第41話 衛兵さんがまた探しているそうだ。
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家の鍵のスペアキーは先日斎藤のおっちゃんに預けたし、その旨、親せきや姉にもメールしておいた。もう明日にでも親せきの子供たちが夏休みに入ってしまうので、遭遇しないように、今日から出張であることを告げてある。税理士さんからの書類は用意がすべて出来たら、取りに行くと連絡しておいたので、これもメール連絡で済む。準備万端だとは思う。仕事部屋と寝室は人が入れないように無駄に結界も張った。もう忘れてることないかな。
そういや、服もっていかなきゃ。税理士さんに会いに行けない。今の会社関係の書類とか印鑑とかパスポートとかもう面倒くさいので全部収納しておいた。
門番さんに挨拶しながら、冒険者のギルドカードを提示してサルハの街に入る。門番さんが先週の人と違ってよかった。商人として何の仕入れもしてないからね。まずは宿に顔を出す。そういえば宿代全然足りてないんじゃないかと、珍しく積極的に店員さんに尋ねてみると、泊まった分しか頂きませんので、まだお預かりした分で大丈夫です。とのこと。顧客思いのものすごくいい宿だった。まあ部屋自体実際使ってないけども。でも残念ながら近日家を借りるか買うかする予定だけどね。宿を後にする間際、
「そういえば、また衛兵さん達がアタールさん探してましたよ。」
とのことだが、まだ朝も早いし、後で街で衛兵さんに会ったら何の用か聞いてみよう。門番さんは何も言ってなかったのにな。次は久しぶりにダフネさんにご挨拶。スラム地区への物資販売とかお願いしてたしね。
「アタールさん衛兵さん達が探してらっしゃいましたよ。」
お、なんとダフネさんのお店にも来ていたか。店を訪ねていきなりの報告だ。しかし急ぎの用事っぽくもなかったようで、まあ今は自分の用事優先で行く。
「ダフネさんに折り入って頼みがあるんですが、狩った獲物を内密に処分してもらいたいのです。そういうのってやってます?」
「もちろんです。あ、ゴブリンとか食用にも素材にもならないものはダメですが、見せていただければ、すぐにでも査定しますよ。」
「助かります。冒険者登録したあとに狩った魔物なんですけど、そのなんというか、秘密にしたい内容があるのは、ダフネさんも知ってらっしゃると思うんです。その関係と思ってください。自分では解体もできずに持て余していまして。」
若干小声になりながら、説明する。それも問題ないし秘密ももちろん守っていただけるということなので、モンスターボアであることを告げると、目を見開いて驚いている。まあこうなるのは分かっていたけど、収納にいつまでも魔物の死体を入れておくのも気分が良くないし、何よりダフネさんだし、今後のも長いお付き合いをお願いしたいので、一部の秘密は開示することにしておいた。元冒険者だし。
「どこに出しましょう。4体あるんですけど。」
「大きさは?」と聞かれたので、だいたいの大きさをお教えすると今度は固まっていたけれども、そこは商人。気をとり直して、店の裏の荷物整理などをするらしい場所を指定され、そこにまず、風魔法で切り裂いたというか、頭を切り落としたモンスターボアを出す。こいつは例の2tトラッククラスのやつ。
「・・・・」
「ダフネさんだから明かしますけど、僕の収納魔法は、時間停止ができるので、鮮度は狩った当時そのままです。」
「・・・・」
少し立ち直るのを待つと、復活した。大きく頭を横に振っているけど、あれは否定の意味ではないヤツだ。よく気をとり直すときに僕もやる。
「何も聞きませんし、なにも言いませんよ。それでこの大きさのモンスターボアだと最低でも大金貨3枚にはなります。ちょっとうちですぐには買い取れないかもしれません。」
「あ、買取はいいですよ。もう魔石は取ってありますし、処分したいんですよ。邪魔なので。」
僕の正直な思いだけど、さすがに商人がそれはできないということなので、販売後の後払いで折半でいいということで取引は決着した。いやまだ決着してない。保管の問題が出てきたので、また新しい布袋を準備してもらって、今度は収納と時間停止を付与して魔力充てん魔石を付けてみた。もう容量もあまり気にしないで、今持っているモンスターボアが全部収納できてさらにもう少し余裕があるイメージで制作した。セービングと使用者制限も忘れない。ダフネさんは、あまりの出来事に腰を抜かす寸前だったが、再び持ち直して僕がモンスターボアを自分の収納からいったん出して、布袋に収納する様子を眺めていた。
「お金は全部売れてからでいいですから。他の街でまとめて売ってもらってもいいですし。」
もう、売上全部渡しますというダフネさんをどうどうと、落ち着かせて、布袋は貸与でだから、秘密守らないと、付与魔法消しちゃうからね、と少し脅しておいた。まあ、全然脅しと思われてないけど。スラム地区の件もよろしくと挨拶する。帰りには店頭で一家そろってお見送りしてくれた。とにかく商売繁盛を願って、ダフネさんのお店を後にした。ダフネさんの言葉遣いがどんどん丁寧になっていくな・・・。元ヤンキー、いや元やんちゃな冒険者とは思えない。
冒険者会館には予定がないから行かない。どうせオッサンしかいない時間帯だし。ということでスラム地区に向かう。そう、スラム地区という呼び名の変更も含めて話し合いたい。もう住民も冒険者登録から1週間以上経っているから、エフゲニーさんくらいは居るだろう。いなくてもお姉さんが見られればいいし。ちなみに先日【エルフ村】に投稿した冒険者のお姉さんの写真は、スラム地区のお姉さんです。装備を身に着けとても凛々しかった。
スラム地区のいつもイワン小屋。今日はなぜか例の円卓会議のときのメンバーが、全員そろっている。
「衛兵さん達がアタールさん探してましたよ。」
ここでもか。昨日今日だけでなく、数日前から毎日衛兵の誰かが、僕の来訪を確認しに来ていたそうだ。まあ、とにかく後でいいな。
「今日は、スラム地区という呼び方を変えて、他の呼び方を考えてほしいと思って話しに来たんですけど、どうでしょう。みんなせっかく平民になったんだし、スラム住民というのも変でしょ。」
みんな、うんうんと頷いている。コクコクではない。まとめ役の大人たちが中心になって住民たちとともに、案を出してくれることになった。
「ところで以前少し話した、読み書きの勉強についてなんですけど・・・・」
「もうそれは始めてますよ。勉強のための建物ももう建ちました。既にイワンたち冒険者稼業の傍ら学び始めています。冒険者とはいっても主に採取ですけどね。それに、炊き出しも基本毎日やっています。ダフネさんにもお礼を言っておいてください。いつも食材や資材を格安で回してもらっています。居住用の家屋も、もうほとんど建設済みです。ですので広場もできましたから、住民の会合も何度かやっています。」
聞くまでもなくエフゲニーさんの説明が始まった。この人本当に出来る人だよね。僕が率先して何かする必要はもうなさそうだな。これからはお手伝いにシフトするか。
「なかには、居住区から移り住みたいという平民家族もいますが、ここはアタールさんの土地ですので、今のところはお断りしています。」
そうか、僕の土地だった。もういっそのこと、大工さんに頼んでここに家建ててもらおうかな。
「それと以前アタールさんがおっしゃっていた、情報収集ですが、早速始めたいと思います。どのような情報から集めますか?住民も皆納得していますので指示があれば何時からでも可能です。冒険者登録した約100名の住民がいますから、街の隅々まで情報収集が可能です。大店や貴族、役人に関してはまだ難しいところがありますが。」
いや、僕が考えていたのは、そんな諜報機関みたいなのじゃないし。この世界の一般常識を教えて欲しかっただけだし、そもそも、もうどうでも良かったし。ここに来ればお姉さん、猫耳、犬耳などなどを視覚で愛でることができるだけで充分なのだ。あ、撮影も。いや本当は触覚でも・・・。
「アタールさん、聞いていらっしゃいますか?」
はい、今回はちゃんと聞いてますよ。
「そのあたりはまだ考えがまとまっていないので、ペンディンクですかね。あと、住民の方々から、要望とか問題とかで意見は出てませんか?」
「そうですね、アタールさんからお借りしたお金の返済と、家の家賃についても質問が多く来ています。」
もう、エフゲニーさんって、セバスチャンだよね。密かにセバスって呼んじゃおうかな。口調ももう完全にそれでしょう。