緊張感のない2人と生き残ってしまった2人
5話のニューが感情的になるシーンを大幅に改稿しました。
ストーリーにはあまり影響はないので気になる人は見ていただけるといいかもしれません。
「死んでるしぃ?」
エデルたちはあの薄暗い牢屋から脱出し書斎へ戻ると外は既に暗く、屋敷全体の明かりが時既に消えていた。
消えたのは明かりだけではない。来る時にはいたメイドたちも姿を消しており、恐らく夜遅いため自宅へ帰ったか住み込みの者は部屋でもうお休みになっているのかと考えていたエデル。
だが一つ開きっぱなしの扉を見つけ除くように中を見たら、ゲールハルトがベッドの上で右腕を失くし大量に流血しながら横たわっていた。
「どうすんだこれ」
「……」
「……えー、ヘレイナさん……。心中お察しします」
もちろん、お察しなどしていない。どうして殺されたかは分からないが、死んだとしても一切悲しくはならない。それほどまで、ゲールハルトと言う男の信用は落ちたといってもいい。
「……べつに悲しいなんて思ってない。だから察する必要は無い」
「まぁ、そりゃそうか」
「でも、どうしよう……」
死体から視線を離し、エデルへと顔を見上げる。
「この人がいなかったら、わたしはこれからどうしたら……」
酷いことをされたといえ、あれでも父だ。否、ヘレイナの口調からもう既に父と思っている可能性は低い。
しかしゲールハルトがいなければ、ヘレイナが生きてけないのに変わりはない。
元から頼る相手など、いないのだから。
「……わたし可哀想」
「……」
「……どうなっちゃうんだろう、わたし」
「……」
「きっと行く宛ての無いわたしは路頭に迷い食に困り雨風凌げず向かう顛末は孤独死」
「あの――」
「または奴隷に身を落として汚い成金おじさんに飼われ希望の無い生きた人形のような生活へと――」
「一緒に来るか?」
「行く」
「あ、そう」
酷い即答だった。まるで待っていたといわんばかりに。
ただの同情だった。人を初めて心の底から可哀想と思ったエデルは見ていられないヘレイナの痛々しさになけなしの優しさがつい働いてしまったのだ。
しかし本当に12歳かとエデルは訝しげにヘレイナを見つめるが、正直それは些細なことだった。
今はこの現状に対して自分はどうしていくのがいいか。それを考えるのが先決だ。
「どうすっかなこれから」
「わたしを連れてけ」
「連れてく」
「ならここからは早く逃げた方がいい」
「そうする」
「その前にお金と金品を貰っておこう」
「もう懐に入れてある」
常に用意周到なエデルはゲールハルトが死んだと分かるや書斎や寝室から持てるだけの金目のものを既にポケットパンパンに入れていた。
前金も貰ってなけりゃ報酬も無しであるため、こういうことに関して今のエデルに罪悪感は一切無い。
それどころか、死んだ人間に必要ないと判断し自分が有効活用してやろうっていう考えであった。
1ミリの悲しさも無い二人は、もうここにいる意味もないと分かればこの屋敷を後にした。
「とりあえず昨日迷子になったあたりで宿でも取るか。それでいいよな?」
「……うん」
そう言うとエデルは無意識下だったのか気付けば当たり前のようにヘレイナをおんぶしていた。
そのまま夜ということもあって真っ暗である林道を、明かり代わりに魔眼を発動しながら歩いていく。
錯覚かもしれないが、どこか虫除けにもなってる気がしていた。絶対錯覚だが。
「あと飯だな。それと水浴びして汚れと臭いをどうにかしないとだな。……あれ?」
一人エデルは喋るが背中からの反応が無い。もしかしたらと予感し首だけを回しヘレイナの顔を見ると、
「Zzz……」
ここにきてどこか糸が切れたように全体重をエデルに預け、一人眠りに入っていた。
「……しゃあなし」
ここはエデルが折れ、諦めてこんな夜中にでも空いている宿を探しにまずは林道を寂しく抜けることにした。
□
アルファが目を覚ましたときには、化け物の青年と暗殺対象の少女の二人ともこの薄汚い地下室から姿を消していた。
急いで追いかけようと地下室を脱出し書斎を抜け仲間たちと合流しようとするも、次に映した仲間の姿は酷く悲惨なものとなっていた。
ある一室の一部分にだけ溜まる血液の水溜りとその上に浮かぶ3人の仮面をつけた仲間の姿。
それぞれ腕や足、腰や首などがあらぬ方向へと曲がっており、体に無数の穴が開いている者もいた。
何よりアルファが恐れたのは、その部屋の中心に立つニューの姿だった。
「ふふっ……」
足元に倒れる老人を踏み台にし、いつもの黒犬の仮面が血で真っ赤に染め上げられアルファを見つけると不適に微笑む声をだした。
窓から放つ月の光に照らし映され、アルファには今のニューが酷くおぞましい何かに見えてしまう。
「ニュー。説明して」
「……見ての通り、任務失敗ですよ。この男によって」
淡々とした口調の中に確かに込められた怒気の声をあげると、足元に転がる老人を踏みつけアルファへと近づいていく。
「止まれ」
近づくニューに、アルファは短刀をむける。
血迷っているわけではない。アルファは至って冷静だった。
「……どういうことですか?」
「イプシロン、シータ、ベータの三人は勝てなかったらしいが、何故お前はそこに立てる?」
別にアルファはニューを弱いとは思ってはいない。
基本ロードの中で強さの順位は無い。皆が平等に強い。基準で言えば、王国騎士団総隊長レベルだ。
故に、それを三人も倒せる老人の上に立つニューにどこか胡散臭さを感じるのは当然のことだった。
「あー……アルファさんは何か勘違いされていられる」
「勘違いだと?」
「確かにあの三人を倒したのはこのバトラのようですが……どういうわけか自分と戦ったときはクソ雑魚もいいとこでした」
「……なに?」
嘘か真か。確証を取る術は無くいつもと様子が違うニューだが、アルファから見て嘘をついている様子は無かった。
ニューは突然仮面を外しだすと、黒髪と素顔を露にしてアルファへ不適に一回微笑む。その後スカートの左右を両手で摘み、お辞儀するとアルファへ言った。
「ニュー……」
「リーダー。自分は今日限りでロードはやめさせてもらいますね。やっぱり、死神であるあなたの近くにいると碌なことがない」
「……それはロードをやめる意味を分かって言っているのか?」
「分かってますよ。なのでここを出た後は一生懸命あなたたちから逃げたいと思います」
そう言うと、優雅な足取りでニューはアルファの横を通り抜けようとする。
アルファはそれを……止めるつもりは無かった。
「我々の存在は世間に知られてはならない。王のご意向によっては――」
「えぇ。そのときは是非、自分を殺しにきてください。……返り討ちにするので」
そのまま横を通り過ぎ、優雅な所作でアルファの前から姿を消した。
死体に囲まれ一人取り残されたアルファ。ニューが消えても自分のやるべきことは変わらない。
仲間を殺したであろう老人の死体を確認する。だがしたとこで、アルファに分かることはない。
アルファの今出来ることはこの現状を主である王に全て伝えることだけだった。
「今日は、失敗ばかりだな……」
それは許されないこと。暗殺において失敗は自らの死を意味する。
結果、アルファ自身化け物に返り討ちにあい、ヘレイナを逃し、気付けばゲールハルトは何者かに既に殺されていた。
しかもその執事であるバトラは仲間を3人も殺すも、ニューの一人の手に簡単に殺されたときた。、
正直、アルファ一人の頭では整理がつかない。事が起きすぎて絡まっている状態だ。
だが何より、失敗=死のはずが自分だけが生き残ってしまった。仲間であったニューは自分の前からいなくなってしまった。
これらの事実が、アルファの心を酷く追い詰めていた。
「王よ、ワタシはどうすればいいのですか……」
窓から月が良く見える。顔を上げ仮面越しに月を見るアルファの姿はどこか悲哀を感じさせる。
そんな様子を、脈のない男が下卑た笑みで見ているとは露知らず……。
ストックもなければプロットもない。でも俺、頑張るから。