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第19話 イレギュラーから始まる異世界生活。

 早朝から目を覚まし、オレンジジュースとクッキータイプの完全栄養食を食し、ほぼ日課になっている庭の手入れを行う。木刀の素振りはもうやってない。


 まだ1週間経ってないけど、あの『ドン!』がすでに懐かしく思える。僕ってこんなに環境順応早かっただろうか。


 それから、ありがちな魔法実験。まずは、インベントリ内の時間経過。これはその実験方法を先人(ラノベ作家)の方々が開示してくれているんだよね。


 早速ファイアの魔法で火をつけた紙を収納してしばらくしてまた取り出してみる。うむ。時間経過なし。これでインベントリは、高性能な保管倉庫であることが確認できた。そのうち、何千食もの出来立ての料理を収納してやろう。


 というか、これ僕の場合日本でも使えるよね?冷蔵庫いらないんじゃないのだろうか。


 次に、庭に居た虫を捕まえて、インベントリにおそるおそる収納してみる。そして再びしばらく時間をおいて取り出すと、生きてるよ。生物を入れることができる僕のインベントリは、ラノベを超えた。


 いまいち、自分で入ろうという気は起きないけれど、これは入ったとたんに、時間停止でもするのだろうか?ちょっと訳が分からないが、まあ良しとする。考えてわからないところは放置。


 いくら魔法が使えるようになったといっても、頭脳まで天才的になったわけじゃないからね。使いどころは都度考えよう。スマホのメモには時間停止、生物収納可と注釈を追加しておく。


 透明化と転移はいまさら再テストの必要もない。土足で部屋に転移するのを気を付ける程度だ。家での転移ポイントはだいたい、車庫に決めたから今のところトラブルはない。汚れてもおそらく、クリーンの魔法でどうにかなるだろうけど。


 ということで、自分の着ている服にクリーンの魔法をかけてみる。見事にオレンジジュースの飲みこぼしが、奇麗になった。ついでに、自部自身にもクリーンをかけてみるが、どうなったのかはわからない・・・。


 なので、手に庭の土をこすりつけた後、再度クリーンをかけてみたら、見事に手の汚れは落ちた。でも衣服やその他物品なら、リペアでもいいし、体の洗浄は風呂でいい気もする。これも使いどころはペンディング。


 さすがに、ここで攻撃魔法などをテストするつもりはないので、ガレージでインベントリの整理に移る、とはいっても、一度中身を出して、ここに存在していなければおかしいと思われる物だけデュプリケートで複製して再度収納しなおすだけ。


 候補は車とバイク。知人友人や家族が突然訪ねてきたときに、物自体がないと怪しまれるかもしれないからね。


 異世界の書物は、まだそのまま。そのうち日本語で電子ブック化して、スマホ内で検索できるようにしたいのだけれど、どういう魔法を作ったらいいのか、思いつかない。ちまちまとデジカメで撮影して日本語化後OCRかけるのも面倒だし。何か思いついたら取り掛かることにする。そもそも、羊皮紙だから、自炊方式もできないんだよなぁ。


 日本での魔法行使はほんとうに気を遣う。目立ちたがり屋ならば、それこそコスチュームでも作って、スーパーヒーローにでもなるだろうけど、日常生活において、目立つという行為はなるべく避けて静かに生きていきたい。


 僕には、買い物用の転移とインベントリ、修理と故障防止のリペアとセービングがあれば、あとは特に今のところ必要としない気がする。まあ、そのうち普段使いできる魔法も開発してみよう。


 荷物整理も終え、斎藤のおっちゃんに電話する。田舎の朝は早いので、まだ8時ちょっと過ぎにもかかわらず、おっちゃんは快活に電話に出てくれた。なので、宅配用BOX(倉庫)の製作をお任せでお願いする。もし僕がいなくても、勝手に作業するように頼んでおく。


 概算予算を聞いて、その金額もサクッと半金、ネット銀行から振り込んでおく旨もお伝えする。残りは超過分も含めて出来上がってから振込むということで合意した。


 電話を終えてすることもなくなったので、まだ予定していた時間よりはだいぶ早いけれども、異世界服に着替えて、早速転移する。いろいろな計画も含め、気分的には異世界生活初日な感じ。


 目立たないように昼頃までは街を散歩して、目で情報収集しよう。そのあとはダフネさんのお店を訪ねて、昨晩練り上げた質問をぶつけてみる予定。ダフネさんに時間があればだけど。


「おはようございます」


 宿の部屋を出てカウンターで声をかける。朝食は今日もご遠慮して、まだ8時半くらいだけれど、早速街に繰り出す。サラハでは、なんだかほとんど地元で食事していない気がする。


「昨日は昼まで寝てるって言ってたのに・・・」


 と、後ろの方から店員さんのつぶやきが聞こえていたけれど、そこはガン無視。目立たないように行動には気を付けながら、のんびり昼まで街を散策しよう。決して目立たない。これ厳守。


 朝早いとは思ったけれども、既に街は動き出していた。たくさんの人々が道を行き交っている。まあ、日本でも通勤ラッシュの時間帯か・・・コンビニバイト以外で通勤したことないけどね。


 なるべく人通りの邪魔にならないよう、人の少ない方少ない方へと適当に向かう。最悪道に迷っても、透明化と転移で、宿近辺とか、ダフネさんの店の近所に行けばいいし。


 しかし最初に訪れたときに感じた以上に活気がある。この街というか、辺境伯領自体にとても良い治世が敷かれているのではないだろうか。通りは汚いけどな。これは上水、下水、ゴミの処分なんかについても、聞いとくべきかな。日本は寒村でも通りはキレイですよ。


 人の通りを避けながらも、どんどん街中を進むと、職人区らしき場所に出た。ここは、街の西側の外壁に近い。騒音などのため、居住区とは明確に分かれているようだ。あくまで推測だけど。


 道行くのはほぼガタイのいい若者かオッサンばかり。体力仕事ばかりでなく、細工仕事なんかもあるのだろうけど、そういう方々は作業場での仕事を開始しているのだろう。通りにはほとんど見当たらない。


 店舗のようなところもたまにあるけれど、殆どは工房だろうな。全然女の子いない。居住区の方ならば、口にパン咥えて慌てて家を出る女の子と遭遇するのだろうか。


 職人区をさらに歩くと、ゴミらしきものが山積みとなったエリアが見えてきた。まあ、工業地帯があるなら、それに付随するごみ処理場もあるだろう。そういえば、名探偵は、出されるゴミを見て、生活水準などを推察するというし、ちょっと近くまで行ってみよう。


 確実にゴミの山であると確認できるくらいに近づくにつれ、道行く方々の着衣がなんだかものすごく見窄らしくなってきた。これはもしかしたら、いわゆるスラムなのか?


 確かに地球でも途上国ではゴミ処理場の近くとか、生活環境の悪い場所あたりは貧しい方々がお住まいになっていると聞いたことがある。日本人である僕はスラム街を直接見たこともないわけで、まだ判断はできないが、先ほどの活気ある風景とは雲泥の差だ。


 すれ違う方々の目つきもちょっと嫌な感じになってきた。無気力ではあるが、何かしら攻撃的な感じ。そう、僕はこの目を知っている。


 コンビニでバイトしているときに、夜中コンビニの前でたむろっていた不良君たちと同じ目だ。このパターンだと日本と同じく、確実に絡まれる。僕の本能はこういった危険信号への感度がとてもいいのだ。


「なあ兄ちゃん、ちょっと飯代めぐんでくれや。」


 はい、来ました。感度がいいからと言って、避けられるとは言ってません。バイト先でも反応空しく、毎度絡まれていたからね。


 昨日立てた計画が1ミリも進まないうちからこれですよ。日本でならガクブルで、コンビニ内に踵を返して、先輩ヤンキー店員に対応をお任せするか、強い怒りを心に秘めたまま、目を伏せて足早にやり過ごすところだけど、ここには頼れる先輩も、一般通行人という抑止力もない。むしろ通行人も僕を囲んでくるありさまだ。


 誰だよ、辺境伯領の治世が良いとか思ったの。いや今回は治安の問題だから間違ってないかな?で、結局日本と同様にガクブルすることになった。

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