第43話 あめんぼあかいなアイウエオ。
もちろん最初に向かうのは件の無人島だ。サクッと転移。ネットで得た情報を基に実験拠点の整備をする。整備のお仕事自体もいわゆる土魔法の実験のようなものだ。ホームセンターで購入した、砂利、川砂、セメント、鉄筋用の鉄の棒などなど。トレーラーハウスだから適当でいい?いや、もう知識として知ってしまったので、深層混合処理工法で土壌改良するしかない。まあ実際のやり方と違うけど。
結界の魔石を端に寄せ、掘削開始。土魔法で掘削するのは思ったより簡単にイメージできたので、まずは表層部分を削り取る。表層とはいっても地下の地盤の少し強いところまで。支持層って書いてあったかな。地面にぽっかりと深さ3m程、広さは約100m四方のほぼ正方形の穴が開いた。壮観である。ところどころに水が湧き出しているところは、そこは硬化の魔法でせき止める。ドバっと湧き出してはいないから、地下水脈ではないと思う。
ここから一定間隔で深いところまで穴をあけながら柱状になるよう、砂利と砂とセメントをマニュアル通りに混合して流し込んでいく。混合も流し込む作業も、もちろん土魔法だ。詠唱するための呪文はまだない。柱状のものを一定間隔で設置していく。途中で面倒になって、先に柱を魔法で合成して、穴をあけて打ち込んでいったのはご愛敬。作業中にカイゼンアイデアが出てくるのはいつものことだ。おかげで後半は短時間で作業を終えることができた。
そして表層部にまず砂利を敷き川砂を入れ、固化材を撒いた後に攪拌。物は試しと、重力魔法としておなじみの<グラビティ>を開発して、締め固める。固化のための乾燥には、風魔法と火魔法を駆使している。各種魔法がかなり細かいコントロールができるようになったのは、思わぬ幸運だね。
最後はいわゆる布基礎。鉄筋を敷き詰めて、動画で見た手順で基礎を完成させる。本来なら一昼夜待つ作業も短時間でできるし、器具遣わなくても鉄筋曲げる事ができるし、魔法めちゃくちゃ便利。非力な僕が手作業で行えば、おそらくここまで10年以上かかっただろうな。魔法というより超能力。いや、超能力より魔法の方が範囲広いか。
周りの土地より最低部で10cmほどかさ上げした基礎が出来上がった。一応雨対策のために、傾斜はつけてあるし、溝も設けてある。だだっ広い100m四方のコンクリートの平原のできあがり。早速トレーラーハウスをインベントリで出して川側に設置する。川とは一応50m程度離れている。
トレーラーハウスでひと休み。部屋はもともとモデルルームのようなものなので、すべて揃っていて、ここが異世界だと感じさせない。窓の外の風景がコンクリートで殺風景なので、人工芝を敷き詰める。うむ、人工だけどけっこう高いのを選んだので、かなりいい感じだ。あとはプランターとかで植物植えよう。ちなみに整地したところと河川敷以外は、鬱蒼とした森なんだけども。
ひと休みの後は太陽光発電もマニュアルと格闘しながらなんとか設置して接続完了。トレーラーハウスはそのフル機能を発揮できるようになった。タンク式のトイレだけ不満足なので、そこは後日また洗浄式トイレの入手とともに、うまく考えよう。シャワーや給水、温水給水も魔道具に置きかえなければ。念のためリペアとセービングをかけておく。
川の反対側の端っこに収容棟3棟もサクッと設置。これはコンテナハウスだからすらっと並べて置いて念のためボルトで地面側と固定するだけ。いちおうコンクリートブロックで基礎は作った。ちなみに、セメントというかモルタル使わなくても、魔法でコンクリート同士を接着というか一体化できるのは作業中にわかってしまった。イメージって大事だね。周りには高さ3mほどの目隠しのための壁をロの字型に設置した収容所風。おかげでせっかくの100m四方の庭?が3分の1に。しかしこれでコンテナハウスからトレーラーハウスは見えない。ログハウスは景観に合わないので設置をあきらめた。いやどちらかというと、この100m四方のエリアが周りの景観に合っていないなのかな。
だいたい予定していた作業を終えたので、いよいよ盗賊さんたちの出番だ。でもその前にお昼ごはんのコンビニ弁当食べよ。日付的には賞味期限をかなり過ぎているのが微妙だけど。時間停止は信用してる。
「まずは精神魔法のイメージ作りだな。」
異世界では比較的オッサンたちとのコミュニケーションは増えたが、実生活ではひとりの期間が長いので、独り言は得意だよ。
絶対服従とかどういうイメージだろうか。相手は粗野な盗賊だけど、性格改造とかはまだイメージが沸かないので、神経とか筋肉関連から行ってみるかな。実地実験しながら試行錯誤するほうが、今までの経験から言うと効率がいいか。
とりあえず頭目っぽい盗賊を出すとする。インベントリの中では時間は停止しているから中では生死確認はできない。束縛している障壁もインベントリの中では消えているようだ。出した瞬間に障壁。これでいく。花粉対応の大き目のマスクを着け実験開始。目を瞑って出すから、出す場所と障壁の範囲を決めておいて、気持ち的には「えいやっ」という感じで気合を入れながらも、恐る恐るひとり目を取り出す。人に対して「取り出す」って言い方っ。
収容棟件実験棟の前庭。ドーム型の障壁の中で、剣を振りかぶった盗賊が、向こう側に走っていく。おお、ちゃんと生きてる。念のため、取り出すときの向きは僕の反対側を向かせた。死んでいたら顔見るの嫌だったからね。障壁結界を柔らかめにして徐々に狭めて半径1mほどにする。空気は通すから呼吸は問題ない。衝撃吸収があるので剣で切りつけても盗賊さんはノックバックでケガはしない。
盗賊さん、ここは被験者1号としよう。1号さんの前に回り込むと何か叫んでいるけども、とりあえずは無視。いろいろお話しする前に早速実験を開始する。まずは筋肉から、強化させるのは流石に嫌なので、弱くしてみよう。心臓止まったら嫌なので手から。スマホで「身体が動く仕組み」を検索してイメージを固める。障壁の中でうろうろしているのが邪魔なので下半身は新たな障壁で固定しておく。外の障壁は安全のためそのまま。
神経をブロックした場合は、腕はだらんと下がって剣を取り落としただけで、弱くなった感じではないなぁ。強さは筋肉量に比例か・・・。イメージ作りめっちゃ難しいよ。
試行錯誤の末、神経に作用して筋肉の収縮の量と力をコントロールできるようになったけど、これは練習を重ねないと瞬時には無理。でもコントロールする対象は、内臓を除くとかできるようになった。うむ。神経に作用できるってことは、脳にも作用できるかな。まああと12人いるし反復練習には事欠かない。
今から禁断の実験を始めます。さっき「脳の仕組み」は検索してイメージはある程度固めたけども、記憶操作は今のところは無理っぽい。というか脳関連は複雑すぎて、僕の学習能力では理解できなかった。でも、ロボトミーならできるだろうし、新たな記憶の植え付けは可能と見た。幻影見せたり、神経遮断だね。1号の体を思いのままにうごかすのはできた。これはおそらく神経でも精神でもなく、念動力みたいな感じかな。慣れてないから、動きはぎこちなかったけどね。
1号が「あめんぼ あかいな アイウエオ」と北原白秋の詩を日本語で発声している。
最初は脳科学関連、つぎに脳を操る寄生生物とかを一生懸命理解しようとして文献検索して読んでたんだけどもまるで理解できなかった。しかし僕は思い出した。イメージ、創造っていえば、映画とかアニメとか小説、マンガだよね。主にSFと魔法、異世界もの。異世界生活をはじめて、かなりお世話になってる。
それらには、人を操る精神や脳に作用する魔法や技術は出てきても、メカニズムの詳細は書かれていないし、手順にも言及されていない。ようするに、結果だけをイメージして魔法をかければ行けるんじゃね?という開き直りでもある。ほぼ夜が更ける寸前までスマホで対象作品を観まくったし読みまくったよ。
二度目の目から鱗だ。本当はもっと目から鱗はあったけど。今は既に結界も解いて、椅子に座ってあいかわらず従順な態度で「らいちょうは さむかろ ラリルレロ」と1号は発声練習をしている。もうすぐ終わりそうだ。




