第31話 マキシムさんクラン設立する。
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サルハの街というか異世界に転移してからというもの悪人に出会ったことがないよな。サシャさんしかり、ダフネさん一家しかり。
スラム地区では強盗傷害と誘拐を経験したけど、あれはまあ、貧しい子供のカツアゲの延長だったわけだし、そのあとの反応はスラムとは思えないくらい平和だ。これがこの異世界の特異性なのだろうか。数百年大きな戦争もないというし。
中世ヨーロッパ風だから、もっとこう、殺伐としたイメージを思い浮かべていたよ。貴族やお金持ちの傍若無人な振る舞いに耐える住民、貧困にあえぐ村人がいて、スラムでは孤児が犯罪を・・・犯してたな・・・けどまああれは例外としよう。
ついでにいえば、異世界らしく定期的な魔物の襲来で混沌とする街なんかも考えていたけれど、どれもいまのところ予想というか僕の先入観は外れを引いている。いい意味で。
ただ役所関係者の僕への対応が、すこし不可解。あまりに丁寧すぎる。冒険者ギルドのように何も深くは尋ねてこない、というか冒険者ギルドでは、普通に不審者あつかいだったな。
あげくに、様の敬称付け。相手が平民ならばわかるけど、おそらく貴族である代官様までが。などと妄想じゃなく思考を巡らせているうちに、スラム地区へとたどり着いた。
小屋の周辺は、炊き出しで賑わっていた。一昨日と違うのは、住民の服装。みんなそこそこに奇麗な村人の服?や冒険者の服を着ている。装備を身に着けている方も多い。そして何より、湯浴みのおかげだと思うのだけれど、女性が皆美しくなっている。男は興味ないからどうでもいい。被写体としては、一応認めるけど。
「「あ、アタールさん!」」
小屋の前で配給係をしているイワンとローマンがこちらに気づいて声をかけてきたので。軽く手をあげてそれに応える。すると一斉にスラム住民たちが歓声を上げた。いや、ビビるって。なんなんですかこれ。
炊き出しというか、食糧配給も終え、僕は円卓会議のメンバーを集めて問い詰めた。なんで、一斉に冒険者登録しちゃってるの?なんで、ほぼ住民全員で教会行ってるの?世の中には、いい塩梅とか、加減とかあるよね?問い詰めるというより既に愚痴ではあるが、もっとこう、普通というか、常識的というかそういう行動をするようにくぎを刺すのだった。
「おかげで、衛兵が迎えに来て代官様に呼び出されたんですよ。先ほどまで代官屋敷で取り調べうけてました。」
先ほどまで僕の問い詰めという愚痴を聞きながらも満面の笑みだった皆の顔が、一斉に青ざめる。実際には取り調べじゃなかっただろうけど、ここは誇張しておくほうがいいだろう。
「そ、それでアタールさ・・んに、なにか処罰とか・・・、平民になるのを認めないとかそういうことなんじゃろうか・・・・。」
皆の時間の流れが止まったように、身じろぎもせずに真剣な目でみつめ、僕のことばをまっている。
「いや、褒められて礼を言われました。」
まるでコントのように皆が一斉に崩れ落ちた。褒められたとはいっても、想定外の呼び出しだったわけで、打ち合わせ通り10人くらいずつ毎日登録させていれば、こんなに目立つことは無かったと思いたいので、ここは登録のやりかたに文句は言っておく。愚痴ともいう。
しかしまあ、済んだことは仕方は無いのでなぜこうなったかを聞いてみると、リスト作成とともに昨日全住民に登録の希望を聞いた結果、すべての成人が希望したとのこと。病人や欠損のある方も含めてだそうだ。少数だけ平民になれないのはさすがに疎外感あるもんな。
それで、その方々は登録可能かギルドに聞きに行ったら、それはさすがに無理とのことで、10人ほどは登録できていないというのでいろいろ打ち合わせしたかったそうだ。
しかし、一斉登録の理由にはなっていないので、さらに聞くと、登録料としてそのあと各自に服代とともに大銀貨を2枚ずつ配ったそうだ。すると翌朝、そう今朝だね。住民たちが街に服を買い行くついでにどんどん冒険者登録をしに行ってしまったという。急ぎマキシムさんたちも冒険者会館に向かい、登録した者たちに向かってこう言ったそうだ。
「スラム住民の皆、このご好意はアタール様によるものじゃ。我らは団結してアタール様に恩返ししなければいかんのじゃ。よって、今まで通りワシがまとめ役としてこの冒険者クランをまとめる。異議のあるものはワシに言ってこい。これはアタール様のご意思でもある。今後は勝手な行動はつつしむのじゃ。」
はぁ、ご意思ってなんだよ・・・。確かに秘密にしてと頼んだ内容は何一つ言ってはいないけれど、アタール様って凄く目立つよね。しかも朝からだから、普段いない冒険者や職員もいたよね。勝手な行動しているのマキシムさんだし。僕はがっくりとうなだれるしかない。
マキシムさんは小鹿のような目で僕をうかがっている、まあ僕の能力的に大勢をコントロールできるわけでもなく、結果的には代官様にも褒められたわけだし、今後のスラム地区についても、いろいろやっても文句出ないだろうから、各種の予定修正とともに、マキシムさんを無罪放免とした。
「ついでに、冒険者登録できなかった人も、まだ平民の登録をできていない孤児の子供たちも、領主権限で平民として登録できることになりましたので、該当する方々に後で伝えてあげてください。手続きなどはおおしえしますので、エフゲニーさんにお願いします。明日以降は、冒険者の方は冒険者活動、そのほかの方はスラムの住環境改善のために働いてもらいます。ぼくはあまり手は貸しませんよ。資金については先日言ったように、足りなくなる前に言ってください。あと、僕はまだスラム全体を見たことがないので、たまに歩き回る予定ですから、みんなに気を遣わないように言っておいてください。こちらも気軽に声をかけさせてもらいますから。」
すでにマキシムさんは武官長、エフゲニーさんは文官長扱いである。そして僕はスラムの景観をよくするために、お金を出して建物の立て直しと、共同施設の建設について熱弁をふるう。ゴミの臭気は結界魔法でなんとかできるだろう。
なんなら、ゴミの山が緑の山に見えるように幻影魔法でも・・・。幻影魔法は心の中で却下し、エフゲニーさんにお願いして、大工の手配などをお願いする。マキシムさんは、冒険者教育があるし。ほかにも数名元冒険者さんがいらっしゃるというので、教育チームを組んでもらうことにした。クランの運営もお任せ。
お金は返してもらわなくてもいいから、きちんと税金納めてくださいね。といいながら、空になった大銀貨の箱に、金貨をジャラジャラと入れておいた。もう数は数えていない。
翌日早速エフゲニーさんが手配した大工が家の建設をはじめた。引っ越しとはいっても、数件離れているだけだから、順次出来上がったら取り壊しという感じで、街は出来上がっていくだろう。
念のために広場や共同施設の場所は前もって簡易地図を引き確保させた。独身者用のアパートの設計図には、大工が驚いていたが、これで広場が確保できる。ついでに街の魔道具屋で未加工の魔石を購入し、臭気結界も張っておく。
密かにやった作業なので、住民はいきなり臭いがなくなったのを不思議がっていたが、マキシムさんは祈るような目で見ていたので、おそらくばれている。
ほかには、病人の治療なども、街の治療院で順次治療をおこなっていくそうで、これからは健康な生活が送れるだろう。
僕の魔法はここでは使わない。だって、円卓会議メンバーみたいな人たちが増えると、きっと僕の行動が制限される確率が上がるし、なによりなにか変わったとがあれば、代官様経由で領主様に情報が伝わることうけあいだからね。
というか、そのうち臭気結界もばれるのだろうが、今は金の力ということでごまかせると思う。もうお金についてはほぼ開き直っている。
こうして、瞬く間に1週間が過ぎた。ちなみに睡眠は家に転移して取っているので、相変わらず宿というか店員さんは単なるメッセンジャーになっている。既に宿の名前も忘れている・・・。今日はいよいよ代官屋敷を訪問する日だ。しかし、そろそろ冒険者活動したいな。




