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第32話 結界守の村はチート。

 スラムの方は家の建築も順調のようだ。日本の家屋建築のように、鉄筋やコンクリートの基礎があるわけじゃない。基礎は成形した石を突き固めた土の上に並べていくわけなので、待ち時間というのがないので職人さんの数がいれば居るだけ作業が早いのだ。


 しかもスラムの住民のほとんどは元は職人区の小間使いなので作業も手伝える。木造程度の家ならばどんどん建って行くというわけだ。


 湯浴みするためにお湯を沸かす窯も大きなものを設えたので、日中は薪で常時沸かしている。正規の薪は確かに高いのだが、ここにはゴミの山があるので、そこから可燃物を手に入れているようだ。化学物質はたぶんないから、有毒ガスとかは大丈夫だろうと思う。


 お姉さんたちにはどんどん奇麗になってほしい。そのうち可愛い服もプレゼントしてあげよう。そして新しい建物を背景に撮影会して・・・・いかんいかん、いつもの妄想が・・・。


 程なく代官屋敷に到着する。門番に声をかけると、すぐに通してくれた。玄関には残念ながら男性の使用人が待っていて、すぐに執務室まで案内してくれた。それにしても男性率高すぎないですかね。


「アタール様がおいでになりました。」


 うむ、様付けはやはり慣れないけれど、ここで文句を言うわけにもいかないので、促されるまま執務室に入り、挨拶する。


「おはようございます。予定通り、お伺いさせていただきました。」


 来てくれと言ったので来ただけで、正直どういう対応していいのかわからないので、言葉は短い。報奨金のこと以外は何も聞いていないし。


「わざわざ来ていただいて、申し訳ない。早速ですが再度お礼を言わせていただきます。スラム地区が既に見違えるようになっていると報告を受けています。また、冒険者登録したスラム住民、いや元スラム住民も既に活躍しているとのこと。また、彼らの買い物で、商人区も職人区もいままでになく潤い始めているようで、サラハは好景気の兆候が見えてきており、本当に感謝の念にたえません。」


 ミゲルさんは頭を下げた上に丁寧に感謝の意を伝えてきた。もうほんとにこの異世界の為政者ってどうなってるんだろう。立ったままではなんですので、とりあえずと、お茶とお茶菓子を使用人が用意した頃合いに、お互い応接セットに着席して話は続く。


「まずこちらが報奨金です。公ではありませんので、他の住民や貴族には、ご内密に。また、アタール様の活動について、当面税務官がお伺いすることはございません。冒険者活動に関しては、その買取などの天引き、商人活動においてもギルド経由の天引き以外に、徴税の予定もございません。」


 なんだこれ・・・。先日の厚遇だけでもものすごいことだと思っていたのに、この厚遇の嵐はなんなんだ。こういうことには必ず裏がある。絶対何かある。報奨金の金額はなんと大金貨100枚。日本円に換算すると5000万円なんですけど。


「確かにうれしいのですが、あまりにも厚遇過ぎませんか?スラムのことはまあ、とてもありがたいと思っています。しかし今回は・・・報奨金も含めてですが、僕個人に対しての優遇ですよね。」


「私も詳細は存じません。領主様であるジニム辺境伯様からのお達しでございます。ちょうどこのように書状とともに、報奨金が届けられたのです。」


 書状を見せていただくと、先ほどミゲルさんがおっしゃった内容がそのまま書かれていた。ちゃんと封蝋印が押されているが、このあいだの役所の物とは違うので聞いてみると、役所や領主菅で使うのは、簡易封蝋印で、この書状の封蝋印が辺境伯様がかかれた書類や手紙に押される封蝋印とのこと。まあ、最上の公文書が簡単に役所で作られるのは問題だよな。


「しかし、前回も申しましたが、あまりに厚遇過ぎると思うのですよ。」


 報奨金にしても多すぎると思うので、街の商人や職人の平均年収を聞いてみると、商人については、平均1000万円ほどの大金貨20枚。職人は800万円ほどの大金貨16枚程度。平民ひと家族換算で150万円ほどの大金貨3枚程度だそうだ。


 あくまで平均値なので、ものすごく儲けている商人・職人もいれば、身売り寸前で借金を抱えている者もいるのは、日本と変わらないな。というか、商人の平均年収の5年分ですよ。おかしいでしょ。


「伝令からは、領主様の言伝として『結界守の村の客人は、木っ端貴族より丁寧にもてなせ』と承っております。」


 結局すべては、結界守の村に集約されるようだ。結界守の村の紹介状、便利だけど少し恐ろしくなってきた。しかし僕自身には今のところどうすることもできないし、スラムのお姉さんや今はまだ見ぬ冒険者会館の受付のお姉さん、そして猫耳メイドコスプレを見ずして逃亡するという選択肢はないので報奨金はありがたく受け取り、再び流れに身を任せ、かつ開き直るというポリシーを貫くことにした。


 しばらくは冒険者活動でもして、騒ぎが収まるのを待つのもいいか。数日街から離れる言い訳にもなるし。そういえばサルハの街に来てから、こないだの空間接続魔法の実験以外で街を出てない。いや、街さえまだすべてを見ていない。商人区のカフェとかにも行きたいな、あそこの店員さん可愛かったしな。宿の店員とは大違いだ。


「あの、アタール様、まだ問題がありますでしょうか?」


 はっ。思考に潜るところだった。今回は決して妄想ではない。と思う。


「いえ、納得いたしました。それにしても結界守の村はとても大切にされているのですね。」


「当然ですよ。この領地いやこの国が長年平和を享受しているのは、結界守の村のおかげと言っても過言ではありませんから。もちろん、盗賊などの犯罪者達は存在しますし、魔物もまだまだたくさん国にはいます。局地的に発生することもありますし、人が住んでいない場所では、人型の魔物が集落を作ることありますが、国の存亡にかかわるほどの問題が起きていないのは、すべて結界守の村のおかげだと思っています。」


 何度も言う。結界守の村半端ない。しかし、街の外についてはよく物語で読んだ異世界と変わりないようだ。結構な数の魔物もいるし、盗賊もいる。ゴブリン集落とかもあるようだ。いきなりスラム地区から多くの冒険者登録があっても、それ自体が問題にならないのはそういう理由なのだろう。


 また、結界守の村からサルハの街まで魔物を見なかったということを話してみると、魔物の山に沿った地域については、いまのところ殆どと言っていいほど魔物は出現しないそうだ。


 どちらかというと内陸部や海側、サムハ王国との国境付近に魔物がみられるという。簡単な地図を見せていただいたが、確かに魔物の山以外にもファガ王国には山が存在するし、渓谷のようなところもあるようだ。人が住む平地は川沿いが主。


 そういえば日本は可住地面積が実際の面積の3割程度って聞いたことがあるから、ファガ王国でも同じようなものとすれば、残りの7割に、魔物や野生動物がすんでいるのもおかしいことではない。


「報奨金を頂いたうえ、貴重な情報をいただき、本当にありがとうございます。ご領主様のいらっしゃる街にお伺いする機会がありましたら、お礼に伺いますとお伝えください。」


「これはご丁寧に、ぜひとも言伝させていただきます。ジャジルに赴かれるときは街に居る衛兵にでもお伝えください。先に辺境伯様に早馬を走らせますので。」


 うむ~、自由行動はなかなか難しいらしい。しかしここは、ありがとうございます。と、にこやかに返事だけしておく。今のところサルハの街の役人さんたちとはいい関係だし。ついでにひとつこないだからの懸案をお聞きしてみた。


「あの、この街の外の土地って、自由に使っていいのですか?購入とか許可とかありますか?」


「基本的に、領内の土地はすべて領主様の物ですから許可が必要です。また、外周の壁から300mには、領主様以外は農作物を除くいかなる構造物も作ることができません。また貸与された土地を管理される方には街中以上に様々な制約があります。放置して盗賊の拠点にされるのは困りますからね。森の開墾なども、許可制となっております。領配下の村についても、同じ扱いですから、村長が代表して、領主様に対し各種の誓約書を提出することになります。」


 使うのはいいが、いろいろと面倒なようだ。廃村をリアルエルフ村にするのはペンディングだな。


「ありがとうございます。スラム地区の人口が増えた場合の対策を考えていたものでして・・・。」


 とっさに適当な理由を述べる。今日は執務机側に代官様が座っていないので、嘘発見器は気にしていないのだ。後は適当な世間話をダラダラとしたあと、代官屋敷を後にする。今日はまだまだ時間があるので、いよいよ念願の冒険者活動をしてみよう。あ、宿どうするかなぁ、もう家でも借りちゃおうかな。

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