横から現れて、同行を求められた。同行とはいっても、サルハとは違って、丁寧に別室に案内されたのだけれども。


 案内された別室はもちろん取調室ではなく、応接室だった。この部屋の調度品も結構武骨で、剣や盾、あとは魔物のはく製など飾られている。案内されるがまま、ソファーに腰かけて少し待っていると、オッサンがやってきた。お茶などは出ていない。


「アタールさん、ようこそシャジル支部へ。当支部の支部長、ジルと言います。」


 偉い人だった。セルゲイさんが副支部長だからね。大きい支部だし、あれよりだいぶ偉いんじゃないだろうか。態度はあっちのほうがデカイけども。


「冒険者のアタールです。こっちは僕の・・・同行者のエレナです。」


 僕が軽く頭を下げるのを見て、エレナさんも真似して僕より少し深めに頭を下げる。


「サルハのギルドでこちらに顔を出すように言われたので訪れたのですが、あの、何かあるんでしょうか?」


 当然の疑問だろう。普通に依頼を受け、普通に依頼を終え、普通に報告するという手順の中に、普通は支部長との面談は無いと思う。まあ、依頼の届け先が普通じゃなかったかもしれないけれども。


「拝見した達成の書類が、領主様からの指名依頼でしたので。」


「はい。領主様からのご依頼でしたから。」


「アタールさんはまだ冒険者登録して浅いので、登録時の説明を覚えていると思いますけど。指名依頼はB、A、Sの冒険者が普通は受けるもの・・・といいますか、それくらいの信用がないと指名依頼はされないということです。そして国や領主様関係の依頼ならば、普通はAもしくはSの冒険者が依頼対象です。」


 ふむふむ、そういう説明を受けた気もする。依頼が単なる紙束の配達らしかったとはちょっと言えないな。エレナさんは暇そうだ・・・。


「受付の担当者はAかSの冒険者と勘違いして、私に報告しに来たわけです。だから本来はこうして私がお会いする必要もないのです。」


 勘違いか。でもそれなら、そのまま受付のお姉さんが戻ってきた時に手続き終わらせればよかったのでは?


「ならばどうして?」


「クランというのですか?サルハ支部の冒険者が、大規模なパーティーを作り、相互協力で大きな成果をあげているという報告書により、もう近辺のギルドでは知れ渡っていまして、本部でも話題になっているはずです。先日は、13名もの盗賊討伐の報告もありました。」


 マキシムさんのクランですよね。個別の活動まで僕は知らないけれど上手くやっているようで何より。というか、おそらくあの盗賊たちだよね、マキシムさんたちが討伐したんだ・・・。ひょんなところで情報貰ったな。


「そのクランのリーダーが、アタールさんだと聞いておりましたので。」


 は?代表者はマキシムさんだし、おそらく運営はエフゲニーさんだと思うのだけれど。


「あの、代表者はマキシムさんだと思いますが。」


「そうなのですか?サルハのギルドからの報告書では、そのクランのメンバーである冒険者たちからの聞き取り報告だそうですので、間違いないと思っているのですが・・・。」


 あ、そういえば僕がオーナーとか言ってたか・・・マキシムさん。でも何かあったときの責任転嫁はマキシムさんにしたいな。実際僕はクランに対しては何もしていないし。しかし僕の名前の浸透が早すぎる。ネットもないのに日本より駄々洩れしているのではないだろうかここは対策が必要だな。帰ってから訂正するのはもちろんだけど、とりあえずは否定しておこう。


「そのクランの代表者はマキシムさんで間違いありませんよ。もう一度サルハのギルドに問い合わせてみてください。・・・できれば10日後くらいに。」


 スラム地区の冒険者たちに、言い含める期間が必要だからね。


「そうなんですか?一応確認はしてみますが・・・。とにかく当ギルドをはじめ、各支部が、成果の上がる方式として注目しているということです。組合の意義は、冒険者の生活安定、いや向上にあるのですから。」


「それならば、サルハの冒険者でそのクランの代表者のマキシムさんと、メンバーのエフゲニーさんという方に聞けば、クランやその運営については詳しく分かると思います。」


「おお、それは情報ありがとうございます。・・・支部長会議までには資料をつくりたいですな・・・」


 ・・・支部長会議・・・という部分からは小声だったけど、一応聞き取れた。あれはおそらく独り言のつもりだろう。


「それでは確かに、依頼達成、確認させていただきました。後日サルハのギルドにも報告が送られますのでこの依頼は終了となりますので、達成の報告をサルハで行う必要はありません。まあしかし、帰還報告では行かれますね。」


「はい、サルハに戻ったら、もちろん顔を出します。エレナの冒険者登録も有りますから。」


 ジルさんは、ジャジルの支部でもエレナさんの登録できると説明してくれたが、これは当のエレナさんが固辞した。ギルドカードには登録したギルドの支部名が記載されるのだけれど、僕と同じがいいという、それだけの理由だったけど。


 用事も終わったので、冒険者ギルドを後にして、そのまま街壁の門に向かう。途中で思いついて街の奴隷商に、サルハのスラム地区出身者の確認に行こうとも思ったが、そういうのはそれこそマキシムさんやエフゲニーさんと打ち合わせた後にしようと思いとどまった。


 門では、門番さんだけでなく、詰め所の衛兵さんまでが出てきて、見送ってくれた。来た時とのあまりの装いの違いに、驚いている方が多かった。おおむねエレナさんの装いに関してだけど。残念ながら、女性というかお姉さん衛兵さんは居なかった。


 あとは、帰るだけだが、数キロ歩いて街道を離れて転移すればいいので、3日から4日の行程をのんびり旅するわけでもなく、4日後にサルハの街に到着すればいい。とりあえずは、ログハウスに戻って、エレナさんと今日のことや、これからのことを話し合ってみよう。


 エレナさんにも確認してみたら、同意してくれたので、30分ほど歩いたところで回りを見渡し人が近くに居ないのを確認し、少し街道を外れた所で、実験施設・・・ログハウスに転移した。


 そういえばログハウスでは土足だ。だから、転移先はログハウスのダイニングにした。汗で足が臭くなるので、スリッパでも用意したいところだ。


「エレナさん、お疲れ様。」


「アタールさんこそ、お疲れ様でした。」


 とはいっても、午後2時なんだけども。部屋の電灯を点け、エアコンを作動させて、リビングのローテーブルに、冷たいお茶を用意して二人してソファーに深く腰掛ける。ちなみにLDKというやつで、ダイニングキッチンと繋がっている。


「ねえ、エレナさん。エレナさんって、難しい言葉いっぱい知っているのは何故ですか?」


 いきなり疑問をぶつける。彼女の居た集落は棄民とおなじようなものと言ってた。その割には、言葉遣いといい、語彙といい、棄民と同じような生活をしていたとは思えないし、何よりも領主一家と話していても、物おじしていなかったように見えた。文字の読み書きだって、本当は出来るんじゃないだろうか。いい娘だというのも分かっているし、僕の力になってくれようとしているのも間違いないと思うのだけれど、こういう疑問を解決しておかないと、ずっと疑念を抱いたまま、彼女のことをずっと心からは信用できないでいることになる。


「お母さんのお母さん。わたしのお婆さんがね。教えてくれたんです。小さいころですけど、いっぱいいっぱい、お話を聞かせてくれて、そしてお勉強も教えてくれました。私が12歳になるまで・・・。私はほかの子みたいに力が強くなくて狩りができなかったから、それで狩りができなくても、勉強ができれば、きちんとした礼儀ができれば、将来生きていくのに役立つよって。でも、お婆さんはわたしが13歳になる前に亡くなりました。あ、それは悲しかったけど、その、普通にたくさん生きたから・・・。」


 ちょっと涙目になりながらエレナさんは、いろいろ語ってくれた。お婆さんはもともとは商家の生まれで、そのお婆さんに教えられ、読み書きや計算もそこそこできる様子だ。12歳といえば、小学校6年生が中学1年生。教える方の能力にもよると思うけど、日本で言うと、算数と国語だけ集中的に学んだと思えば、そこそこの能力を持っていてもおかしくないかな。


「それと、これはとても失礼にあたるかもしれない質問なので、さきに謝っておきます。ごめん。・・・家族や集落のみんなを失って、エレナさん自身、病気になって、その・・・身投げまでしようとしていたのに・・・立ち直りが早いというか・・・」


 しどろもどろだ。


「いいえ、失礼でも何でもありませんよ。アタールさん、わたしが謁見で言ったこと、覚えてますか?」


「うん。覚えてますよ。」


 僕に拾われたんで、尽くすというやつか・・・。そんな尽くされるようなことはしてないんだけどな。


「わたし、この家?で目が覚めた時、本当に驚きました。その・・・何度もアタールさんは神様なんだと思いました。いえ、お婆さんやお母さんからお話で聞いた神様よりももっとすごいです。神様は世界を作ったり、見守ったりはしてくれているけど、助けてはくれないから・・・。そして、私は思ったの。あのとき、目が覚めたのではなく、生まれ変わったんだって。生まれ変わったのは、その・・・神様よりすごいアタールさんに尽くすためだって・・・だから、今とても幸せなの。集落や家族のことも忘れないけど、それは思い出として、ずっと心の中に持っています。そしてアタールさんが助けたスラム地区の住民の話を聞いて思いました。アタールさんに尽くしていけば、わたしたちの集落のようなところが減って行って、わたしのような者でも生きていける世の中になるかもしれないって・・・思ったんです。」


 生まれ変わったのか、じゃぁしょうがないな。って、重い、重すぎる。もっとこう、軽く考えてほしい。なにげに人助けする方向になっているよね。猫耳のとても可愛い女の子に尽くされるのは本望・・とてもうれしい事ではあるけれど、これは話し合いが必要だ。

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